15 / 48
第15話
虚空と茉希は、この世界の儀式にならって、二人一緒にバスルームで身を清めた。
だが、肝心のベッドルームでは、なかなか手を差し伸べ合うことができなくなっていた。
今ここに至るまでに抱き合いもしたし、キスも済ませたというのに。
人生経験が茉希より長い虚空には、それがなぜか解っていた。
(誰にも明かしたことのない秘密を、茉希には打ち明けた……)
『私も、弟を愛していた……兄弟愛の壁を越えて、恋愛対象として見つめるようになっていた』
そしてそれは、茉希も同じなのだろう。
『愛していました。母が違う兄弟なので、いつかチャンスがあるかも、なんて考えて……バカです、僕は』
兄・芳雅への恋心を、彼は虚空へ明かしたのだ。
バスルームの熱で、火照っていたから?
この後に待つセクシャルな行為に、のぼせていたから?
様々な思いが二人の頭に渦巻いていたが、先に口を開いたのは茉希だった。
「僕は、虚空さまの弟さんに……似ていますか?」
「そうだな、雰囲気がそっくりだ。オメガだから、かもしれないが」
「だから、亜貴と。その、エッチ、したんですか?」
肝心な部分は、やはり声が小さくなる茉希だ。
そんな彼のウブなところが、虚空は好きだった。
「あの時の茉希は、痩せて憔悴しきっていた。そんな君が健康を取り戻すと、亜貴のようになるのかと思ってな」
軽はずみな真似をした、と虚空は素直に謝った。
虚空は、魔人との戦いの後に心も体も激しく昂る。
それを鎮めるには、性行為が効果的なのだ。
「もう亜貴とは、エッチ、しないよ。約束する」
「からかわないでください、もう……!」
茉希の口調を真似た虚空に、彼は心が和らいだようだった。
「私は……君の兄上には似ていないが。どうして、こうも優しい?」
茉希の部屋に飾ってあった、ポートレート。
そこに焼き付いていた茉希の兄・芳雅は、虚空とは似ても似つかぬ明るい笑顔だった。
健全な性格と、まぶしい光のオーラが感じられた。
「虚空さまは……」
「待て。当ててみよう」
第二性が、同じアルファだからか。
それとも二人が『鍵』と『錠前』の属性だからか。
虚空は茉希に、いろいろと自論を試した。
しかし彼は、どれも違うと首を横に振るのだ。
「虚空さまは、芳雅兄さまとは全く違う印象です。でも、ひとつだけ共通点があるんです」
「何だろうか?」
僕の思い違いだったら、ごめんなさい。
茉希は、そう前置きをして告白を始めた。
虚空と芳雅の、共通点。
「それは、僕を全力で守ってくれたこと、なんです」
「あぁ……なるほど」
芳雅は、茉希を救うために命を落としたのだ。
全身全霊で弟を守り抜いて、天に召されたのだ。
「虚空さまは、召喚の間で初めて出会った僕を、マントで守ってくださいました」
「確かに、そうだったな」
虚空は、茉希との出会いを思い返した。
(確かにあの時は、反射的に茉希をかばった。考えるより先に、体が動いた)
リアクションの薄い虚空の様子に、茉希は恥ずかしそうに顔をそむけた。
「ごめんなさい。やっぱり『鍵』と『錠前』ですね。僕が虚空さまの『錠前』だから、守ってくれているだけ、ですよね」
「いや、それは違うな」
「えっ?」
「私自身にも、まだよく解らないが。そんな単純な動機ではない……ような気がする」
虚空は、まだ茉希に対する自分の好意が、上手くつかめないでいた。
煮え切らない虚空のグレーな返答に、茉希は返って大胆になった。
「僕は、あの時……ドキドキしました。素敵な出会いだと、感じました」
僕は、僕は……。
出会った時と同じくらいに、茉希の心は熱く打っていた。
「僕は。僕はあなたに、一目で恋に落ちたんです」
「茉希」
「好きです、虚空さま」
虚空が何も言えないように、茉希はすぐさまキスをした。
唇を奪い、胸の情熱をただ伝えた。
(虚空さまが、僕を否定するのが怖い。背を向ける言葉を紡ぐのが、怖い……!)
だから、茉希は激しく口づけた。
大切な大魔導士が、せめて一夜だけでも自分だけを見つめてくれるように。
そして虚空も、応えていた。
茉希の唇を吸い、舌を絡めて応えた。
熱く、長いキス。
ゆっくりと離れた時に、虚空の答えは決まっていた。
低く、甘く。
少しかすれた声で、言った。
「私も、茉希が好きだ」
その言葉に、茉希は彼の胸に飛び込んだ。
そのまま二人はもつれ合い、夜の時間へ溶け込んでいった。
ともだちにシェアしよう!

