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第10話 アイドルと付き合うということ

【登場人物】 ・青山コウタ(あおやまコウタ) 鉄道会社の車掌。 裏表のない優しさで、気付かないうちに周囲の人の居場所を作っている。 響への想いを自覚し始め、二人のこれからを真剣に考えるようになった。 《FiVE DrinK》 ・響ワタル(ひびきワタル) FiVE DrinKのメンバー。 人付き合いが苦手で繊細だが、青山にはすっかり心を許している。 青山と「一緒に寄り添って生きていきたい」と覚悟を決めている。 ・木田アスカ(きだアスカ) FiVE DrinKのマネージャー。 青山とは中学時代からの同級生で、三年前まで付き合っていた元恋人。 青山と響、二人の気持ちを知る数少ない人物で、マネージャーとしても元恋人としても二人を支えている。 ・吉川 木田の後輩マネージャー。 木田をサポートしながら、FiVE DrinKの現場を支えている。 個性の強いメンバーや木田に振り回されることも多い。 ━━━━━━━━━━━━━━━ ――7月 東京、響の家 ジュワーッ トントントントン ピピーピピーピピー 食卓に並ぶ朝ごはん。 ご飯 味噌汁 目玉焼き ウインナー サラダ。 リビングに良い匂いが漂う。 その匂いに誘われるかのように、 響が起きてきた。 響「おはよう。」 青山「おはよう。」 響「今日はウインナーだ!」 青山「そ! ワタルが好きな ウインナー焼いたよ!」 響「ありがとう!」 青山「顔洗っておいで!」 響「はーい!」 向かい合って、 にこやかに朝ごはんを食べる二人。 響「今日、木田さんと会うんでしょ?」 青山「東京FINALのお礼な。 あんな良い席用意してくれたからね。」 響「コウタくんらしい。元カノだから?」 青山「恋愛感情はない。 ま、元カノには変わりないんだけど、 今は、友達で良き相談相手ってとこかな? それじゃぁ、ダメかな?」 響「オレも相談に乗ってもらおー。」 青山「何? それ? 意味深やなー。」 響「コウタくんの攻略法とか……。」 青山「オレはゲームか……。」 笑い合う二人。 ━━━━━━━━━━━━━ ――11:30 渋谷ハチ公前 木田「コウちゃん、おまたせ!」 青山「お、おぅ。」 木田「お礼とか良いのにー。」 言葉は遠慮してるが、 顔はニヤニヤしている木田。 青山「顔と言葉が合ってないねんけど。」 木田「バレた?」 青山「バレバレ。で、何食う?」 木田「パスタ食べたい。」 青山「どっか良い店ある?」 木田「……あ……。」 青山「吉川の前職が イタリアンレストランだったような。」 スマホを取り出し、 吉川に連絡する木田。 木田「こっから近いって。 それと、予約入れとく。って。」 青山「じゃぁ、そこで。」 落ち着いたカジュアルな イタリアンレストラン。 チリンチリン♪ ドアを開ける青山。 店員「いらっしゃいませ。」 木田「予約した、木田です。」 店員「あー。木田さん! 息子が大変お世話になっております。」 どうやら吉川の前職は、 実家のイタリアンレストランだったらしい。 木田「あ、こちらこそ お世話になっております……。 って、吉川くんのお母様?!」 店員「はい。」 木田「き、綺麗過ぎてびっくりしました。」 店員「そんなー! 息子から聞いております。こちらへ。」 木田「あ、ありがとうございます。」 奥まった半個室に通された二人。 店員「お決まりになりましたら、 お呼び下さい。」 木田・青山「ありがとうございます。」 木田「吉川、実家とは言ってなかったわね。」 青山「いいじゃん! 恥ずかしかったんじゃない?」 一通りメニューを選び、 注文して料理が到着するのを待つ。 木田「で……、 LIVEのお礼って口実で呼び出して、 なんの話?」 青山「え?」 木田「響のことでしょ?」 木田「コウちゃんと 何年付き合ってたと思ってんの?」 青山「バレバレか……。」 木田「で、どうしたの?」 青山「どうしたらいいものかと……。」 木田「コウちゃんは、 響の事、どう思ってるの?」 青山「……好き……。」 木田「それが答えじゃない?」 青山「でも、ワタルがオレのこと どう思ってるか。 その”好き”が 恋愛的なものなのか、 それ以外のものなのか、 それが分からなくて。」 木田「ハッキリ言っとく。 響は、覚悟決めてたよ。 アンタがそんな風で響守れんの? 響はね、『コウタくんと結婚したい。』 って言ったのよ。この私に。 響は、コウちゃんと寄り添って生きてく。 ってことを決めたの。 それなのに。 元カノとして、 マネージャーとして、 女として……」 木田「今のアンタ嫌い。 好きならさっさと腹括って愛しなさいよ! そうでなきゃ、響から離れて。」 青山「響がそんなこと言ってたんだ。」 木田「ホント……鈍感ね。」 青山「あと、こういう話を 誰にしたら良いのかも分からなくて。」 木田「なんで私を呼んだの? 私以外にいる訳ないでしょ。 アナタと響が幸せになるなら、 私はそれだけで良い。 相談に乗ったり、 アドバイスならいくらでもするから。 困った時には、スグ連絡して。」 青山「わかった。」 木田「コウちゃんは、 響と寄り添って生きていきたい?」 青山「……はい!」 木田「アイドルと付き合うことは、 決して楽じゃないわよ。 誰にも言えない。 表立ってのデートなんて絶対無理。 スキャンダルなんてご法度。 スキャンダルが出た瞬間、 何もかもが終わる。と思って。」 青山「はい。」 木田「あと、何が起きても良いように、 全員の行動をある程度把握しておきたいから、 今後、コウちゃんのスケジュール、 居場所、全て教えて。報告して。」 青山「分かった。ありがとう。」 胸の棘が取れたかのように、 笑顔になる青山。 木田「ホント世話の焼けるカップルだわ。」 青山「よろしくお願いします。」 木田「それで、いつ言うの?」 青山「いつ……言うの?って……?」 木田「告白するんじゃないの?!」 青山「オレの仕事のこととかもあるから、 ……それはまだかな。」 木田「辞めるの?」 青山「オレは辞めたくない。 でも、辞めざるを得なくなったら、 転職してこっちに引っ越してくる ことになるかな。」 店員「お待たせしました。 ピッツァ・マルゲリータでございます。」 ピッツァを筆頭に、 サラダ、パスタが届く。 明るい店内。 優しい音楽。 美味しい料理。 ゆったりとした食事の時間。 木田「あ、そうそう。 もし付き合うなら、もう少し待ってね。」 青山「え?」 木田「明日、結果が通達されると 思うんだけど、多分、響、 ドラマの主演決まるから。」 青山「え? そうなの?! この前オーディション行ったやつ?」 木田「そうそう。」 青山「なんで分かるの?」 木田「あの監督、役者を決めると オーディション早く終わらせる癖があって。 他の子は、30分とか40分とか オーディションさせるんだけど、 響は、10分だった。」 青山「分かりやすくない?」 木田「そうね。 それで、余計なメンタルの波は避けたいの。 コウちゃんは、今のままで良いから。 付き合う。とか、 生活の変化は避けて欲しい。 あと、この事は、響には絶対内緒で。 このドラマが落ち着くまでは、 今のままでいて。 その先は、二人の問題よ。」 青山「分かった。」 木田「結果が出たら、響にも それとなく言うつもりだから。」 青山「ありがとう。」 木田「さぁ、明日から忙しくなるわよ! もちろんコウちゃんにも 協力してもらうわよ♡」 青山「協力??」 木田「響のメンタルケアよ!!」 青山「ですよねー。」 木田「コウタくんが作ってくれる ご飯が美味しい♡ って言ってたわよー。 絶対に……、太らせちゃぁダメよ。」 青山「了解です……。」 食事が終わり、 店を後にする二人。 木田「私、事務所に行かないと いけないからここで。 コウちゃんは、車?」 青山「いや、電車だよ。」 木田「五反田で乗り換えて 池上線で帰るの?」 青山「そそ。」 木田「もう、こっちの人ね。」 クスクス笑う木田。 青山「悪いかよ?」 木田「いーえ。なにもー。」 青山「今日はありがとう。」 木田「こちらこそ、ごちそうさま。 響のこと、よろしくね。」 青山「分かりました。」 木田「じゃぁ。」 青山「じゃぁ。」 お互い軽く手を振り、 別れる二人。 電車に乗り、 響の家へと帰る青山。 ドアが閉まり、 電車が動き出す。 『この電車は、山手線内回り 品川、東京方面行きです。 次は、恵比寿、恵比寿。 お出口は右側です。』 (倒れかかって来たから、 助けただけだったのに。 いつの間にか心の中に響が居て、 そして忘れられなくなってた。 考えるより、 身体が勝手に動いてた。 考えたく無かったのかも知れない。 とにかく会いたかった。 とにかく、 あの笑顔が見たかった。 ”好き”より、 ”愛おしい”と思うようになっていた。 オレはいつの日からか、 響に救われていた。 抱いてるはずなのに、 抱かれている感覚。 慰めているのに、 慰められている感覚。 優しくしているのに、 優しくされている感覚。 でも、この想いや感情は、 オレの一方的な想いだったらどうしよう? オレの勘違いだったらどうしよう? そして、 オレで良いんだろうか? そんな考えがずっとあった。 でも、 アスカと話して分かった。 一方的でもなければ、 勘違いでもなかった。 そして、 響はオレを選んでくれていた。 スキャンダル……。 これだけは絶対に避けなければ。 二人でいるのは、 基本、家の中だけだな。 あと、仕事をどうしよう? このまま仕事終わりに東京へ来て、 出勤の度に大阪へ帰るか。 いっその事、 仕事を辞めて、 響との生活に専念するか? オレがこっちに来て誰が稼ぐんだ? 響?? いや、それはダメだ。 でも、今の時点で収入は、 断然、響の方が上やな。 ま、仕事の話とかは、 ドラマが終わってからだな。) 『次は、東京、東京。 お出口は左側です。』

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