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㉓希望の光〜Sideルーファス〜

「その言葉が聞きたかっただって……?」  クリス君の意図がまったく分からず、彼の顔を凝視した。  すると彼はさっきまでの傲慢な態度が嘘みたいな、真剣な表情で告げた。 「ルーファス様、失礼な態度を取り申し訳ございませんでした。ですがあなたが、どれくらいノアのことを愛しているのか。俺は、それが知りたかったんです」  突如変わったその態度に、戸惑いを禁じ得ない。  だけどきっとなにか考えがあるのだろうということは伝わってきたから、彼の言葉に素直に耳を傾けることにした。 「それはもちろん、ノアのためと考えていいんだろうな?」  俺の問いに、静かにうなずくクリス君。 「ノアが5年前、姿を消した理由。それに関してはご存じでしょうか?」 「あぁ。……いくら知らなかったとはいえ、あの時のことは、本当にノアに対して申し訳ないことをしたと思っているよ」  それを聞き、安堵したようにクリス君は嘆息した。  それから彼は少し迷うような素振りを見せたものの、やはり俺に真実を伝えることを選んでくれたようだ。 「実はその話には、裏があって。あの馬鹿はルーファス様が諦めてくれることを期待して、わざと悪役を演じて身を引くことにしたんです。……でもほら、あいつは根が素直で純粋じゃないですか? もらった手切れ金は、いまだに銅貨一枚だって使っちゃいない。今回の帰省のタイミングで、公爵夫人にお返しするんだって言ってました」  やはり俺の考えていた通り、彼は金に目がくらんだわけではなかった。  どころか俺のためにわざとそんな真似をしたのだと知り、再び目頭が熱くなった。 「それと俺はあなたに、もうひとつ話さなければならないことがあります」  俺の未練を断ち切るために、ノアが身を引いた真相を語って聞かせようとしているのかと最初は思ったのだ。  だけど彼は、まったく予想だにしなかった真実を口にした。 「たしかに俺は昨日、結婚式を挙げました。ですがその相手は、ノアではありません」 「え……?」 「俺の結婚相手は、別にいます。今回のあいつの、帰省の理由。それは親友として、俺の結婚式に参列するためです」 「それは、本当か!?」  ガタンと席を立ち、クリス君の両肩をつかんだ。  すると彼は苦笑して、さらなる驚きの真実を告げた。 「はい、本当です。以前俺があいつに付けさせられた、例の歯型。あれのせいであなたは、まんまとノアに騙されてしまったんですよ」  その発言の意味が分からず、彼の言葉の続きを待つ。 「そもそもの話、俺とノアが番になることは絶対にありえないし、ましてや子を成すことも不可能です」  それから彼は、後ろ髪をかき上げた。 「これを見てもらうのが、一番手っ取り早いと思うので。……こんな見た目をしていますが、実は俺もオメガなんです」  彼のうなじにはっきりと残されていた、噛み痕。  それは彼の結婚相手がつけたものに、違いない。    あまりにも予想外なその告白に、思わず大きな声が出た。 「えぇ!?」 「アハハ、そりゃあ驚きますよね。こんなガタイのいい行き遅れのオメガを娶ってくれる稀少な相手に出会えて、俺は本当に運が良かったと思います」  少し照れくさそうに、でもとても幸せそうに笑うその表情に、嘘はないように思えた。 「でも、だとしたら。ノアが抱いていた、あの子は……」 「ええ、そうです。ルーファス様、あなたが想像されている通りですよ。あなたとノア、ふたりの子です」  まったく知らない間に、父親になっていたという衝撃の事実。  しかも相手は、俺の運命の番であるノアなのだ。    さっきまでは絶望に打ちひしがれていたはずなのに、一瞬のうちに喜びで胸がいっぱいになった。 「とはいえ、もう時間がありません。ノアは予定を早めて、今朝一番の乗り合い馬車で住んでいるスヴェン村に戻ると話していました。なので、急いで迎えに行ってやってください!」 「ありがとう、クリス君! 本当に、恩に着る!」 「どういたしまして。とはいえノアからは絶対に内緒にしておくようにと言われていたので、あいつに怒られる時は一緒にお願いしますね」  ベェと舌を出し、言われた。  だから俺はククッと笑い、答えた。 「もちろんだ、その時は喜んで一緒に怒られよう。そのためにも今度こそ彼を捕まえることができるよう、君も祈っていてくれ!」  財布から金を取り出し、テーブルの上にバンと勢いよく置く。  それから俺は、大きな声で叫んだ。 「これは店を騒がせた、お詫びだ。俺のおごりだから、皆好きなだけ飲んでくれ。釣りは、いらん!」  わぁと大きな歓声が上がるのを背中で聞きながら、俺は大急ぎで店を出た。  この居酒屋を訪れた時はまだ町は夜の闇に包まれていたはずなのに、いつの間にか明るい光が世界を照らしていた。 ***  はやる気持ちを抑え、馬でスヴェン村へと向かう道を行く。  しばらく走ると、1台の乗り合い馬車に追いついた。 「おい、そこの馬車! 止まれ! 止まってくれ!」    あわてて前面に回り、その動きを封じた。  すると馬車の御者が、驚いた様子で言った。 「えぇ!? 今度は何事だよ……。って、ルーファス様!?」  俺の姿を見て、ぎょっとした様子で目を見開く男。  でもそれには構うことなく、中をのぞいた。  ようやく愛する番であるノアを、手に入れることができる。  そう思ったのに。……ノアとメリルの姿は、どこにもなかった。 「この馬車に黒髪の青年と、幼い子どもは乗っていなかったか!?」  俺の問いに、御者の男が答えた。 「ええ、さっきまで乗っていましたよ。だけどお貴族様の家紋の入ったやたらと豪華な馬車が追いかけてきて、それで彼らはそこで降りてしまいました」

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