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第33話

 亜貴は茉希に、虚空と関係を持ったことを謝った。  それだけでなく、これまでの意地悪な言動のわけを告白し、重ねて罪を詫びた。 「もともと、双子なんだ。心が通い合うのも、時間の問題だろう」  仲のいい兄弟になれればいいな、と虚空はベッドの上でひとり微笑んだ。  そう、一人で。  茉希と亜貴は夕食後、そのまま虚空邸に泊ることになり、二人一緒のゲストルームで過ごしている。  今頃は、枕を並べて尽きない話をしていることだろう。 「……茉希。寂しいぞ、私は」  虚空は頬に手を当て、唇を尖らせた。   『解ったよ、亜貴。後で、話して聞かせて。ただ、一発だけ殴らせて!』 『ぐぁッ!』 『虚空さまの、バカぁ!』  生まれて初めて、顔面にクリーンヒットを喰らった、虚空だ。  しかも、それで終わりではなかったのだ。  虚空は、今度は頭をガリガリと掻いた。 『虚空さま、あなたは! あなたは、まだ許す気になれません!』 『痛い! やめろ、茉希! やめてくれ!』 『初対面の人と、ホイホイ寝るなんて! 破廉恥にも、ほどがあります!』 『すまない、悪かった! もうしないから、許してくれ!』 「髪まで引っ張られるとは。私も、情けないものだ」  だが、茉希の前では無様な姿をさらしても、気にならない。  プライドが傷つくこともない。  ただ、今の虚空が気になることは……。 「……いつになったら、茉希は私を許してくれるだろうか?」  独り言に加えて、大きなため息をついたところで、寝室のドアが細く開いた。 「虚空さま、まだ起きてますか?」 「茉希?」  パジャマにガウンを羽織った茉希が、訪ねて来たのだ。 「どうしたんだ? 亜貴は?」 「亜貴は、ぐっすり眠ってます」 「そうか。なら、いいんだ」  茉希の訪問に、虚空は心が穏やかになった。  嫌われたのかもしれないが、それでも愛しい人が傍にいるだけで、こんなに安らぐ。 「茉希が私を捨てても、私は君をずっと愛し続けるよ」 「捨てるだなんて、そんな」 「でも、まだ怒っているだろう?」 「怒ってますよ……隣に寝ても、いいですか?」  怒っているのに、添い寝とは。  虚空は不思議に思ったが、次の瞬間にはピシャリと念を押された。 「でも! エッチは禁止!」 「ひどいなぁ」  それでも茉希は、虚空にぴったりと寄り添ってくれた。  エッチは禁止、と釘を刺されたが、これほど近くに来てくれるのは、なぜだろう。  虚空は茉希の華奢な体に、そっと腕を回した。  彼はそれを、振りほどこうとはしない。  そのまま、話し始めた。 「亜貴は、虚空さまに惹かれた理由を打ち明けてくれましたけど。あなたは?」 「どういう意味だ?」 「虚空さまは、なぜ亜貴を抱いたんですか?」  少し恥ずかしかったが、虚空はその問いかけに、正直に答えた。 「それは、亜貴が茉希にそっくりだったから、だ」 「えっ」 「本当は、茉希。君を抱きたかった。でも、あの時すぐに気を失ってしまったじゃないか」 「あ、あの。それは……スミマセン」  語尾が消え入るように小さくなったが、虚空の耳は茉希の言葉をちゃんと拾っていた。 「君が、謝ることじゃない。あの時の茉希は、ひどい虐待を受けて痩せ細っていたからな」  そうだった、と茉希は思い出した。  家族に、周囲に虐げられ、半死半生だった、僕。 (その生き地獄から救いあげてくれたのは、虚空さまなんだ)  眩しい光の中から現れた、救済の御使い。  黒衣の魔導士。  それが、虚空だったのだ。 「茉希が健康を取り戻したら、亜貴のようになるのかな、なんて思いながら寝た」 「それ、亜貴にも言いましたか? 嫌がられませんでしたか?」 「うん。ひどく怒られてしまった」 『茉希を抱いても、こんな感じなのかな』 『な、何で!? 何で、茉希と比べるのさ!?』  思えば、あの時も。 (亜貴は茉希に、強いコンプレックスを感じていたんだな)  黙ってしまった虚空の鼻を、茉希は軽くつまんだ。 「もう、虚空さまったら。今は、僕と話しながら、亜貴のことを考えてたでしょう?」 「ああ、すまん。その通りだ」  茉希は、嬉しくなった。  下手に言い訳せず、ちゃんと正直に話してくれる虚空。  その姿に、彼は本当に亜貴とは一度限りの交わりだったのだと、解ったからだ。  ユーリの言う『何度も浮気した』という言葉は偽り。  嘘だったのだと、解ったからだ。 「虚空さま」 「ぅん?」 「エッチは禁止ですけど。キスなら、してもいいですよ?」 「私を、許してくれるのか?」 「キスしたら、許してあげます」  可愛く拗ねて見せる茉希に、虚空は優しいキスをした。  柔らかく温かい、仲直りのキスだった。

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