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4 【6】
「やっぱり年甲斐もなくはしゃいだらダメだね」
「そんなふうに言わないでください」
ゴルフから帰ってきた英一は、初めこそ元気そうに見えたが昼過ぎから熱を出した。
ベッドで安静にする英一の様子を見に行くたび、体温計が変わらない微熱を告げている。
「大したことないから心配しないで。食欲もちゃんとあるよ」
夕食に簡単なうどんを作ってきた。
食べ終わるまで見守って、その後は身体を拭いてあげようとしたら「そこまでしなくていい」と追い出されてしまった。
「伝染 るから、見に来なくていいからね。緊急時はスマホで連絡するから」
仕方なくリビングでテレビを見ていると、ナツメから電話がかかってくる。
『昨日はありがとう。料理にハマっちゃったかも。楽しいもんだね』
「でしょう。またいつでも手伝わせてくださいね」
『これからもよろしくお願いします、師匠! ──次会うときさ、美容院行くじゃん? その後もなんか一緒に作ろうよ』
「もちろんいいですよ。じゃあ……」
ざっくりと料理の方向性を決めて、楽しみだねと笑い合って通話を終えた。
時計を見る。
英一はどうしているだろうか。
見に来るなと言われたものの、どうしても心配してしまう。
階段を上がって英一の部屋の前まで行く。耳を澄ませてもやはり物音はせず、扉を静かにノックした。
返事はない。
熱が上がって気絶してやしないか。悪い想像ばかりしてしまって、ドアノブをつかんだ。
「照近です、入りますよ……」
そっと部屋の中を覗き込む。
英一はベッドで寝息を立てていた。
横たわって目を閉じていると、どうしてもドキリとしてしまう。呼吸していることを確認して安心する。
このまま立ち去っても良かったが、なんとなく部屋に入り、ベッドサイドのスツールに腰掛けた。
英一の寝顔を眺める。
(元夫 さんのときも、いつも寝顔を見ていたな……)
ふと、そんな過去のことを思い出す。
毎日同じように眠っているだけなのに、日に日に血色を失って、目が落ち窪み、頬がこけ、やつれていく。朝起きるたびに息をしているか確かめて、苦しそうに痰を吐く姿をただ見ていることしかできなかった。
「……大丈夫だよ。私は金の力で老人ホームに入ってなるべくぽっくり逝くから」
目をつむったまま、英一がそんなことを言い出して驚く。
「起きてたんですか」
「うん。ドアが開く音でね」
「起こしてしまってすみません」
「こんなに早く寝たら、朝の変な時間に目覚めてしまうよ。起きて良かった。……部屋に入らないでって言ったのに」
「す、すみません」
寝返りをうって俺を見た英一は、片腕で掛け布団を持ち上げてスペースを作った。
「──入るかい?」
俺はきょとんとしてしまう。だが、不思議とすぐに思い立って一歩前へ進んでいた。
「はい」
「なんて、冗談……えっ」
ぽっくり死ぬだなんて悪い冗談を言い、こんなふうにからかう英一へ仕返ししてみたかった。
布団の中へ身体を押し込み、背中を預けるようにして彼の腕の中に収まってみる。
「……暑いです。まだ熱ありますよ。水飲んで寝てください」
「ご、ごめん」
英一は上体を起こし、動揺した顔のままサイドテーブルのコップを取って水を飲んでいた。
(ふふふ。大人げないけど……困らせてみるのも悪くないな)
さて。叱られるか、呆れられるか……追い出されるのを待っていると、なぜか英一はそのまま布団の中に戻ってきた。
二人で同じ布団に収まってしまう。
「いいよ。うつったら、私が看病するからね」
真後ろから彼の声がして、髪を撫でられた。
指の熱が伝わってきて俺は耳から真っ赤になってしまう。
恥ずかしくなって布団から転げ出る。
「オ邪魔シマシタ……!」
くすくすと笑う声を背に、そそくさと部屋を出ていく。
あの人には勝てそうにない。
──英一の熱は翌日には下がり、しばらく咳が続いたが、そのうちにすっかり治っていた。
俺は特に変わりなく健康だ。オメガは身体が丈夫でナンボなのだ。
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