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⑮ヒート
「ノア……?」
心配そうに、僕の名を呼ぶルーファス様。
だけどすぐに異変に気付き、彼はごくりと唾を飲んだ。
彼が、欲しい。
今すぐ彼に、逃げてほしい。
抱かれたい。
彼を、突き放さなきゃ。
様々な想いが、一瞬のうちに脳内を駆け巡る。
「ノア、まさか君……」
彼が僕に触れようとしたから、なけなしの理性をかき集めてその手を払った。
「逃げてください、ルーファス様。……お願いだから、早く」
泣きながら、必死に訴える。だけど彼は熱のこもった視線を僕に向け、非難するように告げた。
「俺が、いなくなったら。……あの男を想いながら、自分で自分を慰めるつもり?」
その言葉の意味が分からず、ただ彼の顔を見上げた。
そしてその無言の時間を、肯定と受け止めたのだろう。
ルーファス様はほの暗い笑みを浮かべ、冷たい声色で言った。
「それとも彼を誘って、今度は本物の番となるために歯型をつけてもらうつもりなのか? ……でもそんなの、絶対に許さないから」
ようやく彼の言おうとする言葉の意味を理解した時には、もう完全に手遅れで。
僕は熱に浮かされたような状態のまま、彼に向かい腕を伸ばした。
「ルーファス様、ごめんなさい。僕もう、我慢出来ない。……本当に、ごめんなさい」
だけど彼はさっきまでとは打って変わって恍惚とした笑みを浮かべ、答えてくれた。
「いいんだよ、ノア。すぐに俺が、楽にしてあげる」
優しく横抱きにして、ベッドにそっとおろされた。
自らの意思で彼に口付けをねだり、彼の精を乞う。
あさましいオメガの性に吐き気がしそうなのに、それでも彼のことが欲しくて欲しくてたまらなかった。
お互いをむさぼり合うような、激しいキス。
たったそれだけの行為がますます僕の体のほてりを高め、嫌でも思い知らされた。
……自分はオメガで、彼はアルファなのだと。
一度目は、事故のようなものだった。
二度目は彼に、半ば無理やり奪われた。
だけど三度目は僕が自分から彼を求め、すがった。
おそらくこれが、最後になるだろう。
それが分かっていたから理性を捨て、大好きな彼の与えてくれる熱に溺れようと心に決めた。
「ルーファス様……、もっと……。体が、熱いんです。お願い、助けて……」
はしたなく彼にまたがり、オメガの本能のままルーファス様にねだる。
すると彼は満足そうに微笑み、僕の頬に優しく触れた。
「いい子だね、ノア。いいよ、いっぱいあげる。愛してるよ」
まるでその言葉そのものが甘い媚薬のように僕を蕩かし、わずかに残っていた理性すらも奪っていく。
『僕も愛しています』という言葉を何度も心の中で叫びながら、与えられる快楽に溺れた。
促されるがまま四つん這いになり、彼の熱い肉の楔で貫かれると、悦びで体が震えた。
だけど彼の唇が僕のうなじに触れた瞬間、最後の理性を振り絞って必死に訴えた。
「ルーファス様、駄目です! それだけは、許してください! お願いですから、どうか……」
するとルーファス様は小さく息を吐き、不満そうではあったけれどその願いを聞き届けてくれた。
「分ったよ、ノア。だけど、これだけは約束して。次のヒートが来ても、あの男に歯型をつけさせないと。君の番になるのは、彼じゃない。俺だからね?」
だから僕は必死にこくこくと何度もうなずき、その言葉を受け入れた。
繰り返される、激しい抽挿。歓喜に震える僕の中で、彼が果てるのを感じた。
朦朧とする意識の中荒々しくうなじを吸われ、残された行為の痕。
でもそれはまったく不快ではなく、体だけじゃなく心まで満たされていくのを感じた。
***
何度も交わり、彼に精を与えられて。明け方近くになりようやくヒートの熱が引くのとほぼ時を同じくして、僕はそのまま深い眠りについてしまったらしい。
まどろみながら目を開くとそこには、小さなベッドの上で僕を抱きしめるようにして眠るルーファス様の姿。
朝の光を浴びて、キラキラと輝く黄金色の美しい髪。
それに手を伸ばし、起こさない程度に軽く触れた。
この優しく穏やかな時間が、永遠に続けばいいのに。
だけどその願いが叶わないことを、僕は知っている。
愛する彼のために、ちゃんと身を引かなければ……。
ふぅと小さく、息を吐く。
「ノア……」
彼が寝言で、僕の名を呼ぶ。
夢の中でまで僕のことを思ってくれているのだと思うと、自然と笑みがこぼれた。
「愛しています、ルーファス様。……なのにあなたの愛を受け入れられなくて、ごめんなさい」
彼が起きている間は口にすることができなかった、僕の想い。
頬を伝っていく涙をぬぐい、彼の額にそっと口付けた。
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