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第30話
初めて、茉希と念話が通じた虚空。
しかも、亜貴と仲良くできるようにと、食事会に誘おうと楽しいことを考えていたのだ。
「だのに。茉希、一体どうしたんだ。何があったんだ?」
『虚空さま! 今、取り込み中です! 後にしてください!』
こんな風に、雑な返事をされてしまった。
「茉希らしくない。いや、ハッキリと言えるようになったのは、良いことだが」
「……何か、あったの?」
虚空が放った迂闊な声に、亜貴が目を覚ましてしまった。
「いや、別に。ただ、私は今から出かけるので、君はゆっくりしてくれ」
「ずいぶん、急だね」
亜貴は、探るような視線を虚空に向けてきた。
「もしかして、茉希?」
鋭い。
虚空は、亜貴の一言に、すぐ降参した。
「さすがは、双子だな。隠しても、無駄か」
だが、すぐに言葉を継いだ。
「茉希が、トラブルに巻き込まれたかもしれないんだ」
亜貴を置いて、茉希に会いに行く。
そんなことをすれば、亜貴は芳雅の時のように、辛い思いをするだろう。
(意地悪ではあるが、茉希の双子の兄弟だからな)
それに、今後は関係改善ができるかもしれないのだ。
虚空は、茉希のためにも、亜貴を大切にするよう決めた。
そして、そんな虚空に対する亜希の反応は、早かった。
「僕も、連れてって。茉希のところへ」
「なぜ?」
「なぜ、って。何だか解らないけど……気になるんだ。茉希のこと」
亜貴の心に、弟を意識する気持ちが芽生えたようだった。
亜貴の、とまどいつつも茉希を案じる気持ちが、虚空には嬉しかった。
だがしかし。
「一緒に行きたいところだが、茉希のいる場所がまだ解らない」
虚空の言葉に、亜貴は一瞬考えたが、すぐに顔を上げた。
「虚空さま。僕の意識に、シンクロできる?」
「同調魔術、か。それは簡単だが……いいのか? 私が、君の全てを知ることになるかもしれんぞ?」
大丈夫、と亜貴はきっぱりと言った。
「僕が胸に抱えてた秘密。さっき全部、虚空さまに話したから」
「ありがとう。双子なら、きっと互いの位置が解る」
こくりとうなずく亜貴に、虚空は笑顔を見せた。
その優しい笑顔は、亜貴に亡き兄・芳雅を強く思い出させた。
(同じだ。芳雅兄さまと虚空さまは、同じ……ううん、違う!)
どちらも茉希を愛し、全力で守ろうとするところは、確かに同じだ。
だが虚空は、亜貴も見ている。
見てくれている。
『いいのか? 私が、君の全てを知ることになるかもしれんぞ?』
この言葉には、亜貴の存在も認めて、大切にしようとする意志が含まれている。
そう、亜貴は感じた。
(虚空さまは、僕のことも、ちゃんと見てくれてるんだ!)
亜貴も笑顔で、虚空に応えていた。
「いや、待ってくれ! 誤解だ、茉希!」
「誤解も何も。ユーリ様、あなたは亜貴と婚約しておきながら!」
一方で、茉希はユーリと言い争いをしていた。
お守りになる魔石を買いに、茉希はショップへ出かけていたのだ。
そこで見たものは、亜貴ではない別の誰かとデートしている、ユーリの姿だった。
『ほら、これなんか君に似合うよ』
『えぇ? そうかなぁ』
『俺が試しに、着けてあげるよ。ほら……』
『あぁん。どさくさに紛れて、変なトコ触らないでぇ』
『いいじゃないか。もう、知らない仲じゃないんだし』
『昨夜は、素敵だったな。ねぇ、今度はいつ泊りに来てくれる?』
イチャつくユーリの言動に、茉希は考える前に飛び出していたのだ。
虚空と出会う前の彼ならば、まず見られない行動だった。
「茉希! 亜貴には黙ってろよ、いいな!?」
次第にイラついてきたユーリは、茉希を脅しにかかった。
「ら、乱暴な言葉では、僕は退きません!」
怯えながらも、きっぱりと言い切る茉希は、絶対に亜貴へ、この浮気を言いつけるだろう。
そう考えたユーリは、作戦を変えた。
「亜貴だって、浮気したんだ。俺ばっかり責めるのは、フェアじゃない」
「浮気? 亜貴が?」
「その様子だと、知らないんだな。お相手は、虚空だ。これまで何度も‥‥‥」
「嘘……嘘だ!」
亜貴を自分の位置まで落として、おあいこにする。
そんな卑怯な、ユーリの作戦だった。
「解ったか? だから、亜貴には黙ってろ!」
そこへ、唐突に小さな青い魔法陣が現れた。
「何を、僕には黙ってろ、だって?」
「あ、亜貴!?」
「茉希、大丈夫か?」
「虚空さま!」
空間移動の魔術を使って、虚空と亜貴が茉希の元へとやって来たのだ。
修羅場は、さらに荒れそうだった。
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