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⑤運命の人との再会〜Sideルーファス〜

 その日タヴァサの町を訪れた時から、なんとなく自分の体がおかしいことには気付いていた。  そんな中突如漂ってきた、甘い芳香。それにやられ、無様にも地べたにうずくまったその瞬間響いてきた、天使のように可憐な声。 「あなたはたしか白騎士団の団長の、ルーファス様……ですよね? なんだか具合が悪そうですが、大丈夫ですか?」  その言葉に反応し、無理やり顔を上げる。  するとそこには俺が想像した通り、彼がいた。  今からおよそ、8年前。  俺は路地裏で、ひとりの少年が騎士に襲われかけている場に遭遇した。  ふんわりと漂う、甘い芳香。それは今日と比べるとまだずっと弱いものだったけれど、それでもすぐに分かった。  ……この子は俺の、運命の番だと。  そして、次の瞬間。乱暴に肩をつかまれて震えながら涙を流す彼を見て、騎士にたいして激しい殺意が湧いた。  それでもなんとか命を奪うことなく踏みとどまることができたのは、ひとえに彼が殺さないでと、必死に懇願してくれたからに他ならない。  彼はまだ幼かったから、おそらく俺が運命の番なのだとは気付いていない様子だった。  それに見知らぬ男に襲われ、恐ろしい目に遭ったばかりの彼のことを、これ以上混乱させたくはなかった。  だから俺は名乗ることも、自分が彼の運命の番なのだと伝えることもないまま別れたのだ。  そしてその翌日、すぐに彼と出逢ったあの路地裏へと向かった。  だけど彼はその辺りに住んでいたわけではなく、たまたまあの町を訪れただけだったのだと分かった。  それから俺は必死に彼のことを探し続けたけれど、結局なんの痕跡も得られないまま、あっという間に8年もの時が流れていた。  それまで俺は普通に親の勧める誰かと結婚し、当たり前みたいに子をなし、生きていくのだろうと思っていた。  しかし運命の番の存在を知ってしまったら、他の人間との結婚なんてとてもじゃないが考えられなくなった。  やっとまた、逢えた。……なのになんでよりにもよって、こんな無様な姿を見られなれければならないのか。  情けないやら、口惜しいやら。それでも再会を喜ぶ気持ちを、抑えることができない。  ずっと追い求めていた、運命の番。大人になった彼もきっと、同じ気持ちに違いない。  そう思ったのに。……彼はまったく予想外の言葉を、繰り出したのだ。 「ルーファス様……。こればっかりは、仕方ありませんよ。おそらくあなたは、媚薬を盛られたんだと思います。なのでもしよかったら、落ち着くまでうちで休んでいってください。すぐそこなんで」 *** 「おーい、ルーファス? 生きてるか? 珍しいな、お前がそんなに酒に溺れてるのは」  ノアの家をあとにして、そのまま直行した騎士団御用達の居酒屋で。  ひとり飲んだくれて放心状態だったところをバンバンと乱暴に肩を叩かれ、我に返った。 「生きてる。……けどもういっそこのまま、死んでしまいたい」   「は……? おいおい、なにを言ってるんだよ!? 今日のお前、本当に様子がおかしいぞ。……大丈夫か?」  さっきまでとは打って変わり、本気で心配そうに問う白騎士団の副団長であり俺の悪友のアンドリュー。  失礼な言われようではあるものの、悪気はないから余計にたちが悪い。  数少ない気心のしれた友人である彼の前では、自然と弱音がこぼれ出た。 「大丈夫……ではないな。天国と地獄を、一夜のうちに味わった気分だ」 「ほほぉ。その話、詳しく聞こうか?」  アンドリューは俺の隣に腰を下ろし、ワクワクした表情で笑った。  ……俺は相談する相手を、間違えてしまったかもしれない。  それでもこんな気持ちをひとり抱えたままにするのには、耐えられそうになかった。 「……運命の番と、再会した」 「え……。えぇ!? まじか! いつ? どこで!?」 「昨日の花祭りの、警護が終わってから。タヴァサの町で、偶然」  俺の言葉を聞き、唖然とするアンドリュー。  だけどそれも、当然のことといえよう。  なぜなら生きている間に運命の番と出逢える可能性なんて、ほぼゼロに等しいと言われているのだ。  なのにその番に、一度ではなく二度も出逢うことになるというのは、もはや奇跡といっても過言ではないだろう。 「それで? 天国と地獄を、同時に味わったって。……まさか相手は、既婚者だったのか?」  静かに左右に首を振り、残っていたエールを一気に飲み干した。 「じゃあいったい、なにが問題だったんだよ?」  心底不思議そうに、アンドリューが聞いた。  だから俺は、半ばヤケクソで答えた。 「相手は俺が運命の番だと、気付いてなかった。……しかもあろうことか他に好きな人がいるって言って、ふられたんだよ!」 「ふられた? お前が……? 嘘だろ、まじか……。まじか――――――!!」  まじかを連発する彼に対して、理不尽にも苛立ちが増していく。 「なんていうか……、ご愁傷さまでした」  俺以上に動揺しているのかもしれないが、勝手にご愁傷さまにされてたまるか。  たしかにふられはしたが、当然のことながら俺に諦めるという選択肢はない。  だってノアのあの、口ぶりからして。……おそらく彼の想いは、まだ成就していないはずだから。  8年もの間追い求めてきた、運命の番。なのにどこの馬の骨とも分からない人間にかっさらわれては、たまったもんじゃない。 「絶対に、諦めないけどな。ノアは俺の、運命の番なんだから」  クククと笑いながら呟くと、アンドリューはドン引きした様子で言った。 「えぇ……。諦めないんだ……」 「当たり前だろ? 好きな人のことなんか考える余裕がなくなるくらい、全力で口説き倒す!」 「わぁ……。なんか相手の子のことが、かわいそうになってきたわ。なんとかお前の魔手から、全力で逃げてほしい」 「アハハ。絶対に、逃さないけどね」  笑って告げると、さっきまではおふざけムードだったアンドリューは蒼白の面持ちになり、無言でゴクリと唾を飲み込んだ。

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