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「やっぱり年甲斐もなくはしゃいだらダメだね」 「そんなふうに言わないでください」  ゴルフから帰ってきた英一は、初めこそ元気そうに見えたが昼過ぎから熱を出した。  ベッドで安静にする英一の様子を見に行くたび、体温計が変わらない微熱を告げている。 「大したことないから心配しないで。食欲もちゃんとあるよ」  夕食に簡単なうどんを作ってきた。  食べ終わるまで見守って、その後は身体を拭いてあげようとしたら「そこまでしなくていい」と追い出されてしまった。 「伝染(うつ)るから、見に来なくていいからね。緊急時はスマホで連絡するから」  仕方なくリビングでテレビを見ていると、ナツメから電話がかかってくる。 『昨日はありがとう。料理にハマっちゃったかも。楽しいもんだね』 「でしょう。またいつでも手伝わせてくださいね」 『これからもよろしくお願いします、師匠! ──次会うときさ、美容院行くじゃん? その後もなんか一緒に作ろうよ』 「もちろんいいですよ。じゃあ……」  ざっくりと料理の方向性を決めて、楽しみだねと笑い合って通話を終えた。  時計を見る。  英一はどうしているだろうか。  見に来るなと言われたものの、どうしても心配してしまう。  階段を上がって英一の部屋の前まで行く。耳を澄ませてもやはり物音はせず、扉を静かにノックした。  返事はない。  熱が上がって気絶してやしないか。悪い想像ばかりしてしまって、ドアノブをつかんだ。 「照近です、入りますよ……」  そっと部屋の中を覗き込む。  英一はベッドで寝息を立てていた。  横たわって目を閉じていると、どうしてもドキリとしてしまう。呼吸していることを確認して安心する。  このまま立ち去っても良かったが、なんとなく部屋に入り、ベッドサイドのスツールに腰掛けた。  英一の寝顔を眺める。 (元夫(ゆきひ)さんのときも、いつも寝顔を見ていたな……)  ふと、そんな過去のことを思い出す。  毎日同じように眠っているだけなのに、日に日に血色を失って、目が落ち窪み、頬がこけ、やつれていく。朝起きるたびに息をしているか確かめて、苦しそうに痰を吐く姿をただ見ていることしかできなかった。 「……大丈夫だよ。私は金の力で老人ホームに入ってなるべくぽっくり逝くから」  目をつむったまま、英一がそんなことを言い出して驚く。 「起きてたんですか」 「うん。ドアが開く音でね」 「起こしてしまってすみません」 「こんなに早く寝たら、朝の変な時間に目覚めてしまうよ。起きて良かった。……部屋に入らないでって言ったのに」 「す、すみません」  寝返りをうって俺を見た英一は、片腕で掛け布団を持ち上げてスペースを作った。 「──入るかい?」  俺はきょとんとしてしまう。だが、不思議とすぐに思い立って一歩前へ進んでいた。 「はい」 「なんて、冗談……えっ」  ぽっくり死ぬだなんて悪い冗談を言い、こんなふうにからかう英一へ仕返ししてみたかった。  布団の中へ身体を押し込み、背中を預けるようにして彼の腕の中に収まってみる。 「……暑いです。まだ熱ありますよ。水飲んで寝てください」 「ご、ごめん」  英一は上体を起こし、動揺した顔のままサイドテーブルのコップを取って水を飲んでいた。 (ふふふ。大人げないけど……困らせてみるのも悪くないな)  さて。叱られるか、呆れられるか……追い出されるのを待っていると、なぜか英一はそのまま布団の中に戻ってきた。  二人で同じ布団に収まってしまう。 「いいよ。うつったら、私が看病するからね」  真後ろから彼の声がして、髪を撫でられた。  指の熱が伝わってきて俺は耳から真っ赤になってしまう。  恥ずかしくなって布団から転げ出る。 「オ邪魔シマシタ……!」  くすくすと笑う声を背に、そそくさと部屋を出ていく。  あの人には勝てそうにない。  ──英一の熱は翌日には下がり、しばらく咳が続いたが、そのうちにすっかり治っていた。  俺は特に変わりなく健康だ。オメガは身体が丈夫でナンボなのだ。

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