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第10話
家の中にあげると、茶をひとつ出した。
「ねえ、なんでこんな家に住んでるの? お兄さんいい家の人なんでしょ?」
「今は山にこもって修行している」
「修行って?」
「いろいろ」
「ただの引きこもりじゃなくて?」
そう言って悪戯を仕掛けようとする子供のような笑顔を見せた明然に、明紅は額を小突いて「失礼だぞ」と言って笑う。
「明紅兄さんはとても偉いんだからな。それに君よりずっと年上だ」
「ふーん。でも、ずっと山にこもっているなら僕より世間知らずだ」
「うーん、それは否定できないな」
そう言って笑うと、明然はにんまりとした満足そうな笑顔を見せた。
「ところで、明然。君のお母さんは正妻ではないだろう?」
「なんでそんなこと聞くの?」
「身なりだよ」
明然は自分の服装を見て少し切なそうな顔を見せた。
「やっぱりわかる?」
「分かる。妾の子か?」
「妾ってものじゃないよ。使用人の子供。お母さんは僕を生んでどこかに逃げたんだ」
「そうか」
腕を組みながら考える。
もし、胡明宇が新しい王朝を立て、帝に即位した場合、彼は継承者になる可能性はあるが、一番低いところにいるだろう。
そして、この性格であれば帝になろうという野望を抱きそうには見えない。
しかしどうだ?
我々と同じ神通力、もしくはそれに近しいものを持っている上に、裏表のない性格。人に愛される術を持っている。
この少年が良からぬことを行うものを排除し、善良なものだけをそばに置くことができれば、民の求める政治を全うに行えるだろう。
そんなことを考えていたら、明然が「明紅兄さん」と言った。
「ん?」
「なんか悪いこと企んでない?」
「君なら僕がなにを考えているのか、分かるんじゃないのかな」
「分かる。僕を皇帝の地位につかせようとしてる」
心を読む力は我々に等しい。それならば、考えていることはすべてお見通しということ。
そして、それは明紅も同じだった。
「あながち悪い話だとは思ってないでしょう?」
「まあね。そりゃあ、クソ兄貴たちを見返せるわけだから」
側室の子でもなく、捨てられたとなれば過去を見ようとしなくてもどうなるのか分かる。
いつか大きくなったときに「民のために」と思えるようになればそれでいい。今は見返したいという気持ちだけでいいのだ。
「明然。覚えておいて」
「ん?」
「僕が君を必ず皇帝にする」
真剣で熱い明紅の眼差しに応じるように、明然は「約束だよ」とまっすぐな目で見つめ返した。
その瞬間、確かに未来が見えた。
皇帝に即位した未来が。
玉座に座る大人になった明然が。
その隣には、明紅が静かに立っていた。
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