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15 【2】 *R18

 彼の手が俺の頬に添えられた。 「身体が冷たい。一体何をしていたの?」 「ヒートを抑えようと……」  風呂場でしていたことを正直に打ち明けると、あきれられた。 「最近様子がおかしかったけど、ヒートを隠してたってこと? 毎回?」  同じ屋根の下で暮らしている以上、俺の奇行は筒抜けだ。その頻度も。 「そのうち治まると思ってたんです……」  そっと身体を抱きしめられた。服越しの体温が俺を溶かす。  腕の中にいると、とくとくと心臓の音が聞こえてくる。英一はわずかに緊張しているようで、いつもより鼓動が早い。俺と同じだ。 「どうして言ってくれなかったの。夜いつも普通に寝るから、年甲斐もなく誘うものじゃないと思っておとなしくしていたのに」  え、と言葉に詰まる。お互い似たようなことを考えて遠慮しあっていたのか。 「どうしたらいいか、わからなくて」 「相談してよ」 「でも、こうなるじゃないですか」 「……問題ある?」 「…………ないですね」 「ないよね」 「なかったです」 「うん」 「はい」  杞憂とは、こういうことを言うのか。 「触ってもいい?」  頷きを返せばうやうやしく服を脱がされ、隠すものがなくなった姿を見下ろされる。  俺の性器はとうに硬くなっていて、あまり見られると恥ずかしい。視線から逃げるように身を起こし、英一の眼鏡を外す。取り返そうとする彼から眼鏡を遠ざけ、脱衣を手伝った。 「見えないよ、返して」  目を細めている英一に身体をまさぐられる。裸なんだからそんなところに隠しているわけがないのに。  くすくすと笑いながら、サイドテーブルに置いた眼鏡を取って彼にかけてあげた。  じゃれあいながら脚を開かされる。秘所はすでに濡れていて、すんなりと指を受け入れる。  準備が進む中、手探りで英一の性器に触れた。発情した身体は早くそれが欲しくて仕方がなくて、思わせぶりに扱く。  俺の内側は切なく疼き、奥を撫でられるだけで貪欲に指を締め付けていた。充分に欲情していることは伝わっただろう。  指が抜け出ていく。彼は避妊具の装着も手早く済ませると、ずいと身体を寄せてくる。俺の脚を支えながら、ほぐれた後孔に自身の先端を当てがった。 「──っ……! ぁ……!」  待ちわびた挿入に、感嘆の声をあげる。  繋がっただけで動いてもいないのに、あまりの気持ち良さにビクビクと腰が跳ねた。 「きつくない?」 「は……っ、……っ、う、うごいて、大丈夫、です……っ」  緩やかにピストンが始まる。反応を探る視線を感じたが、はぐらかす余裕もなかった。情けない顔で鳴いてしまう。 「~~~っ! あぁ……!」 (なんかもう、全身が喜びすぎてて意味わからないっ……頭、ふわふわする……っ)  自分がどれほど欲求不満だったかを充足感の大きさが示していた。  英一にしがみつき、恥じらいながらも求めてしまう。 「つらくない?」 「ふぅっ、ぅ……! き、気持ちいい、です……っ」 「よかった」  英一の口数は控えめだ。彼もアルファの性衝動に照れている。  言葉がなくてもわかりやすかった。息づかいで快楽を得ているのもわかるし、まなざしから、愛撫から、俺を愛おしく思ってくれていることが充分すぎるほど伝わってくる。  彼の肩に手を当てた。指を滑らせて鎖骨、首筋、その輪郭をゆっくり撫でる。触られるがままになっている英一に思わず笑みがこぼれた。  つられて彼も表情を柔らかくして、その手で俺の指を絡めとる。  繋いだ手に、ぎゅうと力を込め返した。 「っ、ぁ……!」  深く突き入れられ、快感に背をしならせる。声が抑えられない。  何度も名前を呼び、快楽を分かち合う。 「えいいち、さんっ……」  絶頂をたぐり寄せる最中、俺は言うか言うまいか悩んでいたことに答えを出した。言おう。もう、我慢できない。  震える腕で身体を支え起こし、接合が解けるのも構わずうつ伏せに姿勢を変えた。  襟足に手を当ててうなじを晒す。 「──抑制剤が効かないんです。あなたと暮らしていると……! これじゃマトモに生活できない、だから……」  見開かれた英一の目に本能の光がぎらつく。しかしすぐには噛みついてこない。「うーん」とためらうような声を出し、あごを撫でていた。 「そこをもう一声」  俺は大きく動揺し、間抜けな顔をしてしまう。勇気を出して言ったのに、もう一声ってなんだ。八百屋の値引き勝負じゃないんだぞ。 「な、なんで」 「それじゃあ仕方なく噛まれるみたいじゃない。そうなの?」  そんなわけない。  茹った頭の中でぐるぐる思考が渦巻く。なんて言えばわかってくれるんだ。なんて……。 「……噛んで欲しいんですっ、俺がっ! あなたに! こんなに好きなのにつがいじゃないからっ、勝手に発情しちゃうんです!! あなたのアルファにしてもらうまで、セックスのことしか考えられなくて困ってる!!」 「大盤振る舞いすぎる」  英一が真っ赤な顔を手で覆い、悶えていた。言わせたくせに!  初めからわかっていた。ヒートを制御できないのは、俺が素直にならないからだ。欲しいものを欲しいと言わないから。  俺と英一の立場が逆だったら、今ごろ彼のうなじはズタズタだ。  さっき俺がうなじを見せたとき、衝動が瞳に垣間見えた。日常の中で──たとえば俺の髪を切っているときも、同じ目をして、でも何でもないかのように振るまっていたのだろうか。  そういうところが好きなわけだが、今ばっかりはその理性が憎らしい。  ヒートを言わない俺も俺で、お互いに相手を尊重するために本能から目を逸らしすぎていた。  そんな不毛なすれ違いも、もう止めだ。 「あ」  額に手を添えられ、あごを引くように促された。  次の瞬間、うなじに圧迫を感じる。  痛くない。そっと口付けるような優しい《噛み》。  ああ、これは。噛まれるとはこういうことなのか。  弱点を差し出し、愛情に征服される喜び──強い恍惚に目がくらむ。  歯が離れたそばから力が抜けて、枕へ顔から沈んだ。  尻を突き出すような姿勢で放心していると、英一が腰を押し付けてくる。硬い熱が当たっているのを感じて、いやしく喉が鳴った。  は、は、と短く息を吐きながら、左手を背に回して自ら尻たぶを開く。 「続き、してください……っ」 「まったく、キミは……。そんなの、優しくできなくなってしまう」  後孔にそれが入ってくる。肩をつかまれると性急にピストンが始まり、愛おしげに名前を呼ばれた。 「照近さんっ……!」 「っ、ぁ、あっ、英一さんっ、あぁっ!」  つがいを認めた肉体は悦びに震え、夢中でシーツを握りしめる。枕に唾液の糸が引いた。  後ろが見えないため英一の表情はわからない。だからかずっと声をかけてくれる。俺は呂律が回らないまま受け答えるのだった。 「……っ、ふぅう……っ!」  英一が呼吸を乱す。  抽迭の調子が早まるのを感じて、俺は喉を鳴らして期待してしまう。 「出してっ、出してくださいっ」  ゴムをしていることをすっかり忘れて、彼の精を欲しがった。  背後から抱き寄せられ、うなじを甘噛みされる。そして彼が俺の中でイくのを感じた。  吐精の最中もやわやわと歯を立てられている。アルファの本能がそうさせているのだろう。  耳元にある彼の荒い息遣いを、うっとりと聞いていた。 (これ……つけてなかったら、孕んでたな……)  密やかに俺もイきながら、満ち足りた心地に浸る。

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