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第15話

 虚空と茉希は、この世界の儀式にならって、二人一緒にバスルームで身を清めた。  だが、肝心のベッドルームでは、なかなか手を差し伸べ合うことができなくなっていた。  今ここに至るまでに抱き合いもしたし、キスも済ませたというのに。  人生経験が茉希より長い虚空には、それがなぜか解っていた。 (誰にも明かしたことのない秘密を、茉希には打ち明けた……)   『私も、弟を愛していた……兄弟愛の壁を越えて、恋愛対象として見つめるようになっていた』  そしてそれは、茉希も同じなのだろう。 『愛していました。母が違う兄弟なので、いつかチャンスがあるかも、なんて考えて……バカです、僕は』  兄・芳雅への恋心を、彼は虚空へ明かしたのだ。  バスルームの熱で、火照っていたから?  この後に待つセクシャルな行為に、のぼせていたから?  様々な思いが二人の頭に渦巻いていたが、先に口を開いたのは茉希だった。 「僕は、虚空さまの弟さんに……似ていますか?」 「そうだな、雰囲気がそっくりだ。オメガだから、かもしれないが」 「だから、亜貴と。その、エッチ、したんですか?」  肝心な部分は、やはり声が小さくなる茉希だ。  そんな彼のウブなところが、虚空は好きだった。 「あの時の茉希は、痩せて憔悴しきっていた。そんな君が健康を取り戻すと、亜貴のようになるのかと思ってな」  軽はずみな真似をした、と虚空は素直に謝った。  虚空は、魔人との戦いの後に心も体も激しく昂る。  それを鎮めるには、性行為が効果的なのだ。 「もう亜貴とは、エッチ、しないよ。約束する」 「からかわないでください、もう……!」  茉希の口調を真似た虚空に、彼は心が和らいだようだった。 「私は……君の兄上には似ていないが。どうして、こうも優しい?」  茉希の部屋に飾ってあった、ポートレート。  そこに焼き付いていた茉希の兄・芳雅は、虚空とは似ても似つかぬ明るい笑顔だった。  健全な性格と、まぶしい光のオーラが感じられた。 「虚空さまは……」 「待て。当ててみよう」  第二性が、同じアルファだからか。  それとも二人が『鍵』と『錠前』の属性だからか。  虚空は茉希に、いろいろと自論を試した。  しかし彼は、どれも違うと首を横に振るのだ。 「虚空さまは、芳雅兄さまとは全く違う印象です。でも、ひとつだけ共通点があるんです」 「何だろうか?」  僕の思い違いだったら、ごめんなさい。  茉希は、そう前置きをして告白を始めた。  虚空と芳雅の、共通点。 「それは、僕を全力で守ってくれたこと、なんです」 「あぁ……なるほど」  芳雅は、茉希を救うために命を落としたのだ。  全身全霊で弟を守り抜いて、天に召されたのだ。 「虚空さまは、召喚の間で初めて出会った僕を、マントで守ってくださいました」 「確かに、そうだったな」  虚空は、茉希との出会いを思い返した。 (確かにあの時は、反射的に茉希をかばった。考えるより先に、体が動いた)  リアクションの薄い虚空の様子に、茉希は恥ずかしそうに顔をそむけた。 「ごめんなさい。やっぱり『鍵』と『錠前』ですね。僕が虚空さまの『錠前』だから、守ってくれているだけ、ですよね」 「いや、それは違うな」 「えっ?」 「私自身にも、まだよく解らないが。そんな単純な動機ではない……ような気がする」  虚空は、まだ茉希に対する自分の好意が、上手くつかめないでいた。  煮え切らない虚空のグレーな返答に、茉希は返って大胆になった。 「僕は、あの時……ドキドキしました。素敵な出会いだと、感じました」  僕は、僕は……。  出会った時と同じくらいに、茉希の心は熱く打っていた。 「僕は。僕はあなたに、一目で恋に落ちたんです」 「茉希」 「好きです、虚空さま」  虚空が何も言えないように、茉希はすぐさまキスをした。  唇を奪い、胸の情熱をただ伝えた。 (虚空さまが、僕を否定するのが怖い。背を向ける言葉を紡ぐのが、怖い……!)  だから、茉希は激しく口づけた。  大切な大魔導士が、せめて一夜だけでも自分だけを見つめてくれるように。  そして虚空も、応えていた。  茉希の唇を吸い、舌を絡めて応えた。  熱く、長いキス。  ゆっくりと離れた時に、虚空の答えは決まっていた。  低く、甘く。  少しかすれた声で、言った。 「私も、茉希が好きだ」  その言葉に、茉希は彼の胸に飛び込んだ。  そのまま二人はもつれ合い、夜の時間へ溶け込んでいった。

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