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⑦重なっていく嘘

 ……面倒なことになってしまった。咄嗟だったこともあり、まさかルーファス様に、僕の好きな人(・・・・・・)を紹介することになるだなんて。  とはいえ僕の好きな人なんて、当然のことながらルーファス様ただひとりだけ。他に好きな人なんて、いるはずもない。  だけど今さら会わせられないと伝えたら、きっと僕の嘘が露呈してしまうに違いない。  彼にあんなふうに思いを寄せてもらえるのは、うれしい。だけど同時に、どうしようもなく苦しい。  だって彼のいう好きという感情は、きっと僕がはじめての相手だったから。だから雛鳥が親鳥にくっついて回るみたいに、ただ盲目的に僕に執着しているだけなのだから。  それが分かった上で、彼の気持ちを受け入れることはやっぱり出来ない。  そんな真似をして、彼にもし本当に好きな人が出来たら。……きっと僕の心は、壊れてしまうと思うから。  身分の差だの、彼のためだのというのは、ただのきれいごとだ。本当はただ本気でさらに彼を好きになって、そして捨てられるのが怖いだけ。  今ならきっとまだ間に合う。彼と過ごしたあの夜のことをいい思い出に変えて、僕は生きていくことができる。  でもあの調子だと、よほど素敵な相手を紹介しないと、彼は引き下がってくれないに違いない。  だけどこの広いアースクレア帝国中を探し回ったとしても、彼が納得してくれるような相手、見つかるはずもない。  しかも僕の交友関係は、この狭いタヴァサの町の中だけしかないのだ。……いったい、どうしたら。  途方に暮れながら洗濯物を取り込んでいたら、声をかけられた。 「よぉ、ノア。どうした? いつも以上に、しけた面して」  振り返るまでもない。こんな失礼なことをいう声の主は、僕の幼なじみのクリスに違いない。 「いつも以上に、しけた面って……。本当に君は、失礼なやつだな」  ちょっと呆れながら答えると、彼はおかしそうにククッと笑った。 「すまんな、根が正直なもので。それで、どうした? なんか、悩み事か?」  なんだかんだ言いながらも、きっとクリスなりに僕のことを心配してくれているのだろう。  それが分かっていたからそれ以上は突っかかるのをやめ、素直に答えた。 「悩み事……。うん、まぁそうだね。ちょっと、困ったことがあって」  目の前の、クリスの顔を見上げる。  身長はルーファス様に比べたら多少低いものの、そこら辺の連中に比べたらかなり高い方だと思う。  顔も悪くないどころか、若い女の子たちがいつも彼の話題でキャアキャアと盛り上がっているくらいだから、おそらく悪くない。  僕の理想とする美男子の基準がすべてルーファス様になってしまっているのと、小さい頃から一緒にいたせいで、そんなふうに考えたことはこれまで一度もなかったけれど。 「なんだよ? なんか俺の顔に、ついてるか?」  あまりにもじっと、僕が彼のことを見つめていたせいだろう。不思議そうに聞かれたから、思ったまま告げた。 「あんまりよく考えたことなかったんだけど、君ってイケメンなんだよな?」  その問いに、本気で困惑した様子で彼は答えた。 「はぁ!? なんだよ、それ。お前に褒められると、なんかぞわぞわするんだが……」  ふざけて身震いをするクリスの姿を見て、思わずプッと吹き出した。 「あはは、たしかにね。けどおかげで、いい案が浮かんだ」  にやりと笑って答えると、彼は怪訝そうに眉根を寄せた。 *** 「えぇ!? ルーファス様に、プロポーズされた!? あの、白騎士団の団長の!?」  家に招き入れ、これまでの経緯をざっくりと話して聞かせたところ、クリスは大きな声をあげた。  とはいえ僕がルーファス様の童貞を奪ってしまったことはさすがに言えなかったから、体調が悪そうにしていたから看病をしてあげたと、内容を大幅に変えてではあるけれど。 「声が大きいよ、クリス! 町の女の子たちに万が一にでも聞かれたら面倒なことになりそうだから、なるべく小声で頼む」  あわてて彼の口元を手のひらで覆い、早口で告げた。  こくこくと、大きく何度もうなずくクリス。  それを確認できたから、彼の口から手を離した。 「しかしそれの、いったい何が問題なんだ? 国一番の、嫁ぎ先じゃないか!」  呆れたように笑って言われたが、そんな単純な話ではないのだ。 「僕がもし貴族のご令嬢なら、そりゃあ喜んでこの縁談に飛びついたさ! だけど僕は、平民だ。特別器量がいいわけでも、なにかの才に長けているわけでもない。魔力持ちでもないしな。そんな僕が嫁いだところで、うまくいくはずがないだろう?」  改めてその事実を言葉にしたら、途端にちょっと悲しくなってきてしまった。  なのでそれをごまかすために、わざと明るい声色で続けた。 「それでもし、離婚なんてことになってみろ。ただでさえ貰い手の少ない男のオメガの末路なんて、君も言わなくてもよく分かるだろう?」 「うーん……。普通であれば、たしかにろくなもんじゃないだろうな。だけど相手はあの、ルーファス様だぞ? ……慰謝料とか、がっぽり貰えるんじゃね?」   「あさましいことを、言わないでくれ! とにかく僕は彼に、あきらめてもらわないと困るんだ。だから、協力してほしい」  すると彼は、ちょっと困惑した様子で答えた。 「俺に何をさせようとしているのかは知らんが、本当に後悔しないんだろうな? だって、ずっと好きだったんだろう? 彼のことが」  真剣な表情で問われ、一瞬言葉に詰まってしまった。だけど、無理やり笑顔を浮かべた。 「いったいいつの話を、しているのさ? 僕だって、もう子どもじゃないんだ。いつまでもそんな思い出を、引きずっているはずがないだろう?」  本当はいまだに未練たらたらで、まだほんの少しだけ迷いはある。  それでもルーファス様の求婚を、受け入れるわけにはいかないのだ。  彼の、ためにも。……そして、僕自身のためにも。 「はぁ……。ほんと、頑固なやつめ。だけどお前の覚悟は、よ――――く分かったよ。それで俺は、何をしたらいい?」

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