30 / 37
㉚愛するあなたとともに
「ほら、着いたよ。メリル、起きて!」
朝早くに出たものだから、道中で眠ってしまったメリルの小さな体を揺らして起こした。
「ん……、お母さん。もう、朝ぁ……?」
寝ぼけ眼をこすりながら、メリルが聞いた。
だから僕は、クスクスと笑いながら答えた。
「違うよ、メリル。もう、お昼過ぎだから。タヴァサの町に着いたから、降りるよ!」
するとその言葉を聞き、メリルが勢いよく跳ね起きた。
「着いたの!? クリスさん、お土産喜んでくれるかな?」
「ああ見えて彼は大の甘党だから、きっと喜んでくれると思うよ」
嬉しそうに、瞳をキラキラと輝かせるメリル。
お土産を渡す係を命じたから、彼は大役を前にちょっと興奮気味だ。
御者の男が扉を開けてくれるのを待ち、メリルがぴょんと馬車から飛び降り、駆け出した。
「こら、メリル! ちゃんとお行儀よくする約束だっただろう!? すみません、いつも。ありがとうございます」
男に告げると、彼はくすりと笑いながら答えてくれた。
「とんでもない! 元気なのは、たいへん良いことです。奥様とルーファス様からも、メリル様には自由に過ごしてもらうようにと仰せつかっておりますからね」
***
クリスの家の前に到着すると、メリルが勢いよくコンコンと二度扉を叩いた。
すると、数秒後。クリスが顔を覗かせて、メリルと僕の姿を確認すると、心から嬉しそうに笑ってくれた。
「よぉ、ノア。それに、メリル。少しの間に、すっかり見違えちまったな。これからはもしかして、ノア様とメリル様って呼んだほうがいいか?」
かつての姿からは想像もつかないような上等な衣服に身を包んだ僕らに向かい、彼はからかうように言った。
「やめてよ、クリス! これまでどおりにしてよ、じゃないと僕が落ち着かないから」
するとクリスは、ククッと笑った。
「だろうな、知ってる。けどこうしてマクドゥガル公爵家の馬車でやってきたってことは、すべてうまくいったと思っていいんだよな?」
「うん、おかげさまでね。ありがとう、クリスのおかげだよ。とはいえやり方はかなり乱暴だし、ルーファス様に君のしたことを聞かされた時は、本当に驚かされたけど」
ほんの少しの非難を込めて、お礼の言葉を口にした。
なのに彼は非難の部分は完全にスルーして、感謝の言葉に関してだけ触れた。
「おぅ、どういたしまして。一生俺様に、感謝し続けるがいいよ?」
その時クリスの背後から、ユリウスが顔を覗かせた。
「あれ? 誰かと思ったら、ノアとメリル君じゃないか! なんでそんなところで立ち話をしてるのさ、早く中に入ってよ」
するとメリルが、ずっと手で持ったままになっていた手土産のクッキーの入った箱を、思い出したようにユリウスに向かって差し出した。
「お土産です、みんなで食べてください!」
ペコリと大きくメリルがお辞儀をすると、ユリウスは優しく微笑んでそれを受け取った。
「ありがとう、メリル君。甘いものは、僕もクリスも大好きなんだ。嬉しいよ」
その言葉を聞いたメリルが、ドヤ顔で笑う。
それを見た僕らは顔を見合わせて、ほぼ同時に全員吹き出した。
その日の夜はそのままクリスたちの家に泊めてもらうことになり、すやすやと眠るメリルのそばで僕らは昔話に花を咲かせた。
そして翌日。朝早く町を出て、僕らは今度はスヴェン村へと向かった。
村の人たちにも同じようにお土産をメリルがひとりずつ配りながら挨拶に回ると、みんな僕らの新しい門出をとても祝ってくれた。
特にこちらに移り住んでからは、まるで僕の親代わりのように接してくれていたロジャーじいさんは、涙を流して我が事のように喜んでくれた。
***
当初の予定通り一晩だけスヴェン村にも滞在したあと、僕らは再びマクドゥガル公爵家の屋敷がある帝都へと向かった。
しかし邸宅に戻り、大いに驚かされた。
というのもいない間に、僕とルーファス様の結婚式の準備が進められていたからだ。
しかもいつの間に準備したのか、僕にピッタリなサイズの指輪と正装用のスーツまで用意されている。
はじめて会うマクドゥガル公爵様は、とても穏やかな人だった。
なのでかつてのお義母様の振る舞いについて、彼からも謝られてしまった。
だけど何度でもいうが、その件については解決済みなのだ。
それに公爵夫人という立場からしてみたら、僕のようなどこの馬の骨とも分からない人間を、彼らが今こうして受け入れてくれている現状のほうが奇跡みたいに思える。
だから僕はちょっと苦笑して、もう何度目かも分からない言葉を口にした。
「……もうすべて、終わったことですから」
正装姿のルーファス様は普段以上に素敵で、かっこよかった。
そのため思わず目を奪われ、しばし無言のまま見つめてしまったのも、仕方のないことと言えよう。
そして式が始まると、またしても僕は驚かされた。
つい数日前別れたばかりのはずの、クリスとユリウスが参列してくれていたからだ。
「ルーファス様、ありがとうございます。そしてクリスたちも、来てくれてありがとう! 僕は本当に、幸せ者だよ」
涙を流しながら告げると、クリスもズズッと鼻水をすすりながら笑ってくれた。
でも僕らの抱擁は、嫉妬深いルーファス様の手により阻止されてしまったけれど。
リングボーイ役を見事に果たしてくれたメリルと共に、三人で描いてもらった肖像画。
そこには心から幸せそうに笑う、僕ら家族の姿があった。
もう僕は、迷わない。このマクドゥガル公爵家で、愛するルーファス様の番として生きていく。
【了】
***
最後まで読みいただき、ありがとうございました!
これにて本編は完結となりますが、SSをいくつか公開予定です。
本当のハッピーエンドまで、あと少し!
ノアとルーファスのふたりにお付き合いいただけたら幸いです、よろしくお願い致します。
ともだちにシェアしよう!

