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第35話
その日は、朝から良く晴れていた。
高く青い空と同じように、茉希の父であり大神官の肩書を持つ、由比・ジュドウ・将臣も上機嫌だった。
「そういったわけで、両者はわたくしの息子らが召喚いたしました!」
「有能な魔導士を召喚できる、優秀な息子を、二人も。大神官は、恵まれておるな」
「はい! しかも、息子らと異世界よりの勇者たちは、婚約しております!」
「それは、めでたいことだ。由比家の将来は、安泰だな」
「ありがとうございます! それから……」
大神官の自慢話はなかなか止まらず、それを聞かされる国王は、さすがにウンザリしてきた。
そこに、彼の隣に掛けている王子が、助け舟を出してきた。
特別に用意された気品漂う椅子から身を乗り出し、将臣へ無邪気に声を掛けたのだ。
「ところで、その魔導士らは、今どこに? そろそろ、控えの間を出た頃では?」
「あっ、そうですな。そろそろ、陛下や殿下に御挨拶させないとなりません!」
連れてまいります、と将臣はようやく口を閉じ、国王の前から消えた。
将臣が退席した後、国王は前を向いたまま王子に話しかけた。
「司波・レンリ・遥斗(しば・れんり・はると)」
「はい、父上」
遥斗は、わずかに肩をすくめた。
父がこのように声掛けをした後は、必ず叱られると解っているのだ。
「大神官は、まだ話し中だった。それを、途中で止めさせるなど」
「父上が、お困りのようでしたから」
そう返すと、遥斗はちょろりと舌を出した。
「全く。もう成人の儀も済ませたというのに、まだまだ子どもだな」
遥斗は、まだ少年の若い王子だ。
頭脳明晰、容姿端麗、それでいて飾らない性格は、王族の中でも庶民らに人気だ。
そして、好奇心旺盛だった。
「父上。このたびの魔導士は、両者とも異世界より召喚されたのですね」
どのような者たちでしょう、と瞳を輝かせている。
「そのうち一名は、瞬く間に魔人を葬り去ったらしいな」
「そう、それ! その魔術を、早く見たいな!」
「またお前は、子どものような言葉遣いを。もっと王族としての威厳を身に着けなさい」
「あっ。ごめんなさい……」
そんな会話をしているうちに、再び大神官が謁見を申し出て来た。
今度は、二名の連れがいる。
(いよいよ、噂の魔導士が登場だ!)
遥斗の胸は、高鳴った。
「ご紹介いたします。わたくしの後ろに控えおりますのが、本日模擬戦を行う魔導士たちです」
迎賓室の奥へと進み、国王らに近い将臣に対して、虚空とユーリはドアの前に待機している。
遥斗は首を伸ばして、きょろきょろした。
「良く見えないな。おーい、聞える? 名前を、教えてくれるかな?」
息子がこれ以上、王族の威厳を損ねては困る。
国王は、虚空たちに傍へ来るよう促した。
「直答を許す。ここまで参るがいい」
「また父上は、お堅いなぁ」
それでも遥斗は、わくわくしながら二人の魔導士を待った。
白地に銀の刺繍を施した、美麗なローブをまとった、ユーリ。
かたや、相変わらず黒いマントを羽織った、虚空。
「お初にお目にかかります。わたくしは間もなく『由比・ジュドウ・ユーリ』となる者です」
ユーリの自己顕示が強い名乗りに、虚空は呆れた。
(亜貴は、婚約破棄を考えているのに。この男、まだ由比家の人間になるつもりか?)
「そちらの、黒い服のお兄さんは?」
遥斗の声に、虚空は我に返って顔を上げた。
遥斗に促され、顔を上げた虚空。
この国の王子を初めて間近に見た、虚空。
「あ……!?」
そして彼は絶句し、何も喋れなくなってしまった。
(似ている……いや、まるで生き写しだ!)
遥斗は、虚空が失った愛する弟に、そっくりだったのだ。
「どうかした? お兄さんの名前、訊いてもいいかな?」
遥斗の言葉に、虚空の心はさらに乱れた。
(その顔で『お兄さん』と呼ばないでくれ!)
心は乱れたが、理性は残っている。
震えようとする声を抑えて、虚空は名乗った。
「私の名は、虚空。虚しく、空っぽの、虚空だ」
虚しく、空っぽ。
弟を失くし、悪魔と契約し、魔人を屠って来た数百年。
心など虚しく、空っぽ。
だから、虚空と名乗っている。
その秘められた意味を、国王はわずかに感じ取った。
「虚空、とは哀しい名だ。本名を尋ねても、よいか?」
「まことの名は、捨てました。今はただ、魔人狩りを続けるだけの男です」
父と虚空のやり取りに、遥斗は胸を打たれた。
「大人の会話、だね! 僕の名前は、遥斗。よろしく、お兄さん!」
「……虚空、とお呼びください」
弟と、名前まで同じの王子だ。
虚空は、居たたまれない気持ちで、いっぱいだった。
心の中で、悲鳴のように茉希の名を繰り返し呼んだ。
(茉希! 茉希……私を、私を助けてくれ! 茉希!)
すると、すぐに茉希から念話が返されてきた。
そんなつもりはなかったのだが、強すぎる虚空の思念は、茉希に伝わってしまったのだ。
『虚空さま、僕はここです。控えの間に、ちゃんといますよ。大丈夫ですか!?』
『すまない。取り乱してしまった』
『何か、あったんですか?』
『そちらへ戻ってから、ゆっくり話そう』
茉希と念話を交わしたおかげで、虚空は何とか自分を取り戻すことができた。
彼の目の前には、弟に瓜二つの顔を持つ遥斗が、無邪気に笑顔を振りまいていた。
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