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 気まずい沈黙の後、ナツメは表情を明るく切り替えて腕時計を見た。 「てか、他に買いたいものない? 勢いに乗ってるうちに買っちゃいなよ。まだ時間あるし」 「えーと……そうだ。パジャマってどこで買ってますか?」 「んー。照近さんって、冷え性?」 「どちらかといえばそうかもしれません」 「じゃあ、ぴったりなブランドがあるよ」  喫茶店を出てからは後ろ暗い話題が出ることはなく、男でも使える化粧水など他愛のない話をした。  徒歩で到着したそこは、店構えからファンシーな女性向けの部屋着専門店だった。  店頭に並ぶ服はどれもモコモコで可愛いすぎる。客層も女性客かカップルばかりだ。 「攻めすぎじゃないですかね」 「父さんこういうの好みだと思うよ!」  それはさすがに適当を言っていないか? 「じゃーん、ちゃんとメンズもあるんだよ」 「あ、これくらいなら……」  落ち着いたデザインの上下を見せられ、他のと比べればぜんぜん着れると思えた。  ワッフルニットの襟付きプルオーバーシャツと、ロングパンツ。シルエットや色合いはかわいらしいが、モコモコじゃないし、半ズボンじゃないし、キュートなプリントもない。  控えめにフレッシュな感じがする。 (こういうのを着たら……英一さんも喜んでくれるだろうか……)  鏡の前で服を自分に当てながら、ウンウン悩んだ。  若い子ぶりすぎやしないだろうか。 「このブランドで唯一おじいちゃんみたいなデザインしてるよね。買う人いるのかな」 「ひどい物言い」  俺が買いました。  隣のファストファッションの店で靴下も何足か買った。 「勝負下着も探す? いいお店あるよ」 「や、もうお腹いっぱいです……また今度でお願いします。──本番はこれからなんですよ。料理しないと」  忘れていたのか、ナツメはオーバーなリアクションで背筋を正す。 「そうだった。よろしくお願いします!」  向かうはスーパーだ。    ■  料理のための材料を買い込み、二人で南雲井邸に帰宅した。 「久しぶりだけど、やっぱ育ちの家って落ち着くー」  荷物をリビングの端に置き、ナツメはソファに寝転ぶ。  俺はまっすぐキッチンへ進んだ。食材をカウンターに並べながら話す。 「作ったものはタッパーで持って帰りますか?」 「夕飯食べながら考えてもいい?」 「いいですよ。荷物になっちゃうのは間違いないですからね」  ソファから起き上がったナツメは、レースカーテンの向こうの庭を眺めていた。  それから部屋の中を見渡し、こちらを向く。 「部屋、綺麗だね」 「そうですか? わりと適当ですよ」 「掃除もだけど、整頓的なさ。余計なものがないってこと」 「余計なもの?」 「母さんのころはデパートの外商さんが来てたんだよね。いらなくてもなんでも買っちゃうから、どこもかしこも物だらけだったよ。服とか、絵とか宝石とか皿とか。開けてない箱たくさんあって。冷蔵庫もお中元みたいなやつで隙間なかったし」 「ガイショウサン……俺からしたら都市伝説みたいな存在ですよ」  ナツメが言うそれは、百貨店のVIP客が受けられる特別サービスのことだ。店内での特別対応のほか、家まで物を売りに来てくれる……らしい。 「照近さんも呼べるでしょ。百万二百万使っても、父さんなにも言わないよ」 「年間で?」 「一日で」 「ガハッ……」  息の仕方を忘れるかと思った。  キャベツ一玉の値段さえ気にしてしまう俺は一体。 「なーんか、拍子抜けだな。照近さんって《僕たち派》だね」 「僕たち派?」 「庶民ってこと。僕はパートナーを見つけて家を出てからのほうが、生きるの楽になったから」  俺には想像のしようもない世界だが、上流階級の暮らしも良いことばかりではないのかもしれない。 「《たち》って、他には誰が入ってるんですか?」 「芙美也かな。母さんの派手な生活には僕もあいつもうんざりしてたよ」  芙美也は南雲井家の次男で、ナツメと同じベータだ。食事会のとき会ったきりで見た目くらいしかよく知らない。話によると、気ままな一人暮らしをしている。  それにしても意外だ。ナツメの話を聞けば聞くほど、英一から聞いていることと印象が違う。 「ナツメさんはお母さんと仲が良いと思ってました」 「それ、父さんが言ったんでしょ。母さんが僕をちやほやしてただけで、僕は別にだったよ。ほら、僕ってこうだから」  そう言って立ち上がり、キッチンへ歩いてくる。  ナツメの言いたいことはなんとなくわかった。彼ほどの美しい子供を産んだなら、どんな親でも誇らしくなるだろう。 「いろいろあるんですね」 「まーね。──料理、なにから始める?」

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