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13 【7】
おそるおそるリビングへ向かう。
「──で、──でしょ。だから──」
「いや、──が──だろ」
かすかに聞き慣れた声の会話が聞こえてきて、泥棒のたぐいではないと安心して扉を開けた。
「あっ! おかえり!」
ナツメがいた。
柾諒も芙美也も、なんと永遠もそろってテーブルを囲んでいる。
「みんなでどうしたの?」
英一も何も知らなかったようで、俺と同じようにキョトンとしていた。
今日は珍しく妻子を連れていない柾諒が答える。
「昼ごろ、親父が念の為にって連絡くれただろ。
よっぽどのことはないと思ってはいたけど……心配になって、それぞれ連絡をとりあってたら自然と集まったんだ」
仕事や予定もあっただろうに、都合をつけてくれたらしい。
しかし英一からすると大袈裟に思えたようで、物珍しそうに兄弟の集合を見渡していた。
「心配って、人に会うだけだよ」
「でもさぁ、父さんだいぶ照近さんに熱心だから、相手の出方によっちゃキレて殴るかもしれないじゃん?」
「そー。誰が保釈金を払うかで話し合ってた」
冗談半分なのはわかっていたが、俺は苦笑しながらフォローを入れる。
「英一さんはそんなことしないですよ」
だが、隣の英一はウーンと唸って腕を組んだ。
「いや、ギリギリ、初めて人に手を出すかもしれないって思ってたよ」
「そんな……!?」
「今だから言うけど、キミは本当によく耐えてきたと思う。うん」
俺たちがコートを片付けている横で、ナツメがスマホをいじりながら言う。
「永遠くんなんて、父さんが刺されないか心配してた。どういう厄介婆さんなの?」
こう言われてしまうと身内の恥すぎる。
「って、待ってください。永遠がここにいるってことは……」
「うん。柾諒さんからぜんぶ聞いた。というか、二人を見送ったあとに俺から聞いた。大事にされてるのはわかるけど、蚊帳の外なんて嫌だよ」
年末の集まりに誘ったとき、主催である柾諒の連絡先を伝えていたことを思い出した。人見知りしない子とはいえ、なんて行動力だ。
柾諒も知らない人物からの連絡を怪しんだだろうに、柔軟に対応してくれたらしい。
「英一さん、ばあちゃんがごめん」
「やめなさい。キミが頭を下げたら、照近さんが困るだろう。永遠くんが責任を感じる必要はないよ」
「う……うん」
しょんぼりと肩を落とした永遠に、芙美也とナツメが明るく声をかけていた。二人からすると歳の離れた義弟だ。かわいいと思ってくれているのかもしれない。
「親父、解決したんだな?」
「概 ね」
曖昧な返答ではあったが、柾諒は父親を信じて頷く。
待っている間ずっと緊張していたのか、芙美也が背筋を伸ばしてソファに脱力した。
「無事も確認したわけだし、夕飯にしようぜ。照近さん、ごはん作ってよ」
「マジかよおまえ、照近さんは疲れてるんだぞ」
「だって俺、ぜんぜん照近さんの料理食えてない!」
柾諒と芙美也のやりとりは、いつ見てもしっかり者の長男と奔放な次男でおもしろい。
くすくすと笑って、俺はキッチンを見た。材料は足りるだろう。
「ぜひ作らせてください。腕が鳴ります」
そのとき、同時に永遠とナツメが手を挙げた。
「母さん、俺も一緒に作りたい」
「ねぇねぇ、僕も手伝っていい?」
親戚の集まりのときは嫁たちで台所に立つこともあったが、こうやって子と料理する機会は少ない。二人が名乗り出てくれたことが嬉しくて、いっそう張り切って微笑む。
「お願いします。何を作りましょうね」
料理を作る班と食卓の準備をする班に分かれて行動する。
キッチンとリビングで人が行き交いながら、わきあいあいとした空気が流れていた。
食材をかき集めて永遠とナツメと三人でカウンターに並び立つ。
肉の解凍や野菜の下ごしらえを協力し、レシピを口頭で共有した。
「永遠、みんなと初対面なのにもう馴染んでるね」
「最初はぎこちなかったけど、共通の話題ですぐ盛り上がったから」
「共通の話題?」
「もちろん、英一さんと母さんのことだよ」
「何話してたの……?」
ニコニコするばかりで返事をしない永遠を諦め、隣のナツメを見やるが同じような反応をされるだけだった。
一体、どんな話を共有したのやら。
■
六人で食卓を囲む。
狭いのを嫌ってダイニングテーブルとリビングテーブルに分かれてばかりだったから、ダイニングテーブルに全員が集まるのは初めてのことだった。
即席料理をつつき、味の感想や他愛のない雑談を交わす。
どんなときでもスマホをいじっていたナツメが、「あ」と声をこぼした。
「二人が会ってきたからかな。あの声のでかいアカウント消えてる」
おー、と兄弟たちが呼応する。
「え、良かったじゃん。アカ削除の操作なんて年寄りにはわかんないだろうし、ログは残るかもってさっき話してたとこだよ」
「どのみち拡散されたものは残るが……煽動者がいなくなれば炎上も落ち着いていくだろうな」
スマホを置いたナツメは、どこか元気がなかった。
「ほんと、ごめんねぇ。僕がうかつな投稿してたせいで足元掬われちゃって……」
まだ気にしていたらしい。
「ナツメさんも巻き込まれた側ですよ。あんな嫌な書き込み……俺たちが見ないようにしてくれてたんですよね。もう大丈夫ですから、動向を追うのはやめて、楽しい話をしましょうよ」
「……うん。ありがと」
「俺だって、南雲井家を巻き込んだ側ですから。みなさん、ご迷惑を……」
謝ろうとしたが、芙美也がパンと手を叩いて注目を集めた。
「楽しい話、しよう! みんな、この話題はもう飽きたでしょ」
柾諒が米をおかわりするため立ち上がりながら言う。
「親父、今年やりたいこととかないの?」
「私はあんまりねえ、新しいことは……」
「オジサンだ」
「おじさんだもの」
「照近さんは?」
「うーん……交換日記とか?」
「親父と? なんでまた」
「お互いを知ろうとすることって、大事だなと思って……」
「そんで交換日記なの、昔の人すぎる」
「キミがやりたいならやるけれども。交換日記ってどこで買えるの?」
「昔、100均で見ましたよ」
カシャ。スマホのシャッター音が聞こえた。ナツメがテーブルに背を向け、スマホを掲げて全員が入るように自撮りしている。
「なんで急に撮ってるんだ?」
「SNS活動控えてたんだけど、また再開しようと思って」
「おい、痛い目見たんじゃないのかよ」
「それはそれ、これはこれ。武器は使い方次第! ちゃんと許可求めるから、みんなのこと発信させてよ。僕のすばらしい生活をヤラセとか言いやがった虫ケラどもを羨ましさの涙で溺れ死なせてやる」
まだ気にしていた、というか、まだ根に持っていた、のほうが正しかったようだ。
「なんだこいつ、怖いな……」
あきれ顔をする兄たちと苦笑する義弟に挟まれて、ナツメも生き生きしている。
英一がネットではしゃぎすぎないように、と釘を刺していた。
そんな光景を眺めながら俺も箸を進める。ありあわせの料理なのに、三人で作ったからか、みんなで食べているからか、特別美味しい。
賑やかで楽しい夜だった。
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