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第8話
「何だよ辛気臭い顔だなあ」
尚が部室を出て行った後も、俺はその場を動けずにいた。
俺の気持ちに答えられないとは言われたけれど、俺が嫌いと言われた訳じゃない。
それより、むしろ俺に気があるんじゃねーかとさえ思えた。
でも・・・俺が嫌いになる俺の知らない尚の事ってなんだろう?
「なあ大輝」
学食へ行く前に、置きっぱなしにしている教科書を取りに来た大輝の背中に話しかける。
「ん~?」
ロッカーの中を探っている大輝が背中を向けたまま気のない返事を返した。
「尚の事どれくらい知ってる?」
出身地は前に教えてもらった事がある。
誕生日も知ってる。
父親は中学生の頃に亡くなっていて、母一人子一人だとも聞いている。
でも・・・最近の事、特に大学以外での尚の事を知らない事に気付いた。
住んでいる場所は、最寄り駅までなら分かる。
バイトは・・・昨夜知った。
でも今までは全く知らなかったし、それって俺だけなのか知りたかった。
「何急に?尚がなんだって」
顔だけを向けてそう言うと、大輝はロッカーの扉を閉めた。
「出身地と~、誕生日。それから甘い物に目が無くて朝食はスイーツ」
俺の隣に座った大輝は、自分の知っている尚を指折り数えながら答え始めた。
「それから~・・・格闘技を昔やってて、腕相撲めっちゃ強いのと」
えっ、大輝は尚が格闘技やってた事知ってたんだ。
「あと何だろ?アイツあんまり自分の事話さないんだよな・・・。アイツの部屋だけは行った事ないし」
俺より大輝の方が尚を知っていた事に少なからずショックを受けた。
「尚・・・バイトとかしてんのかな?」
「さあ?そう言えば聴いた事ないなあ。てかさっきから何だよ、尚、尚、尚って。尚に告って振られでもしたかあ~」
大輝は茶化すように俺の顔を覗き込み、ニヤニヤ笑った。
笑えないんだけど。
無言でいる俺に、「えっマジ」と大輝もニヤニヤを引っ込める。
「振られた訳じゃないけど・・・すっきりしない答えなんだよ」
完璧に大輝から顔を背けた。それ以上は言えないし。
そんな俺の気持ちを汲み取り、大輝はそれ以上何も言わなかった。
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