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13 最終決戦【1】
永遠に指定されていた通り、ランチタイムが終わったころに店に着いた。扉にはクローズの札がかけられている。電話をかけると、中から出てきて迎え入れてくれた。
「掃除も終わってちょうどいいタイミングだったよ。夜のシフトが始まるまでは俺しかいないから、ゆっくりしてって」
挨拶もほどほどにテーブルへ案内される。
永遠は冷蔵庫から下ごしらえ済みのトレーを取り出した。予告通り、新メニューだという料理を作ってくれるらしい。
しばし待って提供されたのは、ラビオリのような料理だった。平ぺったい水餃子のようなものに、クリーム色のソースとミント、削りチーズが乗っている。
冬に似合うおいしそうな見た目で、香りは食欲をそそる。
「これは何?」
「チャルソンス」
「何?」
「具が詰めてあるパスタだよ。食べてみて」
そう言いながら、永遠は俺が持参した弁当をレンジで温めていた。使い捨て弁当箱の中には昨夜作ったマクルーバがある。
彼を待って料理が冷めても良くないと思い、声をかけて先にいただくことにする。
英一と共にフォークを手に取り、チャルソンスを口は運ぶ。
「甘い!?」
食べてみると、具が甘くて驚いた。じゃがいもとレーズンと、砂糖の柔らかな甘味。ラム酒やシナモン、ハーブの風味が大人の味わいを作り出している。
「イタリア人もあんま食べない郷土料理なんだって。レシピ見かけて作ってみた」
「変わったレシピを見ると作らずにはいられないの、親子だね」
英一がおかしそうに笑って感心していた。
「英一さん、食べれそう?」
「こういうの好きだよ。永遠くんも、なんでも上手に作るね」
俺はもう一口食べ進めて、うんうんと頷く。
「頭が混乱するけど、バターソースが合ってて美味しいよ」
「あとでレシピ送るから、作ってみて。てか母さん、このマクルーバってやつ、ガチで美味い」
俺の料理が褒められると、英一が自分のことのように嬉しそうにしていた。
楽しい時間はあっという間だ。おまけのデザートとコーヒーも胃に収まり、幸せな満腹感に包まれている。
ディナータイムの準備もあるだろうからそろそろ帰ろうか──英一と目で会話してから、永遠を見やる。
「永遠には伝えておこうと思うんだけど……これから、おばあちゃんに会いに行ってくる」
手元を見ていた永遠が顔を上げた。すぐに返事は帰ってこず、半開きの唇が言葉を選ぶように震える。
「やっぱり、何かあったんだ」
絞り出された永遠の独り言は、俺をわずかに動揺させた。
食事しながらの会話では、永遠は今の俺たちを取り囲むトラブルについて知らないように思えた。だから安心していたのに。
「やっぱりって、どういうこと?」
「ばあちゃんちにいっても、いないと思う」
「いない?」
「怖がらせると思って言わなかったんだけど……ばあちゃんいま、俺たちが住んでたマンションに住んでる」
「えっ……」
意味を理解するのに数秒の時間を要した。
永遠と俺が住んでいたマンション。それはつまり、幸日と俺が住んでいたマンションでもある。蔵乃には住所だけを伝えていたあの家。
あの2LDKのファミリーマンションに、老婆が一人で遠方からわざわざ引っ越してきた?
「この前、急に電話があって、一階から荷物を上げるの手伝ったんだ。建物だけじゃなくて、部屋も俺たちが住んでたとこだった。さすがにちょっと怖くて……それきり連絡はとってないよ」
英一を見ると、彼も困惑している様子だった。
「会いに行く手間が減ったね」
なんて微妙な慰めだ。つられて下手な笑顔を作る。
身体から血の気が引いていくのを感じていた。めまいがする。
蔵乃の考えが読めない。不気味だ。
「英一さん。──母さん、ばあちゃんに何かされてるの?」
永遠から名指しされた英一は、肩をすくめて俺を見る。
俺はムッとして永遠を見た。
「ちょっと、永遠。どうして英一さんに聞くの」
「直接言っても、大丈夫って答えるだけでしょ。それに、英一さんは俺が必要ならちゃんと言ってくれそうだし」
「な、仲良すぎるでしょう……! 俺より……! なにこの……! 言いようのない感情……嫉妬……!!」
「落ち着いて、照近さん。違うんだ」
「何が違うんですかっ!」
「待って、俺のことで争わないで。ともかく、俺ももう大人になったんだから、できることがあるなら手伝わせてよ」
父親に似て、聡く頼もしい息子だ。けれどやはり、俺は彼が予想したような返答しか言えない。それが親だから。
「本当に、大したことじゃないから。永遠は自分の心配だけしていて」
子供を巻き込みたくない。
永遠は俺をじっと見つめ、それから英一を見た。
「あーあ、母さんを守るのは俺だと思ってたのにな」
英一と永遠は小さく笑い合う。
二人がこうまで結束できている理由がわからない俺は、きょとんとするばかりだった。
「ごちそうさま、永遠くん。かならず照近さんを無事に連れ帰ってくるからね」
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