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第21話 クランクアップ

【登場人物】 ・青山コウタ(あおやまコウタ) 響の事が好き。 だけどまだ告白はしていない。 ドラマがクランクアップするまで 告白はしないで。と木田に言われている。 木田の元彼。 響からは、コウタくん。 木田からは、コウちゃん。と呼ばれている。 響に会うため、 仕事の度に大阪と東京を往復していたが、 ついに体力の限界を迎えてしまう。 現在は、叶った夢である車掌を続けるか、 FiVE DrinKの新マネージャーになるか、 大きな選択を迫られている。 幼い頃、祖母が住んでいた山口県富海を 久しぶりに訪れる。 《FiVE DrinK》 ・響ワタル(ひびきワタル) 青山の事が大好き。 だけどまだ告白はしていない。 アイドルグループ FiVE DrinKのセンター。 BLドラマ「フタツノ ヒカリ」W主演で “浦井耀”(うらいひかり)役を演じている。 落ち着いたら告白しようと考えている。 青山からは、ワタル。 木田からは、響もしくは、ワタルと呼ばれている。 仕事の忙しさから青山に無理をさせていた事に気付き、 二人のこれからを考え始めている。 約4ヶ月続いたドラマ撮影も、 いよいよ最後の日を迎える。 ・木田アスカ(きだアスカ) FiVE DrinKを預かる敏腕マネージャー。 青山コウタの元彼女。 青山からは、悪魔と呼ばれている? 響のスマホのLINEの名前は、 “天使か悪魔か”にされていたが “木田天”に変更された。 青山と響の将来を考え、 青山にFiVE DrinKの 新マネージャーになることを提案した。 ・吉川キョウスケ(よしかわ キョウスケ) ReACTiO PRO所属。 新人女優、大空ユメのマネージャー。 人当たりが良く、 誰とでもすぐ打ち解ける柔らかい性格。 常に笑顔を絶やさず、 木田アスカにも懐いている。 しかしその裏では、 芸能界の様々な情報を独自に集め、 中尾や黒崎からも頼られるほどの情報通。 響のスキャンダル騒動でも、 水面下で大きく動いていた。 ・社長/中尾マサシ(なかお マサシ) FiVE DrinKが所属する芸能事務所 ReACTiO PRO(リアクティオ プロ)の社長。 人を見る目に長けており、 響ワタルをスカウトした張本人。 穏やかな口調とは裏腹に、 時には冷酷な判断も下す。 その人が売れる為なら、 自ら悪役になることも厭わない。 木田やFiVE DrinKからの信頼も厚い。 元所属タレント・黒崎零とは、 複雑な因縁と信頼関係を持つ。 フリーザの声に似ているらしい? 現在は青山コウタにも興味を持ち、 FiVE DrinKの新マネージャーとして 迎える計画を進めている。 ・野村リカ 中尾社長の秘書。 中尾が役者時代の3代目マネージャーとして 支え続け、今では中尾の右腕として働く。 中尾の事を一番良く知る人物。 ・黒崎零(くろさき れい) 芸名 RAY-K(レイケイ) 芸能事務所 Crest Aster(クレストアスター)の社長。 元アーティストであり、 圧倒的なカリスマ性と実力で 事務所を大手へ押し上げた叩き上げの男。 かつてはReACTiO PROに所属しており、 中尾社長とは複雑な信頼関係を持つ。 過去、高熱で渋谷の街で倒れた際、 青山コウタに助けられていた事を思い出す。 長年探し続けていた恩人と、 富海駅で再会を果たした。 ・兎波奏(となみ かなた) ダンスボーカルグループ VIREST(ヴィレスト)のセンター。 「フタツノ ヒカリ」で 響ワタルとW主演を務める若手人気俳優。 クールで近寄り難い雰囲気を持ち、 ドSキャラとして人気を集めている。 響ワタルを尊敬しており、 共演をきっかけに親しくなる。 現在は、響の恋愛相談相手にもなっている。 自身も気になる男性がおり、 少しずつ距離を縮めようとしている。 所属事務所は、 Crest Aster(クレストアスター)。 黒崎零(RAY-K)からは、 「かなた」と呼ばれている。 ・阿川聖哉(あがわせいや) 元芸名、SEIYA(セイヤ) Crest Asterの副社長。 黒崎の側近。 ReACTiO PRO在籍時の同期。 黒崎の事を良く知る人物の一人。 ・堀越サチ(ほりこしサチ) 青山の後輩車掌。 FiVE DrinKの大ファン。 青山とは先輩後輩でありながら、 遠慮のないやり取りをする関係。 青山を追い掛ける形で、 一緒に山口県富海までやって来た。 ━━━━━━━━━━━━━━━━ 撮影現場近くに2台の車が到着した。 ピッピ。 ウィーン。 ガチャ。 ゆっくりと車から降りてくる中尾。 中尾「良い天気で良かったわね。」 少し離れた場所から、撮影風景を眺める。 野村「もっと近くからでも……。」 中尾「いいわよ。 みんな気を遣うだけでしょ。 でも、監督には挨拶しておかないとね。」 モニターを見つめる監督。 監督「カットーー!!おっけーー!」 出演者、スタッフが集まる。 響、兎波が撮影された 映像をモニターで見ている。 響「イイ感じだね!」 兎波「そだね。」 監督「あとは……、夕陽待ちか……。」 助監督「監督……、 ReACTiO PROの中尾社長が いらっしゃってます。」 監督「あの中尾が?珍しい……。」 中尾「何が珍しいって??」 監督「相変わらず気配ねぇーな。」 中尾「お褒めの言葉をありがとう。」 監督「褒めてねぇーわ。」 監督「響の演技は上手いけどな。」 中尾「ありがとうございます。 今後ともよろしくお願い致します。」 監督「あいよ。」 監督「夜、空いてるか?」 中尾「もちろん。」 監督「打ち上げあるから来いよ。」 中尾「分かりました。」 監督「さっき撮ったフィルム観るか?」 中尾「いえ。」 監督「相変わらずだなぁ。」 中尾「苦手なんですよ。」 監督「そこは、変わらんか。」 助監督「あと1時間くらいで日が落ちます。」 監督「わかった。スタンバイよろしく。」 助監督「はい!」 監督「じゃ、あとでな。」 中尾「はい。」 立ち去る監督に、軽く一礼する中尾社長。 木田が走ってくる。 木田「お疲れ様です。」 中尾「お疲れ様。」 中尾「計画は順調??」 木田「ま……まぁ……。」 中尾「なんだか歯切れが悪いわねぇ。 何か問題でも??」 木田「いやぁ〜、特には無いですね……。」 木田(響、いや、FiVE DrinKのメンバー全員に 計画がバレたとは、口が裂けても言えない……。) 中尾「撮影、今日で終わりそう?」 木田「あとシーンが、1つだけなので。」 中尾「じゃぁ、待ってるわ。」 野村「響には会わなくて良いんですか?」 中尾社長「……。」 すると遠くから、 キャリーケースを転がす音が聞こえた。 ガラガラガラガラ……。 ガラガラガラガラ……。 そこには、 黒崎と見覚えのある男と 見覚えのない女が歩いていた。 中尾「木田……、あの真ん中の男が、 青山コウタよね……?」 木田「はい。」 中尾「変わらないわね。」 木田「変わらないわ……、え?」 木田(変わらないわね?嘘でしょ? 社長は過去にコウちゃんとの面識がある? え?どこで??) 中尾の見る先には、 楽しく笑い合う黒崎と青山。 中尾「あのRAYをいとも簡単に……。」 黒崎「コウタ、あの男には気をつけろ。」 青山「ん?」 黒崎の見る方に目線を移す。 その先に初老の男が立っていた。 軽く会釈をする初老の男。 青山「もしかして……、中尾社長……?」 黒崎「そう……。」 黒崎「あの人には、 嘘も、下手な演技も通用しない。」 黒崎「全てを見抜く嫌なおっさんだよ。」 青山「ねぇ、 オレにお礼でご飯連れてってくれる。 って言ったよね? その時に、 相談したい事あるんだけど……。」 黒崎「相談……??うん、わかった……。」 青山が真剣な顔で言うので、 ふざけずに返答する黒崎。 そう話している内に、 中尾と会話出来る距離に来ていた。 中尾「初めまして。 響がいつもお世話になっております。 そして、響とそこのバカを 助けていただきありがとうございました。」 深々とお辞儀をする中尾社長。 青山「あ……、初めまして……。 青山コウタと申します。 その節は、大変ご迷惑をお掛けし、 申し訳ありませんでした!」 深々とお辞儀をする青山。 黒崎「おい、誰がバカだって??」 黒崎は堀越を見る。 堀越「知らなーーーい。」 ふん、と顔を逸らす堀越。 黒崎「堀越ちゃん。 オレを誰だと思ってる? 兎波の事務所の社長だよ?」 耳がピクリと反応する堀越。 黒崎「オレが今、となみ〜! って呼んだらここに兎波くん来るよ?」 ピクピク耳が動く堀越。 振り返る堀越。 堀越「そんなんで、 靡く(なびく)訳ないでしょ!」 堀越「ばーーーか!!」 黒崎「この!」 堀越のほっぺを両手で引っ張る黒崎。 堀越「にゃひすんほひょ!」 (何すんのよ!) 黒崎「何言ってるか、わかんねーよ!」 堀越もすかさず、 黒崎の頬を両手で引っ張る。 黒崎「にゃひすんひゃひょ!!」 (何すんだよ!) 堀越「はんはがひゃって きひゃきゃらでひょ!」 (あんたがやってきたからでしょ!) 黒崎「ひゃなひぇよ!」 (離せよ!) 堀越「あんひゃが ひゃなひなひゃいひょ!」 (あんたが離しなさいよ!) 中尾「アレはなんだ?」 青山「見なくて良いです。 というか見ないで頂きたい。」 中尾「少し話せますか?」 青山「はい。」 中尾と青山は2人きりになるため、 少し離れた所へ歩いて行った。 黒崎「ひゃやひゅひゃなひぇよ!」 (早く離せよ!) 堀越「おんひゃがひゃなひなひゃいよ!」 (あんたが離しなさいよ!) 兎波「響、見て!」 響「ん…………?…………うわっ……。」 兎波「あの女子誰?誰かの知り合い?」 響「知らない……。知りたくもない。」 兎波「ウチの社長の頬を……。」 響「あのバカっ……。」 ザー……、ザー……、ザー……。 穏やかなさざ波が、砂浜を優しく削る。 中尾「ここら辺で良いでしょう。」 中尾「響を、 ここまで支えてくれてありがとう。」 再度、深々と頭を下げる中尾社長。 青山「やめて下さい!頭を上げてください!」 中尾「私も、木田も、響に対して どうすることも出来なかった。 あの子の闇は深かった。深過ぎた……。 私の考えは、甘かった……。 いつしか、 腫れ物を触るように……。 機嫌を損ねないようにと……。 細心の注意をはらい接していた。」 中尾「そこに、あなたが現れた。」 中尾「最初に報告を受けた時は、 ビックリしましたよ。 聞いた事のある名前が 報告されるんですもの。」 中尾「そして、 あなたの写真を見た時に確信した。 黒崎を救ってくれたのもあなただったと。」 中尾「覚えてます? あなたが黒崎を救って 病院から出る時、私とすれ違っていたのを。」 中尾「私はあなたの顔を覚えていた。」 中尾「あの後、黒崎も私も 必死にあなたを探していた。 しかし、探し出すことは出来なかった。」 中尾「やっと私も楽になれる。」 青山「響は……、」 青山「誰かに 助けて欲しかったんだと思います。」 中尾「それが、あなたで良かった。」 中尾「私は、反対はしていませんよ。」 中尾「反対する道理がない。」 青山「そうなんです??」 中尾「木田と黒崎に なんか吹っかけられたの?」 青山「吹っかけられた……というか……。」 中尾「あの二人、バカじゃないの……。」 青山「でも、 社長は私をマネージャーにと……。」 中尾「私は、あなたに その素質があると、判断しました。」 中尾「そして、響の……、木田の……、 FiVE DrinKの……、 みんなの支えに なっていることも分かっている。」 中尾「それに、 このまま遠距離なんて 続けられないでしょ。 こっちで働くとなれば、 職を探すのも家を探すのも大変でしょ?」 中尾「無理にとは言わないけど、 もし、響と一緒になるなら……。 それを見越して私は計画を立て、 提案をしている。」 青山「ありがとうございます……。」 中尾「まだ時間はある。 だから、よく考えなさい。」 中尾「私は、あなたを悪くしないから。」 青山「ホントですか?」 中尾「今すぐ別れさせるわよ……。」 青山「…………。」 中尾「…………。」 ふと、2人の目が合う……。 ぷぷぷっ……。 2人とも笑いを我慢できずに、 吹き出した。 黒崎「おい……、 あの中尾が人と笑ってる……?」 木田「あんな歯を見せて笑うんだ……。」 吉川「青山さん、大物ですね……。」 黒崎「もしかして、1番怖いのは……、」 木田「コウちゃんかもしれないわね……。」 響「コウタくん、 全然ボクんトコ来ないし……。」 兎波「次でラストカットだよ。」 響「監督!あとどれくらいかかる?!」 監督「え?あ……、 あと、10分かな……。」 響「分かった!ありがとう!」 響「ちょっと行ってくる!」 走り出す響。 兎波「できるだけ 早く帰って来るんだよぉ。 あと10分だよぉ♡」 響の背中に向かって叫ぶ兎波。 手を振る響。 中尾「主役が来ましたよ……。」 ダッダッダッダッダッダッ! 響「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……。」 響「次が、ラストカット。」 響「コウタくんに……、 見て欲しい。」 青山「……。」 中尾「何してんのよ!行きなさいよ!」 バシっ!! と青山の背中を、 力強く叩く中尾。 中尾「未来の響のマネージャー!」 響「響のマネージャー!!」 青山「え……?え……?」 響が青山の手を引き、 走り出した。 青山「待って!待って! ちゃんと走るから!!」 スマホを弄る兎波。 青山の声に気付き、 顔をそちらに向けた。 青山の手を引き、 走ってこちらに向かってくる響。 兎波「イイじゃん。」 思わずスマホを二人に向け シャッターを押した。 カシャッ スマホに保存された キラキラに輝く海と砂浜。 透き通る空。 そして二人の笑顔。 そこには雲一つなかった。 響「お待たせ!」 青山「ちょっと!ちょっと!何よ??」 兎波「初めまして!兎波奏と申します。」 かしこまってお辞儀する兎波。 青山「初めまして。青山コウタと申します。」 笑顔でお辞儀を返す青山。 青山「え?オレがご挨拶して良いの??」 響「奏(かなた)は、 ボクたちのこと知ってるから。」 青山「え?そうなの?」 兎波「もし、良かったら……、 握手してもらえませんか?」 パシッ! 響「お触り禁止!!」 青山「いつも響がお世話になってます。」 兎波の手を笑顔で優しく握る青山。 響「ちょっと!何やってんの?!」 兎波・青山「握手」 響「てか、いつまで手握ってんのよ!!」 2人の間に割って入り、 兎波と青山の手を振り解く響。 スタッフ「あのぉー。 そろそろ準備の方をお願いします。」 兎波・響「はい!」 青山「また後で。」 兎波「あとでゆっくり話しましょう!」 青山「OK!」 兎波「よっしゃ!」 響「じーーー……。」 兎波「取りゃしないよ……。」 響「当たり前だろ。」 兎波「吉川と浦井に戻るよ。」 響「うん。」 青山を背に撮影場所に向かう 響と兎波。 さっきまでわちゃわちゃしてた青年が、 俳優になる瞬間。 明らかに空気が変わったのを、 青山は感じた。 木田「これが、響ワタルよ。」 青山「凄いね……。」 中尾「君が変えたんじゃないか……。」 青山「いや……、オレは何も……。」 中尾「ラストカット、 みんなで見ようじゃないか。」 木田・青山「はい。」 監督「よーーい!」 カチッ! ━━━━━━━━━━━━━━━━━ 監督「カットぉーー!」 2人はすかさずモニターの前に 駆け寄ってきた。 真剣にモニターを見る2人。 そして、画面のカットがかかった。 監督「お疲れ様。OKだよ。」 助監督「みなさん! こちらにお集まり下さい!」 助監督「以上をもちまして、 浦井耀役の響ワタルさん、 吉川輝役の兎波奏さん、 オールアップです!! お疲れ様でした!!」 監督から1人ずつ花束を渡される2人。 助監督「それでは、一言ずつ頂けますか?」 お互い見合って譲り合う2人。 兎波「じゃぁ……。」 兎波「約4ヶ月、 大変お世話になりました。 初めての主演で、緊張して、 足ばっか引っ張って。 でも、ワタルがいつも励ましてくれて。 そして、スタッフみんなが暖かくて。 ここで沢山学びました。 また、皆さんと一緒に仕事が出来るよう、 一回り、二回りも大きくなって、 今度はオレが引っ張れるように頑張ります。 本当にありがとうございました!!」 パチパチパチパチパチパチ……。 一歩前に出る響。 鳴り止む拍手。 響「皆さんお疲れ様でした!…………。」 空を見上げる響。 響「…………。」 響「アカン……。泣いてまぅ……。」 兎波「泣けよ……。」 肩を抱く兎波。 響「……ありがとう……。」 響「ボクは、ホントは、弱い人間で……。」 響「何度も逃げ出すような人間で……。」 響「主役という重圧に耐えられるのか、 不安で不安で。」 響「でも……、ここまで、 最後までやり切れました。 兎波くんだったからこそ。 スタッフがみなさんだったからこそ、 最後まで無事逃げずにやり切れました。 途中、皆さんには、 大変ご心配とご迷惑もお掛けしました。 その節は、申し訳ありませんでした。 相手役が兎波くんで良かった……。 みんながスタッフさんで良かった……。 また、どこかでご一緒になった時は、 よろしくお願いします。 本当にありがとうございました!!」 パチパチパチパチパチパチパチ……。 兎波、響が強く抱き締め合う。 兎波「お疲れ様。ありがとう。楽しかった。」 響「お疲れ様。ありがとう。 オレも楽しかった!」 身体がゆっくり離れ、 視線が青山を探す。 監督、スタッフ、事務所関係者、 そして、その後ろに青山が立っていた。 目が合う二人。 響「ありがとう……。」 口だけが動いた。 青山は、笑顔でこう返した。 青山「よく頑張ったね。」 その口の動きを見た響は、 更に涙を零した。 鳴り止まない拍手。 木田が後ろを振り返る。 木田「コウちゃん……、 響になんか言ったでしょ?」 青山「なにもー……。」 木田「へー……。」 木田「ま、いいわ……。」 少し微笑み、また前を向いた。 ━━━━━━━━━━━━━━━ 響「おまたせ!」 木田「もう、いいの??」 響「うん。また後で打ち上げあるし。」 木田「そうね。 それじゃぁ、 ホテルに向かいましょうか……。」 木田「コウちゃんも乗ってくわよね?」 青山「あ……、あ〜……。」 青山「ごめん。ちょっとオレ、 寄ってくトコあるんだわ……。」 木田「??」 木田「……あ……、そうね……。 会いに行かないとね……。」 響「ん??……。」 青山「悪いけど、 荷物だけ預かってくれないか?」 木田「分かったわ。」 キャリーケースを渡す青山。 青山「あと、コイツと。」 堀越も木田に預けられる。 堀越「私……、荷物……??」 青山、木田、響 「それ以外に何がある??」 堀越「うぇーーーん!!ひどぉ〜〜い!!」 青山「じゃ、あとよろしく。」 響「打ち上げには来るんだよね?」 木田「コウちゃんは、 関係者じゃないから無理よ。」 響「じゃぁ、その後!」 木田「こんなに関係者いるのに、 バレたらどうすんの?!」 響「……。」 青山「ワタル……、 もうちょっと我慢出来るか?」 響「……。」 響の耳元で呟く青山。 青山「帰ったら、 特大オムライス……、 作ってあげるから……。」 響「ハンバーグとエビフライと ナポリタンも付けて……。」 拗ねた顔で言う響。 青山「お子様ランチやん……。」 笑う青山。 青山「分かりました……。 響様ランチですね……。」 響の、拗ねた顔が解れていく。 響「しょぉがないなぁ〜……。」 青山「ありがとう……。」 頭をポンポンする青山。 照れる響。 木田「そろそろそこら辺で……。」 青山「あ……、あぁ、ごめん……。」 響「ごめんなさい。」 青山「じゃあ……。」 手を振り、ゆっくりと離れていく青山。 響「コウタくん……、 誰に……、会いに行くの……?」 木田「コウちゃんの……、 誰よりも味方だった人……かな……。」 響「誰よりも味方だった人……??」 木田「おばあちゃんのお墓参り……。」 響「そうなんだ……。」 木田「安心しなさい。」 木田「あなたも、 ちゃんと連れてってくれるわよ。」 響「そうなの?」 木田「経験者は語る……♡」 響「行ったんだ……。」 木田「大切な人しか、 連れて行って貰えない場所。」 木田「ご挨拶の言葉、 考えといた方が良いわよーー。」 響「ドキドキするな……。」 木田「今は……、 一人にしてあげましょ……。」 響「分かった……。」 夕陽が、青山の背中を照らし続け、 やがてその姿は、小さく消えた。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━ カンカンカンカンカンカン……。 踏切が鳴る。 踏切の前で立ち止まる青山。 ウィーーーン……。 ゆっくり降りる遮断機。 そして、少し小さくなる踏切の鳴動音。 ファーーーン。 遠くから汽笛が聞こえる。 ゴーーーー。 小さいが確かに聞こえる、 電車がトンネルの中を走る音。 右を見る青山。 小さく開いたトンネルの出口。 真っ黒の円の中が少しずつ明るくなる。 そして、ヘッドライトの光が見えた。 トンネルの中から顔を出す電車。 カタカタカタカタカタ……。 次第に近付いて来る……。 カンカンカンカンカンカンカン。 カタカタカタカタカタ……。 ゔゔぅーーん。 ガタン。 ガシャンガシャンガシャン……。 踏切の音、電車の走行音、 鉄橋を渡る音が入り交じる。 カタカタカタカタカタ……。 電車が通り過ぎ、 遠ざかっていく。 カンカンカンカンカンカン。 ウィーーーン……。 踏切が鳴り止み、 ゆっくり上がる遮断機。 おばあちゃんが前を行く。 おばあちゃん 「帰って晩御飯作らにゃ。」 青山「刺身と……、 あと、豆腐と大根の味噌汁が良いな……。」 おばあちゃん 「はぁー、コウちゃんはそればっかりやね。」 青山「おばあちゃんの作った味噌汁、 好きやもん。」 子供に戻った青山とおばあちゃんが そこには居た。 潮の香り、ツクツクボウシの鳴き声が 二人を包む。 ━━━━━━━━━━━━━━━━ 細い路地を入り、奥へ進む。 今にも倒壊しそうな建物。 ツタが建物を覆い尽くす。 ポツンと佇む井戸。 青山「ただいま……。」 おばあちゃん 「はぁー、よぉー来たねー。 また、おっきくなって……。」 青山「変わらないよ。」 そう言い、 また歩き出す青山。 近くの小さなスーパーに寄る。 花束を手にし、レジに向かう。 老婆が、青山を一瞥し、 バーコードを読み取る。 ピッ。 老婆「550円です。」 お金を出す青山。 老婆「はぁー、コウちゃんかえ?」 青山「覚えてました?」 老婆「はぁー、 またこんなに大きくなってーー。」 青山「おかげさまで。」 老婆「ちょっと、待ちんさい。」 そう言い、店の奥に消えた。 少しして、出てきた老婆。 片手に何かを持っている。 老婆「これ、食べんしゃい。」 チーズケーキ。 子供の頃、 この店に来る度に買っていた チーズケーキ。 チーズケーキが無いと、 その日、一日機嫌が悪い。 青山「いいの?」 老婆「また、泣かれたら困るっちゃ。」 青山「もう泣かないよ。」 涙が一雫、頬を伝う。 何かを思い出す青山。 店の中を見渡す。 青山「牛乳ある??」 老婆「牛乳??」 老婆「あー……、あの牛乳かい??」 青山「そうそう!」 老婆「はぁー、奥の牛乳コーナーに……。」 老婆が動こうとする。 青山「あ!いいよ。オレが取りに行く。」 牛乳を取り、レジに戻った青山。 ピッ。 老婆「墓参りかい?」 青山「うん。」 老婆「はぁー、さぞ、ばぁちゃん喜ぶな。」 青山「だと、良いけど。」 微笑んで返した。 お釣りと花束と チーズケーキ、牛乳を受け取り、 店を後にした。 牛乳を片手に、 チーズケーキを頬張る青山。 食べ終わる頃、 祖父母が眠るお墓に着いていた。 入口で水を汲み、 墓石に水を垂らし、素手で丁寧に 墓石を擦る青山。 青山「ただいま。帰ってきたよ。」 花束を手向け、屈む青山。 おばあちゃん 「どうしたんさ、そんな顔をして。」 青山「まぁね。」 青山「夢が出来た……。」 青山「でも、夢を捨てなきゃいけない。」 青山「叶った夢と、叶えたい夢。」 青山「どちらかを選ばないといけない。」 おばあちゃん 「はぁー、贅沢な……。」 青山「だよね……。」 おばあちゃん 「はぁー、でも……、 コウちゃんの中では、決まっとるんじゃろ?」 青山「…………。」 おばあちゃん 「ばぁちゃんは……、いつでも……、 コウちゃんの……味方っちゃー……。」 青山「ありがとう……。」 目を瞑り、手を合わせる青山。 オレンジに染まった空。 そよぐ潮風。 そしてツクツクボウシの鳴き声。

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