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第5話

 広く美しい部屋が、虚空には用意してあった。  先の召喚の間と同じく、大理石の床。  敷物やタペストリーは、技巧を凝らして、色とりどりの糸で織られている。  大きな磁器の花瓶には、季節の花が活けられ、良い香りを漂わせていた。  そして、その部屋の奥まで、亜貴がついてきた。 「私の部屋へ入って来た、となると。それなりの覚悟や期待があるんだろうな?」 「まぁ、ね。虚空さま、イケメンだしぃ。別にいいよ、僕を食べちゃっても」 「話が早いな。ベッドは、どこだ」 「こっち、だと思う」  亜貴にいざなわれるまま、虚空は寝室へ足を踏み入れた。  奥に大きなベッドが据えられ、空調で心地よい温度湿度に保たれている。  虚空は、そのクリアな空気を深めに吸うと、傍にいた亜貴の足を払ってベッドへ押し倒した。 「ちょ、待って! 今すぐ!? シャワーとか……」 「余計なことだ」  唇を塞がれ、亜貴はもがくことを辞めた。  すぐに虚空の舌を吸い、舐め始めた。  熱いキスの合間に、虚空は亜貴に問いかけた。 「お前には婚約者がいる、と大神官が言ってたが」 「んッ、あ。ユートの、ことぉ?」 「そいつへの義理立ては、無いのか」 「虚空さまの方が、強そうだしぃ。この際、乗り換えちゃおっかな?」  そんな会話を重ねながら、虚空は亜貴の服を次々に剥いでいった。  はだけた肌に唇を這わせ、時々緩く噛む。  そのたびに亜貴は声を上げ、悶え、甘い息を吐いた。 (遊び慣れているな、この子は)  そんな印象を、虚空は亜貴に感じていた。  ならば、と早々に足首に手を掛け、大きく開かせる。 「ひゃぁ! 待って、もう? 気が早くない?」 「さっきも、似たことを言ってたな」  指で体の中心を探ると、そこはトロリと濡れている。  オメガ特有の、愛液だ。 (この世界にも、アルファやオメガなどの第二性があるのか) 「亜貴は、オメガか?」 「そうだよ。あ、つがいになっちゃっても、いいよぉ」 「ローションの手間が省けて、良い」 「人の話、聞いて……ぅあ、あ、はぁあ!」  虚空は、ただ黙って亜貴を貫いていた。 「う、ふぅ。あッ、あぁ! あぁ、んぁあ!」  悲鳴にも近い、亜貴の嬌声だ。  彼を貫き、揺さぶっている虚空だが、手加減はしていた。 (無理に挿れると、体を傷つける。小柄なところは、茉希と同じだな)  亜貴を抱きながら、虚空は茉希を思っていた。  華奢な、痩せた体。  哀しみを秘めた、大きな瞳。  伸び放題で、後ろに括った髪。 (透けるように淡い、栗色だった)  そこまで考え、虚空はふと亜貴に目を落とした。  突くたびに、精をこぼして達している。 「あぁ、あん! もう、イきっぱなしぃ!」 「茉希を抱いても、こんな感じなのかな」 「えっ!?」  茉希の名を聞くと、亜貴はとたんに冷めた。 「な、何で!? 何で、茉希と比べるのさ!?」 「別に」  そこで虚空は、勢いよく亜貴から退き抜き、精を放った。  虚空の精は、亜貴の白い腹に流れ、広がった。  子種をもらえなかったことに、不満顔の亜貴だ。 「僕、別に妊娠しても構わないのに」 「私は、構う」  結局、亜貴は衣服を全て剝かれたが、虚空はその身を最後まで着崩さなかった。  入った時と同じように、澄ましてベッドから降りた。 「もう、行っちゃうの? ピロートークとか、しようよ」 「情報は、もっと正確な筋から拾うさ」  どこまでもクールな虚空に、亜貴は腹が立った。 (なにさ! 少しくらい強いからって、カッコつけて!)  そこで、彼が驚き、興味を持つようなワードを大声でわめいた。 「茉希は、呪われた子だよ! あいつのせいで、芳雅(よしまさ)兄さまは、死んだんだから!」  その凍てつく言葉は、虚空の背中に届いたが、彼が振り返ることはなかった。  ただ、胸の内で思った。 (だから茉希の目は、哀しいのか)  私が抱えたまま、逃れられない哀しさを、あの子も背負っている。  ため息をつき、虚空は部屋を後にした。  虚空が宴席へ戻ると、そこでは大神官が主役のように振舞っていた。  まるで、自分が魔人を倒したかのような、大げさなお喋りだ。  周囲の神官や、給仕の人間が、それを感心して聞いている。  そこに、波紋が作られた。  給仕の一人が、こう言ったのだ。 「先だって、亜貴さまが召喚なさったユーリ様と、どちらがお強いでしょうね?」  神官たちは、ざわついた。  彼女は給仕なので、さして深い考えを持たずに言ったのだ。  ただ、思いついた疑問が、口から出たに過ぎないのだ。  しかしそれは、魔力を鍛え、魔術を研ぐ神官たちにとっては、実に興味深かった。 『それはやはり、ユーリ様でしょう。経験値が違う』 『しかし虚空さまは、同時に二つの魔法陣を展開されましたよ?』 『ユーリ様は大神官に認められ、亜貴さまと婚約されたのです』 『虚空さまは、魔人を蒸発させるほどの魔力をお持ちだ』  そしてやはり、一つの思いに行き着いた。 『ユーリ様と虚空さまが戦ったら、どちらが勝つのだろうか?』  大神官ですら、その決着には興味を持った。

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