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8 柳は緑、花は紅
「照近さん」
肩をゆすられてハッと目が覚める。
俺は夢を見ていたらしい。
よほどうなされていたのか、英一が心配そうにこちらを見ていた。
手を握られていることに気付く。じっとりと汗をかいていて握り心地は良くないだろうに、英一は離す気がないようだ。
「昔の夢を……見ていました」
いや、あれは夢じゃない。記憶だ。現実にあったことなのだから。
「私で良かったら、聞かせて」
楽しい話ではないから、曖昧に濁しても良かった。けれど俺は、ぽつりぽつりと話し始めていた。夢の内容、現実のこと、記憶、後悔。
堰を切ったように止まらない。蓄えた澱が口からあふれていく。
自分がどれほど愚かなのか、彼に知って欲しかった。
「"もういい"──あの人の最期を、さみしい言葉で飾らせてしまったことが、ひどくつらい」
結納を終えた後、幸日は唯一のわがままで実家を出た。
見知らぬ土地で暮らす彼を支えていたつもりだったが、思い返せば俺が支えていたのは射場家の体裁でしかなかった。
オメガとして、アルファの家に仕えていた。
あの人が射場家の名誉のために生きて死ぬことを手伝った。
「英一さんが"選択の自由 がある"という話をしたとき、俺は怖くなったんです。『あの人を見殺しにすることを選んだのは、誰でもない俺かもしれない』って」
もっと、俺が意思を持って幸日と対話していたなら。
自分の人生を認め、彼の人生も認めていたなら。
違った生活があったのではないか。
あんな最期を迎えさせることもなかった。
静かに話を聞いていた英一が、寝返りを打って天井を見上げた。
「幸日さんがキミの手を振り払ったのは、憎しみからじゃないというのはわかっているよね」
「……はい」
これからも生きる俺への最大の餞 だったと、それくらい、わかっている。
あの人の言葉は冷たく、そして優しかった。
「なら、キミを呪っているのはキミ自身だ。もう楽になってもいいんじゃない?」
「………………」
俺が答えあぐねていると、英一は急に明るい声を出す。
「ま、そんな簡単なものじゃないよね──」
彼はこちらを向き、繋いでいる手を強く握った。
「──ただ、私はこの手を振り払ったりしないよ」
「……あなたって」
俺の欲しい言葉をたやすく言ってしまう。楽なほうへ流れてしまう心の弱い俺を、甘やかさないでほしい。
泣き笑いで睨むが、彼はものともせず微笑んだ。
「キミのためなら、ずるい男になったっていいさ」
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