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目が覚めると、隣で英一が眠っていた。ここが彼の部屋で、彼のベッドの中だとすぐに理解する。
ベッドサイドの置き時計を見ると、日の出もまだの早朝だ。
「……」
英一の部屋で寝ているということは、彼が俺を運んだということだ。なんの理由もなくこんなことにはならない。
昨日のことを思い出し、悲鳴をあげそうになった。
慌てて身体を起こして服の中に手を突っ込む。肌は汗でべたついた感じがない。英一が軽く拭いてくれたようだ。
「おはよう、照近さん」
物音で起こしてしまったかもしれない。英一が目を開けて俺を見上げていた。
「お、おはよう、ございます」
眼鏡をかけていないからそれほど見えていないだろうが、じっと見つめられて気恥ずかしい。
「ご迷惑を……おかけし……」
謝ろうとすると英一は話を遮るように起き上がり、眼鏡をかけた。
「昨日はごめん。身体は大丈夫?」
逆に謝られてしまってますます取り付く島がない。
彼は彼でヒートに呑まれたアルファとしての罪悪感があるかもしれないが、その原因が俺なのだから悪いのは俺だ。
「もうなんともないです。元気です。マラソンもできます」
「マラソンはしなくていいけど」
「……ご飯、作らないと」
そそくさとベッドから逃げた。
キッチンに行く前にシャワーをサッと浴びて着替えた。
何をしていても昨夜の痴態を思い出してワアアッと叫び出しそうになる。
いくらなんでも、ヒートだったとしても、あんな、あんなの。
あれが俺の普通だと思われたらどうしよう。
平静を装いながら朝食の準備をした。
いつもの時間になると、英一が朝の準備を済ませてリビングに降りてくる。
異様に静かな朝食が始まった。絞ってあるはずなのにテレビの音が大きく聞こえる。ニュースの内容はまったく頭に入ってこなかった。
「新しい髪型も似合ってるよ」
英一が静寂を破る。
いまさらと言えばいまさらだ。わざわざ褒めてくれるのは律儀と言えるだろう。
「……ありがとうございます」
会話が終わってしまった。俺のバカ。
そのまま食事も済んで、黙々と後始末を一緒にする。
俺が皿を洗い、彼が拭いて仕舞う。慣れた分担作業だった。
彼が隣に立っていてももう心乱されることはない。ヒートは落ち着いている。彼もシラフなはず。互いに理性がある。
「い、いつもじゃないんです。昨日のは……人生で初めてのことで……」
「そうだったんだ。迎えに行くのが間に合ってよかったよ」
「あ……」
そうか、英一はヒートの原因が美容院だと思っている。それはつまり、俺がそのへんで適当に発情するオメガだと勘違いしている状態。嫌すぎる。
「訂正するほどじゃないかもしれないですけど……。ヒートが起きて具合が悪くなったんじゃなくて、具合が悪くなったあとにヒートが起きたんです。たぶん、その……あなたが……来たから……。安心、しちゃって……その……あの……」
(なんだこの報告。言ってて恥ずかしくなってきた。言わなくてよかったかも)
顔が熱い。最後のほうはゴニョゴニョと小声になっていた。
はぁー……と長いため息が聞こえて、驚いて横を見ると英一がしゃがみ込んでいた。
「どっ、どうしたんですか!?」
「いや……うん。オメガってなかなか、アルファ殺しなんだね……」
「……どういう意味ですか?」
「いやいや、いいんだ。これ以上は舞い上がってしまうから」
「……?」
インターホンが鳴り、玄関のほうから元気な挨拶が聞こえた。庭師の花沢たちが来たのだ。
もうそんな時間か。
「お出迎えしてきます」
「あとはやっておくよ。──……ありがとう」
家事を途中までやっただけなのに、やたら真剣なお礼だった。
少し引っかかったが、踵を返して玄関に向かう。
以降、お互いに気まずいからか昨日のことが話題に出ることはなかった。
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