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第24話

『だからこそ、俺はあんたの服を作りたい。そしてそれは、茉希さまの真心でもあるからだ!』  そんなアジラの一言は、虚空を揺さぶった。 「茉希の真心?」 「そうだ」 「茉希には……この短い間に、ずいぶんと真心を示してもらったが」 「ったく、解ってねぇなぁ!  そこでアジラは、ぐいと杯を干した。  その手で陶器の盃を勢いよくテーブルに置くと、真顔で虚空と向き合った。 「第二性がオメガで、その上魔力をまったく持たずに生まれた。そんな茉希さまの精一杯の勇気が、今回のスーツなんだよ!?」 「茉希の勇気……」 「そうだ。今まで、他人の目を気にして、隠れるように生きて来た茉希さまが、初めて鉄砲玉みたいに飛び込んで!」  アジラの訴えが、虚空にはようやく解って来た。  家族に疎まれ、周囲に蔑まれるという、過酷な環境の中を生きて来た、茉希。  言動はいつも控えめで、自分から行動を起こすことなど無かったという。 「それが、虚空さん。あんたを喜ばせたい一心で、茉希さまは勇気を振り絞って、俺に頼みに来たんだ」  虚空さまに似合うスーツを、仕立てて欲しい、と訴えてきたのだ。  いつしか虚空の手は、杯を持ったまま動かなくなっていた。  いや、動けなくなっていた。 『僕、虚空さまに新しいスーツをプレゼントしたいんです!』  瞳を輝かせて、そう言って来た茉希。 「……ちょっと待て。私は彼に、ありがとうの一言もあげなかった」 「バカ野郎。ホントに迂闊な奴だ」  虚空の目に、反省と後悔の色が滲み出した。 『待ってくれ、茉希。せっかくだが、私にスーツは無用だ』 『えっ?』  こんな、用件のみのやり取りを、虚空は思い返した。  せっかくの茉希の気持ちを、汲み取りもせず。  ありがとう、とも言わず。   『どうせすぐに、魔人の返り血で汚れるんだ。新しい、高価な服は必要ないんだよ』  ひどい言葉で、彼を突っぱねてしまった。 「本当に。どうしようもないくらい、迂闊だった……」 「バカだねぇ、あんた。茉希さまから贈られたスーツを着て、魔術戦しようってのか?」 「確かに。大切な一張羅になるはずなのに、な」  虚空の様子を見て、アジラはポケットから使い込まれたメジャーを取り出した。 「そこまで反省できてりゃあ、イケるな」 「私の採寸を?」 「イヤとは、言わせねえぜ?」 「もちろんだ」  大人しく従う虚空を前に、アジラは笑顔でメジャーを元気よく引き出した。 「よぉし。じゃあ、まずはマントを脱いでくれ。できるだけ薄着になるんだ」 「本格的だな」 「当たり前だ。俺を、誰だと思ってやがる。ポケットの中身も、全部出して」 「まるで、不審者の取り調べだ」  何だか楽しくなってきた、虚空だ。  肩幅、胸囲、胴囲だけでなく、首回りまで測られた。 「私の首に縄を掛けたのは、あなたが初めてだ」 「安心しな。絞めたりしないよ」  オーダーメイドの採寸など、虚空は初めてだ。 (茉希。君は、また私に『初めて』をくれたな)  アジラに細かく測られながら、虚空は甘酸っぱい気分になっていた。  夜も更けた頃に、茉希の部屋のドアが叩かれた。 「誰だろ。僕、もう眠たいのに」  パジャマにガウンを羽織り、茉希はノックに応えた。 「どなたですか?」 「私だ。虚空だよ」 「虚空さま!?」  どうしよう。  よりによって、今一番顔を合わせたくない人が来た!  泣いて瞼を腫らし、目は赤くなっているのだ。  ドアを開けようか、どうしようかと迷っていると、虚空の声だけ聞こえて来た。 「そのままで聞いてくれ。さっきは、悪かった」 「えっ」 「お礼の言葉も言わないまま、新しい高価な服はいらない、などと。私が、無神経過ぎた」 「……」 (僕の気持ち、ちゃんと通じたんだ!)  むくんだ顔にも構わず、茉希は思わずドアを開けていた。

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