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第32話

「僕さ、虚空さまを初めて見た時、パッと芳雅兄さまを思い出したんだ」  虚空がテーブルに出したグリーンサラダをつつきながら、亜貴はそう語り出した。 「茉希は、どう? 虚空さまに、兄さまを感じない?」 「芳雅兄さまは、虚空さまと顔つきが全然違うよ」 「そうだけど。茉希も絶対、感じたことあると思うんだ。虚空さまの中に、兄さまを」 「……」  茉希は黙って、サラダの葉を少し口に入れた。  実は、図星なのだ。  亜貴に言われなくても、茉希は虚空に兄の影を強く感じていた。 「茉希、どう思う?」 「……うん。僕も、亜貴と同じ。同じように考えたこと、あるよ」  亜貴が、せっかく素をさらけ出して告白したのだ。  茉希は、自分も素直になることに決めた。  弟の肯定的な返事に、亜貴はホッとしたように表情を緩めた。  そして、サラダに添えられたクレハの実を食べた後、続けた。 「虚空さまが、芳雅兄さまみたいだったから。僕、この人になら体を任せてもいい、って思った」  虚空がテーブルに置いたキノコのスープを混ぜながら、亜貴は打ち明けた。 「茉希も、そう思ったんじゃない? 虚空さまだから体を許そう、って」 「うん。それは、そう。僕も、亜貴と同じだよ」 「やっぱり。僕もね、誰でもいいわけじゃないんだよ? 心のどこかで、兄さまを求めてたんだと思う」  真面目でガードの固い茉希が、あっという間に虚空と恋に落ちた。  亜貴はそのことを最初は不思議がったが、よく考えると解ったのだ。  茉希も、虚空と芳雅を重ねたのだ、と。 「だから……酒宴で虚空さまが少し休みたいって言った時、ゲストルームまでついて行っちゃった。ごめん」  亜貴は、身を乗り出して茉希に詫びた。  何度でも、謝罪の言葉を唱えた。 「虚空さまも……魔人を倒した後は気が昂るんだって。だから、僕を抱いたんだ」  虚空がテーブルに運んだミククのグリルにナイフを入れながら、亜貴はつぶやいた。  今まで、給仕に徹していた虚空の手首を、茉希は素早く握った。 「……と、言うことは。悪いのは、虚空さまですね?」 「ま、待ってくれ、茉希。亜貴の言うように、私は魔人を屠った後は……」 「だからといって。大神官の息子に手を出すなんて!」 「しかし茉希! 私は亜貴の中には、その、アレだ。アレしなかった!」 「アレ?」  必死で言い訳する虚空を助けるように、亜貴が補足を入れた。 「そうだよ、茉希。虚空さまは、僕にナカ出しはしなかったんだ! 妊娠したら困る、って!」 「な、ナカ出し!?」  オープンな亜貴の言葉に、茉希は顔を赤くした。 「茉希なら、きっと虚空さまにナカ出しされてるよね!? 種付けされてるよね!」  恥ずかしげもなく、亜貴はエロワードを畳みかけた。  虚空も亜貴も、耳まで赤くなったが、茉希はこう続けた。 「それって、心から愛されてる証拠だと思う。赤ちゃんできても、そのままパートナーになるよ、ってことだよね?」  亜貴は、虚空を見上げた。  赤くなりながらも、虚空は深くうなずいていた。   「茉希が私の子を身ごもったら、それは嬉しいことだ」 「虚空さまは、茉希と結婚するの?」 「もちろん」  笑顔で大きなため息をつき、亜貴はグリルをフォークでプスプス刺した。 「あ~あ。今度もやっぱり、茉希に負けちゃったな」 「亜貴?」 「茉希。亜貴は、兄上を愛していたんだ。君と同じようにな」  やっぱり、と茉希はうつむいた。  亜貴も芳雅が好きなのだと気づいていたから、茉希は一歩引いていたのだ。 「だが兄上は、茉希のことを愛していたそうだ。だから、亜貴は苦しんでいたんだ」 「えっ?」 「だから僕は、茉希に意地悪を……ごめん。ごめんね、茉希。ホントに、ごめんなさい……」  亜貴は、ぽろぽろと涙をこぼした。  演技などではない、本物の亜貴の涙に、茉希は心を動かされた。 「僕の方こそ、ごめんね……知らなかった……気付かなかった……」  まさか、兄が自分を愛してくれていた、とは。  そして、亜貴が悩み苦しんでいた、とは。 「茉希。亜貴を、許してやれるな?」 「はい、もちろんです」 「ありがとう、茉希!」  亜貴は泣きながらも笑顔を見せたが、茉希は続けた。 「でも、許せないのは……」  その言葉に、双子の兄は一瞬にして不安になったが、弟は傍らでうなずいていた虚空の髪を強く引っ張った。 「虚空さま、あなたは! あなたのことは、まだ許す気になれません!」 「痛い! やめろ、茉希! やめてくれ!」 「初対面の人と、ホイホイ寝るなんて! 破廉恥にも、ほどがあります!」 「すまない、悪かった! もうしないから、許してくれ!」  まさに、微笑ましい痴話喧嘩だ。 「ケンカするほど仲がいい、って言うもんね!」  亜貴は、彼らの姿に明るく笑った。

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