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第4話

「素晴らしい! 素晴らしい魔力をお持ちだ!」  静寂を破り、大神官が大げさに声を上げて腕を広げた。 「その力を、ぜひ私共にお貸しいただきたい!」  ようやく、彼は男に歩み寄って来る。  にこやかな笑顔に、邪気はうかがえない。  だが、裏があることを、茉希は知っていた。  そんな父の姿と態度を、彼は好きになれなかった。  まず値踏みし、自分に有用と解れば、腰を低くして迎え入れる。  そして、褒めちぎって使い、魔人との戦いで魔力が枯渇すれば、すぐに見捨てる。  処世術と言えば聞こえがいいが、あまりにも大神官のそれは露骨すぎるのだ。 「さぁ、こちらへどうぞ。宴の準備が、整っておりますぞ」 「宴会より、優先すべきことがあるだろう」 「えっ?」  男の言葉に、将臣は呆けた顔で応えた。  本当に、解らないのだ。  この、父親失格の男には。  男は相変わらずのポーカーフェイスだが、少し眉根を寄せたように見えた。 「私の錠前となった召喚士。彼は、ずいぶん疲れている。食事と安眠を保証しろ」  でなければ、私も宴席はお断りだ。  男の厳しい言葉に、父・将臣は驚き慌てた。 (この男、今までの魔導士たちとは違う!)  しかし、芯のあるしっかりした男、とは思わなかった。 (何とも気難しい、扱いづらそうな奴だ!)  言うことを聞かなければ、本当に消えてしまいそうな気がしたので、将臣は叫んだ。 「急いで、茉希を診療所へ運べ!」  息子の搬送も手当ても、全て他人任せにして、すぐに愛想笑いを浮かべる大神官だ。  担架に乗せられる茉希に、男はそっと呟いた。 「茉希、というのか」  男に、茉希はうなずいた。  もう、声を出すまでの気力体力が、ほとんど尽きていた。 「私の名は、虚空(こくう)。虚しく、空っぽの、虚空だ」 「こ、くう……」  今度は男が、応えるようにうなずいた。  それを見届け、茉希は気を失った。  虚空と名乗った、異世界からの魔導士。  いや、その強大な魔力を見た者は皆、彼を胸の内で『大魔導士』と呼んだ。  この国に、わずか4名しかいない大魔導士。  彼らは、計り知れないレベルの魔力と魔術を持つ、と言われている。  そんなレジェンドたちと肩を並べるほどの実力者が、今ここに現れたのだ。  祝いの宴席では、彼の武勇伝が賑やかに交わされていた。  虚空はそんな中、愛想笑いもせずに、ただ飲み食いをしていた。 (食材に調理法は、まぁいける。この飲み物は、酒か? エアコンが動いているのは、電力を使った文明が発達しているのだな)  そして、こんなことも思った。 (言語は、問題無いな。初めて聞いた言葉が、茉希のもので良かった)  彼の発する言葉は耳触りが良く、発音もクリアで分かりやすかった。 『お父様、皆さん、伏せて!』  自分より他者の安全を優先する、心優しく勇気ある少年。  それが、虚空が抱いた茉希の第一印象だった。  虚空は、痩せた茉希の顔を思い浮かべていた。  寂し気な細い声を、思い出していた。  そこへ突然、明るい声が響いた。 「僕も見たかったな、虚空さまの豪炎魔術!」  手にボトルを携え、ニコニコと立っている姿は、見知った者だ。  頭の中で思い描いていた茉希が、なぜかここに現れたのだ。  虚空は少し驚いたが、すぐに理解した。 「茉希? ……いや、違うな」 「間違えないでください! 僕は、亜貴。茉希の、双子の兄です!」  馴れ馴れしく隣の席に滑り込んでくる亜貴に、虚空はわずかにうなずいた。 (私に取り入ろう、気に入ってもらおう、ということか)  酒と呼ぶには、あまりにアルコール度数の低いドリンクを、虚空は飲み干した。  軽くひねったとは言え、魔人と戦った後だ。  料理や酒では癒せない渇きを、虚空は抱えていた。  虚空の隣の席へ、ちゃっかりと座り込んだ亜貴。  茉希の、双子の兄だ。  それにしても、と虚空は思った。 (双子というのに、この待遇の違いは何だ?)  茉希は、命を削ってまで召喚術を使っていた。  痩せて、ぶかぶかの法衣を着て。  終いには、声すら出ない有様だった。  亜貴は、その逆だ。  肌は張って、つやがある。  スタイリストが選んだような、垢抜けた服を着ている。  よく食べ、よく飲み、よくお喋りをした。 「ね、聞いてますぅ? 虚空さまぁ」 「少し、疲れたな。別室で休みたい」  それでは御案内を、と言いかけた神官の声に、亜貴の甲高い言葉が重なった。 「はい! 僕が、ご案内しまーす!」 「えっ? で、でも……」  神官は、とっさに大神官の顔色をうかがった。  彼は、黙ってうなずいている。 「そ、それでは、亜貴さま。よろしくお願いします」 「任せといて!」  亜貴は、虚空の腕に手を絡ませ、まるで恋人気取りで宴席を立った。 (茉希が健康を取り戻すと、この亜貴のような見た目になるわけか)  虚空は、ぼんやりとそんなことを考えていた。  亜貴と歩きながら、茉希のことを考えていた。

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