24 / 48
第24話
『だからこそ、俺はあんたの服を作りたい。そしてそれは、茉希さまの真心でもあるからだ!』
そんなアジラの一言は、虚空を揺さぶった。
「茉希の真心?」
「そうだ」
「茉希には……この短い間に、ずいぶんと真心を示してもらったが」
「ったく、解ってねぇなぁ!
そこでアジラは、ぐいと杯を干した。
その手で陶器の盃を勢いよくテーブルに置くと、真顔で虚空と向き合った。
「第二性がオメガで、その上魔力をまったく持たずに生まれた。そんな茉希さまの精一杯の勇気が、今回のスーツなんだよ!?」
「茉希の勇気……」
「そうだ。今まで、他人の目を気にして、隠れるように生きて来た茉希さまが、初めて鉄砲玉みたいに飛び込んで!」
アジラの訴えが、虚空にはようやく解って来た。
家族に疎まれ、周囲に蔑まれるという、過酷な環境の中を生きて来た、茉希。
言動はいつも控えめで、自分から行動を起こすことなど無かったという。
「それが、虚空さん。あんたを喜ばせたい一心で、茉希さまは勇気を振り絞って、俺に頼みに来たんだ」
虚空さまに似合うスーツを、仕立てて欲しい、と訴えてきたのだ。
いつしか虚空の手は、杯を持ったまま動かなくなっていた。
いや、動けなくなっていた。
『僕、虚空さまに新しいスーツをプレゼントしたいんです!』
瞳を輝かせて、そう言って来た茉希。
「……ちょっと待て。私は彼に、ありがとうの一言もあげなかった」
「バカ野郎。ホントに迂闊な奴だ」
虚空の目に、反省と後悔の色が滲み出した。
『待ってくれ、茉希。せっかくだが、私にスーツは無用だ』
『えっ?』
こんな、用件のみのやり取りを、虚空は思い返した。
せっかくの茉希の気持ちを、汲み取りもせず。
ありがとう、とも言わず。
『どうせすぐに、魔人の返り血で汚れるんだ。新しい、高価な服は必要ないんだよ』
ひどい言葉で、彼を突っぱねてしまった。
「本当に。どうしようもないくらい、迂闊だった……」
「バカだねぇ、あんた。茉希さまから贈られたスーツを着て、魔術戦しようってのか?」
「確かに。大切な一張羅になるはずなのに、な」
虚空の様子を見て、アジラはポケットから使い込まれたメジャーを取り出した。
「そこまで反省できてりゃあ、イケるな」
「私の採寸を?」
「イヤとは、言わせねえぜ?」
「もちろんだ」
大人しく従う虚空を前に、アジラは笑顔でメジャーを元気よく引き出した。
「よぉし。じゃあ、まずはマントを脱いでくれ。できるだけ薄着になるんだ」
「本格的だな」
「当たり前だ。俺を、誰だと思ってやがる。ポケットの中身も、全部出して」
「まるで、不審者の取り調べだ」
何だか楽しくなってきた、虚空だ。
肩幅、胸囲、胴囲だけでなく、首回りまで測られた。
「私の首に縄を掛けたのは、あなたが初めてだ」
「安心しな。絞めたりしないよ」
オーダーメイドの採寸など、虚空は初めてだ。
(茉希。君は、また私に『初めて』をくれたな)
アジラに細かく測られながら、虚空は甘酸っぱい気分になっていた。
夜も更けた頃に、茉希の部屋のドアが叩かれた。
「誰だろ。僕、もう眠たいのに」
パジャマにガウンを羽織り、茉希はノックに応えた。
「どなたですか?」
「私だ。虚空だよ」
「虚空さま!?」
どうしよう。
よりによって、今一番顔を合わせたくない人が来た!
泣いて瞼を腫らし、目は赤くなっているのだ。
ドアを開けようか、どうしようかと迷っていると、虚空の声だけ聞こえて来た。
「そのままで聞いてくれ。さっきは、悪かった」
「えっ」
「お礼の言葉も言わないまま、新しい高価な服はいらない、などと。私が、無神経過ぎた」
「……」
(僕の気持ち、ちゃんと通じたんだ!)
むくんだ顔にも構わず、茉希は思わずドアを開けていた。
ともだちにシェアしよう!

