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第6話 サプライズ!!

【登場人物】 ・青山コウタ(あおやまコウタ) 鉄道会社の車掌。 優しく世話好きだが、誰かのためとなると周りが見えなくなることも。 FiVE DrinKのメンバーともすっかり打ち解けている。 《FiVE DrinK》 ・響ワタル(ひびきワタル) 人付き合いが苦手で、繊細な性格。 青山には少しずつ素直な自分を見せるようになり、甘えることも増えてきた。 ・黒川ジン(くろかわジン) クールでぶっきらぼうだが、実は仲間想い。 青山にもすっかり懐き、以前より距離が近くなっている。 ・押部リョウタ とにかく笑い上戸。 メンバーのボケや言動にツボってしまうことが多い。 面白そうなことには、しっかり乗っかるタイプ。 ・緑川コウヘイ マイペースで、天然気質。 真顔でしれっとボケを挟んでくる。 ・楓ユウサク 明るく無邪気で、人懐っこい性格。 周りの変化によく気付く、FiVE DrinKのムードメーカー。 ・木田アスカ(きだアスカ) FiVE DrinKのマネージャー。 面倒見が良く、メンバーを支える姉御肌。 青山とは中学時代からの同級生で、元恋人。 ・堀越サチ(ほりこしサチ) 青山の後輩車掌。 FiVE DrinKの大ファンで、推しはワタルとジン。 青山がFiVE DrinKに詳しくなっていることを怪しみ始める。 ━━━━━━━━━━━━━━ ――4月 お花見シーズン。 通り過ぎる風も心地いい。 この季節だけずっと続けば良いのに。 ホワイトデーの夜をきっかけに、 FiVE DrinKのメンバーとも仲良くなり、 個々に連絡を取り合う仲になっていた。 ━━━━━━━━━━━━━━ ――響の家 青山「荷物これで全部?」 響「たぶんー」 青山「たぶんーって。」 響「無かったら、ジンくんのパクる。」 青山(ジンくん可哀想……) ブッブッ スマホを取り出す青山。 ジン〈ワタル大丈夫っぽい? アイツ、よくパンツとか靴下とか忘れて、 オレのパクるから、 コウタさん、 ちゃんと忘れ物ないか 見といて下さいm(_ _)m〉 青山(あー……。 とっくに被害出てたんだ……。) 青山〈OK〉 青山「ひびきー? パンツ入れたー?」 響「入れてないかもー。」 青山(ジンくん良かったね。 今回はパンツパクられないかも。) 青山「大阪でどこ泊まるのー?」 響「カレンダーに書いてますけどー。」 寝室のドアから、 ひょっこり顔だけ出して 目を細めて言う響。 青山「あ、そうだよねー。確認しまーす。」 響「木田マネの言う通りだわ。」 響(そう、コウタくんは、 自分の予定は細かく教えてくれるクセに、 オレのスケジュールはあんま見ていない。 それがこの前、雨の日に倒れた原因だけど。) 青山「会う時間ありそう?」 響「厳しいかもー。」 青山「LIVEってそんなに大変なんだね!」 響「フルマラソンを毎日してる感じ。」 青山「え? 響、フルマラソンとかするの?」 響「したことないし。知らない。」 青山「知らんのかーい!」 ガクッ。 思わず関西のノリでコケてしまった。 響「コウタくん! スマホ貸して!」 青山「あ、いいけど。どしたの?」 カパッカパ ポイッ ボトンッ 青山のスマホを手に取り、 カバーを外し、 そのカバーをゴミ箱に捨てた響。 青山「ちょっ、ちょっちょっ、」 響は箱を取り、何かを出した。 響「コレ!  コウタくん、新しいスマホケース欲しいって、 この前、言ってたじゃん。」 青山「あ……、うん。」 響「あとは……、コレを入れてと……。」 青山「入れて……?え? 入れる……?」 響「はい! かんせいーー♡」 青山「あ……、ありがとう……。」 響のくれた 新しいスマホケースに入った スマホを受け取る。 青山「ん……? なんか、コレ、どこかで見たような……。」 横で自分のスマホを持った響が、 満面の笑みで、 響「オレと一緒のケース♡」 顔の下からどんどん赤くなる青山。 トドメを刺すかのように、 響「おそろだね♡」 青山の思考は止まった……。 ふと、スマホの背面に “何か”書いてあることに気付いた。 青山「これは……?」 響「お守り!」 青山「お守り……?」 響「そう、お守り!」 青山「響のサイン?……だよね?」 響「そうとも言うかな……。 でもコレは、オレとコウタくんのお守り!」 青山「そうなんだ……。 てか、FiVE DrinKって あんまサイン書かないんじゃないの?」 響「事務所がね……。 ま、オレ達を守る。 っていう理由もあるんだけどね。 プライベートで街中で サインし出すとキリないし。 あと転売防止的な?」 青山「アイドルも大変だね。 ありがとう。コレ大切にする!」 この時はまだ、サインの裏に “何かが”書かれていることを 青山は知らなかった。 ━━━━━━━━━━━━━━━ ――4月11日土曜日 FiVE DrinK 全国ツアー 3箇所目 大阪公演 2days 初日 ブルッブルッ 〈今からいってくる! コウタくんお仕事頑張ってね♡〉 ブルッ 添付された写メには、 響を真ん中に FiVE DrinKのメンバーが 弾けた笑顔で写っていた。 〈みんな良い笑顔だよ! めっいいっっっっぱい楽しんで!!!〉 響〈はーい♡〉 (相変わらず可愛いやつ) ブルッブルッブルッブルッ (え? え?!) 黒川〈コウタくんも来れば良いのに。〉 青山(ハッキリ、来て。 とは言わないんだな。) 楓〈響、コウタくんとの写メ見て 気合い入れてたよ♡〉 青山(その報告いる? アナタ数分後LIVEよ? ま、楓らしいな。) 押部〈なぅ〉写メ (なんでお前だけ変顔なんだよ……。) クスクス 緑川〈ファイナル来るよね?!〉 青山(なぜにファイナル限定??) とツッコミつつニヤけていると、 ブルッ 青山(またなんかきた……) 響〈写メ〉 ジャケ写みたいな決めポーズの写メが 送られてきた。 青山(めちゃくちゃ楽しんでるやん。) 青山(さぁ、オレも元気出たし、 そろそろ準備して仕事してくるか!) 後輩A「青山さん、さっきからスマホ見て ニヤニヤしてましたけど大丈夫っすか?」 青山「あ! ごめん……。」 スマホの電源を切り、 鞄にしまい込んでホームに向かう。 FiVE DrinK 全国ツアー 大阪公演初日 開幕。 時間は、18:00。 青山は、乗客が待つホームへ。 FiVE DrinKは、ファンが待つステージへ。 それぞれの舞台への階段を登る FiVE DrinKと青山。 ━━━━━━━━━━━━━━━ ――19:30 姫路中央駅 乗務員休憩室 青山「お疲れ様です。」 休憩室にいる他の運転士や車掌が、 まばらに挨拶をする。 青山は席に座り、 カバンからスマホを取り出し、 電源を入れる。 ブルッブルッブルッ 【通知5件】 LINEを開くと、 木田からだった。 すると、 LIVE前のメンバーの写メと LIVE中のメンバーの写メが送られてきた。 そこに、 木田〈コウちゃんありがとう。 みんなコウちゃんに出会ってから イキイキしてる。 控室で、コウちゃんの話ばっかしてるよ! でも、みんな凄く楽しそうなの。 だから、私もつい〉 またニヤニヤしながら見ていると、 青山(私もつい……? ついってなんだよ!) すかさず木田にLINEする青山。 青山〈私もついって、何?〉 木田〈ごめん今LIVE中〉 青山(知ってるわ!) スマホをポケットにしまい、 晩御飯を買いに、 駅構内のコンビニへ向かう青山。 ――コンビニ店頭―― 『FiVE DrinKとのコラボ開催中』 青山(コンビニとコラボもしてんのや。 FiVE DrinKって凄いな。) 店内に入ると、 『FiVE DrinKのLIVEチケットがあたる?!一番くじ』 お弁当コーナーに行くと、 『FiVE DrinK 緑川監修 Drinkに合うご飯』 飲み物コーナーに行くと、 『FiVE DrinK 監修 推しDrink』 店員「袋代3円頂きまして、 お会計3,453円になります。 お弁当温めますか?」 青山「え? あ、大丈夫です。」 店員「ありがとうございましたー。」 青山(晩メシで3,453円って……。) 店を出て、 青山(なんでこんな金額なんだ?) と思い、レシートを確認した。 ﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌ 一番くじ ‪✕3 ¥2,250 緑川弁当 ×1 ¥900 響ペット ×1 ¥150 黒川ペット ×1 ¥150 レジ袋 ×1 ¥3 合計 3,453 青山(なんだよ。 一番くじ×3、2,250円って。 ってコレ、 一番くじ一ついくらだよ?! しかもペットボトル 2本も買ったから重てぇし。) 休憩室に戻り、 袋の中身を一つずつ 取り出していく。 青山(全部、コラボ商品じゃん。 一番くじとか初めて買ったわ。) 青山(で、緑川監修のお弁当……。 ナポリタン? と ハンバーグ? と オムライス……。 お前の好きなもんばっかじゃねーか! てか、お子様ランチかよ! もーー、どれもドリンクと合わねーし! 響のドリンク……。 水色……? あ、サイダー系か。 黒川のドリンク……。 あ、コレはブラックコーヒーだな。 ここでもめんどくさがり出すのかよ……。 ジンらしいと言えば、ジンらしいな……) と、一人でツッコミながら 一通り商品を取り出し終わると……。 すーっ……。 テーブルの上に影が伸びてきた。 女の声「へぇ〜。 FiVE DrinK、ハマってるじゃないですか〜。」 青山「え…………?」 恐る恐るゆっくりと顔を上げると、 いかにも、沼に引き摺り込んでやる! と言わんばかりの顔で、 青山を見下ろす堀越が立っていた。 ニヤニヤと悪魔みたいな顔で。 ニヤニヤしながら、 青山の目の前に座る堀越。 青山「他の……、 ところもあいてるよーーー。」 堀越「へぇ〜〜。 ワタルくんとジンくんが 推しなんだ〜〜……。」 と言いながら、 ペットボトルラベルに 描かれた響と黒川の顔を ツンツンする堀越。 青山「いや……。たま……たま……。」 堀越「ふ〜ん。たまたまねぇ〜〜。」 青山「こ……この前! 堀越が写メ見せてくれたじゃん! た、多分、そ、それでね。」 堀越「緑川は〜?」 青山「お、美味しそうだなぁぁって。」 堀越「他のメンバーのはー?」 青山「かえ……でと、 おし……べのは、 また今度で良いっかなぁ……って。」 堀越「ふ〜ん……。 楓と押部ねぇ〜……。」 ハッ……。 ばっっ! 驚き、そして気付き、 咄嗟に両手で口を塞ぐ青山。 時すでにお寿司……。いや、遅し。 堀越「ま……良いですよ。 ファンが増えることは良い事ですし。 でも、推しが被るなんて。 しかも青山さん、 ワタルくんとジンくん推しとか 見る目しかないですね!」 いきなりの解放に腰が抜ける青山。 青山「ははは……。」 堀越「あ、あと、 ずっとスマホ手で押さえたままですけど、 そっちにも何か……?」 悪魔がまたも何かに気付いたようだ。 青山は悟られまいと、 ゆっくりと視線を下ろす。 すると、 スマホを押さえた指の隙間から、 チラリと見える文字。 何もなかったかのように、 スッとスマホをポケットにしまう青山。 堀越「もしかして?!」 青山「その前にメシ!」 と言って席を立ち、 緑川弁当をレンジで温め、 席に戻る青山。 堀越「一つ確認して良いですか?」 青山「メシ食ってるんだけど。」 堀越「青山さんの本命は、 ワタルくん?それともジンくん?」 青山「ワタルかな。」 青山「あ!!」 咄嗟に両手で口を塞ぐ青山。 ズキューン!! ハートのど真ん中を 撃たれる感覚がした堀越。 脳内で青山の声が勝手に変換される。 (ワタルかな) (ワタルかな) (サチかな) (サチかな♡) ※堀越の下の名前は、サチ。 堀越サチです。 堀越「よ、よ、呼び捨て……。」 顔を赤らめる堀越。 堀越「もう♡わ……、分かりました♡」 青山「てか、なんでお前が照れてんだよ。」 堀越「それは……♡」 青山「てか、堀越、 お前次の電車何時なんだよ?」 堀越「下の名前で……お願いします……♡」 青山(?????) 青山は、バッ……と 堀越の時刻表を取り、 次の列車の時間を確認する。 青山「20:10入線かぁ。 今は……20:04。 なぁ、あと6分で電車来るけど大丈夫か?」 ハッと我に返る堀越。 堀越「え? マジっすか?!え……??」 青山「え? じゃねぇよ。早く行けよ。」 堀越「お疲れ様です!」 バタバタと忙しなく、 休憩室を後にする堀越。 やっと平穏な時間が訪れた。 (オレの列車は……と……。 20:27入線じゃん! 堀越の1本後かよ。 20:20には出たいから あと10分ちょい! ヤバ!) 青山も緑川弁当をかきこみ、 慌ててホームへ向かう準備をした。 ━━━━━━━━━━━━━━━ 押部「みんな今日はありがとう!!」 緑川「みんな明日も来るよな?!」 楓「もちろんでしょ! ねーー!!」 黒川「無理すんなよ。」 響「みんな大好きだよーー!!」 5人が手を振りながら ステージを後にする。 FiVE DrinK 全国ツアー 大阪公演 2days 初日 ――終演―― ━━━━━━━━━━━━━━━ ――ステージ裏 押部「お疲れ様でしたー!」 緑川「お疲れ様でしたー!」 楓「お疲れ様でしたー!」 黒川「お疲れ様でした。」 響「お疲れ様でしたー!」 木田「みんな、お疲れさまー!」 響「木田さん! LIVE中の写メ、コウタくんに送ってくれた?」 木田「送ったよ!」 響「なんか言ってた?」 木田「特に?」 響「えーー、もぅーー。」 響「ねぇ、30分後に車用意できる?」 木田「出来るけど……。」 響「じゃぁ、お願い!」 ━━━━━━━━━━━━━━━ ――22:05 大阪中央駅 休憩室 ガチャ 青山「お疲れ様です!」 この時間になると、 休憩室にいる他の運転士や車掌も 疲れていて、 もう挨拶すら返してくれない。 (ここ30分しか休憩ないんだよなぁ。 次は22:35入線だから、 22:30に準備してホームに行けばいっか。) 青山は席に座り、 カバンからスマホを取り出し、 電源を入れる。 ブルッブルッブルッ 【通知3件】 響〈LIVE終わったよー 写メ〉 20:45 響〈コウタくんはまだ仕事だね〉 21:00 響〈大阪中央駅に着いたらLINEしてー〉 21:45 ブルッ 開いて読んでる最中、 新たなメッセージがきた。 響〈大阪中央駅に着いた?〉 青山〈着いたよ。〉 響〈お疲れ様。〉 青山〈ありがとう。 響もお疲れさま。 LIVEの写メ見たよ! カッコよかった!〉 響〈ありがとう。でしょ♡〉 響〈コウタくんが 次に乗る電車って 22:40発の普通電車の東高槻行きだよね?〉 (いつもは、何これー? ふーん……。 とか興味無さそうだったのに……。) 青山〈そそ。良く分かったじゃん!〉 先日、人身事故が発生した時、 響はスマホに青山の働く鉄道会社の 運行情報の通知が来るようにしていた。 その時、響は、青山の電車が 人身事故に遭遇したと思って、 心配になりLINEしまくり、 LINEの通知が25件とヤバかった。 それから、青山は自分が担当する 電車の番号を教えていた。 響〈お仕事頑張ってね。車掌さん♡〉 青山〈ありがとう。〉 ――22:27 (ちょっと早いけど、そろそろ行くか……。 東高槻まで約30分。 ま、普通電車やし、楽っちゃぁ楽やな。) ――22:30 大阪中央駅 7番線 列車が到着するまで、 ホームで待機する青山。 すると、 後ろから声を掛けてくる男性。 男の声「すいません……。 新大阪駅ってこの電車止まります?」 (またか、全部止まるっちゅうに。 てか普通電車やで? 普通電車が止まらんやったら 何が止まんねん?) と思いつつ、 後ろを振り向く青山。 帽子を目深に被り、 マスクをした若めの男が、 帽子を少し上にずらす。 青山「はい。止まり………。」 いつもは騒がしいはずの 大阪中央駅ホーム。 だが、この瞬間、 青山だけは、 何一つ音が聞こえなかった。 響「来ちゃった♡」 青山「え…………?」 青山「来ちゃっ……た?」 響「うん。来ちゃった♡」 周りを見回す青山。 すると、8番線の電車を待つ 女子のグループの 持ち物に目が止まった。 《FiVE DrinKのLIVEグッズ》 《FiVE DrinKのトートバッグ》 《FiVE DrinKのマフラータオル》 7番線にも同じような グッズを持った 女子のグループが……。 青山「周り、LIVE帰りのファン達で 溢れかえってるみたいだけど……。」 響「そだねー。さっき終わったしねー。」 青山(なんで、そんな軽いんだ!? なんでそんな普通に居れるんだ?!) 青山「流石にヤバいっしょ!」 響「流石にLIVE終わりに こんなとこいるとは思わないでしょ。」 青山「そうなんや……。 てか、ビックリしたわー。」 響「ビックリさせたかったんだもん! 絶対来ないと思ったでしょう?」 青山「うん。絶対来ないと思ってた。」 響「サプライズ成功だね♡」 青山と響の横を、 普通 東高槻行きが入ってきた。 青山「どこまで乗るの?」 響「終点♡」 青山「終点?!」 響「ダメ?」 青山「ご自由に……。」 響「ヤッタァ♡」 到着車掌「敬礼! 1136F 異常ありません。」 青山「1136F異常なし。 お疲れ様でした。敬礼。」 (後ろでめっちゃ見てる……。) 到着車掌との引継ぎが終わり、 電車に乗り込む青山。 マイクを取り、 案内放送をしようと顔を上げると……。 ガラス越し、 ど真ん前に、 目をキラキラさせてこちらを見ている響。 (めっちゃ恥ずかしい。 過去イチ恥ずかしい。 ガラス窓を挟んで1mもない。 めっちゃ見てる。) 青山『ご案内いたします。この電チャは、』 (あ……。やってしまった……。 電チャは、って言ってしまった……。) 『普通、東高槻行きです。 各駅に止まります。』 一旦下を向き、 (集中! 集中!) 顔を上げ、 響の姿を眼中から消した青山。 ――青山の車内放送―― 『お待たせ致しました。 普通、東高槻行き、 まもなく発車いたします。 車内でお待ちください。』 ――青山の車外放送―― 『7番線から、 普通、東高槻行き発車します。 ご利用のお客様は、 ご乗車になってお待ちください。』 青山「信号よし! 大阪中央駅 22時40分5秒の発車。 現時刻22時39分35秒。 発車時刻まで30秒。発車時刻よし!」 ――青山の車外放送―― 『7番線から普通東高槻行き発車します。 ドアが閉まります。ご注意下さい。』 青山「乗降よし!」 ドアを閉めるボタンに置いた指が、 カチッとボタンを押すと、 ピンコンピンポン♪♪……ドン ドアが閉まった。 青山「側灯、滅(そくとうめつ)!!」 ※ドアが開いていることを示す、 電車側面に付いている赤いランプ(側灯)が、 全て消灯(滅)している時に言う言葉。 ブーッ ブザーを押すと、 ゆっくりと動き出す電車。 青山は、 小窓から顔を出したまま動かない。 その顔は、響にまだ見せたことの無い、 “命を守る仕事”をしている 青山の真剣な姿だった。 列車がホームを過ぎ、 青山は過ぎたホームに身体を向け、 肘から指先までを真っ直ぐに伸ばし、 指先をホームに向け、 「後方よし!」 と喚呼し、 客室の方へ身体を戻した。 その後、 停車駅の案内、 車内の案内、 次の停車駅など、 いつも通りの仕事をする 青山がそこにはいた。 混雑率80%の車内。 響もあまり身動きが取れず、 青山の方ばかり見ていた。 窓越しに見せてくるLINEの画面。 青山がよく見ると、 〈め〜〜〜っっちゃ!カッコイイイイ♡♡ 声ヤバかった!! 今度、引継ぎごっこしよ!!〉 恥ずかしくて顔を赤らめ、 また下を向き、 集中力を戻す。 3つ先の北吹田駅から、 乗客は一気に減る。 北吹田発車後、 車内の乗客は10人前後。 LIVE終わりのグループ。 飲んだあとのサラリーマン。 仕事帰りのお姉さん。 響は、未だオレの目の前にベッタリ。 その2つ目の西茨木駅で 更にお客様は下車。 一番後ろの車両には、 青山と響しか残っていなかった。 もう、そこからは 響さんの大暴走が始まった。 電車の車内もそうだが、 青山を撮りまくっていた。 青山(めちゃくちゃ撮ってるけど、 アイツ、何枚撮ってんねん。) 仕事してる姿もいっぱい撮られた。 ――23:10 東高槻駅到着 2人とも下車した。 すると、響は、 電車の止まってない 後ろの方へ向かっていく。 響「コウタくんこっち来て。」 辺りを見回す青山。 ファンは居なさそうだ。 響に近づく青山。 響「ストップ!」 青山「え?」 響「横に電車が止まってるから、 そこ、ちょうどアングルが良いから!」 響「そこで敬礼!」 青山(こんなとこでするもんちゃうし) と思いつつも、 疲れてるハズなのに、 せっかく来てくれたし。 と、敬礼する青山。 響「バリ、イケメンやねんけど♡♡」 響「これ待ち受けにしよ。」 青山「恥ずかしいから、すな。」 青山「ここまできて、これからどうすんの?」 響「まだコウタくん、 大阪中央駅に行く電車に乗るんでしょ?」 青山「まぁ、乗るけど。」 響「23:45発の普通、東明石行きね!」 青山「よくご存知で。」 響「23:40くらいに 4番線で待ってたら良い?」 青山「もう行くよ。こんな時間、 ホームには、誰もおらんやろうし。」 響「マジでー♡ ヤバー♡ じゃぁ、いこいこ♡」 青山は休憩室に寄らず、 響と二人で 4番線の待機位置に向かった。 ブルッ 響のスマホにLINEが来た。 楓〈今どこー?〉 響〈もう着くよ!〉 楓〈OK♡〉 ホームに降りる階段を、 青山と響が並んでゆっくり降りる。 階段の上から走ってくる足音がし、 後ろから男の声がした。 男の声「すいません! トイレはどこですか?!」 後ろを向き、 案内しようとした瞬間、 見たことのある キリッとした顔が視界に入った。 ニヤリと微笑む男。 青山「お前もかい……。」 黒川「だってコウタさんの 仕事姿見れるんっすよ!」 青山「なぁ……、もしかして……、 残りの3人も来てたりする??」 響、黒川は、目を合わせない。 青山(やりよったなコイツら。 まぁ、あの3人がこんな面白いイベントを 嗅ぎ付けない訳ないよな。 そういう嗅覚だけは、犬並やからなぁ……。 で、残りの3人はどこにおるんや??) チラチラ周りを見ながら ホームに降りると、 ベンチに座る3人の背中。 一人金髪、一人茶髪、一人黒髪。 3人は話すこともなく、 正面を真っ直ぐ見ている。 遠くから見ても、 楓、押部、緑川だと分かった。 青山「あ……。みっけ。 あ〜〜、メンバー全員で来るなんて……。 全員、良い度胸してんじゃんかよー。」 楓、押部、緑川も気付き、 響、黒川も合流し、 FiVE DrinKに囲まれる青山。 全員、青山を囲んで、 各々のスマホで撮影大会。 電車到着5分前。 ヒュ〜〜〜ッ 電車はまだ来ていないのに、 凍るような風が5人全員を襲った。 その風にゾッとしていると、 楓がポツリと言った。 楓「コウタくん、 女の駅員さん? 来たけど……。」 青山「駅員??」 青山が後ろを振り向くと……。 堀越「青山さんじゃないですか! あ! ごめんなさい。 お客様対応中ですね……。」 青山「いや、大丈夫だけど、なんでお前が?」 堀越「この行路、 東高槻から大阪中央まで便乗なんですよ! 本務、青山さんで良かった〜。」 青山「そうなん? そんなこと書いてあったっけなぁ?」 青山が車掌用の時刻表を見ると、 “東高槻から大阪中央駅まで便乗あり” 青山「あ……。ホンマに書いてる……。」 青山「堀越……、ちょっとごめんな。」 堀越から離れ、 響の元へ行く青山。 青山「後輩やねんけど、あの子は、 FiVE DrinK、ましてや、 ワタルとジンくんの ガチファンだから気を付けろ。 絶対に近付いたり、 話し掛けたりしたらあかんねんで。 分かった?」 響「はーい。」 黒川「おっす。」 青山(いやに、素直やなぁ?) 青山は堀越の方に戻ろうと、 二人に背を向けた時―― お互い目を合わせ、 ニヤッとする響と黒川。 そう、素直なハズがない。 このフタリ。 青山「まだ5分あるな。寒っ。」 後ろから、 喋ってはいけないフタリが、 響「コウタくん!」 黒川「コウタくん!」 と、青山に声を掛けてきた。 青山は青ざめ、 ブリキのおもちゃのように 首を軋ませながら、 後ろを向こうとすると、 その途中に堀越の顔があった。 堀越は驚き、フリーズしていた。 堀越がゆっくり口を開いた。 堀越「あ……あの……、 も……、もしかして、 もしかしてですけど、 FiVE DrinKの ワタルくんとジンくんですかー?!」 響と黒川の後ろから楓が、 楓「楓も、押部も、緑川もいるよーん♡」 青山「あぁーぁ。おーれ、しーらね。」 堀越「なんで? なんで?」 FiVE DrinKに囲まれて、 訳が分からず、 挙動不審になる堀越。 そして、あろうことか、 なんの迷いもなく、 響「コウタくんの仕事見に来たのー。 ねー! ジンくん!」 黒川「制服姿めっちゃカッコ良いっす!」 堀越「え……? コウタくん? コウタくんってナニ?? なんで、ワタルくんと、ジンくんが 青山さんのことを……コウタくんって……。 え? なんで?! どういうこと??」 青山(そりゃぁ、そうなるよねー。) 堀越は青山の腕を掴み、 逃がさなかった。 堀越「ちょっと、 どういうことですか?! 今度こそは、 ちゃんと説明してもらいますよ〜。」 と、怖い顔で青山を 問い詰めようとするが、 堀越の手は、明らかに震えていた。 青山は観念したように、 青山「ま、色々とね……。」 『まもなく4番線に、 普通、東明石行きがまいります。 危ないですから、 黄色い点字ブロックの内側に お下がりください。』 青山「さ、仕事するか……。 ワタルとジンくんのことは、 また後で話す。」 そう堀越に言うと、 仕事の顔になった青山。 その青山の一言と、 初めて見る青山の真面目な 顔つきを見たメンバーは黙り、 わちゃわちゃしていた空間が 一瞬で引き締まった。 日常の騒がしさだけが覆うホーム。 ドアが開き、 電車に乗り込むメンバー達。 青山、堀越が乗る車両には、 乗客はFiVE DrinKのメンバー5人のみ。 さながら、 FiVE DrinKの貸切車両となった。 堀越「何……。この光景……。」 青山「有り得ないよな。 オレも、正直この光景には、引いてる……。 でも仕事は、仕事。」 青山『ご案内いたします。 この電車は、普通、東明石行きです。 まもなく発車いたします。 車内でお待ちください。』 黒川「え……?」 見たことのない青山の真剣な顔。 滑らかで聞きやすい声に、 黒川の胸が跳ねた。 ――車外放送―― 『4番線から、普通、 東明石行き発車します。 ご利用のお客様は、 ご乗車になってお待ちください。』 青山「信号よし! 東高槻 23時45分55秒の発車。 現時刻23時45分25秒。 発車時刻まで30秒。 発車時刻よし!」 ――車外放送―― 『4番線から普通、東明石行き発車します。 ドアが閉まります。ご注意下さい。』 青山「乗降よし!」 ドアを閉めるボタンに置いた指が、 カチッとボタンを押し、 ピンコンピンポン♪♪……ドン ドアが閉まった。 青山「側灯、滅!!」 ブーッ ブザーを押し、 ゆっくりと動き出す電車。 黒川「ヤっバっ……。」 初めて見る、普段とは違う姿に、 完全に心を奪われた黒川。 青山は、 小窓から顔を出したまま動かない。 その顔は、黒川、楓、緑川、押部に まだ見せたことの無い、 “命を守る仕事”をしている 青山の真剣な姿だった。 列車がホームを過ぎ、 青山は過ぎたホームに身体を向け、 肘から指先までを真っ直ぐに伸ばし、 指先をホームに向け、 「後方よし!」 と喚呼し、 客室へ身体を戻した。 何一つ変わることのない動作。 緩めることも、 誰かがいるからと カッコつける訳でもなく、 淡々と、そしてキビキビと動く姿に、 一同、息を飲んでいた。 いつものように、 停車駅の案内、 車内の案内、 次の停車駅など、 青山は普段と変わらない、 いつも通りの仕事をしていた。

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