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第34話

 浮気の現場を抑えられ、大恥をかいたユーリ。  彼が、どんな顔で婚約者・亜貴の前に現れるのかと、茉希は冷や冷やしていた。  だがしかし。 「ユーリったら、あれから全く見ないんだよね」 「亜貴、心当たりある?」 「噂じゃ、打倒・虚空さまのために、秘密の特訓してるらしいけど」 「へぇ……」  国内に四人しかいない、大魔導士の元で修業をしている、との声もある。  茉希は、不安になった。 (ユーリ様が強くなって、虚空さまを傷つけたらどうしよう)  軽いけが程度ならいいが、魔術と魔術のぶつかり合いだ。  最悪、死を覚悟しなければならない。  顔色の悪い茉希の肩を、亜貴はバシバシ叩いた。 「大丈夫だって! ユーリは確かに強いけど、虚空さまの方が上だって!」 「そ、そうかな……」  亜貴は、もうすっかり虚空の味方だ。  ユーリとの婚約も、解消する気でいた。 「心配? 私のことが?」 「はい。ユーリ様は、特訓してるそうです。だから……」  茉希の部屋でお茶を飲みながら、虚空は苦笑いだ。 「君は、私が敗ける、と思っているのか?」 「そ、そういうわけじゃないけど」 「信じて欲しい、私を。君の想いが、応援が、私の魔力を高めるだろう」 「僕の想い……」  確かに茉希は、虚空を大切に想っているし、応援だってするつもりだ。 (でも、どうすれば僕の想いが伝わるんだろう) 「応援って……」  虚空さまの姿がプリントされたTシャツを着て。  キラキラしたうちわに似顔絵を描いて。  15色カラーチェンジのペンライトを振って。 「ダメです。僕、恥ずかしい……」 「茉希はいったい、何を想像してるんだ」  やはり虚空は苦笑した。 「僕、虚空さまが勝つ、って信じてます。でも、怪我なんかしたら嫌です」 「だから、大げさに心配してるのか」 「もう! 僕は、真剣なんですよ!」  こぶしでポカポカ叩かれ、虚空は苦笑ではなく声を立てて笑った。 「すまない! ほら、お茶がこぼれてしまう!」  そして笑いを収めた後に、ティーカップをローテーブルに置いて、ソファの背もたれに体を預けた。 「ちゃんと、考えている。ユーリのこと、そして私のことも」 「ユーリ様のことも、ですか?」 「彼の名誉を損なわないように闘って欲しい、といったのは、君だぞ?」  まだ亜貴が、意地悪だった頃の話だ。 「あれほど辛く当たられても、相手の婚約者を心配する。そんな茉希の器の広さに、私は惚れたんだ」 「ほ、惚れた、だなんて」 「優しいだけじゃなく、芯の強さを持っている。茉希は」  べた褒めされて、茉希は照れた。 (こんなに褒められるのは、芳雅兄さま以来だな)  今は亡き兄も、茉希をよく褒めていた。  生まれつき、全く魔力を持たない茉希は、幼い頃から周囲に蔑まれていた。  だが芳雅だけは、彼をおおらかに受け止め、愛してくれたのだ。 『茉希は、とっても広い心を持っているよ』 『広い心じゃなくって、魔力を持ちたかった……』 『どんな強い魔術が使えても、心が広くなければ、やがて身を亡ぼすんだ』 『そうかなぁ……』  そんな風に、芳雅は茉希を励ましてくれたものだ。 「君の兄上も、広い心の持ち主だな」 「はい。芳雅兄さまだけが、そのままの僕を受け入れてくれました」  ティーカップを持ったまま、茉希はじっと動かない。  瞼を伏せ、唇に笑みをたたえている。  その姿に、虚空は唇を尖らせた。  どこか、ぼんやりと。  昔を懐かしんでいる風の、茉希。  それは、かつて愛した芳雅との、遠く眩しい日々なのだろう。  しかし虚空は唇を尖らせ、彼に不平を言い出した。 「待て。その言葉は聞き捨てならないぞ」 「えっ」 『芳雅兄さまだけが、そのままの僕を受け入れてくれました』 「私も! 私だって、君をそのまま丸ごと受け入れている!」  まるで子どもが我を張るような、虚空の言動だ。  今度は、茉希が苦笑した。 「イヤだなぁ。ちゃんと過去形で言いましたよ? 今の僕には、虚空さまが大切です」 「大切? 私が?」 「はい」 「一番、か? 一番大切、か? 一番大切なんだな!?」 「はい! 僕はこの世で、虚空さまが一番大切です!」  茉希の返事に、ようやく虚空は安心した。 「最高の応援だ。模擬戦で私がピンチになったら、今のように叫んでくれ」 「は、恥ずかしいです!」  すでに国王ら王族は、この領土に到着している。  ユーリとの闘いが、近づいていた。

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