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第5話 それぞれのケシキ
fujossy決定稿
【登場人物】
・青山コウタ(あおやまコウタ)
鉄道会社の車掌。
優しく世話好きだが、誰かのためとなると周りが見えなくなることも。
《FiVE DrinK》
・響ワタル(ひびきワタル)
人付き合いが苦手で、繊細な性格。
青山には少しずつ素直な自分を見せるようになる。
・黒川ジン(くろかわジン)
クールでぶっきらぼうだが、実は仲間想い。
響のことを何かと気に掛けている。
・押部
とにかく笑い上戸。
メンバーのボケや言動にツボってしまうことが多い。
・緑川
マイペースで、天然気質。
真顔でしれっとボケを挟んでくる。
・楓
明るく無邪気で、人懐っこい性格。
周りの変化によく気付く、FiVE DrinKのムードメーカー。
・木田アスカ(きだアスカ)
FiVE DrinKのマネージャー。
面倒見が良く、メンバーを支える姉御肌。
青山とは中学時代からの同級生で、元恋人。
━━━━━━━━━━━━━━
事務所に用意してもらった車で、
病院へ向かう3人。
次第に緊張感が車内を支配する。
木田は響を、
響はスマホの写メを、
黒川は外の景色を見ていた。
-- 渋谷総合医療センター
木田(あの時――コウちゃん、
ここにいたのよね。
そして、響を救ってくれた……。)
響(あの時――
コウタくんが助けてくれたから、
今の自分がいる……。)
黒川(……なに、この静けさ。
渋谷……だよな……?)
木田「あのー…。
青山コウタさんがこちらに
救急で運ばれたと聞いたんですが……。」
看護師「お名前は?」
木田「木田と申します…。」
看護師は院内専用の携帯を取り出し、
どこかに連絡をしている。
看護師「お待たせしました、5階です。」
木田「ありがとうございました……。
それで、青山の様子は……?」
看護師「そこまでは……。」
木田「すいません!」
エレベーターに乗り込み、
全員が微動だにせず、
階数表示だけを見つめる。
2・3・4……
チンッ
ガシャー
エレベーターの扉が開く。
壁に掲げられた無機質な案内。
← 集中治療室 術後管理室 →
どっちにも行きたくない。
現実を直視出来ず立ち尽くす3人。
ピッ…
ピッ…
ピッ…
ピッ…
どこからか
心電図の音だけが
小さく聞こえる。
ガシャー……。カタン……。
エレベーターの扉が閉まり
我に返る3人。
スタスタスタ…。
1人の看護師が
3人の前で足を止めた。
看護師「木田さん…。ですか?」
木田「……はい……。」
看護師は、響、黒川を見る。
だが、何も言わなかった。
看護師「……こちらです。」
左に案内される3人。
術後管理室じゃないことに
安堵するも向かったのは、
集中治療室。
看護師「窓越しにしか面会できませんのでご了承ください。」
全員(窓…越し……?)
木田「あ…、はい…。」
看護師「こちらです。」
ガッ……、シャー…………
入口で立ち尽くす三人。
窓越しにベッドが四つあった。
奥の二つは、
綺麗なまま。
一歩、
また一歩、
恐る恐る窓へ近づいていく三人。
四つあるベッドの手前の片方の一つは、
少し乱れていた。
そして、
3人の視線は、
もう片方のベッドへ。
そこには、
白い布団に覆われた体。
ピッ…ピッ…ピッ…ピッ…
心電図の音だけが響き渡る病室。
心音を読み取る配線と
点滴のチューブ
無機質な部屋
無機質な空気
無機質なベッド
無機質な白
動かない身体
バサッ
響が崩れ落ちる。
バサッ
木田が崩れ落ちる。
背を向ける黒川。
「うっ……うっ……うぅぅぅ……」
膝の上の握られていた両手に
ポツ…
ポツ…
ポツポツ…
「うぐぅぅぅぅぅっっっっ」
声にならない嗚咽
硬直する身体
響の笑顔は一切届かなかった。
木田「コウちゃん……。
ごめんなさい……。
また私が……。
また……わ…た…しが……。」
泣き崩れる木田。
黒川は直視出来ない。
二人に近付くことも、
二人に声を掛けることも出来無かった。
両手を強く握り唇を噛み締める。
(オレ……なんも出来ねぇじゃん……)
すると、
廊下から微かに聞こえる看護師の声。
それを、黒川は聞き逃さなかった。
看護師「青山さん!動いたらダメですよ!」
青山「大丈夫です…。
早く会いたい人がいるんで…。」
看護師「困ります!
ベッドに戻って下さい!」
黒川「あ…お…や…ま……?」
ガッシャーガコン!
勢い良くドアを開け、
左右を見渡す黒川。
左の廊下のベンチに座る、
一人の男性と一人の看護師。
ドアが開く音で、
その男性が黒川に気付く。
……笑顔で振り向く男性……
黒川「ひ…ひ…ひびき……。
き……きださん……。ちょっと。」
響「ヒック…ヒック…ヒック…なに…?」
木田「何よこんな時に!」
黒川「あ…お…やまさん…て
笑顔……ヤバい……?」
響「ヤバ過ぎる……」
木田「ヤバい所じゃないわよ。ね…ワタル…」
黒川「だったら…。
オレも…青山さん好きだわ…」
木田「黒川は、さっきから何を言ってんの?」
黒川の方を見る木田。
木田「どした?くろか…。」
黒川の後ろから廊下を覗き込む木田
その視線の先にいるのは、
紛れもなく青山。
言葉が止まった。
木田「ひ…ひびき……」
青山に釘付けで、
響に手招きをだけをする木田。
響「どうしたの?」
やっとの思いで身体を起こし、
ゆっくり立ち上がる響。
病室から顔を出す。
響「コウタくん……?」
3人に気づく青山。
不思議そうに首を傾げる。
響は立ち上がり、
滑る床に足を取られつつ、
必死に青山へ向けて走り出した。
ダッダッダッダッ……、
バサッ!
青山の胸に飛び込んだ響。
響「……コウタくん……。」
急な出来事に驚いて、
固まるが、
スグに響の頭を撫で
青山「ひびき…」
木田も駆け寄る。
青山「アスカ…。なんで泣いてるの…?」
後ろで立ち尽くす黒川。
青山「あ…。君は…。黒川くん…?」
黒川「え…?オレ…初めて…っすけど…。」
青山「そうだね…。初めまして…青山です。」
黒川「は…初めまして…く…黒川です…。」
青山「それはそうと…。この状況…何?」
黒川「さ…、さぁ?」
木田「意識不明って…。」
青山「さっきまでね。」
響がゆっくりと顔をあげて青山を見る。
響「コウタくん…。…ただいま…。」
青山「おかえり…。ひびき…。」
二人のやり取りを見た木田は、
涙を拭き笑顔を取り戻す。
二人の笑顔を見た黒川は、
自然と笑みが零れる。
━━━━━━━━━━━━━━━
--3日後
渋谷総合医療センター玄関前
響「まだかなぁ?」
黒川「なんでオレも来なきゃいけないんだよっ」
青山を迎えにきた二人
響「良いじゃん!ってか、
家出る前、めっちゃ服
何着て行こうか悩んでた人いましたけど?」
黒川「なんのことだか…?」
ウィーーーン
病院の玄関の自動ドアが開き、
青山が現れた。
青山「……お待たせ……。」
響「……おかえり……。」
青山「……ただいま……。」
黒川「こんにちは……。」
青山「こんにちは…。
黒川くん…ありがとね…。」
響「ご飯行かない?」
青山「行こっか…。
黒川くんも、もちろん行くよね。」
黒川「ジン……。
って呼んでくれたら……。」
響、青山「…………。」
黒川「あ……!、わ…忘れて…」
青山「いいよ!ジンくん。」
黒川「じゃぁ、行くッス……。」
青山の腕にしがみつき、
黒川を細い目で睨み付ける響。
響「ねぇ、
ジンくんだけズルいんだけど……。」
黒川「フッ………。」
ニヤリと返す黒川
青山「ひびきからは、ワタル。
って呼んでって言われてないしなー……。」
響「ワタルって……呼んで……。」
モジモジして恥ずかしそうに答える響。
黒川「そいつ、甘やかしたら、ダメっすよ。」
青山「だって。」
響「黒川くん……。
コウタくんにアノこと言うけど良い……?」
黒川「アノことってなんだよ?」
響「昨日の病院で……、
初めてコウタくんを見たと……」
顔が真っ赤になっていく黒川
すかさず右手が響の顎にハマる。
響「うっ、うっ……」
黒川「それ以上言ったら、
もう家に泊めてやんないからな。」
青山「ジンくん、どしたの?何?」
黒川「なんでもないっす!
ワタルって呼んでやっても
良いんじゃないっすか…。」
青山「お許しが出たよ。ワタル……。」
響「ワ…ワ……、
今なんて言ったのー?
聞こえなかった!
もう一回言って!」
黒川「ワタル」
響「お前じゃねぇーし」
青山「クックッ…、ウフフフ……
二人とも仲良いんだね…フフフ……」
笑顔で歩く3人
明るく晴れ渡った
渋谷のソラ
それはまさに、
3人の心の中の
”ケシキ”なのかも知れない。
━━━━━━━━━━━━━━━
--それから2ヶ月
3月14日 ホワイトデー
青山は昨日から響の家に泊まっていた。
響「じゃぁ、いってきます。」
青山「行ってらっしゃい。」
静かにドアが閉まる。
青山「さぁ、暇やし、
掃除でもしますか!」
2月から仕事が忙しくなり、
家に帰ってもご飯を食べて寝る。
だけの生活で、ゴミだけが溜まる一方だった。
そこへ、休みの度に響の家へ泊まりに来ている青山は、ある意味、家政婦さんみたいになっていた。
まず最初にするのは、
寝室のゴミ箱チェック。
これが最重要だ。
青山が初めて響の家に来た時、
ゴミ箱の中は、薬の包装シートだらけだった。
そう、睡眠薬の。
睡眠薬の包装シートだと気付いたのは、
木田と別れる1ヶ月前から、
木田が飲んでいた睡眠薬と
同じ名前、同じ柄の包装シートだったから。
(1度捨ててから
約1ヶ月放置してたけど、……どうかなぁ?)
( 1・2・3・4・5……)
(え?10個?)
(めっちゃ減ってるやん!
凄いやんワタル!!)
ルンルンでゴミを捨て、
掃除を始める青山
━━━━━━━━━━━━━━━
-- 都内某所 19:00
FiVE DrinKが所属する事務所
ReACTiO PRO(リアクティオプロ)の会議室
木田「ねぇ、黒川知らない?」
押部「そういえば、まだ来てないね。」
緑川「いつも一番に来て本読んでるのにね。」
楓「響は、知らない?」
響「大先生は、19:50入りだよ」
全員「え…?」
響以外の全員が瞬時に凍りついた。
響「はい。台本」
固まる四人を気にすることなく、
淡々と一人ずつに手渡される台本。
『黒川大先生が送る キュンキュン♡ ホワイトデー♡』
木田「なにこのダサ過ぎるタイトルは……。」
緑川「やるんだ……。」
楓「面白そう……。」
押部「クックックックッ……。」
-- 19:40
ガチャ
黒川「おはようございま……」
通常、FiVE DrinKの並びは、
左から 、
黒川、響、押部、緑川、楓
だが今日は、
押部、響、 、緑川、楓
何故か揃っているメンバー。
そして、真ん中だけ空いている席。
黒川は悟った。
大人しく黙って
中央の空席に座る黒川。
黒川は今置かれてる状況を
頭の中で整理する。
(響からのLINE)
〈19:50に来てね!〉
(遅すぎると思った。
ここから始まりだったのか…。)
テーブルに目をやると
一冊の台本が置いてあった。
『2025 ファイトデー ファン感謝祭ダイブ!』
(完全にふざけてる。
この台本作ったヤツ誰だ!)
首謀者を探す為、
周りを見渡す黒川。
すると、
隣の緑川の台本に違和感を覚えた。
そして、
その台本の表紙をよく見てみると……。
『黒川大先生が送る キュンキュン♡ ホワイトデー♡』
と書いてあった。
(あ……。
オレ……完全にハメられたわ……。)
天を仰ぐ黒川。
そして再度、
首謀者を探すため、
1人1人の顔を見るが皆、
目も合わせてくれない。
(コレ、全員グルやな……。
さすがにマネージャーは……。)
木田を見る黒川。
木田はサッと台本で顔を隠す。
台本にはもちろん、
『黒川大先生が送る キュンキュン♡ ホワイトデー♡』
(あ、コイツもグルか……。
てか、あのタイトル、めちゃくちゃ腹立つわ!
あのマネージャー、
絶対ワザとタイトル見せてきてるよな。)
響が横でスマホを取り出し、
LINEを開いた。
(こんな時に、なんでLINEなんだよ。)
〈もうすぐインスタLIVEするから見てね!〉
黒川「誰にLINEしたの?」
響「もちろん、ジン君の好きな人……。」
黒川「え……?ねぇ♡ひびきくん♡
まさかとは思うけど、その送信相手って?」
響「コウタくんだよ♡♡」
(終わった……。
完全に終わった……。
コウタくん……、コレ見るんだ……。)
響「お願いしますね♡
くろかわ♡大♡先♡生♡」
(コイツだけは、ぜってぇ許さねぇ)
押部「始まるよ。」
気持ちを切り替えて、
台本を開く黒川。
(え…………?)
周りの台本を見渡す。
びっしりと内容が書かれている台本。
(オレの台本……、真っ白やん……。)
台本の中身も、頭の中身も真っ白な黒川。
緑川「ボタン押すよ」
黒川「待って!
オレが……押すから……」
すぅーっと深呼吸をし、
スイッチが入った黒川。
ピロン♪♪
押部「始まった?」
楓「みんな聞こえてるー?」
緑川「聞こえてたら、コメントに”ノ”いれて!」
響「いっぱい”ノ”来たよ!」
押部「じゃぁ、始めますか!」
黒川以外「ホワイトデーファン感謝祭LIVE2026」
黒川だけ「2025 ファイトデー ファン感謝祭ダイブ!」
パチパチパチパチパチパチ
押部「ちょ、ちょちょっと待てー!
1人なんか違うこと言ってなかった?」
黒川「そうか?」
楓「ププププっ………」
響「楓くんどしたの……?」
緑川「なになに?」
押部「開始早々、
コメント欄が荒れております!」
楓「ジンくんがなんでセンターなの?って」
緑川「ジンくん、絶対、端だもんな」
響「今日は、黒川回だもんね……」
黒川「たまには…
オレが…センターでも……
いいだろ」
楓「キャーーだって!」
押部「ジンくん2025って
言ってなかった?って」
黒川「言ってねぇし」
響「今日はみんなのために
いっぱい企画考えたから、
みんな楽しんでねー!」
━━━━━━━━━━━━━━━
--21:40
黒川「終わった。」
(色んな意味で終わった。)
(ファンにはツッコまれ、
こいつらにはボケ倒され、
弄られ、好きな人には醜態を晒した。)
(完全に終わった)
ブルッブル
響がスマホを取り出しLINEを開いた。
青山〈インスタライブ面白かった!
ジンくんめっちゃ可愛かったやん!
ワタルももちろん可愛かったよ!〉
響「ジンくん♡はい♡」
響がLINEの画面を見せてくる。
疲れた身体を捻り
睨み付けるように画面を見る。
青山〈インスタライブ面白かった!
ジンくんめっちゃ可愛かったやん!
ワタルももちろん可愛かったよ!〉
(めっちゃ可愛かったやん)
(めっちゃ可愛かったやん)
(ジンくん、めっちゃ可愛かったやん)
(ジン、めっちゃ可愛かったで♡)
黒川の頭の中で、
青山の声で勝手に変換されていく
LINEのメッセージ。
ブルッブル
青山〈疲れてるやろうから
早く帰って来れるんやったら
早く帰っておいで!
晩御飯いる?
家で食べるなら作るけど、
何か食べたいのある??
ジンくんも来れるんやったら、
おいでって伝えといて〉
(コウタさんが晩御飯作る?)
(コウタさんの手料理?)
(ジンくんもおいで)
(ジンくんもおいで♡)
(ジン、おいで♡♡♡)
響のスマホを掴み
勝手に返信する黒川。
〈行きます!
絶対行きます!
速攻行きます!黒川〉
響「何してんの?」
送信された内容を見る響。
響「女子か!」
黒川「響!帰るぞ!」
響「はーい!」
木田「これから打ち上げ……。」
黒川「オレ達帰ります!お疲れ様でしたー」
響「お疲れ様でしたーー」
黒川に引っぱられながら
部屋を後にする黒川と響。
エレベーターに乗り込む黒川と響。
エレベーターのドアが閉まる。
黒川「明太子パスタ食べたい……。」
響「おっけー」
タッタッタッタッタッタッタ
響「二人とも
明太子パスタ食べたい。っと」
エレベーターのドアが開く。
響の腕を掴み
急いで事務所を出る黒川。
大通りに出て、
手を挙げタクシーを停めた。
黒川「すいません、一旦、六本木まで!」
響「六本木??」
黒川「ちょっと寄りたいとこあって」
響「う、うん」
響「あ、コウタくんから返信きた。
〈まかせろ!〉だって!」
窓の外を見て鼻歌を唄う黒川。
響「怒ってない…?」
黒川「何が?」
響「インスタライブのこと…」
黒川「それより、明太子パスタ♡」
響「なんで目がハートなの?この人?」
━━━━━━━━━━━━━━━
--22:10六本木
黒川「運転手さん、
そこの看板の所で止まってもらっても良いですか?」
タクシーが止まる。
黒川「ちょっと買い物したいので、
15分くらいこのまま待っててもらっても良いですか?」
運転手「いいですよ!」
黒川「ありがとうございます!」
黒川「ひびき!一緒に行こ!」
バッ
黒川に手を引かれ、
とあるビルの1階にある洋菓子店に入った。
黒川「ご飯ご馳走になるから、
お礼にケーキでも。と思ってね!」
響「それ、いいね!
オレ達からのホワイトデー?」
黒川「唯一渡す、
ホワイトデーのプレゼントだな。」
響「コウタくん何が好きかなぁ?」
黒川「イチゴショートは外せないだろ。」
響「オレも食べたい!」
黒川「オレも!」
響「でも、こっちのタルトもヤバくない?」
黒川「選べねーじゃん。」
響「チョコもあるよー」
黒川「分かってるよ!」
響「選べなーい」
黒川「あのー。
イチゴショート3つと、
タルト1つ、
チョコ1つ、
あと、このムースも1つ。」
響「そんなに買っても良いの?」
黒川「1人2個なら全然食えるっしょ!」
響「そだね!」
会計を済ませ、洋菓子を後にする二人。
コンコンッ
ガッ
黒川「お待たせしました。
お願いします。」
タクシーは再び走り出し、
響の自宅へ向かう。
━━━━━━━━━━━━━━━
--響の家の玄関前 506
ピッ
カタン
ガチャ
響、黒川「ただい……ま……。」
玄関を開けると、
見慣れた靴が3足。
響、黒川「え……?」
響「まさか……」
黒川「ないよね……」
お互い目を見合わせ固まる。
リビングから、
聞きなれた声が複数聞こえてくる。
ゆっくり廊下を進み、
二人で震えながら、
恐る恐るリビングのドアを開ける。
黒川(終わった。
完全にやりやがったなコイツら……。)
楓が気付く。
楓「おかえりー!
遅かったね。
どこ行ってたのー?」
押部「なんで
先に帰った二人が遅いんだよ!」
緑川「お邪魔してまーす」
青山「ピンポン鳴って、
出たら3人いてさ、
ワタルもジンくんも
いるもんだと思って開けたら、
いなくて……。」
黒川「てか、
なんで響ん家だと分かったんだよ。」
楓「木田さんが教えてくれたよ。
青山さんが響ん家に来てて、
多分、ご飯作って
待ってるんじゃない?って」
黒川「なんで、そこまで分かる?」
響「そりゃぁ、元カノだからねー」
黒川「あ……。忘れてた……。」
押部、楓、緑川「えーー!!青山さん!
木田マネの元カレ?!」
青山「ま、まぁ……」
楓「やっばぁ♡」
押部「そりゃ、
このパスタも美味いはずなんだわ。」
それを聞いた黒川が
食べかけのパスタを見る。
身体が動かず目線だけが動く。
バサッ
黒川が崩れ落ちた。
黒川「オ……、オレの……、
めんたい……パスタ……。」
目が、うるうるしだす。
黒川の緊張の糸が切れようとしたその時
青山「え?まだ、あるよ。」
黒川には、神のような声が聞こえた。
黒川「え……?」
キッチンにいる
青山の元へ駆け寄る黒川。
そこで目にしたのは、
お店で出てくるような、
美しく整えられた明太子パスタ。
ピンクになった明太子を纏い
細く切られた大葉のベール
そして下からの熱で踊る海苔
そのどれもが黒川の思う
ベストオブ明太子パスタ
バッ
気付いたら青山を抱き締めていた。
楓「ひびきー。あれ止めないで良いのー?」
響「今日は良いんじゃない。
インスタライブ頑張ってたし」
楓「ワタル。大人になったね!」
ワタルの頭を撫でる楓。
押部「でも、長くない?」
緑川「そこのコーラ取って。」
青山「ジン…くん……?」
黒川「あ……、ごめんなさい。」
青山「今日は、お疲れさま。
良く頑張った。可愛かったよ。」
黒川「あ、ありがとう……。」
顔がほのかに薄くピンクに染まる。
明太子パスタを
両手で受け取りテーブルへ。
そして、
両手を合わせて静かに、
黒川「いただきます。」
クルクルクルッ
ハムゥゥ
目がキュルルンとし、
一粒の涙が頬を伝う。
黒川「うっうっうっ、スーッ」
啜り泣きながらゆっくり味わう黒川。
みんながワイワイガヤガヤしてる中、
1人特別な空間にいる黒川。
そんな黒川を
誰も見ることも無く
茶化すことも無い。
黒川にとって
幸せな時間だけが過ぎていった。
緑川「あ、あの箱…、ケーキじゃない?」
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