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第5話

 祭りの喧騒や浮かれた雰囲気もすっかり鳴りを潜め、いつも通り日常の空気が戻ってきてはや数日。祭りのおかげか、少し離れた街からも買い物に来てくれる人が増えたように感じる。  ノアの薬屋も、彼が考案した美容系の栄養剤のおかげで売り上げもうなぎ登り。街の人は勿論、街の外の人からもノアの薬は評判がいいから、ノアは薬の調合などでいつも忙しそうだ。  最近は賊の襲撃によりケガを負う人が多く、薬の需要が上がっている。俺も少しでも助けになればといろんな資格を取得し薬を調合できるようになったけど、まだノアほど手際よく質のいいものを作れない。手先は器用な方で、なんでもそつなくこなせるタイプだと自負していたが、一朝一夕にはいかないものだ。  俺もまだまだ未熟者なので、とりあえず少しでもノアの負担を減らせるように、誰でもできることは俺の方で担って時々別の仕事もしつつお小遣い稼ぎをしてみたりしている。  そんな生活も、気づけば六年がたっていた。  街唯一の病院にうちで調合した薬を卸しに行くのもノアの代わりに俺が請け負っており、今日もいつものように薬を卸しに病院にやってきた。  やってきた、のだが。  病院に隣接している医薬品倉庫に通された途端、俺は床に膝をついて盛大に頭を抱えた。 「言うつもりなんてなかったんだ……ちょっとだけ意識してくれればそれでいいって。でも花火見てるノアが無邪気でかわいくてきれいで……堪らなくなって言っちゃった……。あの反応、脈無しってことなのかな……俺フられちゃうのかな……ねぇどう思う、レイさん⁉ 俺どうしたらいい⁉」  いつも通り仕事をこなしながらもここ最近自身の胸を覆いつくしていたもやもやを、俺が運んできた薬の確認をしているレイさんに早口でぶつけた。  けれどレイさんは薬から視線は外さず「そうだな」なんて気のない返事をする。いつもの発作くらいにしか思ってなさそうだ。こんなにも悩んでいるのに。 「ねぇちょっとレイさん、聞いてる⁉」 「聞いてる。ノアにフられて悲しいって話だろう」 「ま、まだフられてない!」  先ほどまでフられるのかと不安を吐露していた割に強気に反論すれば、レイさんは深くため息をついてやっとこちらを見た。 「いつか返事をくれって言ったら頷いたんだろ? だったらまだ考え中ってことだ。今からフられる心配をしても仕方ないだろう」 「うぅ……」  ノアに拾われてから、俺とニーナの身体のことを診てくれていたのはレイさんで、ノア以外の街人だとレイさんと会話することが自然と多くなっていった。加えて病院に薬を卸しに行くのは俺の仕事になっているので、今となってはノアより俺の方がレイさんと接する回数は多くなっているかもしれない。  そうなってくると、ノアに相談できないような悩み(主にノアへの想いの話)はレイさんに相談するのが定番になった。相談したり弱音を吐いたりしているうちに、軽くあしらわれるようにはなってしまったけど、結局はちゃんとアドバイスをくれるのがレイさんの優しいところだ。 「ノアは真面目で慎重な性格だって、エディも知ってるだろう。頷いたならちゃんと考えて、近いうちにあいつなりの答えを出してくれるはずだ。そのうえでフられたら、後のことはその時考えればいい」 「それはそう、なんだけど……」 「今回はやけに落ち込んでるじゃないか。どうしたんだ、お前らしくない。告白したことを後悔してるのか?」 「……ちがう」  告白は、するつもりなかったけれど後悔はしていない。元々、これまで以上に俺のことを家族としてじゃなく、男として意識してほしくて祭りに誘ったんだ。結果的に物凄く意識させることには成功したし、俺としては燻ぶっていた想いを伝えることができてよかったと思っている。  しかし問題は、告白を受けた後のノアの態度だ。  ノアは優しい。俺がノアをそういう目で見ていると知ったとしても、本人の危機感がないのもあるだろうが普通の態度で接してくれると予想はついていた。実際祭り以降もいつも通り俺に接してくれている。でもそれは、かなり頑張ったうえでの振る舞いだ。  例えば、朝起きてきたノアに挨拶をした時、いつも通り眠そうに目を擦りながら挨拶を返してはくれるが、以前までは寝起きのふわふわした雰囲気でゆるゆるの笑みを見せてくれていたのが祭り以降はぎこちない笑顔を浮かべるようになった。仕事の時も、ひとつの薬研を囲んで話し込んでいたら自然と距離が近くなることがあるのだが、最近は近くなりかけたらさっと距離を取り必要以上に近付かない。そういう時はもちろん目も合わない。  何とかいつも通り普通にしようとしてくれているのが伝わってくる場面もあるから、たぶん本人も無意識のうちに避けるような行動を取ってしまっているのだと思う。  それが、俺としては結構辛い。  困らせるつもりなんかなかったんだ。意識してくれればそれでいいって思っていた。  でもそれは俺の自分勝手な考えで、ノアに自分の想いを押し付けているだけになってしまっているのではないかと、気付いてしまった。  レイさんが言うように、ノアはノアなりに考えて答えを出してくれるだろう。しかし確実に、断ってしまったら俺を傷付けてしまうんじゃないかと、俺を気遣ったうえでの答えになってしまう。正直な気持ちを教えてほしいと言ってもきっと、いろいろ考え込むだろう。ノアはそういう人だ。  彼には何の憂いもなく平和に毎日を過ごしてほしいと思っているんだけど、悩みを抱かせてるのが俺自身なのだから世話がない。情けない限りである。 「はぁ……くっついたときの反応がかわいくて、拒否されないのをいいことに触りまくってたけど……俺も距離感考えなきゃだめだよなぁ」  ノアの心の整理がついていない状態で詰めすぎたら、最悪引かれかねない。関係の修復が不可能になってしまうのは一番避けたい状態なので、ここは慎重にいかないと。 「……あいつはたぶん、お前の告白に驚きはしたが嫌がってるとか、困っているとかはないと思うぞ」 「え?」  項垂れながら今後どうしようかと思案していたが、レイさんの言葉に顔を上げる。  丁度薬品庫の棚に薬を収納し終えたのだろう、レイさんは空になった薬の入っていた箱を俺に手渡し近くにある椅子に腰をおろした。 「エディは、あいつから昔の話を聞いたことはあるか?」 「昔の話って、ノアを引き取ったおじいさんのこと?」  それならばノアから聞いたことがある。ノアにとっておじいさんは命の恩人あり、父親であると。  彼は今でもおじいさんのことが大好きだから、度々思い出話を聞かせてくれる。話の節々からおじいさんの良い人となりがうかがえて、俺もおじいさんに出会えていたらきっとノアのように懐いていたのだろうと思った。  ノアに関係する昔の話はおじいさんのことしか思い当たらず、呑気に会ってみたかったなぁなんて言っていたら、レイさんは「じいさんのことじゃない」と首を横に振った。 「それよりももっと前。ノアにまだ孤児院じゃない『家』があった頃の話だ」 「!」  その言葉ではっとする。  ノアから聞くノア自身の話は決まっておじいさんに引き取られてからのことだ。考えてみれば、それ以前の話は入っていた孤児院が取り潰されてしまったということしか聞いていない。だから赤ん坊の頃から孤児院にいたのだろうと勝手に思っていたが、そうか……ノアにも孤児院に入る前の生家があったのか。 「聞いたことない。……レイさんは知ってるの?」 「あぁ。……俺はノアの担当医だったから、念のためとじいさんから聞かされた」 「……今までひとつも話題に出さなかったってことは、話したくないことなのかな」 「そうだろうな。気持ちのいい話でもないし。だが、ノアの過去を知れば、あいつが何を思っているのか少しはわかると思う」 「それって、どういう――」 「あっ、エディくん!」  レイさんにどういうことかと聞こうとしたら、その言葉を遮る形で誰かが薬品庫に駆け込んできた。振り向くとそこには病院の看護師さんがいて、走って来たのか息を切らしていた。  今、院長であるレイさんではなく俺の名前を呼んだが、何かあったのだろうか。 「エディくん、今ニーナちゃんが来てるんだけど、様子が変なの」 「ニーナが?」 「突然病院に駆け込んできたかと思ったら、ひどく怯えちゃって話もろくにできない状態で……」  状況を聞き、俺はすぐさま立ち上がり薬品庫を飛び出す。  病院内の従業員控室にニーナが通されているらしいので、俺は病院の裏口から控室に足早に向かった。  ニーナは、子どもに言うことをきかせるときによく使われる、「悪い子にはおばけがお仕置に来るぞ」みたいな常套句は、「おばけより私の方が強い」というニーナの気質により全く効かないし、自分より年上の人相手でも気後れしない、年齢の割に肝の据わった怖いも知らずな性格をしている。だから、弱みを見せてはいけない環境にいたからだろうが、恐怖を感じていても怯えたりそれを表に出すことはほとんどなかった。  しかしそんなニーナでも、我を忘れてしまうほど恐ろしいもの、謂わば「トラウマ」がある。看護師さんが言っていたことが本当ならば、ニーナは『それ』に遭遇したということだ。  油断していた。数年様子を見て、一度も姿を見かけなかったから、こんな国の端っこにある小さな街に来るわけないと結論付けた。もう何年もたっているし、きっと俺たちのことを死んだとでも思っていると。  でもまさか、今でも探していたというのか? 「ニーナ!」  勢いよく扉を開けて控室に飛び込む。  自分を抱きしめるよう肩に腕を回して俯いていたニーナが真っ青な顔を上げた。 「お兄ちゃん……!」  ニーナは瞳からほろりと雫をこぼし、駆け寄った俺に抱き着いて、肩を震わせながら嗚咽をもらす。そんなニーナを抱き返し背中を撫でながら「大丈夫」と言い聞かせた。 「……ニーナ、なにがあった?」 「っ……」  暫く背中を撫でて少し落ち着いてくれたころに、酷と知りながらも問いかける。俺の服を掴んでいた手に力をこめ、俺の胸に一層顔を埋めた。 「買い物が終わって帰ろうと通りを歩いていたら、知らない人に話しかけられた……『ニコラ様ですか?』って……」 「!」 「その後、あの紋章を見せられたの……王族騎士の紋章。あの人たち、国王軍だった……!」  やっぱり……嫌な予感が当たってしまった。  いつだ、いつニーナを見つけた?  ちょっとした観光地になっていると言ってもこの街は小さくて、街人みんなが知り合いみたいなもんだ。だからあまり見かけないタイプの、しかも王族騎士なんていう王都にいるような人間が街にやってきたらすぐ噂になって広まる。でもそんな噂は聞いたことがない。ニーナはあまり街の外にも出ないのだ。見つかる余地なんて……。 「もしかして、祭りで……?」  偶然か必然か、王族に近しい人間が先日の祭りに参加し、ニーナ、もしくは俺を見つけた。そして確信を得るため接触してきた。あり得ない話じゃない。  ニーナがここに一人でいるということは、声をかけてきた奴らからなんとか逃げてきたのだろう。しかしその反応で街にいる少女はニーナであると判断したはずだ。  きっとまた接触してくる。今度はもしかしたら、あいつを連れて……。 「エディ」 「!」  名前を呼ばれ振り返ると、控室のドアの前にはレイさんがいた。  そういえばここは病院だった。場所も忘れて考え込んでしまっていたらしい。 「納品してくれた薬の確認は終わった。今日はニーナを連れて帰れ」 「うん……そうする。騒がせてごめん」  俺からくっついて離れないニーナを抱き上げる。  レイさんにも気を許しているからよく会話しているところを見かけるが、今は顔を見られたくないのだろう。ニーナは隠れるように俺の肩に顔を埋めた。  ノアのおかげで生活も安定し、俺だけでなくニーナも健康的に成長して体重も増えた。同い年の子たちより背も高いし、達観した考えを持っているから大人びてみえるが、ニーナはまだ子どもだ。すぐにトラウマを克服できるような年齢ではない。  ……俺が、守らないと。あの人達から任された命なんだから。 「エディ、あまり背負い込みすぎるなよ。お前は独りじゃないんだ」  裏口から病院を出る直前、レイさんがそんなことを言った。  そんなこと、ずっと前からわかってる。  俺はいつも誰かのおかげで命を救われてきた。俺ひとりの力じゃ戦えないって……嫌でも思い知ってる。 ***  ニーナを抱えながら帰宅し、彼女の部屋のベッドに寝かせる。 俺たちがここに住むことになった時に、ノアが空き部屋を整えて俺とニーナ、各々の自室を作ってくれた。自分なりにカスタマイズして、今では自分の部屋が最も過ごしやすい場所になっている。  毎日、美味しいあたたかいご飯が食べられて、毎日あたたかいベッドで眠りにつける。帰ってきたら、大切な人が「おかえり」って出迎えてくれる。この数年ですっかりこの家は、俺たちの居場所になった。  全てノアが与えてくれた。心から安らげる大切な、かけがえのない居場所を……。  しかしそれももう、もしかしたらあと少しで……。 「お兄ちゃん……」 「! ニーナ、大丈夫か?」  名前を呼ばれはっとする。  ベッドに横になった彼女の体調を伺えば、小さくもう平気と頷いた。けれどその後、こちらを見上げまた瞳を潤ませた。 「ごめんなさい、私のせいであの人たちにバレちゃったかも……」 「ニーナのせいじゃない。怖かったよな、守れなくてごめんな」  自分の使命を忘れたわけではなかった。でもこの街があまりにも平和で、気を緩めすぎてしまった。その結果がこれだ。 「……私たちもう、出ていかなきゃだめかな」 「…………」  その問いに、何も答えられなかった。俺もそう思ったから。でも言葉にするのははばかられて、俺はニーナの頭を撫でる事しかできなかった。 「明日ノアに話そう、俺たちのこと」 「……うん」  いろいろと俺の言いたいことを察したのだろう。ニーナは目を伏せ、顔を隠すよう布団を被った。 「少し下に行ってくる。すぐ戻るから、ニーナは休んでてな」  とりあえず、ノアにはニーナは体調が悪いから今日は休ませると言っておこう。俺もあと数日は外に出ない方がいいかもしれない。  部屋から出て一階に降りると、丁度店の方から居住スペースにノアがやってきた。心配気な表情を浮かべているので、俺とニーナが帰ってきたのには気付いていたのだろう。いつもしているただいまの挨拶もせず二階に上がったから、不審に思ったのかもしれない。 「エディ、おかえり。なにかあったの?」 「……ニーナが買い物の途中で体調を崩してしまったんだ。今日はもう休ませる。俺も横で診ておきたいから、申し訳ないんだけど、残りの仕事は任せてもいい?」 「うん、それはもちろん大丈夫。エディが横にいてくれたほうが、ニーナも安心するだろうからね。軽く二人のご飯作るから、後で持っていくよ。あ、明日の起きてくる時間も、ゆっくりでいいからね」 「ありがとう。……それから明日、話したいことがあるんだ。大事な話だから……聞いてほしい」 「……わかった。いつでも聞くよ」  いつもと変わらぬ穏やかなノアの微笑みにほっと息を吐く。何か思うことはあるだろうに、それでも問い質すことなく静かに見守ってくれる。その優しさがいつも有難かったし、助けられていた。  でもきっと、甘えすぎてたんだろうな。  俺たちのことを知られて色眼鏡で見られるのが嫌で、先延ばしにしていくうちに言い出しにくくなった。このまま何も言わず過ごしていれば、ずっと何事もなく過ごせるだろうと、現実逃避をした。  本当はもっと早く言っておくべきだったのに。俺がノアの優しさに甘えた結果、ノアをも危険に晒してしまうかもしれない状況になった。  ここまできたら正直に言って、謝るしかない。そして、本格的に迷惑をかける前に――ここを出ていく。  大丈夫、今のニーナは理解してくれる。  六年前に引き伸ばした猶予が、もうすぐで終わるだけだ。 「エディ? どうし――っ⁉」  その場で佇んで俯いた俺の顔を、眉を八の字に下げたノアが覗き込む。  俺はたまらず、そんなノアの華奢な体を腕の中に閉じ込めた。  距離感と自分勝手な行いを考え直したばかりなのに。こんな事をしたらまたノアをびっくりさせてしまう。  でも……でもあと少しだけ、時間が欲しい。出ていく直前でも構わないから、もう一度想いを伝えるチャンスがほしい。これで最後だから。もうこれっきり、俺のことは忘れていいから。  そうしたらきっとノアも、俺の事で悩まなくて済むよね。 「エ、エディ……お客さん、来たみたいだから……」  店の方で来客のドアベルが鳴り、ノアが遠慮がちに声を上げる。  渋々解放すれば、ノアは俯いたまま一歩、二歩と後退り、俺に背中を向けた。 「じゃあ、後でごはん持っていくから」 「……うん、ありがとう」  やりすぎたな、と後悔しかけたとき、店の方に戻っていくノアの髪の間から赤くなている耳が覗き見えた。  あぁ、くそ。そんな反応をされると、諦めたくなくなってしまうじゃないか。  湧き上がる欲を頭を振ってなんとか追い払い、俺は再びニーナの部屋に戻った。  それからニーナとこの先のことを話した。まだ明確なビジョンが見えているわけではないが、「生きていく術」をこの数年で身につけられたのだ、昔のように劣悪な環境で過ごすなんてことはしなくて済むだろう。  近いうちに出ていかなければならないことも、言葉にせずともニーナはわかってくれた。けれどしばらく、静かに泣いていた。  これ以上は街にも、ノアにも迷惑がかかる。  素性の知れない俺たちを受け入れてくれた優しい人達がこれからも平和に過ごしていくには、俺たちがいなくなるほかない。  俺も、笑って旅立つだなんてできない。思い出も、大切な人も、あまりにも多くできすぎてしまった。  二人で寝るには狭いシングルベッドに、ニーナと並んで横になる。泣き疲れて眠ってしまったニーナの背を撫でながら、六年前、一度出ていくと決意した日の夜に、ノアがこうやって一緒に寝てくれたことを思い出した。  あのときと同じ。  あたたかいけれどどこか寂しい、静かな夜だった。 ***  翌朝。  身支度を整えた俺とニーナは、二人でノアのいる一階の居住スペースへ向かった。  まだ店の営業を開始するには早い時間なのに、ノアは俺たちの代わりに朝食の準備をする為既に起きているようだった。 「あれ、おはよう二人とも。もう起きてきたの?」  二階から降りてきた俺たちを見て、ノアは目を丸くする。  ダイニングテーブルには、焼いたベーコンに目玉焼き、トースト、スープが二人分あり、傍らにお盆が用意してあった。朝食を俺たちの部屋に持っていくところだったのだろう。  よく見たらトーストだけ三人分あるからそれはノアのぶんだろうが、副菜などは俺たちの分しか無い。目を離すとすぐ食事を抜く癖は相変わらずのようだ。 「ニーナ、体調はどう?」 「……もう平気。昨日はごめんね。家のこととか、全部任せちゃって」 「気にしないで。ニーナの体の方が大事だから。そんなことより、みんな起きたなら朝ごはんにしよ。ニーナは食べられそう?」  各々の席に配膳し直しながら、ノアがこちらに微笑みかけてくれる。しかし俺たちは上手く笑うこともできず、その場に立ち尽くしたまま俯くことしかできなかった。  ニーナの手が俺の服の裾をつかむ。  そうだ、俺が言わなきゃ。これで終わりだとしても。  ゆっくり顔を上げ、ノアを見る。 「ノアに、伝えなければならないことがあるんだ」  ノアは戸惑いの表情で俺とニーナを見ていた。一瞬寂し気に目が細められ、しかしすぐ、何かを覚悟するよう俺の目を真っ直ぐに見つめた。 「俺たち本当は、ただの孤児じゃないんだ」 「…………」 「兄に命を狙われ、身を守るために、身分を隠してここまで逃げてきた。……俺たちは……先代の国王の血を引いている」 「!」 「俺とニーナは――王族なんだ」

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