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⑨地獄の三角関係?

「……はじめまして。ノア、彼のことを俺に紹介してもらっても?」  にっこりと微笑んで促されたが、目がまったく笑っていない!  それに震え上がりそうになりながらも、僕はクリスに恋する馬鹿男の芝居を続けた。 「彼は、クリス。僕の大切な、幼なじみです。クリス、君はこの方のことを知っているよね? 白騎士団の団長の、ルーファス様だよ」 「はじめまして、ルーファス様。クリスです」  先ほどまでのゲスで下品な笑顔とは打って変わって、無駄に爽やかな笑みで僕の言葉に続くクリス。  それから彼は本来の役目を思い出したのか、僕に向かい野菜の入ったカゴを差し出した。 「ほら、これ。お前の大嫌いな、人参も入ってるから。ちゃーんと残さず、食べるんだぞ?」  まるで子どもに言い聞かせるようにそう言うと、カゴを受け取った僕の頭をクリスは優しく撫でた。  なるほどな。……こういうところが、女の子たちにモテるゆえんなのだろう。  なんとも罪作りな男である。とはいえ僕は幼なじみで親友のこの男に対して、ときめいたりすることはやっぱり絶対にないなと改めて感じた。  それでも僕はわざと拗ねたような表情を作り、唇をとがらせて答えた。 「ありがとう、クリス。だけど、ひどいよ。……僕だってもう、立派な大人なのに」  後半はわざと媚びるような声色を再び作り、上目遣いでクリスの顔を見上げた。  一瞬だけヒクヒクと上がりかけた、クリスの口元。おそらく笑いそうになるのを、必死にこらえているのだろう。  そのことに少しだけ苛立ちながらも、それ以上に背後から感じるルーファス様の怒気が凄まじくてそれどころではなくなった。 「へぇ……。随分ふたりは、仲がいいんだな。妬けてしまうよ」  おそるおそる、後ろを振り返る。優しい声色だし、ちゃんと微笑んでくれているはずなのに、明らかに苛立っているのが伝わってくるその表情を前に、僕とクリスは思わずゴクリと息を呑んだ。  そんな中先に動いたのは、クリスだった。  今度は怯むことなくまっすぐにルーファス様のことを見つめたまま、彼は言った。 「そう見えますか? まぁたしかに、仲は良いでしょうね。なんせ俺たちは、生まれた時からずっと一緒なので」  僕の肩を抱き、華麗にマウントを取りにかかるクリス。  でも言っていることはすべて事実だったから、僕も迷うことなくそれに続くことができた。 「うん、そうだねクリス。僕は君のことならなんでも知っているし、君も僕のことならなんでも知っているもんね」  笑顔で見つめ合う、僕とクリス。だけどよく見ると、彼の腕には鳥肌が立っているのが分かった。  それにほんの少しの申し訳のなさを感じながらも、こうして僕の嘘に付き合ってくれる彼の優しさには本当に、感謝しかない。  心の中で、そっと手を合わせた。 「……」  無言のまま、ただ僕らを見つめるルーファス様。  顔は相変わらず笑顔のままだけれど、まるで彫刻のように美しいその表情からは、何を考えているのかまったくうかがい知ることができない。  ……本当に、怖過ぎる。 「あのぉ……。ルーファス様……?」  沈黙に耐えられなくなり、思わず声をかけてしまった。 「あぁ、すまないノア。ふたりが重ねてきた、時間。それはたしかに俺には、どう望んでも手に入れられないものだろうね」  今度はキラキラとまばゆい謎の光を放ちながら、彼は答えた。  思わず悲鳴を上げそうなほど恐ろしかったけれど、これはあと一押しで引き下がってもらえるかもしれない。  そう期待したのに。……ルーファス様は満面の笑みを浮かべ、僕の期待を木っ端微塵に打ち砕いた。 「だけど、それが何? 俺はノアのことを一生大切にするつもりだし、クリス君に負けるつもりはないよ」  今度はさっきとは違う意味で、悲鳴を上げそうになった。  ……本当にこの人は、あっさりなんてことを言うのだ。  僕とはじめて会った時のことなんて、もう忘れてしまっているくせに。  ……事故のように一夜を共にしたというだけで、僕のことなんて何も知らないくせに。    そして先ほどの言葉を聞き、ルーファス様の真剣な想いを理解したのだろう。  クリスはこれでもまだ続けるのかとでもいうような視線を、こっそり僕に送ってきた。  たしかにルーファス様の僕への想いは、真剣なものなのだと思う。……今のところは。  だけどどうしても疑念が、頭をもたげてしまうのだ。  ルーファス様は僕が手に入らないから、躍起になっているだけなんじゃないのか?  本当に僕が彼のプロポーズを受け入れた途端、興味が失せてしまうのでは? と。 「……ルーファス様。あまり軽々しくそのような発言は、しないほうがいいと思いますよ」  無責任な愛の告白に苛立ち、自分が思った以上に冷たい声が出てしまった。 「……ノア。軽々しく言ったつもりなんて、少しもないよ。俺は、真剣だ。そこだけは、疑ってほしくない。だって君は、俺の……」 「とにかく! 僕はあなたのことなんて、なんとも思っていないんです。だからもう、あきらめてください」  わざと突き放すことで、彼から逃れようとした。  するとルーファス様は大きなため息を吐き、それから寂しそうに笑って告げた。 「……ごめん、それは無理だよ。また来るね、ノア」  僕の前髪を、軽くかきあげて。優しく口付けをひとつ落として、ルーファス様は帰っていった。  残された静かな部屋で、クリスは諭すように言った。 「本当に、これでいいのかよ? こんなことを続けたら、まじで愛想を尽かされても知らねぇぞ? ……お前だって今でもあの人のことを、好きなくせに」 「余計なお世話だよ。……好きっていう気持ちだけじゃ、どうにもならないこともあるんだ」 「本当に、頑固なんだから。そんで、どうすんの? あの調子だとあの人、ノアのことを諦めるつもりは本当になさそうだったけど」  呆れたように言われたが、僕だって今さら引くことなんてできない。 「それに関しては、僕に考えがある。……クリス、また協力してくれる?」

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