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番外②

 付き合ってから雪丸は本格的に道慈の家に住み着いた。今までと違うのは雪丸が一方的に入り浸っていたのが、道慈公認になったというだけだ。  雪丸の服は以前より格段に増えて、今ではクローゼットの半分以上を雪丸が使っている。前は衣替えなど不要だったのに、道慈はシーズン以外の服を収納の奥にしまうようになった。  道慈は雪丸がどんなに部屋を散らかそうが片付けろとは言っても掃除しろとは言ったことがなかった。昔雪丸が掃除機をかけたときに、あらゆる家具の下を一切かけず、四角い部屋を斜めにかけるような雑なやり方に唖然とするしかなかったからだ。確かに子供の頃も学校で掃除の時間にまともに掃除している雪丸をあまり見たことがない。それこそ女子に言われて初めてバットにしていた箒を箒として使い始めるような有様だった。  だので道慈からしたらそこまで多くのことを雪丸に要求しているつもりはないのに、無くなったお茶は作らないしトイレットペーパーの芯はホルダーに残しておくし、やめろと言っているのに空き缶を灰皿にする。 「お前また空き缶にタバコ捨ててんじゃねぇか……やめろっつってんだろ。缶洗って出さなきゃいけねーの知ってんだろ」  シンクに放置された汚れた空き缶を見つけてソファに寝転がる雪丸に声をかける。 「怒った?」 「怒んねぇから洗えよ」  だらだらとスマホをいじりながら動こうとしない雪丸の尻を膝で小突くと、ようやく顔を上げた。 「やだ」 「あ?」  真っ直ぐに目を合わせてわがままを言う頬をつまむ。  「ベランダも禁煙にするぞ」 「やだ。俺が悪かったから缶は道慈が洗って」  付き合っても雪丸のだらしなさは変わらないし、どちらかというとわがままが悪化した気がする。確かに道慈は今までも恋人には甘い方ではあったが、今まで付き合った女性は生活能力が人並みにあった。道慈が求めるまでもなかった。  しかし雪丸の場合もともと生活能力が皆無な上にちょっと甘やかしたらすぐ調子に乗る。  雪丸がタバコを吸っていること自体あまり好きじゃないのに、その上ゴミまで処理させられるのは流石に気に入らない。灰皿を買ってやれば済む話だが、それもタバコを認めているみたいでなんだか嫌だ。  道慈の中の小さな譲れない点だった。 「何も反省する気ねぇじゃねーかお前」 「代わりにお仕置きしていいよ」  雪丸がティーシャツをまくりあげる。浮き出た腹筋に描かれた蓮の花が顔を出した。  道慈はソファを陣取る雪丸をずらさせて腰掛けながら、テレビのリモコンを手に取った。チャンネルをいくつか変えて歌番組で止める。 「じゃあ今日はやんねぇ」 「それは無し!」 「一番効くだろ」 「約束したのに。うそつき」  雪丸が膝に頭を転がしてきながら、恨めし気に見上げてきた。付き合うとき、できるだけ毎日セックスするという無茶な要求を飲んだのは道慈だった。  今までは同棲したら初めは盛り上がってもなんだかんだ回数が落ち着いてくるのが普通だった。しかし雪丸は自分から提示した通り、本当に毎日欠かさずセックスしようとした。一度雪丸の撮影が伸びて、へとへとに疲れて帰ってきた日、疲れたなら無理すんなと言ったら、疲れたからやんだろと不思議そうな顔をされた。  もはや道慈は雪丸の体力に感心すらしていた。  しかし約束を振りかざすならこちらも言い分はある。 「じゃあお前も俺んちのルールは守れよ」 「もう俺の家でもあるもん。俺に言うこと聞かせたいならお仕置きしろよ」 「なんなんだそのお仕置きって」 「道慈にケツ叩かれたら言うこと聞くかも」  雪丸がスウェットの膨らみに顔を埋めてくる。無遠慮な刺激に一瞬腰を引くと、ちらと上目に見上げてきた。唇から僅かに覗いた歯がスウェットを噛んでいる。  ドクンと下腹部に熱が点る。一気に固くなったものを手の下で感じたのか、雪丸が笑った。 「……思いっきり殴るぞ」 「だめ、お前に殴られたらケツ壊れる。叩くだけ」  そう言えば以前軽く尻を叩いた時に雪丸がもう一回とねだってきたことがあった。その時はとりあえずスルーしたが、どうやら雪丸はそういう趣味があるらしい。   しかしなぜこっちの言うことは一切聞かないやつのやってほしいことをやらなきゃいけないのか。 「早く洗えよ。一分で済むだろうが」 「道慈って女のケツ叩いたことねぇだろ」 「ねぇよ。そんなことしたら訴えられる」  考えるだけで恐ろしい。半分以下の体重の女性を叩くなんてありえない。 「ふはっ、だよな。なら俺は訴えねぇから大丈夫だな」 「何をもって大丈夫なのかわからねぇ。今このやりとりしてる間に洗えただろ」 「膝乗れって言って」  義務は放棄してひたすら要望だけを垂れ流してくる雪丸の頬を片手で掴む。頬が潰れてタコのように唇が飛び出た。 「いいから今すぐ洗え。怒るぞ」 「明日スタジオ行く時コンビニに捨ててく」  スタジオとは雪丸の家のことだ。配信が本業の雪丸の家にはリビングと寝室の他に事務所と配信用のスタジオがある。カメラマンに迎えに来させて、途中のコンビニで捨ててもらう算段なのだろう。 「なんでそんなに洗うの嫌なんだよ……」  そんなに洗うのが嫌なら空き缶を灰皿にしなきゃいい話なのに、なぜそれすらできないのかわからない。灰皿を買ってこないのは灰皿を片付けるのが嫌だからだろうことはわかるが、アルミホイルをちぎるくらいならできるはずだ。  潰した頬を解放すると、なおも雪丸が言い募った。 「お仕置きは?」  赤くなった頬を手の甲で撫でながら見下ろす。雪丸の目がじわじわと潤み始めた。発情している時の顔だ。 「叩かれたいんだな?」  これだけこだわるということはそう言うことなんだろう。お仕置きの名目で叩かれたがっている恋人に道慈は若干引いていた。  どこで雪丸の性癖が捻じ曲がったのか、元からなのかは道慈は知らなかった。少なくとも昔はボコられて熱を出す程度には普通の少年だったように思う。  以前雪丸が女と別れるために首を絞められて痣を作ってきたとき、道慈は雪丸が自分を大事にできないのだと思った。だから道慈が大事にしようと思った。それすらそういうプレイだったと言われてしまったら、道慈はもうどうしたら良いかわからない。  雪丸はたまにこうして人の思いやりの上で軽快にタップダンスしてくることがある。別に付き合ったこと自体を後悔しているわけではないし、好きでこの関係でいるので良いのだが、なんとも言えない脱力感を覚えさせられる。  雪丸が節くれだった手に頬擦りしてくる。今はキャットタワーの上で丸くなっている猫の大五郎もよくこんなふうに頬を擦り付けてくる。 「女にしたことないことして」  道慈は雪丸の両脇を掴んで膝の上に引っ張り上げた。横向きに膝に座った雪丸が首に腕を絡めてくる。唇を啄みながら、頭を撫でる。  雪丸は時折こうやって自分だけの特別なことを欲しがる。欲しがられると道慈も悪い気はしない。突拍子もない言動の裏に隠れた独占欲に、ある種の満足感のようなものすら覚える。  「道慈は俺のこと、叩きたくねぇの?」  雪丸がキスの合間に不思議そうに聞いてきた。 「叩きたいわけねぇだろ」  殴りたくなる時はままあるが、プレイとしてそうしたいと思ったことはない。 「そうなの? 意外」  雪丸が目を瞬いた。人をなんだと思っているんだ。  大きな黒い目が考えるように上を向いた。 「道慈はむっつりだからそういうプレイ本当は好きだと思ったのに。じゃあどんなお仕置きがいい? 拘束、ハメ撮り、緊縛……ああ、それとも俺のことケツで抱いてみる?」  もはやお仕置きというより雪丸の願望だ。 「道慈がしたことなくて断トツ気持ちいいのは俺に抱かれること」  雪丸が自分の言葉に自分で頷いてスウェット越しに胸を揉んでくる。 「お仕置きじゃねぇだろそれ」  唇を合わせて舐めると、雪丸が抱きついてきた。 「んっ、ばれた? 抱かせてくれんならなんでもする」  この流れでじゃあ缶洗えとは言えない。道慈はそっちの覚悟は一切決まっていなかった。 「俺もたまにはちんこ使いたい……道慈のために今ずっと我慢してる」  唇を擦り合わせる合間に雪丸が恩着せがましく主張してくる。たしかにAVに女にと毎日のように使っていたものが今ではほぼ使われなくなったとなれば、物足りなく感じてもおかしくはないだろう。  スウェットの上から脇を撫でて胸を揉む。雪丸の身体がぴくんと反応した。 「んっ、」 「縛られんのも好きなのか? お前」  こめかみに口付けながら聞くと、雪丸が首を傾げた。 「どっちかっつーと道慈のこと、んッ、縛りたい。俺簡単なのならできるぜ……ぁっ、今ちゃんとした縄ねぇけど……」  喋りながらも、雪丸の息が徐々に上がり始めた。分厚い布地越しに胸の突起を引っ掻かれるとたまらないのか、ねだるように胸を突き出してくる。 「お前のやりたいことばっかやってたらお仕置きになんねぇだろ。背中で手組め、雪丸」  雪丸がとろりとした目を向けてくる。大人しく言うことを聞いて後ろで手を組んだ雪丸に膝を跨がせる。 「俺のこと縛んの?」 「ああ」 「お仕置きのために? 道慈が?」  キラキラとした目が見つめてくる。お仕置きをこんなに楽しみにしてる人間がいるものだろうか。  スウェットの裾をめくって、口に咥えさせる。雪丸は大人しく咥えてから、ハッとしたようにぽろりと裾を口からこぼした。 「縛んねぇの?」 「お前が今組んでる手離さなきゃ良いだけだろ」 「横着」 「良いって言うまで離すなよ」 「離さなかったらよしよししてくれる?」 「最後まで我慢できたらな」 「それっぽくなってきたじゃない」  唇を舐めた雪丸の口にスウェットの裾をもう一度咥えさせると、今度はしっかりと噛んだ。腰を引き寄せて露になった胸に唇をつける。  同時にスウェットを押し上げているものを握ってやると、雪丸が意外そうに見下ろしてきた。いつも散々放置しているからだろう。 「こっち使いたいんだろ?」  雪丸がこくりと頷いた。ポロリと雪丸の口からスウェットが落ちる。できればバックで道慈のケツに擦り付けたい。入れなくてもいいから。透明感のある声で下品な願望を囁いてくる口にスウェットをねじ込み直す。  お仕置きの名目ならそもそも雪丸の願望を叶えてやる必要はない。  手を上下に動かしながら、小さな突起に舌を這わせる。 「んっ、んっ……!」  雪丸の顔が快楽に歪む。胸や耳だけをいじった時は眉が下がるのに、前をいじると耐えるように眉間に皺がよる。  どっちの顔も道慈は嫌いではなかった。  窮屈そうなものを出してやり、片手で握り直す。雪丸の喉がごくりとなった。 「勝手に逝くなよ」 「ん、ふっ……んん、」  雪丸が目を潤ませてこくこくと頷いた。こういう時だけは従順だ。上下に扱くと、先端から透明な液体が滲んでくる。輪っかの中に突くかのように腰が揺れ出す。  いきりたったものを両手でやんわりと握り直してやる。雪丸の息が興奮したように荒くなった。本当は肩に手を置いて自由に動きたいだろうに、雪丸は道慈の言うことを大人しく聞いて後ろ手に組んだ手を離さないままやりづらそうに腰を振っている。その姿に言いようのない欲がかき立てられる。 「あ、きもち……! いきそ、はぁっ」 「ちゃんと手組んどけよ」  ぴくりと腕が動いたのを認めて釘を刺すと、組んだ腕に力が入ったのか、上腕に血管が浮きだした。 「うっ、くっ……いく、あ……!?」  後ろ手に手を組んで自ら達する姿を見たくないわけではなかったが、気持ちいいだけではお仕置きにならない。直前で手を離すと、雪丸が驚きと落胆が混ざったような顔で見てきた。 「な、なに、もうすぐ……だったのに」 「ああ、ちゃんと腕離さないでえらかったな」  頭を撫でると、雪丸が不満そうにしながらも尻を落ち着けて胸に顔を寄せてくる。 「……今はよしよしより俺の息子をちゃんと可愛がって欲しいんですけど」  雪丸が濡れたものをスウェットに押し付けてこようとするので、スウェットの上を脱ぐ。無遠慮に膨らんだ下腹部に座られ、裸の腹にいきりたったものが押し付けられる。 「ん、道慈も硬くなってる……道慈のも出して、一緒に気持ちよくなろ」  そのまま前後に腰をゆらめかし出す。擦られる刺激でつい吐息が漏れた。 「腰上げろ、雪丸」  「ん、手、使えねぇの地味にキツいな……筋トレみてぇ」  上を脱がせて組んだ腕にスウェットが蟠るのもそのままに、雪丸のズボンを脱がせる。そのまま自分も下を脱ぐ。脱いだ服をソファの背もたれにかけていると、嬉々として雪丸が勃ち上がったもの同士を合わせてきた。 「はは、あっつ……ん……俺のこと触って興奮したの?」 「ああ」  耳元で囁くと、じんわりと雪丸の耳が赤くなった。はぁ、と熱っぽい吐息を溢している。そのまま耳介を舐めると、揺れていた腰がぴたりと止まる。にわかに首がすくまった。いつもなら抱きついてきているところだが、今日は言われた通り手を離さないようにしていた。組んだ腕と腹筋が震えている。  きつい体勢でも触って欲しくて我慢している姿が可愛い。震えている腹筋を指の関節でなぞり上げると、雪丸が喉を震わせた。 「んっ、ふっ……、道慈、触って、ぁっ、一緒に扱いて……ちんこ使ってくれんだろ……?」  裸の尻を撫でると、雪丸が息を呑む。尻をずらして下腹部を押し付けてくる。やっと尻を落ち着けて筋肉が休まったのか、雪丸の顔から力が抜けた。  陰茎同士をまとめて握り、擦りあげる。雪丸の眉間に皺がよった。支えるのがきつそうな背中を支えてやりながら耳の穴に舌を差し込む。 「んぅ……んッ……いく、いく……!」  腰が震え出した瞬間手を離す。雪丸の喉がぐっと鳴った。白濁混じりの先走りが先端から溢れている。 「なに、なんでっ」  擦り付けて勝手に達そうとする腰を抑えて止める。 「お仕置きしてほしいんだろ?」  主張している胸の突起を撫でると、雪丸が刺激を求めて胸を押し付けてくる。 「んっ、おしおきって……ぁっ……また、寸止めかよ……いじわる……へんたい、」  雪丸がAVを辞めてからしばらく、おもちゃで逝かないよう特訓していた時の話をしていたのだろう。今思うと我ながら狂ったことをさせていたが、別の意味で効果はあった。  雪丸はあれから一人で達しずらくなったと主張して、一緒にいられない日に電話をかけてくるようになった。  夜勤中に雪丸から電話をもらった時、最初は何事かと思った。  当の雪丸は、熱っぽい息を吐きながら逝っていい? と許可をとってきた。道慈のせいだから責任とれという主張に、なるほどそう来るかと思った。実際に雪丸が本当にいけないのかどうかは知らないが、セックスできない日でも、少なくとも雪丸は代替えの人間で満足しようとはしておらず、無邪気に声を聞きたがってくる。 「嫌だったらもう空き缶灰皿にしないって誓え」 「だって……」 「だってじゃねえだろ」  突起を摘むと、雪丸がびくりと身体を揺らした。そこまで強くやってないが、敏感な部位なので痛いのだろう。眉を寄せた雪丸の顔を見上げながら、突起に舌を這わせる。  一気に眉間の皺が消える。わかりやすい。  濡らして何度も舐めると、次第に突起が尖りだした。以前よりも心なしか乳頭が大きくなっている気がする。摘みやすいし舐めやすい。  もう片方も指で優しく撫でてやると、雪丸が腰を震わせた。 「ぁっ……それすき、どうじ、きもちい……!」  いつもならすぐに頭を抱いてくるのに、それがない。自ら手を組ませたのになんとなく物足りなさを感じる。しかし大人しく従っている姿は悪くなかった。  雪丸は手が使えない状況に興奮しているのか、寸止めされたからか、ひっきりなしに下を濡らしていた。 「んっ、ふぁ……! はぁ、んっ」  雪丸が焦ったそうに目を潤ませて見下ろしてくる。  乳首も耳も脇の下も腹も、雪丸はどこを触っても気持ちよさそうにする。そして延々触っててもあまり疲れる様子もなく、嫌がる素振りもないのでつい焦らしすぎてしまう。 「どうじ、いかせて、んっ、いきたい………!」  胸に歯を当てると、雪丸が肩を揺らした。最近は格闘技の試合に出る企画をやっているとかで、練習中や撮影中によく脱ぐようなので痕はつけないようにしていた。 「あっ、どうじ……かんで、」  言われるがままに甘噛みすると、雪丸の下が一気に反応した。ぐいぐいといきりたったものが押し付けられる。 「もっと、もっと……!」  噛みながらくびり出た突起を舐めると、雪丸の体が反る。 「ああっ――あっ、なんで……!」  びくりと腰が震えた瞬間に口を離す。達しそこねた陰茎が断続的に震えている。雪丸が恨めしそうに見下ろしてきた。 「どうじ、いきたい、ひど……!」 「じゃあもう空き缶灰皿にしねぇな?」 「やだぁ、どうじ、ちんこ舐めてあげるから、いかせて、」 「話逸らすな」  雪丸が涙目のまま見つめてきたあと、わずかに口角を上げた。  「こんな……甘っちょろいお仕置きじゃ……言うこと聞けねぇ」 「……へぇ」  道慈は自身の額の血管がぴくりと反応したのを感じた。

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