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⑬迷いを断ち切って

 さかのぼること、およそ1日。  僕は嫌がるクリスに頼み込み、無理をいってうなじに歯型をつけてもらった。  しかもなんだかんだいいながらも優しい彼はつい力加減をしてしまうものだから、何度も挑戦する羽目に。  しかしその結果、いい感じの噛み痕を僕の体に残してもらうことに成功した。 『……本当に俺は、どうなっても知らねぇからな』  相当嫌だったのか涙目のまま睨みつけて言われたが、これは僕が望んだことだ。  後悔なんて、あるはずもない。  この時はそう思っていたはずなのに、この歯型を見せた瞬間、ルーファス様の態度が豹変した。  そして、その結果。嫌がる僕を彼は無理やりベッドの上に組み敷き、犯した。  とはいえ途中からはほぼ同意の上の行為だったから、それに関して僕もあまり責めることなどできないわけだが。……だけど。 「……信じられない! 僕のことを、運命の番だなんて。そんなおとぎ話みたいな夢物語を僕が信じると本気で思ったんだとしたら、本当に馬鹿にし過ぎだろう!」  ルーファス様を、追い返したあとで。  愚痴を聞いてもらうため、クリスの自宅を訪れた。 「うーん……。それって本当に、口からでまかせを言ったのかね? ルーファス様は、そういうタイプの人じゃないイメージだけど」  絶対に共感してもらえると思ったのに、まさかの否定の言葉を口にされ、僕の怒りは一気に頂点へ。 「なんだよ、それ!? じゃあ君は、僕が嘘を言ってるとでも言うのか!」  思わずカッとなり、柄にもなく声を荒らげた。  するとクリスは呆れたように肩をすくめ、やれやれとでもいうように諭すような口調で告げた。 「まぁ、落ち着けって。誰もノアが嘘をついただなんて、言ってねぇだろう? でも、そうだなぁ……。たしかにルーファス様はめちゃくちゃいい男だし、モテるんだとは思う」  ルーファス様のことを、いきなり褒めだしたクリス。  それがなんとなく不快だったから、自然と唇が歪に歪むのを感じた。 「だけどこれまで浮いた噂のひとつも聞いたことがないし、恋愛になんか微塵も興味がない朴念仁だって話だ。その彼がそんな嘘をついてまで、ノアを抱いたことを正当化しようとしたりするかね?」  それに関しては、僕も疑問に思っていた。  ……なぜこんな平凡を絵に描いたような僕に、そこまでこだわり続けるのかと。  もし本当に僕が彼の運命の番なのだとしたら、僕は喜んで彼の愛を受け入れることができるだろう。  でも、そうじゃない。  ……だってもし僕らが運命の番だったら、オメガの僕にもきっとそれが、分かるはずだから。 「はぁ……。それにしてもまさかあのルーファス様がそんなふうに我を忘れて、お前を襲うだなんてな。8年前は逆に、あの人がお前を守ってくれたのに」  言ってから、クリスはしまったとでもいうように視線を僕からそらした。  見知らぬ騎士に犯されそうになったあの時は本当に恐ろしかったし、今思い出しても不快でしかない。  だけどルーファス様に助けてもらったことで、今では良い思い出になっていた。……なのに。  だから僕は、クスクスと笑いながらクリスの言葉に答えた。 「8年も、経ったんだ。人は、変わるよ。……だけど再会さえしなければあのまま綺麗な思い出として、一生とっておくことが出来たはずなのに」  悲しい気持ちで呟くと、クリスはガシガシと頭をかきながら言った。 「うーん……。けどやっぱ、色々とおかしくないか? もう一度ちゃんと、ルーファス様と話し合ってみたほうが……」  だけど彼が言い終わるより早く、僕は否定の言葉を口にした。 「……もういいんだよ、クリス。色々、ありがとう。さすがにあれだけ言ったら、ルーファス様ももう僕に会いに来たりしないと思うしね」 「ノア……」  まだクリスはなにか言いたげな顔をしていたけれど、そこで彼の母親が帰宅したため、話は強制終了となった。 ***  それにしても。……なんでルーファス様は、あんなにも怒ったのだろう?  その理由が、いくら考えても分からない。  そして彼が僕にたいして、あんなにも強く執着する理由も。  だって僕は彼に見合うような身分も、彼に釣り合うような容姿も持ち合わせていないのに。  誰からも愛されるルーファス様は、もしかしてこんな地味で平凡なオメガの僕に相手にされないせいで、納得のいかないこの状況を正当化するために運命の番だの、愛しているだのといった妄言を続けているのだろうか……。  それを思うと、少しだけ納得がいく気がした。  とはいえもしそうだったのだとしても、あんなにもひどいことを言ったのだ。  誇り高く、プライドも高い騎士様は、きっともう僕になんて愛想を尽かしてくれたはず。  ……そうじゃないと、困る。

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