6 / 12

第6話 ハッピー・バースデー!

  玲は、このところ落ち着かない毎日を送っていた。 「そして、本日この日は僕の誕生日……!」  だが、拓斗と秋也が、何のアクションも起こしてこないのだ。  いつもなら、一ヶ月も前から気配が現れる。 「何か欲しいものはないか、とか。何か食べたいものはないか、とか」  そんな祝いの準備をうかがわせてくるのだが、今年は一向にその動きがない。  確かに、三人とも忙しい日々を過ごしてはいた。  入れ替わり立ち代りで出張に出てみたり、飛び込みの仕事に追われてみたり。  ろくに顔を合わせない日が多かった。 「でも、もう当日なのに! 今日は、僕の誕生日なのに!」  しかし、一人でうじうじ考えてみても仕方がない。  玲は、自分から様子を見に行くことにした。  まずは拓斗。  いろいろと趣向を凝らすのは主に彼なので、玲はマンションの彼の部屋へと足を運んでみた。 「悪ぃ。今から出かけるとこなんだ」 「そ、そう?」 (やけに、ドレスアップしてるけど!?)  こんな拓斗は、たいていデート。  玲と深い仲になったとはいえ、数名の遊び友達を抱えていることは知っている。  それでも、玲はあえて言ってみた。 「何か、忘れてないかなぁ?」 「ん?」  玲の言葉に首を傾げた後、拓斗は手をぽんと打ってうなずいた。  部屋の奥へ引っ込んで、出てきたその手に持っていたのはリボンのかかった小さなボックスだ。 (僕へのプレゼント!?)  玲が胸を弾ませたのは一瞬で、それは拓斗のポケットの中へ消えて行った。 「忘れるところだったぜ。ありがとな!」  後は、軽やかに部屋を出て行ってしまった。 「信じられない……」  玲は、呆然とその背中を見送った。 「僕の誕生日なのに! 僕の誕生日なのに、別の誰かとデートだなんて!」  ショックだった。 「拓斗は、僕のことなんかどうでもいいんだ……」  頭の中に渦巻くのは、絶望感だった。   「でも、秋也は。秋也は誠実だから、僕を裏切ったりはしないよね」  玲は、涙を拭いた。  涙を拭いて秋也の部屋へと足を運ぶと、彼はのんびりパソコンを開いて、くつろいでいる。 (ストレートに言うのは、さすがに恥ずかしいな)  そこで玲は秋也の隣に腰掛けて、気軽な話題を投げかけた。 「秋に植えた新しいバラが、つぼみをつけたよ」 「うん」 「覚えてるかな。ローズガーデンで、一緒に選んだ苗木だけど」 「うん」 「赤い花を咲かせるらしいけど、どんな赤かな。オレンジに近い赤だと嬉しいな」 「うん」  何を言っても、ディスプレイから目を離さないまま、生返事だ。  玲は、どんどん心細くなってきた。 (まさか秋也も……)  まさか秋也までも、誰か好きな人ができて。 (僕との会話なんか、どうでもよくなってしまったとか!?) 「ねえ、秋也」 「うん」 「秋也は、誰か好きな人とか、いる?」  玲の顔には血が上り、心臓がばくばく打っている。 (どうか秋也が、そんな人はいないと言ってくれますように!)   しかし、現実は非情だった。  秋也は、やはりパソコンから目を離さなかった。  そして、返事は。 「うん」 「うぅッ !」  玲は、ふらふらと秋也の部屋を立ち去った。  自分を呼ぶ秋也の声が聞こえていたが、振り向きもせず自分の部屋へ帰った。  そして、泣いた。  しくしくと涙をこぼし、サッパリしてしまうと、猛然とお出かけの準備を始めた。  拓斗も秋也も、僕のことなんかどうでもいいと言うのなら!  だったら僕だって、素敵な恋人をつくってやる! 「そして、ラブラブな姿を見せ付けて、うんと後悔させてやるんだ!」  思いきりオシャレをして、玲は街へと繰り出して行った。  ばっちりキメているんだから、我先にと声を掛けてくれるはず。  玲はそう信じて当てもなく歩き回ったが、誰も呼び止めてくれない。 「疲れたよ、もう……」  映画なら、こういう時にはすぐに、一緒にお茶でもいかがですか、と誘われるものなのだが。  玲は、自分の容姿のことを、さっぱり考えていなかった。  すれ違う人間は皆、彼を見てドキリとしていたのだ。  ただ、すぐにこう考えた。 『こんなに素敵な人なら、きっともう恋人がいるよね……』  どう見ても高嶺の花だと、ナンパをしてくる人間はいないものだ。  こうして玲の作戦は、見事に散ってしまった。  もう日も暮れてしまい、彼は噴水が美しいと人気の広場へ入った。  噴水のへりに腰掛け、うなだれる。 「あぁ。誰も僕のことなんか、見向きもしてくれない」  年に一度の誕生日なのに、ひとり孤独に過ごすのだ。  一度は絞った涙腺が、再び緩み始める。 「また、泣いちゃいそうだよ」  その時、人影が目に入ってきた。 「君、ひとり?」  低く、豊かに響く声。  顔を上げると、背の高いイケメンがニコニコと笑っていた。  服装は若いが、落ち着いた雰囲気。  玲より、少し年上かと思われた。 (あ……新しい出会い?)  玲の胸は、トクンと鳴った。 「君、ひとり?」  傷ついた玲の胸に、そっと忍び込んできた男。  疲れ果てた玲は、つい返事をしていた。 「うん……」  小さくうなずく玲の横に座ると、イケメン氏は腰に手を回してきた。 「名前は? 何ていうの?」 「……玲」  いい名前だね、と男は笑った。  綺麗な君にはぴったりの名前だ、と髪に触れた。 「じゃあ私は、ゼロ、とでも名乗るかな」 『レイ』と『ゼロ』だ。  数字の『零』の読み方を、音と訓に分けた小粋な洒落だった。  巧妙な軽口をたたいた後、男はささやく。 「今夜、一緒にどう?」  普段の玲なら、絶対にお断りのはずだった。  初対面で、腰に手を回す馴れ馴れしさ。  初対面で、髪に触れてくる遠慮のなさ。  我慢ならない類の男だった。  だがしかし。 「いいよ」  潤んだ瞳で、玲は男を見つめた。  淋しかった。  よりによって誕生日に、拓斗と秋也からフラれるという打撃。  誰でもいいから、傍にいて欲しかったのだ。    玲の返事に、男はすぐさま口づけてきた。  まるで、以前から恋仲だったかのような、濃厚なキス。  体が、震える。  腰が、くだけてくる。 「んっ。ぅんん、ふぅ……」 「可愛いね」  ちゅっちゅっと濡れた音を立て、たっぷりと玲の唇を、舌を味わった後、男は立ち上がった。 「ホテル、行こうか」 「うん」  誘われるまま、玲はタクシーに乗ってしまった。  男は車内でも玲の体を撫で回し、時にはキスまで迫ってきた。  バックミラーから、運転手の視線がちらちらと注がれている。  知りあったばかりの男に、しかも第三者に見られながら体をいじられる。  そんな倒錯的な快感に玲は震え、ホテルに着いた頃にはすっかりのぼせていた。  そして。 「ホテル、って。星の付いたホテル?」 「気に入ってくれた?」  男が玲をいざなったホテルは、高級ホテルだった。  お金持ちなんだろうな、と考えた後、玲はさらにのぼせ上った。  初めての相手に、そんな贅沢を振舞う気前の良さが、スマートだ。  先ほどからの馴れ馴れしさ、遠慮のなさを、すっかりカバーしてしまっていた。 「シャワー、先に使っていいよ」  こんな気配りも素敵で、玲の沈んだ心はどんどんバラ色に染め上げられていく。  ベッドに潜って彼を待つ間、胸がドキドキと高鳴っていた。 (何だか、久しぶりに恋する気分……!)  やがて、物音が聞こえて人がやって来る気配がした。 「お待たせ」  男の声が間近に響き、ベッドの隣に滑り込んできた。 「綺麗だよ、玲」 「ん……」  しっかりと体を抱きしめられ、熱いキスを交わした。 (あぁ、この人が僕の新しい恋人!)  身も心も捧げる準備をして、玲は口づけに応えた。  玲は、これまで大勢の男性と関係を持ってきた。  求められれば、いつでも素直に応じてしまう性格なのだ。  それでも、拓斗と秋也の二人と付き合い始めてからは、ずっと貞操を守ってきた。  だが今夜は、久々に違う相手と一緒だ。  そのことが、奇妙な昂ぶりを呼んでいた。 「玲、とっても素敵だ」  そんな甘い言葉を囁きながら、男の舌が体中をなめ回す。  手より唇を、舌を使っての愛撫が多く、しかもやたらと巧い。 (遊び慣れているのかな、この人)  それでも、気持ちよさの方が勝る。  玲は声を殺して、熱い息を吐いた。 「声、聞きたいな。聞かせて?」 「やだ。恥ずかしいよ」 「じゃあ、これでどうだ!」  ふいに男が、玲のものを深く咥えてきた。 「ああッ!」  拓斗や秋也は滅多に行うことのない愛撫に、玲は大きくひきつった。 (ちょ、待って! いきなり、フェラとか!?) 「ヤだ! やめてよ、恥ずかしい!」 「恥ずかしいことなんてないさ」  男の唇が締め付け、舌が踊る。 「んぁっ、あぁ。やっ、ぃやぁ、あぁあ!」 「こういうこと、慣れてないんだ?」  調子に乗った男は、さらに玲を苛めてくる。  唾液をたっぷり絡ませて抜き差しされると、腰が抜けそうな悦楽が玲を襲った。 「もう、もうだめ。ダメ! 出ちゃう!」  そこで、ようやく男は玲から口を離した。  涙目になって震える玲を、楽しそうに笑っている。  がくがくと震えながらも、絶頂は与えてくれなかった男に、玲は不満を感じた。 (拓斗なら、秋也なら、そのままいかせてくれるのに)  無意識のうちに、愛しい二人と比較していた。  玲の不満など全く気付かない男は、腰を突き出してきた。 「お返し、してくれる?」  もちろん、その性的な意味は解る。  玲は男のペニスを手に取り、そっと咥えた。  激しかった男の愛撫とは逆に、じっくりと舐め上げ舌でくすぐる。  男は、満足げに深いため息をついた。 「あぁ、いいね。すごく巧いよ」  そして、ていねいに舐める玲の髪を、撫でてくれる。  そんな優しい仕草に、玲はすっかり嬉しくなって夢中で施した。  舌を伸ばし、音を立ててしゃぶると、男は明るい声で笑った。 「いいね、いいね。そのまま咥えててくれる?」  男は、その喉奥にまで突き立ててきたのだ。 「んッ! んぅ、んッ、んんッ!」 (う、ぐぅ! ヤだ、息が、できなッ、いッ!)  あまり激しく突いてくるので、苦しくてむせる。  しかし、お構いなしに男はさらに激しく突いてくる。  やがて軽く震えると、男は玲の咥内にそのまま精を吐き出してしまった。 「う、ぅうッ!」  涙をにじませながら、玲は必死で精液を飲んだ。 (うぅ、何か、ヤだ……)  拓斗や秋也なら、もっと優しくしてくれるのに。  出す前にはちゃんと声をかけて、準備させてくれるのに。  そう考えると、飲み下した精液がひどく汚れたもののように感じられた。    荒い息を吐く玲に、男は一休みする間も与えない。  さっさとローションを、その後膣へと塗りこんできた。  そして、いきなり太い指を二本入れ、かき回してくるのだ。 「待って、少し休ませてよ」 「すぐに悦くなるから、さ」  乱暴に内壁を擦られ、その異物感に玲は悶えた。 「あッ! あぁ、イヤだぁ!」 「よく嫌がる子だなぁ」  指を抜くと、男は玲を荒々しくベッドに腹這いに押し付けた。  そして、腰を高く上げさせた。 「後ろから!?」 「別に、いいだろ?」  確かに後ろからでも構いはしないが、初エッチなのだ。  お互い顔を見つめて、愛を確かめ合いたかった。  玲の、そんなささやかな甘い願いも、まるで無視だ。  男は、一気に挿入してきた。 「んぅうッ!」  最初から、奥まで激しく突き立ててくる。  男のものは拓斗並みに太く、秋也並みに長い。  ローションを使っているとはいえ、痛かった。  シーツを握り締め、唇をかんで必死に耐えた。  そんな玲の様子を見降ろしながら、やはり男は構わず激しく腰をやる。  その激しさを緩めるどころか、どんどん速く、強くなる。 「ああッ! んぁ! やッ! いや! あああぁ!」 「気持ちいいだろ?」  勘違い男の勢いは、止まらなかった。 (うぅ、バカぁあ! 気持ちよくなんか、ないぃ!)  玲は、ぎゅっと目を瞑った。  涙がこぼれてくる。 (痛くて、辛くて、苦しいようぅ!)  早く終われと、心の中で悲鳴をあげていた。  結局抜かずに三発も中に放たれ、ようやく引き抜かれた時には、もう息も絶え絶えだった。  はあはあと喘ぐ玲を抱きしめると、男は満足そうに尋ねてきた。 「悦かった?」 「……うん」  嘘をついた。  悦かったのは男の方だけで、玲は一度も達していないのだ。 (でも……)  玲は男の背中に腕を回して、頬を擦り付けた。 (でも、慣れなきゃね)  これが、彼のセックス。  これから、長い付き合いになるのだ。  早く慣れて、お互い幸せにならなきゃ、と考えながら眠りに落ちた。  明け方、玲はふと目を覚ました。  隣に寝ている男を、探る。 (これが、好きなんだよね)  激しいセックスの後の、安らぎ。  愛しい人と抱き合って眠る甘いひとときが、玲は好きだった。  だがしかし。 「いない!?」  隣に寝ているはずの男が、いない。  がばと跳ね起きて、部屋中を探しても、どこにもいない。  ベッドルームだけでなく、リビング、ドレッシングルーム、バスルーム、パウダールームまで探した。  だが、男の姿はどこにもなかった。 「こんな時間に、いったいどこへ……?」  そして、玲がふとドレッサーに目をやると、とんでもないものが置かれてあった。  無造作に置かれた、高額紙幣。  かなりの金額だ。 「……買われたんだ。僕は」  玲の顔から、血の気が引いた。  新しい恋人と浮かれていたのは、自分だけ。 「あの人は、最初から僕をお金で。一夜だけの関係で、買うつもりだったんだ……」  涙も出なかった。  のろのろと身支度を整え、部屋代を払おうとフロントへ行くと、スタッフにこう告げられた。 「お連れ様が、もう支払っておられますが」  どこまでもスマートな男だ。 「く、悔しいッ!」  玲は、手に残った紙幣をフロント横の募金箱へ突っ込んだ。  そして、うなだれてホテルを出た。  もう二度と、会うことはないだろう。  散々な誕生日だった。  マンションへ戻ると、玲は寝室へ駆け込みベッドに臥せって、しくしくどころか、わんわん泣いた。  泣いて泣いて、寝室のドアが開かれたことにも気づかないくらい、わんわん泣いていた。 「どうした!?」 「何があったんだ!?」  突然かけられた声に、ぎょっとして顔を上げると、そこには拓斗と秋也の二人が心配そうに立っている。  合鍵も暗証番号も渡してあるので、彼らはいつでも玲の部屋へ入れるのだ。  それほど、深い仲だった。 「拓斗……秋也……」  あぁ、今すぐ彼らの腕に飛び込んでしまいたい。 (そして、思いっきり泣いて忘れてしまいたい!)  でもでも、愛しい彼らは、知らない誰かのものなのだ。 「何でもない! 出てってよ!」 「何でもあるだろ!? 何だって、そんなに泣いてやがる!?」 「何でもないったら! バカァア!」  やれやれ、とベッドに腰掛け、拓斗は暴れる玲を抱きしめた。 「泣くなよ。せっかくの誕生日が台無しだろ?」 「誕生日なんか、もう終わったし! 拓斗も秋也も、僕の誕生日すっかり忘れてたくせに!」 「……玲、今日は何日だ?」  やたら冷静な秋也の声に、玲はぐすぐすとすすり上げながら答えた。 「昨日が10日だったから、今日は11日」  バッカ、と拓斗が秋也の髪をくしゃりとつかんだ。 「一日、勘違いしてやがる。今日が10日だ」 「え?」 「お前の誕生日を、俺たちが忘れるわけないだろう」 「えぇ?」 「出張やら休日出勤やらで、曜日感覚がおかしくなったんだなぁ」 「仕方がない。俺たちも、そうなんだから」 「えぇえ……?」 (じゃあ全部、僕の一人相撲!?)  玲の立場は、非常に悪くなってしまった。  それでも彼は、唇を尖らせたまま、ぶつぶつと不平をこぼした。 「でも秋也は、誰か好きな人がいるって言った」 「あれは、その。つまり、好きな人というのは、何だ」  お前のことだ、といって赤い顔を背ける秋也。  拓斗も、昨日会った女は馴染みの店のマダムで、もう80歳のおばあちゃんだと打ち明けた。  ますます立場の悪くなってしまった、玲だ。  二人には、何も落ち度はなかった。 (それなのに、僕は。見ず知らずの男に、許しちゃうとか……!)  別の種類の涙が、玲の目にはあふれてきた。 「う、う、うぇぇえん!」 「だーかーらー、泣くな。何があった? ん!?」 「……怒らない?」 「怒らないから、言ってみろ」  ぼそぼそと、玲は怪しい男・ゼロに買われてしまったことを打ち明けた。  二人とも、きっと怒るだろう。 (誕生日なんて、もう祝ってくれないよ……)  秋也が、黙って玲の隣に腰掛けた。  ぶたれるかもしれない、と玲はどきどきしながら身をすくめた。  だが彼は、その長い腕を回して、玲の体を抱きしめてきたのだ。 「忘れろ。事故にあったようなものだ」  拓斗が、頬に軽いキスをくれた。 「噴水の広場って、西通りのヤツだろ。夜あそこにいたら、私を買ってくださいっていう意味なんだよ」  しょうがねえな、と拓斗も秋也の上から玲を抱きしめた。 (あぁ! 二人とも優しい!)   玲は、ようやく泣き止んだ。  二人の腕の温かさに身を任せ、うっとりと瞼を閉じた。 (そして、今から僕の誕生会を……)  そう思い描いたが、簡単には事が運ばなかった。 「でも、浮気のお仕置きはしなきゃなぁ?」 「え?」 「上書きして、消してやる」 「ええッ!?」 (ちょっと待ったぁ!) 「朝からそんな、うわぁあ!」  もがく玲を、拓斗と秋也はベッドへゆっくりと押し倒した。  軽いキスを、二人交互にちゅっちゅと落とす。  唇だけでなく、頬をぺろりと舐めて流した涙を拭き取ってくる。  泣いた瞼が腫れないようにと、目におまじないの口づけをくれる。  そんな、子どものようなキスを繰り返す、拓斗と秋也だ。 (浮気した僕に、二人とも優しい……) 「うぅ、う……」  今度は、嬉し涙があふれてきた。 「もう、泣くなよ」  泣き声があがらないよう、拓斗がしっかりと唇をふさいできた。  今度は、大人のキスだ。  拓斗の舌はゆるやかに踊り、玲の咥内を隅々まで愛撫する。  ふと玲は、男に飲まされた精のことを思い出した。 (それを、きっと清めてくれてるんだ)  そんな拓斗の舌に、玲は自分の舌を擦り付けた。  玲が夢中でキスをしていると、耳に刺激を感じた。  秋也が、玲の耳を愛撫しているのだ。  耳は玲が好きな、敏感なポイントだ。 (あの男は、耳を愛してはくれなかったよ)  自分の喜ぶことを熟知している秋也の愛撫に、玲は安らかな心地を感じた。  うっとりと目を閉じ、甘い息を吐く。  拓斗が首筋を、秋也が背筋を愛してくる。  優しく口づけ、撫でながら、身にまとうものを剥いでいった。 「あぁ……」  声が、ひとりでに漏れてくる。  イヤだ、ダメだと感じながらも、玲は男の言葉を思い出していた。 『声、聞きたいな。聞かせて?』  あんなことを、あの男は言っていた。 (無理強いされなくても、本当に感じれば声は自然に出てくるよ……)  後ろから手を回した秋也に、胸の粒を指で擦られると、玲はさらに啼いた。 「あッ、あぁ、ん。んぅ」  秋也の指が、拓斗の舌先が、乳首をいじめてくる。 「あぁん! あっ、あッ、あぁあ!」  声は、いくらでも漏れてくる。  だが玲は、恥ずかしいとは感じなかった。 「なぁ……」  こり、と拓斗が少し強く乳首を噛んだ。 「そんな声、ヤツにも聞かせたのか?」  秋也の手が玲のペニスまで伸びてきて、握った。 「巧かったのか、その男は」  玲は、必死で首を振った。 「そんな、そんなことない!」  比べ物にならないくらい、今の方がずっとずっと気持ちいいのだ。  拓斗は胸から顔を離し、玲の耳元で囁いた。 「ナニされたんだよ。言ってみろ」  いやだ、と小さく首を振って玲はうつむいた。  だが、そんな玲の耳を軽く引っ張って、拓斗はさらに言った。 「浮気のお仕置きだぜ? 上書きだぜ?」  うぅ、と玲は震えた。  どうやら、白状するまで許してくれなさそうだ。  玲は消え入りそうに小さな声で、打ち明けた。 「口で……されて……。その後、お返し……した……」  なるほどね、と拓斗は短いキスを玲の頬に落とした。 「聞いたか、秋也。口でされて、口でしたんだとよ」 「上書きなら、同じようにするか」 「だよな~。玲、ちょっと動け」  体を支えられながら、玲は四つん這いにさせられた。 「いったい、何する……」  不安げな顔に、心配すんなと拓斗は笑う。  そんな玲の前に秋也が膝立ちし、ペニスを突き出してきた。 「口でしてくれ」 「うん……」  秋也のものを咥えようとしたその時、拓斗が玲の体の下にもぐりこんできた。 「ちゃんと、お前も口でしてやっからな!」 「え! 拓斗、何を!?」  有無を言わさず、拓斗が玲の性器を咥え込んできた。  拓斗に吸いつかれ、玲は悲鳴を上げた。 「やめて! 恥ずかしいぃッ!」 「ダメ! お仕置きだから!」  男のブツを咥えるのは初めてだ、と玲に口淫を始める拓斗だ。 「だったら、しなきゃいいじゃん!」  玲はもがこうとしたが、秋也に頬を両手で挟まれた。 「口でしろ、と言ったはずだ」 「……はぃ」  観念して、玲は秋也のものを口に含んだ。  ゆっくり舐め上げ、舌先でくすぐり唇で吸う。  もちろん、あの男にやった時より心を込めて、ていねいに愛撫した。  だが同時に、自分の性器も拓斗に嬲られているのだ。  ぞくりぞくりと、絶え間なく震えがきた。 「んあッ! やぁあ!」  びくりと跳ね上がった玲の頭を、秋也が優しく撫でた。 「口がお留守になってるぞ」 「ごめん……」  玲は再び秋也を愛し始めたが、どうしても気が散ってしまう。  肌慣れない刺激に、過敏に反応してしまう。  それでも拓斗の行為は、あの男より玲を感じさせた。 (テクは、確実にあっちの方が上のはずなのに!)  はあはあと喘ぎながら、必死で舌を動かす。  でも、すぐに口を離して声を上げてしまう。 「あッ、あぁ! んぁ、あッ、あッ!」 「おっ、出た! 玲、プチ射精!」 「やったな、初体験!」 「いやだぁ。もう、やめてよぉ!」  これでは口でするどころではないな、と秋也は笑った。 「秋也、ごめんね」 「大丈夫だ。手伝ってやるから」 「え?」 「動くぞ。いいか?」 「あ、うん。いいよ……」  そんなやり取りの後、秋也は緩く腰をやり始めた。 「んッ、ふ。ぅん。んんッ」  優しく、静かに抜き差しされる秋也のペニスは、玲の喉を突くことはない。  ただ、心地よい快感を運んでくる。  玲の柔らかい喉はむせることなく秋也を受け止め、彼の方へも悦びを与える。  二人の想いがぴったりと合わさって、初めて得られる愛の交歓だ。  しかし、吐精の予感が下肢に広がり始めると、玲は焦った。  拓斗に声をかけようにも、自分の口は秋也によってすっかり塞がれているのだ。  そんな玲を見透かしたように、拓斗の方から声をかけてきた。 「そのまま出していいからな」 「んぅッ!」 (そんなこと、できない!)  あの男の口にも、出してはいないのだから。  だが、拓斗は相変わらず玲を口で愛撫し、秋也は腰をやってくる。  そして、頭上から声が聞こえた。 「出すぞ、玲。いいか」 「んぅ!?」  秋也だ。  それに備える玲だったが、慌てた。 (ぼ、僕も、出ちゃいそうなんだけど!?) 「んっ、んんッ! んうぅッ!」  秋也が吐き出すのとほぼ同時に、玲も吐精した。  体を震わせながら、秋也の精を夢中になって飲んだ。  そして、玲の精は拓斗の喉へと吸い取られていく。  唇でしゃぶられ、舌で舐め清められて、玲はようやくベッドの上にくずおれた。 「んぅう……うぁ……はぁ、はぁ……」  肩で息をする玲に、拓斗が添い寝をして髪を撫でてくれる。  優しい仕草にすっかり油断し、うっとりと呼吸を整えていると、耳元でとんでもないことを囁いてきた。 「で? 体位は?」 「ヤだッ!」  真っ赤になって、顔をシーツに埋めてしまう玲だ。  そんな彼の体を、秋也が淡々と弄る。  たっぷりとローションを後膣に塗りこみ、節張った長い指がいじめにかかる。  始めは浅く、そしてゆっくりと深く、体内に入っていく。 「はぁ、はぁ、あぁッ」  敏感な部分を押さえられる度に、玲は跳ねた。 「んあッ! ああッ!」 (あぁ、気持ちいい!)  すごくすごく気持ちいい、と昂ぶってきたところで、秋也の動きがぴたりと止んだ。 「あれ? 秋也……」  どうしてやめるの? と言いたい所だ。  しかし、秋也もまた、とんでもないことを言ってきた。 「だから、体位は?」 「ヤだ、ってばぁあ!」  言わなければ、これでお終いにする、という意地悪な拓斗と秋也に、玲は細い声を出した。 「後ろから……だった……」 「そっか、後ろからね」  そう言いながら、拓斗は玲を仰向けに寝かせて両脚を掴んだ。 「拓斗!?」 「同じじゃ、つまんねえだろ」  玲の悦がる顔も見たいからね、と拓斗は舌を出している。 「あぁ、もうダメだぁ……」 「ダメじゃないだろ。イイって言わせてやるよ」  玲は両手で顔を覆って、拓斗を待った。  ゆっくりと拓斗のものが、玲の体内に入り込んできた。  くっ、と途中で止め、その後またゆっくりと引き抜く。  そして、また挿れる。  繰り返しながら、玲の体の、心の準備が整うまでやんわりと愛撫する。  それがいつもの拓斗の行為だった。  馴染んだ体。  でも、絶対に無理はさせない優しさが、今日の玲にはまた一段と嬉しかった。  次第に、顔を覆っていた手が離れる。  うっとりと潤んだ瞳が、拓斗を映す。  その手をとって、秋也がそっと口づけた。 「気持ちいいか?」 「ぅん……」  秋也と、キスをした。  拓斗に揺さぶられながら、秋也と深く口づけあった。  しだいに荒くなっていく、玲の喘ぎ。 「キスはここまでだ」 「秋也……」 「口を塞いでいたら、苦しいだろう?」  秋也らしい、気遣いだ。  しかし、こんなことも考えていた。 (それに、乱れる表情を味わいたいからな)  秋也と拓斗は、目を合わせてうなずいた。  エロい気持ちは、たっぷりある。  だが玲を大切に想う気持ちは、その何倍もあった。 「奥までいくぞ。いいな?」 「あ! あぁあ!」  ぐいぃッ、と最奥まで突かれた。  その動きも、速く激しくなっていく。  奥まで来ると思わせて、内壁の敏感な部分に先端を擦り付けてくる。  玲は上半身をよじって、快感を逸らせようともがいた。  だがしかし。 「駄目だ」 「秋也!?」  秋也が玲の両肩を掴んで、しっかりとベッドへ押し付けた。 「ヤだ。秋也、離してよッ!」  これでは、逃げられない。  押し寄せる悦楽を逸らさず、全て受け止めるしかない。 「ああッ! あッ! あッ! あぁああ!」  背を大きく反らせて、玲はまた吐き出してしまった。  それでも、拓斗は動くことをやめない。  さらに秋也が、胸の粒を弄りはじめた。 「ふぁッ! あ、あ、やぁ。秋也、そんなッ!」  左利きの玲は、左の乳首の方が弱い。  秋也は左を舌でくるくると舐めまわした後、唇で挟んだ。  細かく速く甘噛みし、時折強く吸う。 「あぁッ! ダメ! ダメぇえッ!」  また、達してしまった。  拓斗が腰をやるたびに、ぐちゃぐちゃになってしまった下肢から水音が響く。 「ノリノリだな! ヤツには、何回イカされたんだよ!?」  拓斗がニヤけた声をかけてくる。  責め立てられ、喘がされながら玲は悲鳴をあげた。 「イッてない。一度も、出させて、もらえなかッ、あぁあ!」 「最低なヤツだな、ちくしょう!」  さらに奥へ奥へと拓斗が穿たれてくる。  乳首を口で愛撫しながら、秋也は手を玲のペニスへと伸ばして擦り始めた。 「やああぁ! 秋也、やめて! もう許して!」 「何度でも、いかせてやる」 「んあッ! あっ、あッ、あぁあ!」  下肢が、また勃ちあがってくるのが解かる。  もう充分。もう満足。  でも、欲しい。まだやりたい。  ずっとずっと、こうしていたい!  心の叫びは、声に出ていただろうか。  それも解らないほど、玲は熱くなっていた。      シーツをかきむしり、泳いだ玲の手が秋也の下肢に当たった。 (秋也、硬くなってる……!)  必死で手を伸ばして秋也のものを掴み出すと、玲は擦り始めた。  手を動かしていると、狂おしいほどの悦楽が少しは逸れる。  だが、次第にそれもできなくなってしまった。 「はぁ、はぁ、ああっ! ああぁあ!」  拓斗の熱い精が、ようやく玲の中へと注がれた。  同時に玲も吐き出し、秋也もまた玲の白い肌へと精を飛ばした。 「あぁ……はぁ、はぁ、うぅ……ッ」  激しく喘ぎ、身を震わせる玲だ。  そんな彼を挟んで拓斗と秋也は横たわり、その体を優しく撫でた。 「悦かったか?」 「うん」 「上書きできたか?」 「完了」  これは、本心。  嘘ではない、本当の気持ち。  玲は二人の手を取って、頬を擦り付けた。  幸せだ、と思った。  これが、本当のセックス。  これからも長い付き合いになるのだ。 (いつまでも、お互い幸せでいたいな……)  そう考えながら、うとうとと眠りに落ちた。  玲は、ふと目を覚ました。  隣に寝ている拓斗と秋也を、探る。 (これが、好きなんだよね)  激しいセックスの後の、安らぎ。  愛しい人と抱き合って眠る甘いひとときが、玲は好きだった。  だがしかし。 「いない!?」  隣に寝ているはずの彼らが、いない。  がばと跳ね起きて、きょろきょろしてみても、どこにもいない。 「もしや。まさか……?」  ドレッサーに目をやると、何かが置かれてあった。  それは、リボンのかけられた、二つのプレゼントだった。 「良かったぁ」  玲は、ほっと息をついた。  たとえ悪ふざけでも、金が置かれていたら悲しくなっていたところだ。  そんな玲のデリケートな部分は、ちゃんと理解してくれている、友達以上・恋人未満の幼馴染たち。 「素敵な誕生日だったな」  二人で、あんなにも僕を愛してくれたのだ。 「あの男のことも、忘れられそうだよ」  重だるい体を起して、玲はドアへと歩いた。  心地のいい疲労感だ。  そして、ドアを開けた。    ドアを開けた途端、玲は驚いた。  ぱあん! とクラッカーの明るい音が弾けたのだ。 「え!? あ、何? 何これ!?」  上から、紙吹雪やカラーテープが降ってくる。 「玲、誕生日おめでとう!」 「おめでとう、玲」  もう帰ったと思っていた拓斗と秋也が、クラッカーを手に笑っている。 「ちゃんと、パーティーの準備はしてあるからな」 「その前に、シャワーを浴びて服を着ろ」 「拓斗……秋也……!」  玲の胸は、熱くなった。  視界が、涙でにじんでくる。 「ありがとう。二人とも……ホントにありがとう……」  涙をこぼす玲の頭を軽く叩いて、拓斗は笑った。 「今は泣くな。今晩、また泣かせてやっから」 「え? ……ええええっ!?」  玲は自分の体に両腕をまわし、抱きしめた。 「ヤだ。だってさっき、あんなにいっぱい!」 「あれは、浮気のお仕置きと上書きだ」  やたら冷静な秋也の声が響く。  そして玲の顔に張り付いた紙吹雪を一枚つまんで、ふうと吹き飛ばした。 「今夜のお楽しみは、誕生日のお祝いだ」 「もう、このスケベ野郎ども!」  玲は、両手で顔を覆った。  でも、嫌ではない自分が確かにいる。 「シャワー、浴びてくるね!」  僕の誕生日は、今始まったばかりなんだ。  軽やかな足取りで、玲はバスルームへ向かった。

ともだちにシェアしよう!