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第18話
「おはよう。遅れちゃって……ぇ?」
虚空を加えた、由比家の朝食の席に、一人の男が駆け付けた。
彼の名は、ユーリ・カルミド。
虚空と同じく異世界から召喚された魔導士で、亜貴の婚約者だ。
ユーリはまず、食卓に茉希の姿を見て、とまどった。
茉希が家族全員から疎まれ、共に食事など許されないと、外部の人間であるユーリも知っている。
(それが、どうして。今朝に限って……ぇえ!?)
今度は、ひどく驚いた。
茉希の隣には、当たり前のような顔をして、あの虚空が座っているのだ。
「何で、お前がここに!?」
王族の前で模擬戦を開くことが決まった以上、ユーリは虚空をライバル視していた。
いや、敵視していた。
今現在、この国で一番強い魔導士は、四人の大魔導士を除いてユーリだと言われている。
その名声が、虚空の登場で揺らぎ始めているのだ。
『ユーリ様が、強いわよ。これまで、何人も魔人を撃退してるんだから』
『でも、撃退しただけだろ? 息の根を止めたわけじゃない』
『虚空さまは、一瞬にして魔人を消した、って噂だよ!?』
『じゃあ、虚空さまの方が強いのかな……?』
こんな噂が、そこら中で言い交わされている。
(俺の方が、強いに決まってるだろ! 後から来たくせに、でかい面しやがって!)
「なんで、お前がテーブルにいるんだよ!?」
この意味は、ただのテーブルではない。
由比家の、テーブル。
つまり、この由緒正しい一族の席に着いている、という意味だ。
つい最近、ポッと現れたばかりの虚空など、混ざる権利など無い。
そんな風にユーリは考え、つい大声を上げていた。
ユーリのイラつきに気付けないのか、それとも喜びで舞い上がっているのか。
当主である由比・ジュドゥ・将臣は、朗らかな声を返した。
「虚空さまは、茉希と結婚を前提にお付き合いをしたい、と言ってくれたのだよ」
「な……!?」
今度は、声にもならない叫びをあげた、ユーリだ。
まさしく、絶句というわけだ。
しかしこの男、頭の回転は速かった。
(こいつが茉希と婚約したら、俺と同じ立場になる、ってことじゃないか!)
そうなると、後は純粋に魔力の強い方が優位だ。
(亜貴と結婚したら、俺が由比家の時期当主だ。それを、邪魔する気か!?)
虚空はただ、茉希が愛しいだけで、当主の座など全く考えていないのだが。
愛情も結婚も、打算と共にあるユーリは、すぐに反対し始めた。
「虚空と茉希が、結婚ですって? お義父さんは、それを承諾したんですか?」
「何か、問題が? 茉希のような無能力者は、もらってくれるだけでも、ありがたいのだが」
「そこが怪しいと言うのです。無能力者を娶る、だなんて。何か企んでいるのでは?」
例えば……。
「この名門・由比家の当主になろうと、目論んでいるとか」
声をひそめるユーリに、玲美が大げさにうなずいた。
「その可能性は、ありますわ! 無能力者と結婚だなんて、おかしいと思いましたの!」
亜貴もまた、同調し始めた。
「無能力者の茉希が、自分の地位を上げるために、虚空さまに言い寄ったんじゃない?」
予期せぬ口論に、茉希は青ざめた。
膝の上にこぶしを握り、下を向いて耐えていた。
無能力者。
自分を指す、無神経な暴言の数々に、耐えていた。
『無能力者は、もらってくれるだけでも、ありがたいのだが』
『無能力者を娶る、だなんて。何か企んでいるのでは?』
『無能力者と結婚だなんて、おかしいと思いましたの!』
そして、茉希の心を最もえぐったのは、亜貴の言葉だった。
『無能力者の茉希が、自分の地位を上げるために、虚空さまに言い寄ったんじゃない?』
違う。
(僕は、そんなつもりで虚空さまを好きになったんじゃない!)
唇は震えるが、言葉にならない。
凍てつく空気に、ただ震えるしかない。
そんな茉希を、ふわりとマントが包んだ。
今まで黙っていた虚空が立ち上がり、彼をマントで守ったのだ。
そして、一言だけ告げた。
「党首の座も、能力も関係ない。私は、茉希に惚れた。それだけだ」
マントに包んだ茉希を立たせ、虚空は席を離れた。
「朝食は、ゲストルームに運んでくれ。茉希と二人でいただく」
それでいいか、と静かに問いかける虚空のマントを、茉希はギュッと握った。
小さな声で、返事をした。
「はい」
「では、行こうか」
背後で家族が何か騒いでいたが、虚空のマントに護られた茉希には、もう聞こえない。
ただ、温かな熱を感じながら、虚空と共に歩いて行った。
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