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第20話

「どうしよう……」  大変な秘密を知ってしまった、と茉希は自室でクッションを抱きしめていた。 「虚空さま、あんなことをおっしゃるなんて」 『私はもう、数百年の時を生きているんだよ』  さらりと、とんでもない事実を披露した、虚空だ。  しかもその後、オマケがついてきた。 『私は、全世界の魔人を滅ぼすだけの魔力を得るために、悪魔と契約したと教えたな?』 『はい』 『その、全世界の魔人を滅ぼすまでは、年を取らないし、死にもしないのだ』 『えっ……』  不老不死。  ただひたすら、魔人を狩るために生き続ける虚空。  老いることも、死ぬことも許されない。  いつまで続くか解らない、修羅の道だ。 「虚空さま。あなたは、あまりに背負ったものが重すぎませんか?」  だが、当の本人は茉希におどけて見せたのだ。  ジョークに包んで、彼に与えた衝撃を和らげようとしてくれたのだ。 『虚空さまは、ホントに数百歳もの年を重ねて来たのですか?』 『本当だ。かれこれ400……いや、500年? くらい? だったかな?』 『覚えてないんですか』 『年齢を数えることも、誕生日を祝うことも、面倒でやめてしまったよ』  そう言って、肩をすくめて見せた大魔導士。 「僕を守る、だなんて。守られるべきは、虚空さま。あなたじゃないんですか?」  果てしない年月を、孤独に戦い生き続けてきた男だ。  その体の傷と同じくらい、いや、もっとたくさんの傷を、心に負っているに違いない。 「あなたは、悲しすぎます……」  抱きしめたクッションは、いつのまにか茉希の涙で濡れていた。 「どうしたものか……」  茉希を驚かせてしまった、と虚空はゲストルームで頭を抱えていた。 「彼は、ドン引きしていたぞ」 『私はもう、数百年の時を生きているんだよ』  自分にとっては、もう慣れたことだった。  永劫の時を生きて、戦い続ける。  それだけが、愛する弟への弔いと考えてきた。 『私は、全世界の魔人を滅ぼすだけの魔力を得るために、悪魔と契約したと教えたな?』 『はい』 『その、全世界の魔人を滅ぼすまでは、年を取らないし、死にもしないのだ』 『えっ……』  あの時の茉希の表情が、頭にこびりついて離れない。  ただ単純に驚いた、といった顔つきではなかったのだ。  もっと、複雑な表情だった。  ひたすら殺戮の道を走り続けて来た、血塗られた男は嫌になったのか?  それとも。 「こんな爺様は、もう相手にできないと思ったのか?」  虚空のマイナス思考は、留まるところを知らなかった。 『虚空さまは、ホントに数百歳もの年を重ねて来たのですか?』 『本当だ。かれこれ400……いや、500年? くらい? だったかな?』 『覚えてないんですか』 『年齢を数えることも、誕生日を祝うことも、面倒でやめてしまったよ』  この茉希とのやりとりを思い返して、虚空はハッと気が付いた。 「あの冗談も、高齢者っぽいかもしれん!」 『年齢を数えることも、誕生日を祝うことも、面倒でやめてしまったよ』  自分では、茉希の気持ちを和らげる、もっと良ければ笑ってもらうつもりの一言だ。 「しかし……今時の若者には、通じなかったか!?」  いろいろと失敗してしまった、とゲンコツでこめかみを押すしかない、虚空だった。  虚空は自己嫌悪に陥っていたが、一方で茉希は顔を上げていた。 「僕は、虚空さまの力になりたい」  確かに僕は、魔力を持たない無能力者だ。  でも、あの人のために何かしてあげたい。  ほんの少しでも、背負ったものを軽くしてあげたい!  その願いは、虐げられて傷ついた茉希の心を強くした。  いつも下を向いて、ビクビクしていた茉希。  そんな彼が、顔を上げて瞳を輝かせたのだ。 「何から始めよう……そうだ、プレゼントとか?」  虚空はもうすぐ、王族たちに御前試合を披露するのだ。  茉希は、彼が国王に一目置かれるような演出をしたかった。 「スーツなんか、どうかな?」」  ファッションに気を遣わない彼は、いつもレディメイドの安価な服を着ている。  しかも、黒ばかりを選んで。 「顔映りのいい、明るい色調のスーツ。これだ!」  そうと決まれば、茉希はソファから立ち上がり、クッションを投げ捨てて駆け出していた。

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