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 ダイニングテーブルに向かい合って座り、一緒に作った料理を食べる。  大根と手羽元の酢煮、きんぴら、サラダ、白米にスープ、ふだん英一に出しているものより品数も少ない簡素な食卓だ。申し訳ないので冷蔵庫にあったキウイフルーツも切って出した。 「こんな色々ある夕飯って久々かも」 「なら良かったです。足りますか?」 「足りる足りる。いただきます!」  手を合わせ、箸を取った。  俺はスープを飲み、ナツメは大根を箸で切り分けて口に運ぶ。  一口目で目が輝き、すぐに手羽元へも箸を進めた。肉がほろりと骨から外れる。 「ん……! おいしい! さっぱりしてるけど、しっかり味がして満足度高い! 健康にいいもの食べてる感じする!」  ぱくぱくと食べ進め、白米も減っていく様子を笑顔で見守った。 「一緒にがんばって作ったかいがありましたね。タッパーで持って帰りますか?」 「保冷バッグに入る分だけ持って帰ろうかな」  三品とも作り置きする前提の量を作ったため、タッパーひとつでは収まらなかった。  保冷バッグに入るのはせいぜい二個か三個だ。余った分は英一と俺とで食べよう。 「父さんにはもったいないね。こんなあったかい料理」  なんだか皮肉がにじんで聞こえる。 「ナツメさんから見た英一さんって、怖い人なんですか?」 「怖いっていうか……ザ・アルファって感じじゃない? この場合はジ・アルファか」  一般的なアルファのイメージといえば、『優秀』とか『完璧』とかポジティブなイメージだ。  悪意がある場合は『冷酷』『エリート主義の差別者』と形容されることもあるが。  後者の話をしているのなら英一は程遠い。 「そうでしょうか。あの人はベータやオメガに態度を変えたりしませんし、家政婦時代から関わりやすい人でしたよ。……あ、でも、人より秀でている自覚があるんだろうなというオーラはアルファっぽいですね。それでも謙虚な方だと思いますが」 「なんか、知らない人の話を聞いてるみたい」 「昔の英一さんは全然違うんですか?」 「どうかな。記憶にないっていうほうが正しいかも。僕はあの人をよく知らないんだ。てか、家族みんなそうだよ。仕事漬けでほとんど家にいなかったんだから」 「そうだったんですね……」 「父さんは『家族』に興味ないと思ってた。母さんと結婚したのも世間体とか立場的なものだったってみんな思ってるし。……だから再婚するって聞いたときは驚いたよ。柾諒なんか『俺はアルファ(あとつぎ)として不足と思われたのか? 親父は新しいアルファを産ませる気なのか?』ってパニクってたし」 「そうだったんですね!?」  そのとんでもない勘違いは払拭されたと信じたい。  英一にそんな意図があったなら、俺はとうに妊娠しているはずだ。 「照近さん、まだ産める身体なんだよね?」 「ま、まあ、はい。たぶん」  男オメガは産道が未発達だから、帝王切開で出産する。  医療が発達したこの時代でも子宮破裂の危険があるため、出産回数には注意しなければならない。中には二人目は産まないほうが良いと警告されることもある。  経産の男オメガが好まれない理由はこれだ。出産リスクが経産の女オメガより高いから。 「子供作るの?」 「英一さん次第でしょうか……」 「その感じだと妊活してないんだ。照近さん的には産んだほうが安泰でしょ」 「安泰?」 「血のつながりこさえたら、父さんも捨てにくくなるわけだし」 「ま、待ってください。なんの話ですか、これ」 「ごめんごめん。オメガの知り合いいないから、つい」  なにが『つい』なのだろう。  ナツメがテーブルのリモコンを取り、テレビを付けた。今はドラマの時間らしく、画面の中では人物たちが遺産相続について口論していた。 「よくわからないですけど、英一さんは家族に興味ないわけではないと思いますよ」  話を戻してしまうが、ひっかかっていたところを訂正する。  英一に『家族』への距離があるのは俺も感じている。  あの人は、愛することさえ許してもらえればそれでいいと考えている節がある。  頼まれれば手を貸すが、自ら干渉しようとしないのはその表れだ。  それは決して、無関心ではない。 「どうかなぁ。僕が今どういう仕事してるかもよく知らないんじゃない? そういう人だよ」  英一から子供たちの話をあまり聞かないから、その予想が当たっているかどうか確かめようがなかった。 「英一さんは……」  それ以上の言葉が続かない。  夫の名誉を守ってやりたいが、実の息子に対してポッと出の男妻(つま)は分が悪かった。  何もかもを手に入れたような人なのに、愛されることだけは諦めている様子を──実際に息子からこう評価されてしまう彼のことを、さみしく思う。 「照近さんはさ、父さんのなにが好きなの?」  テレビに顔を向けたまま質問される。 「そう言われると難しいんですけど……」 「なにかしらあるでしょ」 「……なんでしょうね」 「隠さないでよ」 「その、優しいですよ。英一さん」 「月並み!」  ギャハハと笑って、ナツメの意識はテレビドラマのほうへ戻っていった。  家政婦時代、今ナツメが座っている席で俺は英一と食事していた。  当時、あの静かな時間だけが心の癒しだった。  あのとき求めてくれたから──求婚してくれたから、俺は彼を愛した。……とは、正直には言いづらい。  それが俺にとって唯一無二の救いだったのは間違いないが、人からは理解されないだろう。  夕食を終え、洗い物を一通り片付けた。  ナツメは保冷バッグを大事に抱えて玄関に立つ。 「次は美容院ね。また連絡する」 「今日はありがとうございました。気をつけて帰ってくださいね」 「うん」  タクシーに乗り込んだ後も、彼は窓から身を乗り出して手を振ってくれていた。 (ちょっとだけ、疲れたな……)  ナツメは元気で人懐っこく、遠慮がない。楽しさと戸惑いを呼び込む夏嵐ような子だ。  あの清々しいたくましさは見習うべきところかも知れない。  部屋に戻ってスマホを見ると、英一から写真付きでメッセージが来ていた。 [ 友人と飲んでます ]  写真を見ると、友達二人に左右から肩を組まれ、困り顔で笑う英一が写っていた。  頼んだわけでもないのにマメに連絡をくれる。彼の頭の隅には常に俺がいるらしい。  ……なんだかくすぐったい。 「ふふ」  表情が緩んでしまう。  キーボードをタップし、おやすみの挨拶を返信した。

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