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第27話
いつまでも由比邸に滞在し続けるわけにもいかず、虚空は領主から贈られた自分の屋敷へと帰って行った。
若い魔導士の指導、という業務もあるからだ。
しかし、彼が傍に居なくなっても、茉希の心は明るかった。
この数日で虚空と通わせた、心。
それはずいぶん、軽かった。
「なんだか、今なら何もかも、うまくいきそうな気分だな」
そう。
冷たい家族とだって、仲良くなれそうな気がする。
小さな声で歌など口ずさみながら、茉希はグリーンに水をやっていた。
だから、亜貴が訪ねて来た時も、不用意に招き入れていた。
心を緩ませたまま、応対した。
「ふぅん。話には聞いてたけど、ホントに綺麗になったんだ。茉希の部屋」
「うん。虚空さまが、整えてくれたんだ」
気のせいか、茉希の声には余裕がある。
(ムカつく、その態度! 自慢してんの!?)
苛立ちを覚えた亜貴は、思いつくままを茉希に投げつけた。
「でも、ね。虚空さまは、僕のものだから。そこ、勘違いしないでね!」
「虚空さまが、亜貴のもの? どういうこと?」
明らかに動揺した茉希の様子に、亜貴はニヤリと笑った。
「茉希さぁ。虚空さまと、もう寝た?」
「え!? あ、それは、その……」
顔を赤らめ、もじもじとする茉希は、返事をしなくてもYESと答えている。
亜貴は、さらに機嫌が悪くなった。
(いつも大人しくしてるくせに、手が速いんだから!)
それでも亜貴には、これぞという決め球があった。
茉希が大切にしているグリーンの葉をむしりながら、亜貴は笑いを含んだ声で言った。
「虚空さまは、召喚されて一番に、僕とエッチしたんだから」
「え!? う、嘘だ……!」
「嘘じゃないよ。初日に、宴席を抜け出した虚空さまは、僕を抱いたんだ」
「証拠は?」
いつもなら、ここで黙ってしまうはずの茉希が、言い返してくる。
(茉希ったら、それほど虚空さまのことが好きなんだね)
だからこそ、奪い買いがあるというもの。
亜貴はむしった葉を、茉希に投げつけた。
「本人に、訊いてみればぁ?」
「そ、そんなこと……」
(虚空さま、ホントに亜貴と!?)
そんなこと、訊けっこない。
もし、そうだと言われると、とても立ち直れそうにない。
茉希は黙って、うつむいてしまった。
すっかり元気をなくした茉希を見て、亜貴は愉快でたまらなかった。
(そうそう。茉希は、そうして下を向いている方が、お似合いだよ)
ダメ押しに、こんなことまで言った。
「そういうことだから。あ、今夜あたりに、また虚空さまを誘っちゃおう!」
「……イヤダ」
「ぁん? 何か言った?」
「イヤだ! やめてよ、亜貴。僕から、虚空さまを取らないで!」
思いがけない茉希の大きな声に、亜貴は驚いていた。
初めてだ。
茉希が、こんな風に逆らうなんて。
「だから! 虚空さまは、最初から僕のもの! 茉希なんか、ただの遊び!」
「ち、違う……僕、僕は……」
「解ったら、もう虚空さまには近づかないでよね!」
吐き捨てるように言うと、亜貴は大股で部屋から出ていった。
茉希の部屋を出た亜貴は、心臓をドキドキさせていた。
「あんな、あんなに、むきになっちゃって。茉希……!」
今までの茉希とは、違う。
無能力というコンプレックスに押しつぶされて、誰にも何にも言えない、茉希。
「それが、虚空さまが絡むと、あんなに!」
おそらく勇気を振り絞って、言い返してきたのだろう。
「あぁ、何かムカつく!」
亜貴は端末を取り出し、使用人に指示を出した。
「車を一台、準備して。僕、これから虚空さまのお屋敷に行きたいんだ」
ホントは、ユーリと一緒に過ごすはずだったけど。
『ユーリ、午後はヒマ?』
『ごめん。ちょっと、用事が……』
あんなハッキリしない男は、もう要らない!
途中でショップによって、デリカとお酒も準備して。
「そして、良い雰囲気にしてから、虚空さまを美味しくいただいちゃうんだから!」
自分でも気づかないまま、亜貴はこぶしを握りしめていた。
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