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第3話

「初めまして。異世界から召喚された、勇者くん」 「……」 「あれ? 僕が怖くて、口がきけない?」 「お前には、話す価値など無い」  今度は、魔人が口を閉ざして眉根を寄せる番だった。 (何だ、この男。初めて会ったのに、僕に向けるこの憎悪。この……殺気!)  平静を装い、魔人は軽い口調でさらに続けた。 「君は魔力が強そうだから、僕の従者にしてあげよう、と思ってね。待遇は抜群に良いよ」  それには、茉希が鋭く返した。 「信じてはいけません! 魔人は、平気で噓をつきます!」  茉希の叫びには、魔人だけでなく男も気を引かれた。 「何か、あったのか?」 「兄が魔人の嘘に騙されて、殺されました」  なるほど、と男は魔人を睨んだ。 「この世界でも、やはり魔人は腐れ外道だな」 「傾奇くな! 人間の分際で!」  交渉は、決裂だ。  元よりこの男には、交渉する気も無かったが。 「さて。お前は、どういう風に死にたい?」 「何っ?」 「この世界での、初仕事だからな。サービスだ」 せっかくだから、お望みの死に様をプレゼントしよう。 男の表情は変わらないが、言葉は挑発的だった。 雷に打たれたいか? 業火に焼かれたいか? 竜巻で引き裂かれたいか? 重力で押しつぶされたいか? 「それとも氷漬けにしてやろうか、蟲に食い殺されたいか?」 「……」  魔人は、気味が悪くなってきた。  魔法の属性は、魔人、人間を問わず、一人にせいぜい3つ持つほどが限界だ。  相性の悪い属性同士を抱えると、それだけで体力や魔力を失う。 (それが、この男。いくらでも属性を吹かしている。本当か? それともハッタリか?)  考える間に、突然ひとりの神官が叫んだ。 「火あぶりにしてください!」 「な、何っ!?」  魔人だけでなく、その場の全員が声の上がった方を見た。  悲痛な声を上げたのは、まだ若い神官だった。  さほど強い魔力を持たず、さほど複雑な魔術も使えない、平凡な男。  だがその心には、魔人に対する憎しみが渦巻いていた。 「私の家族は、そいつに家ごと焼かれました! 両親も、妻も、わずか三歳の娘も、生きたまま、焼かれ……ッ!」  神官の涙と絶叫に、茉希の胸は痛んだ。 (あの人も、僕と同じ苦しみを背負ってる)  しかしそれを、魔人は笑う。 「僕は、火の属性を持っているんだよ? 同じ魔術で戦うなんて、身の程を……」 「火あぶりだな。解った」  体ごと魔人に向き直った男を、全員が見守った。 (この男、どんな魔術を使うのか?) (その魔力の強さは、どの程度なのか?) (その真価が、今から解るということだ)  ただ二人だけが、真剣に男の勝利を望んでいた。  家族を殺された神官と、もうひとり。  それは、茉希だった。  魔人を火あぶりにする、と宣言した、異世界から召喚された男。  茉希は、彼の勝利と無事を願っていた。 (僕に召喚されてすぐ、こんな戦いに巻き込まれるなんて!)  やっぱり僕は、呪われた子。  関わる人を傷つけ死なせる、悪魔の子なんだ!  ギュッと瞑った目から、一粒の涙がこぼれた。 「泣くな。すぐに終わる」 「えっ?」  茉希から数歩離れ、男は片手で単純な印を結んだ。  ものの数秒も、かかってはいない。  だが、嘲っていた魔人の顔色が、すぐに変わった。  彼の足元と頭上に、それぞれ大きな魔法陣が浮かび上がったのだ。  そして二つの陣が共鳴し、たちまちのうちに結界を張り、魔人を封じ込めた。 「ま、待て! 一人で、同時に二つの魔法陣を!?」 「ご自慢の炎で、無効化すればいいじゃないか」  小馬鹿にされた魔人は、顔を歪めて舌打ちし、長い呪文を唱え始めた。 「ムーマ・イヨ・ジクマリーズ。忌々しい二つの魔法陣を焼き尽くせ! ドル・グム!」  赤い火柱が上がり、魔人を包んだ。  男の作った魔法陣の結界に閉じ込められているので、その炎も外に漏れ出ることはない。  それでも、その深紅の輝きは、見るものの目を焼くようだった。 「僕の紅蓮の炎で、お前が焼け死ぬといいよ!」 「知ってるか? 赤い炎はな、一番温度が低いんだ」  男は短い呪文を唱え、魔法陣の中に、さらに強い炎を生み出した。 「な……ひぃ、ギ! ギャアァ! あ、熱いィ!」 「どうだ? 生きながら焼かれる心地は」  最も近くで、その有様を見る茉希は、息を飲んだ。  男が作った、魔人を包む炎は、白かったのだ。 「白い、炎。大魔導士しか生み出せない、赤より高温の、白い炎……」  まさに、生きながら焼かれていく地獄。  あまりの凄惨さに、目を背ける神官が多かった。  瞼を閉じる者。  手で口を多い、吐き気をこらえる者。  声を失い、固まってしまう者。  ただ、家族を焼かれた神官だけは、涙を流しながらも目を見開き、魔人の最期を見届けた。  髪は焦げ、皮膚は膨れ、口から舌を突き出して引き攣ったままの、魔人の死体。  魔法陣に囚われているので、地に伏せることも許されず、立った姿で絶命している。 「この干物が欲しい奴は、いないだろうな」  男はそう呟くと、炎をさらに高めた。  白い炎よりさらに高温の、青い炎だ。  まぶしい光は、魔人をあっという間に蒸発させてしまった。  あまりにも強大な魔力に、茉希は動けなくなっていた。  ただ、男のマントを握りしめることしか、できなくなっていた。 「これで、満足か?」  男の声に、一同は我に返った。  家族を魔人に焼き殺された、例の神官だけが、涙を流してうなずいていた。  あまりにも見事な、その報復。  そして、あまりにも強大な魔力と、長けた魔術だった。 (これで彼の抱える辛さが消える、などとは思わない)  だが、少しでも軽くなれば良い、と男は思っていた。

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