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第38話
今回の、虚空とユーリの戦いは、模擬戦。
いわゆる、試合だ。
魔人と戦う人間たちへの、手本となるような内容が求められている。
だがしかし、虚空のセコンドを務める茉希は、言った。
「不意打ちで速攻!」
「え!?」
「驚いた相手が体勢を整える前に、連続攻撃!」
「ええっ!?」
「成功すれば、ノックアウトで即・試合終了です!」
「茉希……それでは、模擬戦の意味が無いのでは……?」
意外に好戦的な、茉希だ。
驚いて声を失っている虚空に、茉希は畳みかけた。
「瞬殺できずに、第二ラウンドへ持ち越されたら。その時は、虚空さまは、どう戦いますか?」
「え? えっと、それなら……相手は反撃してくるだろうから、慎重に……」
「ダメです!」
「ま、またダメなのか!?」
何だか、好戦的な興奮が、エスカレートしているような、茉希だった。
「ユーリ様が反撃してくるのなら、さらに上を行きましょう!」
「う、上を?」
「ラッシュをかけるんです。極大魔法を繰り出して、ガンガン行きましょう!」
「わ、解った。解ったから、とりあえず茉希は、椅子に掛けて水でも飲むといい」
「はい! 虚空さま、がんばって!」
瞳を輝かせ、ファイティングポーズまでとって見せる、茉希だ。
虚空は首を傾げながら、開始線までゆっくりと歩いた。
「応援して欲しい、とは確かに言ったが。この応援の仕方は、独特だな」
開始線には、すでにユーリが待っている。
歓声に笑顔で応え、手を振っている。
しかし、視界に虚空が入ると、その笑顔は禍々しいものになった。
「ギリギリまで、セコンドの茉希ちゃんとお喋りか? 余裕面しやがって」
「お前も、セコンドを置いたんだな」
「俺のセコンドは、素人の茉希とは違う。熟練の達人だ」
「ならば、試合はそいつと交代してもらうんだな」
茉希のことを、素人などと呼ばれて、虚空は少し気を悪くしたのだ。
しかし、すぐにメンタルを立て直した。
(茉希が素人かどうか、戦いぶりで示そうじゃないか)
虚空はこの時、茉希の指示通りに試合を運ぶことを決めた。
ユーリが『熟練の達人』と呼ぶセコンドは、どんな人物なのか。
虚空は興味をひかれ、彼のセーフティーエリアをうかがった。
そこにいるのは、背が高くがっしりとした体形の男だ。
きちんとスーツを身に着け、胸にはエレガントにポケットチーフなど挿している。
だが、顔は隠されていた。
目深に被ったソフトハット、色味の強いラウンドタイプのサングラス。
ご丁寧にマスクまで着けて、こちらに正体が解らないようにしているのだ。
椅子に腰かけ、長い脚を高く組んだ、余裕の態度。
その姿に、虚空はまた気を悪くした。
(どこの誰かは知らんが、茉希に勝るセコンドなどいない)
静かに闘志を燃やす、虚空だ。
それに対してユーリは、軽く体を揺すったり、柔軟をしてみたりと、やけに動く。
試合前に体をほぐす、というより、落ち着きが無い、という表現がぴったりくる。
(虚空。あの、ムカつく陰キャ野郎! すぐにブッ飛ばしてやる!)
こちらは血気盛んに、敵意を剥き出しにしていた。
「では、神官およびガードマンは、防御魔法をお願いします!」
進行役のアービターがマイクで呼びかけると、そこかしこで魔法陣が展開された。
まずは、自分の身を守れないことには、魔術戦は観覧できない。
神官は自らを守り、ガードマンらは一般観客で魔力の弱い人間たちをサポートした。
「ごめん! 遅くなっちゃった!」
「待ってたよ、亜貴!」
魔力を持たない茉希には、亜貴がついている。
さっそく防御壁を作り上げると、茉希に笑顔を向けた。
「茉希は、僕がしっかり守るからね」
「ありがとう、亜貴」
亜貴の到着を確認し、アービターは高らかに宣言した。
「これより、ユーリ及び虚空の模擬戦を開始します!」
歓声が、鎮まった。
皆、二人の立ち上がりに注目している。
様子を見るため、軽い攻撃から始まるのか。
それとも、最初から飛ばしていくのか。
どんな防御壁を展開するのか。
そして、一呼吸早く動いたのは、虚空だった。
「カーン!」
短い上昇呪文と共に、虚空は高く高く飛びあがった。
開始直後の今なら、おそらくユーリの防御壁はまだ不完全だ。
「その、最も脆いところを、突く!」
ユーリの頭上まで高く上がり、虚空は重力魔法をお見舞いした。
「遅いぞ、ユーリ」
「しまった!」
防御壁は一般的に、攻撃が向かって来る方向に展開する。
ユーリも、虚空が正面から来ると予想して、目の前に防御壁を作っていた。
だがしかし。
「まさか、真上から来るとは……!」
重力魔法で動きを鈍く抑え込まれたユーリは、慌ててもがいた。
だが、間髪入れずに虚空は詠唱を始めていた。
「カシャラムス・メドゥウス。猛き拳よ、粉砕せよ。ガロムク!」
「ぐぁあ!」
目に見えない重力圧に、ユーリは這いつくばってひしゃげた。
(こ、虚空の奴! 予想以上の魔力を持ってやがった!)
地に減り込ませる勢いで、ユーリに重圧を掛けた虚空は、すぅっと目を細めた。
「さて。名セコンド・茉希の作戦通り、ガンガン行かせてもらうぞ」
上空からの眼差しは、さながら猛禽類のようだった。
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