55 / 56

第55話 ようこそ日向野家へ。

───次の日曜日。 日が暮れる頃、俺は静夢と緋美を迎えに、最寄駅まで歩いた。 とりあえず両親には、『友達が来る』としか話してない。 「転校早々、泊まり合えるような友達ができるなんて…!」と、両親はとても喜んでいた。 恋人って知ったら、ビックリするかな…。 恥ずかしいな……どのタイミングで言えばいいのかな……。 そんなことを考えているうちに、駅に到着した。 そろそろ二人の乗った電車が着く頃だ。 程なくして、静夢と緋美が改札から出てきた…… ……んだけど、 静夢は、ふりふりの襟がついたシャツにダブルボタンのベスト。その上から、襟の大きな長い上着まで羽織っていて………俺は一瞬、言葉を失った。 光「……えっ、静夢!貴族みたいじゃん!」 月「御両親に初めてお目にかかるワケだし、正装がいいかなって!」 これ正装なの?なんの正装?? Tシャツにスウェット姿の緋美との差が凄い…! 光「カジュアルで良かったのに、でもオシャレしてきてくれてありがとう。じゃあ、行こっか。」 最寄駅から家までは、歩いて10分もかからない。 なのに、ハロウィン先取り貴族と、大柄な寝巻き男と、地味シャツの俺が並んで住宅街を歩いていると思うと、物凄く家が遠く感じた。 家に着いて、二人を見た両親も、やっぱり一瞬目を丸くして言葉を失った。 母「…いらっしゃい!静夢くんと、緋美くんね。自分の家だと思って、ゆっくりして行ってね。」 父「ど、どうぞどうぞ、狭いところですが…。」 月「お父さま!お母さま!初めまして!月城静夢です。こーくんとお付き合いさせてもらってます!どうぞよろしくお願いします!」 うわっ、普通に言った!! 母「えっ!お友達付き合いじゃなくて??」 月「はいっ!お友達でもありますが、恋人です!」 父・母「ええ〜!」 母「光が恋人を連れてくるなんて…初めてよ!ビックリだわ〜」 父「そうか〜、光。お前も隅に置けないなぁ〜」 いきなり知られてしまって、恥ずかしさで顔から火が出そうになったけれど、意外と両親がすんなりと受け止めてくれたので、少しホッとした。 月「これ、お口に合うかどうかわかりませんが…」 静夢は手作りのマフィンを持ってきてくれていた。 これほど本気の「お口に合うかわからない」というセリフを、俺は今まで聞いたことがないなと思った。 母「まあ、ありがとう!キレイに出来てるわね〜!お菓子はよく作るの?」 月「はい、自分はあの…アレルギーが多くて、食べられる物が殆ど無いんですけど、作るのは大好きで!よく作ります!」 母「そうなの、アレルギー、大変よね…。」 月「あ、でももう直ぐ治るので!治す方法見つかったので!」 月「ねっ、こーくん♡」 あああああ…治す方法考えちゃうからヤメテ… 母「緋美くんも仲良くしてくれてありがとうね。賑やかで嬉しいわ〜」 緋「仲良くな…、いえ、仲良しっす。光先輩はおれを、弟のように可愛がってくれて…。」 緋「あの、弟さんは?」 あれっ?こいつの方が弟襲おうとしてない? 静夢を抱けないからって、 弟狙ってそうで怖いんだけど… ドタドタ……! 弟「こーにぃ、お友達来たの??」 妹「わあ、ハロウィンしてる!」 月「ハロウィン?どこ?」 妹「ねえあっちでハロウィンごっこしよ!」 静夢は妹に腕を引っ張られ、連れて行かれてしまった。 弟「お兄ちゃん、遊ぼ!」 緋「お兄ちゃん?俺、弟だよ?」 弟「どっちでもいいよ!トランプしようぜ!」 緋「俺、手加減するタイプじゃないけど、いいの?」 弟「いいよ!俺が勝つから!」 緋美も弟に連れられて行ってしまった。 良かった、すぐに家族に馴染んでくれて。 こうやって、お互いの家族が仲良くなっていくのは嬉しいな。 母「良かったわね〜あんな可愛い恋人ができて。服装にビックリしちゃったけど、とっても素直な良い子だってわかるわ。大切にしなさいよ。」 光「…うん……。」 親とこういう話をするのは、本当に生まれて初めてだった。 気恥ずかしいけれど、どこか誇らしくもある。 うまく言葉にはできない、くすぐったいような温かさが、胸の奥にじんわりと広がっていった。

ともだちにシェアしよう!