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㉗公爵邸にて

 僕はメリルとともにとりあえずこのまま一旦スヴェン村へと戻りたいとお願いしたのだが、ルーファス様にその申し出はあっさり拒否されてしまった。  そして公爵夫人にも、ようやく会えた孫との時間を大切にしたいと言われ、僕とメリルはふたりになだめすかされるようにしてそのままマクドゥガル公爵家へと馬車で連れて行かれることになってしまった。  タヴァサの町へは久しぶりの帰省だった上、親友クリスの結婚式もあったことから、自分たちが持つ服の中では一張羅を選んだつもりではある。  それでもこんな格好で公爵家の敷居をまたいでしまって本当によいものかと、気をもんでいたというのに。  ……ルーファス様は蕩けそうなほど甘やかな笑みを浮かべ、しれっと言った。 「大丈夫だよ、ノア。君もメリルも、何を着ていても最高に可愛いからね。俺が、保証する!」  しかしそれに対して、夫人は全否定した。 「何を言ってるの? ルーファス。あなた、何も分かっていないわね」  てっきり僕の味方をしてくれるものだとばかり思ったのだ。  なのに彼女は呆れ顔のまま、斜め上を行く発言を繰り出した。 「そこはあなたがただでさえ可愛いふたりを着飾らせるために、プレゼントを贈る流れでしょう?」 「たしかに、母上の言うとおりだ。屋敷に戻る前に、母上御用達の洋品店に寄りましょう!」 「お気遣いなく! このままの服装で、大丈夫です」  だけど僕の必死の訴えも虚しく、またしてもマクドゥガル親子に強引に言いくるめられてしまった。 ***  結局言われるがまま服と宝飾品をふたりに買い与えられ、大量のプレゼントボックスとともに公爵家を訪れることとなった。  メリルはタヴァサの町でもその人の多さにかなり驚いていたから、マクドゥガル公爵家の邸宅のある帝都での買い物には本当に驚いていた。  だけど僕が驚いたのは、そこではない。公爵夫人の、変わりようだ。    メリルのことが本当に可愛くて仕方ないらしく、彼が望むままお菓子や玩具を買い与えようとするものだから、ありがたいとは思うもののそれを止めるのにめちゃくちゃ苦労した。  そして、さすがは親子というべきだろうか? ルーファス様もまた隙あらば僕に何か買おうとするものだから、ただでさえ慣れない高級店だったこともあり、かなり疲れてしまった。  そして馬車に揺られて到着した、目が眩むほど煌やかな装飾品で彩られたマクドゥガル公爵邸。  ……メリルがうっかり花瓶を割りでもしたらと思い、正直なところ気が気ではなかった。  公爵様は領地視察のため不在だったが、近いうちに挨拶の機会を設けようとルーファス様は言っていた。  僕のような平民が、とまたしても卑屈な発言が口をついて出かかったが、それはグッと呑み込んだ。  だって僕は、もう決めたのだ。何があろうとルーファス様と、添い遂げると。  案内されたのは、広く大きな客室。  だけどメリルは無条件に甘やかしてくれる夫人のことがすっかり気に入ってしまったようで、夜は彼女とともに寝たいと言い出した。  そのため少し迷いはしたものの、夫人からも同じように望まれたため、お言葉に甘えることにした。 *** 「まぁ! なんてなめらかな肌なのでしょう? これは手入れのしがいがありますわ!」  公爵家のメイドたちに、寄ってたかって浴室で肌を磨かれる。  ただでさえぐったりと疲れ果てていたせいで、香油だのなんだのを使われてマッサージをされるうちに、気付けば僕はすっかり眠ってしまっていたらしい。  終わりましたとの声で目を覚まし、浴室を出ると、僕同様ピカピカに磨き上げられたメリルの姿が。  そして彼も相当疲れていたのか、眠たそうに目をこすっていた。  それでも僕に『おやすみなさい』の挨拶だけは、どうしてもしたかったらしい。 「おやすみ、メリル。ちゃんと公爵夫人様の言うことを聞いて、お利口にするんだよ?」 「分かってるよ、お母さん。おやすみなさい、また明日ね」  口では少し生意気なことを言いながらも、僕にぎゅっと抱きつくメリル。  だから僕も、彼の小さな体を強く抱きしめ返した。 「すみません、公爵夫人様。メリルのことを、よろしくお願いします」 「すみませんなんて、言わないでちょうだい。可愛い孫と、一緒に寝られるんだもの。こんな幸せなことはないわ!」  メリルを腕に抱き、頬に頬を擦り寄せる夫人。 「キャハハ、おばあちゃんくすぐったぁい!」  その言葉に、ぎょっとした。 「こら、メリル! おばあちゃんじゃない、公爵夫人様だろう!?」  慌てて訂正させようとしたけれど、背後から現れたルーファス様にそれは阻止された。 「おばあちゃんで、合っているさ。なぁ、おばあちゃん?」  ククッと笑いながらルーファス様が言うと、夫人は少し不満そうに唇をとがらせた。  そしてその表情は、どことなくルーファス様とメリルに似ている気がした。 「メリルにおばあちゃんと呼んでもらえるのは、とても嬉しいわ。だけどね、ルーファス。……あなたはこれからも、母上と呼びなさい」

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