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第5話 仲直りのタクティクス

 定時ぴったりに、秋也は玲のデスクに現れた。 「玲、明日は公休だな?」  優しい笑顔の、秋也。  だが、そんな彼に向ける玲の笑顔は、少し固い。  その笑顔の意味が、秋也には解る。  玲は、緊張しているのだ。 「え? うん、そうだけど……」  返事をしながら、玲はすでに頭の中で、逃げと言い訳を考えている。  秋也には、そんな彼の心理が、手に取るように解る。  それでも、言わずにはいられない。  言わないわけには、いかないのだ。 「今夜、一緒に食事しないか。雰囲気のいい店を、見つけたんだ」 「え、あ、うん。でも、ごめん。ちょっと頭が痛いから、遠慮しとくね」  心の中でため息をつきながら、それでも秋也は畳みかけた。 「だったら、お前の部屋でのんびりしよう。夕食は、俺が作ってやるから」  ありがたいはずの申し出なのに、玲は一歩二歩と後ずさりするのだ。 「やっぱ、やめとく! ごめんね、一人で静かに寝てたいから!」  そして、秋也が何か言う前に、その場を走り去って行く。  いや、全力で逃げて行くのだ。  そんな彼の後ろ姿を見送りながら、秋也は大きなため息をついた。  落ち込む秋也の背後から、パチパチと拍手が聞こえた。 「はい、残念でした~!」  茶化すような声は、顔を見なくても解る。 「拓斗か」  秋也が振り向くと、笑う拓斗の姿があった。  しかし、その目までは笑っていないことに、秋也は気づいていた。  断られるのは、フラれるのは、秋也だけではないのだ。  拓斗もまた、このところ玲から良い返事をもらえないのだ。 「秋也……」 「拓斗……」  互いに顔を見合わせ、同時にガックリと肩を落とす。 「お前も、また失敗かぁ」 「高い代償になってしまったな」  先だって拓斗と秋也は、激情に任せて玲を無理やり組み敷いた。  嫌がる彼を、蹂躙した。  だが玲は、そんな彼らを許し、水に流してくれたのだ。  自ら進んで、肌を許してくれたのだ。  それでも彼の潜在意識には、大きく深い傷跡が残っていた。  怖い顔をして乱暴を働いた二人の姿が、強烈に残っていた。  その証拠に、あの後には一度も体を許してくれない。  いや、それどころか、キスすらしていない。  いや、さらにいうと、一緒に食事をすることまで敬遠している。  玲は、二人きり、三人きりになることを、極度に恐れているのだ。  疲れてるから、おなかが痛いから、頭が痛いから。  そんな言い訳をして、逃げてばかりいる、玲。  さすがに、こう繰り返されると、鋭い拓斗は気づく。  鈍い秋也でさえ、気がつく。 『俺たちは、玲に避けられている!』  また、あんな怖い目に遭うのではないか。  そんな玲の恐怖と不安は、解かる。  解かっているからこそ、悩む。 『取り返しのつかないことをしてしまった!』  そう気付くことに、さほど時間は要らなかった。 「俺は、玲に嫌われた!」  そう言って、頭を抱える秋也だ。  頭を抱えたいのは、拓斗も同じだ。  だが、二人で落ち込んでばかりもいられない。  今日の拓斗は、一つの提案をたずさえて、秋也の元へとやってきていた。 「人魚姫を陸に揚げる秘策を、魔女からいただいてきたんだけど?」 「魔女?」 「福田先生だよ」  拓斗は、茶色の小瓶に入った液体を、軽く振って見せた。  この会社内に勤務する、産業医の福田。  今回の事件を知っている彼女は、玲からも同じような悩みを受けていた。  二人のことはもう許しているし、怒っているわけでもない。  だけど、どうしても避けてしまう。  逃げてしまう、と。 『元通りに、仲良く一緒に過ごしたいんです』 『だけど、できないんだね?』 『はい。なぜか心が、体が拒否してしまうんです……』 『それが正常なんだよ。自分を責めちゃいけない』  玲が一番信頼していた、拓斗と秋也から性暴行を受けたのだ。  その恐怖は、心にしっかりと根付いてしまっていた。  表面では許し、水に流しても、潜在意識の恐怖と不信はぬぐえないのだ。 『だけど。玲の幸せは、あたしの願いでもあるからさ』  そう言って福田は、拓斗に茶色の小瓶を託したのだ。 「とにかく秋也、お前は21日に三人で会うセッティングをしろ」 「21日?」 「翌日22日が、三人そろって公休なんだよ。玲の治療ができるチャンスだ」 「うまくいくか?」  うまく運ばなきゃならないんだ、と拓斗は真顔で秋也に訴えた。 「失敗は許されねえ。いいな?」 「解った」  玲の傷ついた心を、そのままにしてはおけない。  秋也は拓斗と固い握手を交わし、再び玲の元へと走った。 「玲、一緒に食事をしよう」 「だから、今日は頭が痛いから……」 「今夜じゃない、21日だ。拓斗も一緒だ」 「21日……」  玲は、考えた。  突然誘われるより、先の予定にある方が、気が楽だ。 (心の準備もできるし……)  秋也は、何度も頭を下げている。  あの、プライドの高い秋也が、だ。 「どうだろう? 翌日は休みだし、ゆっくりできるぞ?」  頭を下げて、あれこれ話し。  なだめてすかして、秋也はようやく玲にYESと言ってもらえた。  玲の部屋で、夕食の卓を囲む了解をもぎとった。 「やっぱり三人だと、楽しいね!」 「気持ちよく、酔えるぜ~」 「これも美味いから、食べてみろ」  21日の食事会で、玲は久しぶりに拓斗と秋也を前にしていた。  おいしい料理と、おいしいお酒。  そして笑顔の二人を前に、彼は素直に楽しんでいた。  だが、料理が減り、ワインが少なくなってくるにつれ、不安が頭をもたげてきた。 (この後、どうなるんだろう……)  以前なら、あの事件が起きる前ならば。  自然に三人で仲良く、一つのベッドで睦み合うことになるだろう。  明日は、三人とも仕事は休み。  少々夜更かししても大丈夫だし、朝寝坊も許される。 (でも、だけど…)  やはり玲の心には、ブレーキがかかってしまった。 「ねえ。悪いけど、先に休んでもいいかな?」  すまなそうに、玲は持ち掛けてきた。  拓斗と秋也は、一瞬動きを止めた。 (やっぱりな) (仕方がない)  この後、三人で寝る、という展開を玲は望んでいない。  そうなるように仕向けてしまった、俺たちが悪いのだ。 「片付けは俺らでやっとくから、お前はシャワーでも浴びな」 「疲れてるんだろう。ゆっくり休むといい」  拓斗と秋也はそう言って、快く玲を解放した。  ほっとしたような、玲の顔。  拓斗と秋也の胸は、少し痛んだ。 (これでいい) (まずは、これでいいんだ)  俺たちは怖くないのだ、と解かってくれれば、それでいいのだ。  バスルームに消えた玲を見送った後、二人は顔を見合わせた。 「拓斗、巧くやったか?」 「任せとけ、成功だ」  拓斗は、空になった茶色の小瓶を掲げた。  福田医師から渡された、例の薬だ。  中身は、玲のワイングラスにそっと忍ばせた。 「あと1時間もすれば、効いてくるはずだぜ」 「失敗は、許されないな」  そう緊張しつつも、久々に玲が味わえると思うと、胸が弾んでくる。  珍しく歌いながら食器を洗う秋也に、内心ギョッとしながら拓斗は笑った。 「浮かれてんじゃねえよ、バカ」 「お前こそ、口笛を吹くのをやめろ」  二人の男はにやにやしながら、今夜の作戦に心躍らせた。  恋人を持ったことはあるし、風俗で遊んだこともある。  それでも拓斗と秋也にとって、玲は他に代わりのない、大切な存在だったのだ。  玲の後で、大急ぎでシャワーを浴びた拓斗と秋也。  髪も充分に乾かさないまま、静かに寝室へ忍び込んだ。  すうすうと、規則正しい呼吸が聞こえる。  玲は、ぐっすり眠っているようだった。  二人はその寝顔を拝んで、思わず息を吐いていた。 「やっぱ、可愛いよな。コイツ」 「失って改めて、気づいたな」  この寝顔を再び手に入れるためには、クリアすべきミッションがある。  二人は福田医師に祈る気持ちで、取り掛かった。 「起きろ、玲」  拓斗が、その頬を軽くたたいた。 「ん……」  うっすらと、玲は目を開けた。  その焦点は、あやふやで定まっていない。  しかし、寝ぼけているのではなかった。 「俺たちが、解かるか?」 「秋也と……拓斗」 「OK。そのとおりだ」  玲は、むくりと半身を起こして、こちらを見ている。  見ているようで、見ていない。  起きているようで、起きていないその姿。  言わば、寝ぼけ続けている半覚醒の状態。  福田の薬は、効いているようだった。 「さて、秋也。後は、打ち合わせどおりだ」 「中出しは、ダメなんだな?」 「お、お前の口から、中出し、とか……」 「もちろん、ハメも厳禁だな?」 「お、お前が、ハメ、とか言う?」 「いいから、始めよう」  福田医師からもらった、茶色の小瓶。  その中には、飲んだ者を夢遊状態にする薬品が入っていたのだ。  夢うつつの中でなら、恐怖もなく体を開くことができるだろう。  拓斗や秋也と交わりたいと願っているのは玲も同じなので、抵抗なくセックスができるはずだ。  だが、それだけでは不充分。 『目覚めた時に、続きがやりたい、と思わせることが肝心なんだ。いいね?』  福田は、そう釘を刺した。  あくまで、玲の方から求めてくるように、仕向けること。  それが、ミッションの最大の目的だった。 「俺、ちょっと自信ねえなぁ」  そう笑いながら、拓斗は玲に口づけた。  拒まれるのでは、との心配がその瞬間までまとわりついていたが、問題はなかった。  玲はすぐに拓斗の首に腕をまわし、強く唇を合わせてきたのだ。 「お? おぉ? 玲~」  だらしない声をあげて、拓斗は何度も何度もその唇にキスをした。  熱い口づけにも、素直に応じてくる玲だ。 「あぁ、最高だぁ!」 「そろそろ交代しろ!」  拓斗の頭をぐいと押しのけ、今度は秋也が玲に口づけた。  深く繋がり、咥内で舌を絡ませ合う。 「ん、ふっ。んんっ」  鼻にかかった甘い声が、漏れ出した。  玲は声を漏らしながら、こらえきれずに身をよじっている。  感度が、ぐんぐん上がってきているのだ。  キスをしながら、秋也は手のひらを体に滑らせた。  そっと撫でまわすと、玲は熱い息を吐いた。 「あぁ、秋也……」 「俺もいるんですけど?」  不満げな声の拓斗が、後ろから胸に手をまわし、二つの小さな粒を軽くつまんだ。 「あんっ!」  親指と人差し指でつまみ、指腹で何度何度も擦りあげる。  ささやかで大人しかった乳首が、次第に硬く反り赤みを増していく。 「く、ぅんんッ」 「いいぜ、玲。その調子だ」  静かな寝室が、熱くなり始めた。  玲の首筋を這っていた秋也の舌がさらに下へと延び、そっと乳輪に触れた。  胸を大きく反らせて、玲はその舌が桃色の中心に来るのを待った。  だが、秋也の舌は緩慢に周辺をさまようだけで、可愛がってくれない。 「秋也。秋也ぁ、あぁ……」 「続きは、また今度だ」  そう言うと、秋也は舌を胸から離した。  目覚めた時に、続きがやりたいと思わせるようにしなさい、との福田の言葉。  秋也は、それを忘れてはいなかった。 「おぉ、秋也クン偉いねぇ。よく我慢したな!」  拓斗のおどけた声に、秋也は軽く肩をすくめた。 「先が思いやられる」  いつまで理性が持つか。  いや、持たせなければならないのだ。  男二人は気を引き締めて、宿題付きのセックスに挑み始めた。  玲の胸を弄っていた拓斗の手は、下半身へと伸びていった。  そっと玲のものに触れて確かめると、それは硬く勃ちあがり、すでに体液を漏らした跡がある。 「よしよし、いい子だな」  手のひらで擦っていると、とろとろと精ををこぼしてくる。 「お前も、我慢してたんだね~!」  拓斗は玲の後ろから、その細い肩に顎を乗せて頬ずりした。  拓斗は玲の後ろから愛撫しているので、その顔は見えない。  だが、表情は見えなくても、感じる。  伝わってくる。  玲の、荒い喘ぎが聞こえてくる。  ところが、その喘ぎに水音が混じり始めた。 「ま、まさか……」  見ると、秋也のものを玲が手に取り、舐めているのだ。 「あっ! 秋也、ずるいぞ!」 「玲が、やりたいと言ってるんだ」  秋也の顔は、緩んでニコニコしている。  拓斗は舌打ちした後、挑むように玲の後膣に指を入れた。 「口が、お留守になるようにしてやる」  手で前を擦りながら、もう片方の手は後ろを拓く。  拓斗の言うとおり、玲は秋也に舌を這わせながらも、時折大きく震えて声をあげた。 「ん、あんっ。はッ、あ、あぁ!」  なんとか頑張る、玲だ。  しかし秋也にすがりつき、切なげな悲鳴を上げてしまう。 「あ、あぁ。や、もっと。もっと……」 「もっと深く、って言いたいんだよな?」  拓斗は、ニヤリと笑った。  後膣に埋め込んだ指は、浅いところだけを刺激している。  そして、最も敏感なポイントにはわざと触れずに、やり過ごしているのだ。  福田の言葉を決して忘れずに守っているのは、拓斗も同じだった。 「さて、これくらいにしとくか!」  これ以上のめり込むと、もっと太いものを突っ込みたくなってくる。  声を張って未練を断ち切り、拓斗は玲の体内から指を抜いた。  そして、そっと体を離すと、玲はくたんと前に崩れるように横になった。  絶頂は与えられなかったものの、細かく何度も昇りつめたのだ。  玲は小さな声を洩らしながら、ひくひくと身を震わせている。 「気持ち悦かったか?」 「続きも、またやろうな」 「んぅ……」  二人の問いかけにも応えきれず、ただ熱い息を吐いている。  拓斗は、そんな玲の体を蒸しタオルで拭き清め、パジャマを着せた。  乱れた寝具も、整える。  そうすると、今までのことは全て夢の中での出来事のように、跡形もなく消えてしまった。 「じゃあ、おやすみ」 「また明日、な」  軽く頬にキスをした後、二人の男は寝室を後にした。  そして、俺たちは何も知りませんよ、とでも言うように、ソファで寝た。  甘い、フレンチトーストの香り。  フルーツたっぷりのサラダに、ふわふわのオムレツ。  温かい、カフェオレ。  料理が得意な拓斗が、腕を振るって準備したものだ。  そして、秋也が特別に用意した、朝摘みのイチゴ。  それらを前にして、玲はニコニコと笑っていた。  笑っていた、が……。  そんな素敵な朝食の向こうにいる、拓斗と秋也。  彼らの顔を見ていると、体がじんじん火照ってくる。  ひとりでに、深い息が漏れてしまうのだ。 「ねえ。昨夜は、二人ともリビングで寝たんだよね?」 「あぁ、そうだよ」 「ソファで寝た」  そうだよね、と玲はうなずいた。  彼らが、夜中にこっそり体を弄ったとは考えにくい。  そんな跡は、どこにも見られないのだから。 (やっぱり、あれは夢だったのかなぁ……?)  夢にしては、やけに生々しかった。  二人の体温が、すぐそこに感じられるような、リアルな夢だった。  そして何より、と玲は頬を染めた。 (や、やだな。僕ったら! すごく気持ちよかった、なんて!)  久々の、三人でのセックスを、夢に見た。  そう、玲は思い込んでいた。  夢の中の拓斗と秋也は、とても優しかった。  無理をせず、決して乱暴などしなかった。  だけど。 (だけど、もう少し……もうちょっと……)  もう少し……して欲しかったな、と考えて、玲は真っ赤になった。 (は、恥ずかしい!)  それでも二人を見ていると、昨夜の夢が嫌でも思い出されてくるのだ。  口の周りに付いたフレンチトーストの砂糖を、ぺろりと舐める秋也の舌。  それを見て、ぞくりとした。  あの舌は、桃色の中心を舐めてはくれなかった。  イチゴをつまむ、拓斗の指先。  それを見て、ぶるりと震えた。  あの指は、体の奥深くまで忍び込みはしなかった。  あぁ、なんてこと。 (何だか、ドキドキしてくるよ……?)  玲の潤んだ瞳と、赤く染まった頬に、拓斗と秋也は手ごたえを感じていた。 (これは、イケる!) (後は、玲の気分次第だ)  拓斗と秋也は、ちらちらと彼の様子をうかがっていた。 「なぁ、この後どうするよ。ドライブでもする?」 「一日のんびりできるな。釣りにでも行くか」  拓斗と秋也は、期待を込めて玲の方を見た。  決定権は、彼にあるのだ。  だが玲は、ドライブとも釣りとも言わなかった。 「え、あ、そうだね。んと、でも、お昼寝、とか、したい……かな……?」 (昼寝!) (朝っぱらから、昼寝!)  男二人は心の中で固く握手をし、肩をたたき合った。  朝食の片付けもそこそこに、午前中から昼寝の準備をした。 「玲のやつ、許してくれっかなぁ?」 「何にせよ、拒否されれば諦めないとな」 「それは、そう」 「また、次のチャンスを待とう」  こんな具合に『玲 first の精神』を確かめ合った。 「あれ? 二人とも、ソファで寝るの?」  寝室へ向かおうとした玲は、ソファに寝転んでいる拓斗と秋也に、軽く驚いた。 (てっきり、喜んで僕とベッドに入ると思ったのに)  そして、自然に体の触れ合いに進むことが多い、三人なのだ。  しかし、秋也と拓斗はなぜか紳士的だった。 「三人だと、狭いだろう」 「お前、ゆっくりベッド使っていいぜ」 「う、うん。ありがと……」  一度は寝室に消えた、玲。  だが、彼が再びリビングに現れるのは早かった。 「よかったら、こっちに来てもいいよ?」  そして照れながら、こんなことを言ってくれるのだ。 「いや、ここは玲の部屋だからさ」 「贅沢なひとときを、存分に味わってくれ」  下心を隠せない玲の愛らしさに悶えながらも、拓斗と秋也は一度は遠慮した。 「でも、僕だけベッドは悪いもん。ソファ、狭いよね。だから、来てよ」 「そうか? じゃあ、ちょっとだけ」 「すまないな」  二人は神妙な顔をして寝室へとお邪魔し、粛々とベッドの上に寝そべった。  そして、澄まして目を閉じた。  あれ? (これで、いいのかな? 何か、触ったりとかしないのかな?)  玲は、先に寝入った風の男二人に声を掛けてみた。 「ねぇ、寝ちゃった? 拓斗」 「……」 「秋也?」 「……」  川の字になって二人の真ん中にいる玲は、やがてもじもじと体を動かし始めた。  寝返りを打つふりをして、拓斗の頬に軽く唇を当てる。 「んぁ?」 「あ、ごめん。何でもない」  今度は秋也の方へと転がって、その首筋に顔を埋めた。 「どうした?」 「え、ううん。別に、何も」  再び、流れる沈黙。  玲はもう一度寝返りを打って、拓斗の頬に唇を押しつけた。 「何だよ?」 「……おやすみのキス、してよ」  はいはい、と拓斗は玲の鼻の頭に、唇をチュッと当てた。  その雑なキスに、ぷぅと頬を膨らませた玲は、ころりと転がって秋也の首筋をちろりと舐めた。 「何だ?」 「……してよ」  何を、とは返さず、秋也は玲をそっと腕で包み込んだ。 「いいのか?」 「ん」  上目遣いでうなずく玲を見て、秋也は蕩けそうだった。  ようやく、お許しが出た。  彼の方から、誘ってくれたのだ。  秋也の囁く『玲』のイの音が消える前に、玲は彼に口づけた。  拗ねた子どものように、ぐりぐりと唇を押しつけてくる。  そんな玲の唇を優しく触れるように舐めた後、秋也の舌は彼の咥内へと忍び込んだ。  ゆるやかに、優しく擦りつけ絡ませる。  玲の舌は、もう我慢できないというように激しく踊ったが、それをなだめるように、秋也はゆったりと愛撫した。 「はぁ、あっ、んんッ。秋也……ッ」 「俺も、いるんですけど?」  どこかで聞いたような言葉。  そう玲が思う間もなく、拓斗が後ろから胸に手をまわし、ふたつの粒をパジャマの上から優しくつまんだ。 「あぁッ!」  親指と人差し指でつまみ、布越しに何度も繰り返し擦りあげる。  こらえようとしても抑えきれない快感の震えが、玲を襲う。 「混じっても、いい?」 「んっ、ぅんんッ」  はぁはぁと息を荒げながら、玲はもつれる指でパジャマのボタンをはずし始めた。  そっとそれを制し、拓斗が代わってゆっくりとボタンをはずしていった。  前をはだけて玲がその素肌をさらすと、秋也が首筋に舌を這わせる。  そして拓斗が、今度は直に可憐な乳首に触れた。 「あ、あぁ、あ……ッ」 「玲のここ、綺麗だぜ」  拓斗が指腹で、器用な指先で、粒を目覚めさせていく。  ささやかだった乳首は、その存在をどんどん増していく。  秋也の舌が、それを見計らったように首筋から胸へと降りてきた。  そっと、ピンクの乳輪を舐めまわす秋也だ。  あぁ、これは。 (ここまでは、夢と同じ)  昨夜見た夢では、ここで終わってしまったのだ。  玲は、軽く首を横に振った。 「秋也、秋也、お願いぃっ」  悶える玲が、何を望んでいるのは百も承知だ。  秋也の舌先は、今度はちゃんとその桃色の中心をとらえた。 「くッ、あ、あぁんッ!」  秋也は、ていねいに乳首を舐めてくる。  そして、不意をついて舌先で小さな窪みをつつく。 「やっ、んんぁ、はぁ、はあッ!」  玲は、自然と秋也の頭を抱えて、自分の胸に押し付ける仕草を見せた。  その姿に、秋也はようやく安心した。 (どうやら、大丈夫のようだ)  この先に進んでも、玲の心は悲鳴を上げないだろう。  胸をいじりながら、秋也は手を彼の下肢に伸ばした。 「ん?」 「お先に失礼~」  先客が、すでにいる。  拓斗の手が、玲のペニスをゆっくり撫でているのだ。 「先を越されたな」  邪魔をしないように、秋也はその先端に触れた。  溢れている蜜を絡めて可愛がるように撫でまわすと、玲はさらに激しく喘いで身悶えた。 「あぁッ! んぁ、あ、はあぁッ!」  甘い悲鳴と同時に、勢いよく玲のものから精が飛んだ。 「あぁ……」  肩で息をしながら、秋也にくたりと体を預ける玲。  まだまだこれからだが、あまり急にいじめすぎても可哀想だ。  拓斗は一旦その手を動かすのをやめ、後ろから優しくその体を抱きしめた。  好きだ、玲。  お前は、最高だ。  甘い言葉をささやきながら、玲の細い肩を撫でる拓斗。  口下手な秋也は黙っているが、大きな手で優しく髪を梳き、時折軽いキスをくれる。  玲の息が整うまで、そうして充分休んだ。  やがて玲は、秋也の体に頬を擦り付けながら少しずつ身を曲げていった。  頭が、顔が、彼の体の下へ下へと降りていくのだ。  玲の思惑が解り、秋也は上半身を起こした。 「いいのか?」 「うん。やりたい」  玲は腹這いにかがんで、その脚の間に顔を埋めた。 「んっ、ふ。ぅうん」  舌を伸ばし、秋也のものを舐め始めた、玲だ。  浮き上がった筋に舌先を往復させると、たちまち硬く大きくなっていく。  それを手に取り、玲はていねいに愛撫を施した。  濡れた音がたち、そこに昂ぶる喘ぎが混じる。 「はぁ、はッ、んぁ」 「いい子だ、玲。すごく上手だぞ」 「んッ、秋也ぁ……」  珍しく声をかけてきた秋也に嬉しくなった玲は、フェラに夢中になっていった。 「いい子の玲に、ご褒美をあげなきゃなぁ?」  拓斗はそう言って小さく笑うと、ローションを指に絡め、玲の後膣にゆっくりと埋め込んでいった。 「うッ、んぅ」  浅いところに指を擦りつけ、緩慢に刺激を与える。  そうすると玲は、ぶるっと身を震わせて、おねだりをしてきた。 「拓斗。ねぇ、もっと……」  夢の中では、かなわなかった快感を求めて、身悶える。 「もっと? いいぜ。もっとだな」  もっと奥へその指を進めると、玲の体は大きく反った。 「あ! あぁあ」  奥へ入れ、軽く抜き、さらにまた奥へ入れる。  指を抜き差しするたびに、玲は切ない声を上げた。 「あと、お待ちかねのココだなぁ?」  拓斗は、玲の敏感な内壁の腹側を指先で押しこすった。 「はあッ! んぁ、あッ、あぁ!」  跳ねた玲の体を、秋也がフェザータッチで撫でる。  奥深いところと、表面の性感帯とを同時に責められ、玲は再び射精した。  三人の心は、一つになっていた。  思いきり、この熱い時間を楽しんでいた。 「あぁ……はぁ、はぁ……」  ぐったりとなった玲を後ろから抱きかかえ、拓斗は体を密着させた。  拓斗が、何をしたいかを予感した玲だ。  腰を浮かせて、自ら誘った。 「きて……」 「じゃあ、遠慮なく!」  腰を溜め、ゆっくりと、だが一気に奥まで刺し貫いていく。 「あ、あぁ、ああぁ!」  背を反らせ、体を緊張させた玲をほだすように、拓斗はていねいに突き始めた。 「あっ、あぁ、んぁ、ああッ!」  激しく乱れながら、玲は大きく脚を開いた。 「秋也も。秋也も、きて!」 「え!?」  秋也は、慌てた。 「二人同時に!? 大丈夫なのか!?」 「秋也、早くぅ!」  悦にとんだ玲が、必死にせがんでくる。 「い、痛かったら、すぐに言うんだぞ」  秋也は、拓斗と向かい合わせに、玲を挟み込んで抱いた。  後ろの蕾にペニスをねじ込むと、意外なほどすんなりと受け入れてくる。 「しかし、さすがにきついな」  秋也は、慎重に腰を進めた。  奥へ奥へと挿入りこむたびに、玲は悦びの悲鳴をあげた。 「ああぁ! あんッ! あ、ぁあっ、あぁあ!」  拓斗と秋也、二人同時に呑み込んだ玲の体は激しく蠢き、逆に二人を責め立ててきた。 「ぅあ! たまんねえ、コレッ!」 「ん、ぅうッ!」  拓斗と秋也は、呻きながら腰をやった。  一突きするたびに、玲の襞が絡み付いてくる。  搾り取られるような快感に、目が眩む。 「あ、だめッ! また、また出ちゃうぅ!」  秋也の腹で擦られた玲から、精が放たれた。  これでもう、何度目だろう。  果てても続けられる二人がかりの責めに、玲は我を忘れて浸りきった。  しんと冷たかった寝室の温度は、三人の熱でどんどん上がっていくようだった。  ずっと独りでいた、冷たいこの部屋。 (あぁ、久しぶり。久しぶりに、こんなに温かい。こんなに熱い)  そして、久しぶりの拓斗と秋也は、優しかった。 (二人で、こんなに僕を愛してくれているんだ!)  体だけでない、心の昂ぶりも合わさって、玲は絶え間なく声を上げ続けた。 「あぁ! んあぁ、あッ。はぁ、はあッ、あぁあ!」  玲の体は、内壁だけでなく腰も淫らにうねり、拓斗と秋也を追い詰めていた。 「あぁ! 俺、もう限界ッ!」 「中に出すぞ。玲、いいな?」  喉奥で低く雄叫びを上げながら、二人は同時に玲の中へと勢いよく吐き出した。 「あぁああ!」  悦びの声を上げて、拓斗と秋也を抱きとめた玲。  大きく引き攣った後、完全に脱力して二人にその身を預けた。  ぐったりと姿勢を崩しながらも、手は二人の腕にすがりついたままだ。  その手が、とても温かい。  たまらなく、愛おしい。 「ようやく、帰ってきてくれたな」 「玲が、俺たちのところに戻ってきた」  名残惜しかったが、静かに慎重に、玲から体を放した。  紅く熟れた、妖しい蕾。  拓斗と秋也は、そこを心配そうに眺めたり、そっと指先で触れてみたりした。  幸い、出血などはしていない。 「いや、しかし。まさかの、二本差し?」 「玲が、こんなにも求めてくれるなんて」  まだ呼吸の整わない玲はそのまま寝かせ、べとべとに汚れた体を拭き清める、拓斗。  喉が渇いたのでは、と飲み物を用意する、秋也。 「二人とも、優しい」  にっこり笑う玲の表情が、拓斗と秋也には心底嬉しかった。  彼の笑顔は、事件の前と同じ柔らかなものだったのだ。 「玲、ごめん。ごめんな。俺たち……」 「許されるものじゃない、とは解っているんだ」 「言わないでよ。僕、もう大丈夫だから」  ペットボトルをベッドサイドに置き、玲は勢いよく枕に頭を乗せた。 「じゃあ、今度こそ本当に、お昼寝しよう!」 「昼寝!?」 「今からか!?」  だって、疲れちゃったんだもんね、と転がる玲だ。 「よし、じゃあ昼寝しようぜ」 「ゆっくり、寝るか」  玲の体を、ときどき優しく撫でながら。  拓斗と秋也の髪を、ときどき優しく撫でながら。  三人は、幸せなひとときを味わった。  玲と、本当の意味での仲直りができた翌日、拓斗と秋也は大きな菓子折りを持って福田医師を訪ねた。 「ありがとうございましたッ!」 「おかげさまで巧くいきました」  老舗百貨店に入っている、有名な高級和菓子の紙袋を手渡し、深々と頭を下げる二人だ。  そんな彼らに、二度目はないからね、と福田は念を押した。 「今度あんなことがあれば、人魚姫は泡になって永遠に消えてしまうから!」 「充分気をつけます!」 「肝に銘じます!」  そして拓斗は、空になった茶色の小瓶を福田に渡した。 「でも先生。この中身って、何の薬だったんです?」 「そいつは、企業秘密さ。効いたのなら、それで良いんじゃない?」  福田はそれだけ言うと、手をひらりと振った。 「さ、私は忙しいんだよ。困ったことがあったら、またおいで」  二人を見送り、福田が空になった茶色の小瓶を薬品棚へ片付けていると、入れ違いに再び訪問者が現れた。 「こんにちは、福田先生」 「おや、玲くん」  診療所に現れた玲を見て、福田はホッとした。  その表情は、喜びの笑顔にあふれていたからだ。 「うまくいったみたいだね」 「はい」  そう言うと、玲は手にした緑の小瓶を彼女に渡した。  秋也と、21日の食事会を約束を約束した後、玲は悩みに悩んだ。  やはり、まだ拓斗と秋也のことを、心の奥底では信じきっていなかったのだ。  また、無理やり求められたらどうしよう。  イヤだ、怖いよ。  そんな思いで、頭はいっぱいだった。  そこで頼ったのが、福田だった。  そして玲は、緑の小瓶を福田から受け取ったのだ。   『人間の闘争本能を削ぐ効力、ですか?』 『そう。この薬を飲ませれば、あの二人が玲を乱暴に襲うことは決してありえないよ』 『ありがとう、福田先生』  そして玲は緑の小瓶の薬を、そっと二人のグラスに仕込んでいたのだ。 「その顔だと、何事もなく過ぎたのかい?」 「え? えと、あの。えへへ」  自分が我慢できずに、拓斗と秋也とを誘ってしまったのだ、と玲は告白した。 「でも、二人とも優しかったです。とっても」 「薬が効いたんだね。乱暴なことは、無かった?」 「何一つありませんでした。素敵に愛を交わせました」  それは何よりだったね、と福田は玲の肩を叩いた。  そして、かねてから気になっていた部分まで、踏み込んだ。 「愛してる? あの二人を」 「……はい」  幸せそうな笑顔だ。 「そうかい。解ったよ」  どうして、あんなバカとアホを、と思わないこともなかった。  だが、本人が好きだと言っているのだ。  こればかりは、仕方のないことだ。  弾んだ足取りで診療所を去る玲の姿を窓から見送った後、福田は色違いの小瓶をデスクの上へ並べた。  そして、そこにミニバラの花を挿した。  茶色の小瓶に二本、緑の小瓶に一本。 「もう二度と、この薬を使うことがありませんように、ってね」  福田の願いに応えるように、三本のバラの花は風に揺れた。

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