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第12話
「そして、わたくしが大会で見事に優勝しましたのよ!」
「お母様、すごいですね」
「あぁ、そうだな」
「先だっては、わたくしの作品が金賞を受賞しましたの!」
「お母様、すごいですね」
「あぁ、そうだな」
「今、わたくしのデザインを元に、有名ブランドが新作を作っていますの!」
「お母様、すごいですね」
「あぁ、そうだな」
虚空をもてなす酒宴のはずが、喋っているのは玲美ばかり。
しかも、自分の自慢話しかしないのだ。
いいかげん、返事も面倒な虚空の代わりに、茉希が彼女を褒めた。
そして虚空は、茉希の言葉にだけ相槌を打つ。
そんな歪んだ宴席だったが、酒が回るうちに玲美がどんどん大胆になってきた。
「虚空さまは、魔力だけでなく腕力も強そうですこと。とても逞しいわ」
そう前置きしたうえで、玲美は虚空の体にぴったりと身を寄せてきた。
彼女が着ているドレスは、体のラインに沿ったスレンダーライン。
しかも、やたらと露出が多いのだ。
深いVネックは豊かなバストを強調し、膝上までのスリットは太ももまで晒している。
そして、その胸を押し付け、美脚を高く組んでしなだれかかった。
「わたくし、また少し酔ったみたい。ねぇ、お部屋まで連れて行って……」
そんな母のあからさまな誘惑に、傍らの茉希は赤くなって汗をかいていた。
(お母様、ったら。虚空さまのことを、気に入ってしまったんだ!)
気に入った、どころではない。
部屋に誘うレベルなのだから、好きになってしまったのだ。
どぎまぎしている茉希へ、虚空が声を掛けた。
「茉希。君の母上は、酔うといつもこうなのか?」
「いえ、あの。お母様は、その……」
惚れっぽくて、移り気で。
これまで何人もの愛人を作っては、捨ててきた。
しかし本人を目の前に、息子の口から言えることではなかった。
「お母様は、寂しがり屋なんです」
苦し紛れに、茉希は欲情した母をそう表現した。
「なるほど。寂しがり屋、か」
嘘ではないのだろう。
夫の肩書は、大神官なのだ。
その名の通り、この領地の神官を束ねて引っ張って行かなくてはならない。
早出や残業、休日出勤。
出張に、接待に、懇談会。
(夫の不在に、誰かと親密になる機会が多い。というわけか)
虚空はそう考えてみたが、ぐいぐい押し付けられる胸が鬱陶しい。
「こんなに恋多き女性から、どうして茉希のような清楚な子が産まれたんだ?」
「こ、虚空さま……っ!」
「亜貴なら、解る。彼は出会って早々に、私をベッドに引きずり上げたからな」
「えぇっ!?」
「亜貴と茉希は双子なのに、なぜこうも違うのか……」
「まさか、虚空さま。亜貴と、その……エッチヲ?」
茉希の声はどんどん小さくなっていったが、虚空はその最後のワードに目を円くしていた。
「まさか、茉希の口から『エッチ』なんて言葉が出て来るとは!」
「イヤですね、もう! 話を逸らさないでください!」
「二人で何を話しているの? わたくしを、仲間外れにしないでちょうだい」
虚空さま、と体を擦り付けながら、玲美は茉希に命じ始めた。
「茉希。わたくし、焼き立てのレコナが食べたいわ。シェフと一緒に、作って来て」
「僕も、ですか?」
「そうよ。わたくしの好みは、茉希が一番よく知っているでしょう?」
「は、はい」
レコナは、焼き加減で味が大きく変わる料理だ。
(お母様は、堅めに焼いたファム生地と、シンプルなソースがお好きなんだ)
今現在勤務中のシェフは、この屋敷に入って日が浅い。
玲美の好みまでは、まだ詳しくはないだろう。
仕方がない、と茉希は立ち上がった。
ここで嫌だとでも言おうものなら、後でひどい叱責や体罰を受けてしまう。
「虚空さま。僕は行きますが、どうぞゆっくりなさってください」
「待て、茉希。私は……」
虚空が何か言いかけた時、ノックもなしにドアが勢いよく開いた。
「虚空さまは、ここだね!?」
玲美だけでなく、亜貴までやって来たのだ。
「モテる男はつらい……」
(いや、そんなことを言っている場合ではない!)
虚空はソファで、玲美と亜貴に挟まれて変な汗をかいていた。
「茉希は、いなくなってしまうし……」
唯一の癒しが、不在だ。
癒しどころか、言葉が通じる相手、とでも言おうか。
「さぁ、虚空さま。採れたてのミミルクですわよ。お口を開けて、あ~ん」
「自分で食べるので、皿に置いてくれ」
「虚空さまぁ。僕ぅ、そのミミルク欲しいな。食べさせて、あ~ん」
「ここにあるから、自分で食べろ」
「さっきから、わたくしのお部屋へ行きましょうと、言ってるのにぃ」
「僕も一緒に、行くぅ。3Pしても、いいよぉ?」
左右から腕を掴まれ、ぐいぐい引かれる。
そして、ぶんぶん振り回される。
さらに、酔って舌足らずになった、甘ったるい声が誘ってくる。
(茉希! 助けてくれ、茉希! 私が悪かった!)
これは、天罰に違いない!
虚空は、興味本位で亜希を抱いたことを、心から後悔していた。
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