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第3話 終わりと始まり
【登場人物】
・青山コウタ(あおやまコウタ)
鉄道会社の車掌。
最終の新幹線を逃し、響の家に泊まることに……。
・響ワタル(ひびきワタル)
アイドルグループ FiVE DrinKのメンバー。
青山に惹かれ始めている。
心の奥には、誰にも言えないものを抱えていて……。
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目を閉じると、いつも同じ夢を見る。
明るくて騒がしい部屋。
怒鳴り声。
うまく出来ない自分。
逃げようとしても、
足が動かない。
――まただ。
息が苦しくて、
喉がひくひく鳴る。
目を開けても、
まだ夜だった。
手の震えが、止まらない。
思わず、
彼の名を口ずさむ。
「……コウタくん……」
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「……ひびき……」
「ひびき……」
「コウタくん……?」
静まり返る、
品川駅のホーム。
「寒いから、そろそろ行こっか。」
「あ、ごめん」
「で、本当に響の家に行って良いの?」
「うん。来て欲しい……」
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
改札を抜けて、
タクシー乗り場に向かう二人。
嫌な記憶を思い出したばかりで、
響の手の震えは、まだ止まらない。
「ひびき、大丈夫?」
「ちょっと……嫌なこと思い出して……」
「手……貸して」
「うん……」
響の手を、青山が優しく握る。
「え……? コウタくん……いいの?」
「ひびきには、
これが一番効くんじゃないの?」
その言葉に、胸の奥がきゅっと鳴った。
“効く”なんて。
そんなのずるい。
分かってる。
分かってるのに。
握られた手から、
少しずつ、
だが確実に、青山の温度が伝わってくる。
さっきまでの震えが、
嘘みたいに、少しずつ引いていく。
「……やっぱり、
コウタくんの手、あったかい……」
思わず、甘い声が漏れていた。
幸せって多分、
こういうことなんだろうなぁ。
と、少し分かったような気がした。
手も、心も、
少しずつ青山に温められる響。
次第に不安はどこかへ行き、
幸せな気分が、響を包み込んでいた。
タクシーに乗っても、解けない手。
響が青山の方を向くと、
必ず、笑顔で返してくれた。
手も心も、
もう青山から解けなくなっていた。
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大通りから逸れた、静かな住宅街。
タクシーはゆっくりと進み、
一棟のマンションの前に止まった。
最近建ったであろう、
綺麗なマンション。
響はエントランスに入り、
カードキーをかざす。
小さな電子音が鳴り、
自動ドアが開いた。
「ここが、オレの家……」
表札は無く、
あるのは“506”という部屋番号だけ。
響は、さっきのカードをもう一度かざす。
短い電子音とともに、
ドアのロックが外れた。
響が先に入り、
青山を招き入れる。
「どうぞー」
「……おじゃまします……」
その直後、
響は振り返り、
青山を抱き締める。
「……コウタくん……。
ごめんね……、ありがとう……」
「響が謝ることは、なんもないよ」
青山は、そっと背中に腕を回した。
「オレが残りたかっただけやから……大丈夫」
ゆっくりと、抱擁がほどける。
近すぎる距離で、
二人は見つめ合った。
――好き。
その言葉は、まだ言えなかった。
でも響は、
ただ口元だけをそっと動かした。
青山の口元も、小さく動いた。
――〇〇〇〇〇。
(え?何?)
聞こえたかも、と思った響は、
急に恥ずかしくなり、
「上着はそこに掛けて」
と言うと、
青山を置いて廊下を進んで行った。
ほのかに、
カーネーションの香りがする廊下。
廊下を抜けると、
リビングに出た。
思っていたより、
ずっと静かだった。
白を基調に、
黒とグレーが控えめに配された室内には、
余計な物がほとんどない。
生活感はあるのに、
騒がしさがない。
そしてここも、
カーネーションの香りがする。
「……雰囲気いいね。
カーネーションの香りもするし、
落ち着く……」
青山がそう呟き、深呼吸をした。
「なんで、カーネーションって分かったの?」
「オレもカーネーション好きだから」
響はびっくりした。
それと同時に、褒めてくれたことへの喜び。
そして、
好きな花が一緒だということが、
嬉しかった。
「先、シャワー浴びて」
「あ、ありがとう」
青山がシャワーを浴びている間に、
少し散らかっている寝室を片付け、
着替えとタオルを用意する。
「着替えとタオルは、
洗濯機の上に置いとくから使って」
「うん。ありがとう」
「シャワー上がったら、お水かお茶、飲む?」
「うーん……。お水がいいかな」
「分かったー」
「ありがとう」
響は、お風呂上がりにすぐ飲めるよう、
ペットボトルのミネラルウォーターを
冷蔵庫から出し、テーブルの上に置いた。
響がスマホの写メを眺めている。
もちろん、青山との写メ。
青山との写メが、
精神安定剤かのように。
すると、
リビングのドアがゆっくり開いた。
首にタオルを掛けたまま、
青山がリビングに入ってきた。
歩きながら、
濡れた髪を拭う。
――ドキッ♡
響の胸の奥が、
不意に跳ねた。
慌てて目を逸らし、
スマホをテーブルに置く。
「水、ココに置いてるから飲んで……」
「ありがとう。めっちゃ喉乾いてたんだ」
そう言いながら、
青山は水を手に取り、
勢いよく飲み始める。
相当、喉が乾いていたのであろう。
ゴクゴクと水を飲む青山。
その姿を、
響はチラッと見る。
髪を拭いながら、
ペットボトルの水を飲む青山の姿。
思わず、見惚れる響。
――ドキッ……ドキッ……。
響の胸の奥が、
さらに跳ねた。
胸が跳ね、
我に返る響。
「オ……オレもシャワー浴びてくる」
「うん」
響は、逃げるようにリビングを後にした。
扉に背中を預け、
手を胸に当てる響。
(まだ、ドキドキしてる……)
髪を拭いながら水を飲む青山の姿が、
頭から離れない。
(なんだ、あの色気。トロけそうな色気。
抱かれたい……。
コウタくんに、抱かれたい……。)
「はぁ……」
と、ため息をつき、脱衣所へ向かう。
服を脱ぎ、
鏡を見た響。
いつもは鏡を見ない。
見たくない。
だって、
暗く寂しい顔に見えるから。
でも、
今そこに映るのは、
明るく穏やかで、優しい顔。
これが、
青山と過ごした時間の中で生まれたものだと、
響は分かっていた。
“好きだ。”
と思った。
そして同時に、
手放したくない存在になったということを。
いつもは、
いやいやシャワーを浴びている。
目を瞑ると、
嫌なことばかり思い出すから。
身体を洗っている時もそう。
でも、
今日は違った。
写メに収められている、
青山の笑顔。
食事会での青山の笑顔。
ホームで青山に抱き締められた時の温もり。
青山が手を握ってくれた時の温もり。
そして、
青山の安心する声。
その全てが、
心地よくて気持ちいい。
響はシャワーを浴び終え、
いつものように濡れた髪を拭きながら、
リビングのドアを開けた。
「おかえ……り……」
青山がこちらを見て、
止まった。
「どしたの?」
「い、いや。なんでもない」
身体の向きを響の方から逸らす青山。
「えー?」
「オレも喉乾いたから、水飲も」
そう言って、
テーブルにあった飲みかけの水を手に取る。
それは、青山がさっきまで飲んでいた水のペットボトル。
それに気付いた青山。
「あ……それ……オレの……」
青山は手を伸ばすが、
間に合わなかった。
「ん?」
さも、
さっきまで自分が飲んでいたかのように、
響は青山が飲んでいた水のペットボトルに、
そのまま口をつける。
その姿を、
青山はただ見ていることしかできなかった。
「あー。美味しかった……」
チラッと青山を見る響。
目が合い、
目を逸らす青山。
身体の中が熱くなっていく感覚が、
青山を襲う。
空になったペットボトルを見つめる青山。
そして視線は次第に、
ペットボトルの飲み口へ。
響は何事も無かったように、
キッチンへ行った。
すると、
冷蔵庫の中からもう一本水を取り出し、
飲みながら青山の横に座った。
「はいっ」
飲みかけの水を渡してくる響。
青山は、
ペットボトルの飲み口だけに視線がいく。
「あり……がとう……」
唾を飲み込み、
ゆっくりと口をつける。
……ゴク……ゴク……。
「美味しい?」
「……うん……」
青山にもたれかかる響。
「寝よか?」
「……そうだね……」
「オ、オレは……ソファで寝るから……」
「ダブルベッドだから、
二人で寝ても大丈夫だよ」
「さ……すがに……それは……」
「いいじゃーん、寝よ?」
「緊張して、寝れないと思う」
「そっか……。」
悲しげな顔をする響。
だが、青山が来てくれただけでも良かった。
と思いそこは青山の言う通りにしようと思った響。
「じゃあ、毛布持ってくるね」
だが、背中と表情は正直だった。
悲しそうに、
寝室へ毛布を取りに行く響。
あからさまに悲しい顔をし、
青山に毛布を渡す。
「はい……」
「ありがとう……」
(そんな顔するなよ……。
こっちが辛くなるやん。)
そして、
悲しさをそのままに、
響は静かに寝室へ戻って行った。
バタンッ。
寝室のドアが閉まる。
響は、
ベッド横にあるチェストの引き出しを開け、
あるものを取ろうとする。
だが、
手が止まった……。
(今日は、コウタくんがいるから……。
今日は飲まずに寝よう。)
引き出しを閉め、
響はベッドに入り、
横になる。
青山が隣の部屋にいる安心感からか、
響は次第に眠りにつく。
だが……、
響の心の中に巣食う悪魔は
彼を逃さなかった……。
響の幸せな気持ちを、
いとも簡単に握りつぶすかのように……。
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「ねぇ! パパ! ママ!できたよ!!」
「出来て当たり前でしょ!」
「なんだ、そんな事か」
「そんな事で一々言いに来ないで!」
「なんでそんな事も出来ないんだ!」
「なんで? ちゃんとしてよ!」
「なんで?」
「なんで?」
「おまえは何度言ったら分かるんだ!」
「言われた事さえやってれば良いの!」
「何度言ったら分かるの!?」
「やめて!
絶対外でそんな事しないでよ!」
「所詮、顔だけでしょ?」
「女からキャーキャーキャーキャー言われて、
良いよなぁ」
「アイツといたら女寄って来るじゃん」
「ねぇ、金貸して」
「顔だけで、なんも出来ないんだね」
『それ、絶対やめて…………。』
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「……うぅ……、……うぅ……、
ごめんなさい……、ごめんなさい……」
眠りの底で、
何度も謝る響。
そして、
三角座りをし、
頭を抱え込み、
閉じこもる響。
青山は、
響が悪夢にうなされていることなんて、
微塵も思っていなかった。
(一緒に寝てあげれば良かったかなぁ?
いや、さすがにダメだろう。でも……。)
色々考えて、
眠れない青山。
すると、
寝室の向こうから何やら、
微かに声らしきものが聞こえてきた。
「うぅぅぅ……。うぅぅぅ……。
ごめんなさい……。ごめんなさい……。」
その声は、
次第に大きくなっていく。
はっきりと聞き取れた瞬間、
青山は異変を感じた。
毛布を投げ出し、
寝室へ一目散に向かって行く。
ノックをする必要もない。
ガチャッ
バッ!
寝室のドアを開けると、
大量に汗をかき、
身体を捩らせ、
唸る響がいた。
青山は、
どうなっているのか分からず、
咄嗟に震える手をそっと包み込み、
響の名前を呼ぶ。
「ひびき!ひびき!」
――遠くから聞こえる、
青山の声。
「ひびき……。ひびき……。」
――誰……?
――コウタくん……?
微かに、
聞き慣れた声がする。
響は、
ゆっくりと目を開けた。
「……ひびき……」
「……コウタくん……」
憔悴しきった響の身体を、
青山は何も言わずに抱き締める。
今の二人に、
言葉なんて要らなかった。
青山は、
響の頭をゆっくりと撫でる。
そのまま隣に腰を下ろし、
抱き寄せて、
手を握った。
肩を、
静かに、何度もさする。
響はぐったりと、
青山に身を預ける。
「……ありがとう……」
「……ごめんな……」
「水、持ってくる」
響から離れようとする青山。
「行かないで!
このままでいて……」
震える手で、
青山を引き留める響。
青山は足を止め、
ベッドに戻り、
響の隣に腰を下ろした。
響は、
ゆっくり深呼吸をし、
口を開いた。
「オレ、子供の頃からさ、
あれするな。
これするな。
そんなの出来て当たり前でしょ。
なんだ、そんな事か。
そんな事で一々言いに来ないで。
なんでそんな事も出来ないんだ。
なんで?
なんで?
おまえは何度言ったら分かるんだ。
言われた事さえやってれば良いの。
何度言ったら分かるの!?
やめて!
絶対外でそんな事しないでよ!
って親に言われてさ。
学校に行っても周りから、
所詮、顔だけでしょ?
女から、キャーキャーキャーキャー言われて、
良いよなぁ。
友達になろ。
って言ってきたヤツも、
所詮、アイツといたら女寄って来るじゃん。
とか、
金貸して。
とか。
挙句の果てに、
顔だけで、なんも出来ないんだね。って」
声を震わせ、
涙を流す響。
「色んな人に、
『それ、絶対やめて』
って言われてさ。
もう無理なんだよね……」
青山の心に、
鋭いナイフが、
色んな方向から突き刺さった。
痛い……。
苦しい……。
そして、
悔しい……。
響の痛み、
苦しみを聞き、
響を強く抱き寄せる。
優しく、
でも、しっかりと頭を撫で、
そして……、
一緒に泣いた。
「よくここまで頑張った……。
響は、よく頑張ってるよ……」
「……コウタくん……」
「もういい……。
もう何も言わなくていい……」
青山は、
響が落ち着くまで、
ずっと抱き寄せ、
頭を撫で続けた。
「ありがとう……。もう大丈夫……」
「大丈夫じゃないだろ。
今から一緒に寝よ。
ちょっと毛布と水、
取りに行きたいけど、
それは大丈夫そう?」
「いいの……?」
頭を撫でながら、
おでこに唇を当てる。
「いいに決まってるじゃん」
「ありがとう……」
響はまた目を潤ませ、
青山を強く抱き締める。
「スグ戻ってきてよ……」
「スグ戻る」
ベッドから離れる青山。
すると、
足に何かが当たった。
ガタッ。
ガサガサ……。
床に転がったゴミ箱。
青山は咄嗟に、
溢れたゴミを拾い、
ゴミ箱に捨て直す。
だが、
散らばったゴミは、
薬の包装シートだらけ。
すると、
見たことのある薬の名前が、
目に入る。
青山は、
何も言わず、
黙って散らばった薬の包装シートを
ゴミ箱に捨て、ゴミ箱を置き直す。
知らないフリをし、
スッと立ち上がり、
水と毛布を取りに行った。
青山は寝室に戻り、
毛布を掛け、
水を置き、
響の横に寝そべる。
「ひびき……、手、貸して……」
「うん……」
そっと手を繋ぎ、
並んで横になるフタリ。
コトバは要らない。
繋がっている。
ココロもカラダも。
それだけでフタリは、
お互いのココロを落ち着かせた。
響が眠るまで、
青山はずっと、
響の顔を見続けた。
響が寝静まった頃、
青山もウトウトし始め、
いつしか眠りについていた。
━━━━━━━━━━━━━━━
ワン、ツー、スリー、フォー、
ファイブ、シックス、セブン、エイト。
よろける響。
「ごめんなさい。
もう一度、最初からお願いします」
ワン、ツー、スリー、フォー、
ファイブ、シックス、セブン、エイト。
同じ所でよろける響。
「すいません!
もう一度お願いします!」
━━━━━━━━━━━━━━━
はっ。
目を見開く響。
新曲のダンスレッスンの夢を見ていた。
同じ箇所で、
何度も間違える夢。
嫌な夢だ。
(次のレッスンでは、
うまく出来るように頑張ろ。
コウタくん、力を貸して……。)
横で添い寝してくれている青山に、
抱きつく響。
青山が目を覚ました。
身動きが取れない。
少し頭を起こしてみると、
響にしっかりと抱きつかれていた。
だが、
静かに眠っている響を見て、
(これで良いんだ。)
と思い、
響を抱き寄せ、
また眠りについた。
――朝9時20分。
枕元にある、
響のスマホが鳴る……。
響が目を覚ます。
すると、
目の前に青山の顔があった。
腕を回され、
自分が抱かれていたことを知った。
スマホのアラームを止め、
青山の顔を見つめる。
(可愛い……。)
響は、
少しずつ青山の顔に近付く。
唇にキスしようとする。
だが、青山の唇から逸れ、
ほっぺたに触れる響の唇。
「コウタくん……。ありがとう」
青山は起きない。
響は起こさないように、
ゆっくりと青山の腕を振りほどく。
響は、
ダンスレッスンに向かうため、
身支度を整える。
時折、
寝室へ行き青山を起こすが、
青山は起きない。
「困ったなぁ……。」
「あ……」
青山が起きなくて困っていたところ、
ある物を見つけ、
いいことを思いついた。
メモを書いて、
家を出る響。
――11時10分。
「うぅーー。おは……、ん?」
腕を伸ばし、
目を覚ます青山。
だが、
隣に響はいない。
寝室を出て、
リビング、
洗面所を探すが、
響はいない。
水を飲もうと、
リビングのテーブルに
手を伸ばそうとした時、
一枚のメモ書きとカードが目に入った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
コウタくんへ
昨日はありがとう。
コウタくんは、
ゆっくりしていってね。
オレは、
レッスンがあるから先に出るね。
家を出る時は、
このスペアのカードキー使って。
カードキーは、
また今度会った時に
返してくれれば良いから。
いってきます
ワタル
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「なんか、悪いことしちゃったなぁ……。
とりあえずLINEしとこ」
〈おはよう。さっき起きてメモ見たよ。
レッスン頑張って。〉
青山は身支度を整え、
響の家を出た。
━━━━━━━━━━━━━━━
--数日後
仕事が終わり、
事務所に帰ってくる青山。
「あぁ、めっちゃ寒かったー」
「お疲れ様です」
堀越が不機嫌そうに、
声を掛けてきた。
「お疲れ様……。どした?」
「今から仕事なんです……」
「ふーん」
「ふーん。ちゃいますよ!
今日はクリスマスイブですよ!
ク、リ、ス、マ、ス、イブ!!」
「まぁ、まぁ、まぁ」
響とのLINEで、
クリスマスはどうするか、
という話にはなった。
でも、
LIVEが近くて毎日ダンスレッスン。
そして、
その合間には取材があり、
会えそうにないと、
響が凹んでいたことを思い出した。
仕事中切っていた
自分のスマホの電源を入れ、
貸与品の時刻表、
社用携帯電話、
モバイルバッテリー、
緊急時のグッズ等を
返却していく。
「青山さーん……」
力の抜けた声で呼んでくる堀越。
「どしたー?」
「めっちゃスマホ鳴ってますけどー」
「ん……?」
14件の通知……。
LINEを開くと、
一気に響の悲痛な叫びが届き、
強く胸が締め付けられた。
〈また失敗した〉
〈また怒られた〉
〈また泣いた〉
〈もう無理かも〉
〈声聞きたい〉
〈手を繋いで欲しい〉
〈抱き締めて欲しい〉
〈どこにいるの?〉
〈何してるの?〉
〈寂しいよ〉
〈コウタくんに会いたい〉
〈手を繋いで欲しい〉
〈抱き締めて欲しい〉
〈コウタくん〉
青山は次の勤務確認を済ませ、
走って事務所を飛び出した。
廊下を走りながら、
響に電話する。
でも、
響は出ない。
何度掛けても、
出ない。
〈仕事終わった?〉
〈終わった〉
〈響は今どこにいる?〉
〈家〉
〈わかった〉
青山は着替え、
急いで新大阪駅に向かい、
新幹線に飛び乗った。
青山は何度も電話するが、
響は出ない。
〈響、今何してる?〉
〈ベッドで横になってる〉
〈電話しない?〉
〈声聞いたら泣いちゃうもん〉
〈泣いても良いやん〉
〈やっぱりダメ〉
━━━━━━━━━━━━━━━
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
--506
ピッ……。
ガチャ……。
ダッダッダッ。
ガチャ……。
寝室のドアが開いた。
ともだちにシェアしよう!

