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第2話
御子柴清人は、ベータの男だ。
ただ、モテる。下手をすればそこら辺のαなんかよりずっと。
単に高身長で顔がいいだけでなく、面倒見がいい。まぁ付き合っているのは”猫獣人”の、しかも地雷系と呼ばれる彼女ばっかりなのは頂けないが。
――もう数えるのをやめるくらいにはモテて、同じ数だけフラれている。
(ったく。猫の獣人なんて、さっさと諦めちまえばいいのに)
そうすりゃもっと長続きする、それこそ「理想の彼女」と出会えるだろうな。
清人が―――お前が、早くまともな彼女を作ってくれれば俺だってこんな不毛な片思いから解放されるのに。
◇ ◇ ◇
「なぁ、清人。 お前と班目さんって付き合ってるんか?」
「‥‥‥はあ?」
講義が終わった後。なんとなく友人の一人にそんなことを言われて一瞬、時が止まった。
俺と柊が、付き合ってる?なんじゃそりゃ。
「付き合ってねぇけど?なんで?」
ついでに言うとこの友人も俺と班目と同い年だ。なんでアイツだけさん付け?
「いや…急に清人から大型獣特有の圧?みたいなのを感じるっていうか…」
「あー…柊のだわ。俺が彼女と別れてからしょっちゅううちにいるからな。もしかすると匂いが移ってるのかも」
たまに言われるけど、アイツが「α」だから?
柊とは兄弟みたいなもんで、同じ肉食獣同士。αの圧とかだって小学校からずっと一緒にいるんだ、俺には耐性がついたのか感じたことがない。
柊の匂いだったらすぐ気づくんだけどなぁ。
「へぇー。付き合ってないクセにそんなクッソ距離近いんか」
「まぁ、柊には合鍵渡してるし」
「あ、合鍵ぃい!?」
「うおっ」
至近距離の大声に思わずビクッとしてしまった。
合鍵つっても特別な意味じゃない。俺は一人暮らしで、柊は遠い実家からこの大学に通っている。
それがちょっと不便そうで、やっぱり大変みたいだから助け合いのつもりで……あ、そっか。
「心配すんな、俺に彼女がいるうちは来ないって」
「いやいや、カノジョがいる友達の家に堂々と上がり込む奴なんていないだろ」
「まあそりゃそうか。でも柊がいると掃除してくれるしメシ作ってくれるし、結構助かるんだよなぁ」
家事系は好きなほうだけどデート代ってのは金がかかる。バイトのシフトが続くとコンビニ弁当かカップ麺に頼っちゃうからな。そんなときに柊がいてくれるのは有難い。
「‥‥‥ちょっとまて。お前っ、班目さんにメシ作らせてんの!?」
「作らせてるってか、俺も作るよ?」
「そうじゃなくって! あんなド美人な人が、一緒の空間にいるだけでご褒美だろ!?」
ド美人、ご褒美‥‥?
「柊が‥‥‥‥ド美人…?」
あ、うん…。
確かに美人だとは思う、思うけど‥‥。頭を捻ると友人から辛辣な目で、
「清人。お前、眼科行け」
―――それと班目さん。お前に気があるぞ、多分だけど。
「――ってなことが今日あったんだけどさ、柊はどう思う?」
「どうって……。それを本人に聞くか?」
リビングのソファで、柊が不機嫌そうに目を細める。
さすがに柊が俺の事を好きっていうのは……反応を見てって感じで。
「たしかに柊は美人だけどさ、一緒の空間にいるのがご褒美って言われてもなぁ…」
「おい。遠回しに俺をディスってんのか?」
「いやいや、滅相もない」
でも俺が今さら柊の顔を褒めるのって、なんていうか身内を自慢するみたいで気恥ずかしいんだよな……。それに、わざわざ観察しなくたって柊のパーツはどれも綺麗だ。睫毛の長い大きな黒い瞳、ツヤのある上品な茶髪。色白の肌――。
身長は男らしくしっかりあるけれど、うちで風呂上がりの姿を見慣れているせいか、ほっそい腰のラインも知っているわけで……。
「美人ってよりも、エロい方だよな」
「………は?」
「あ、ごめん。つい口に出てた」
「…………」
「いや! 美人ってのは本当! うん、俺も心からそう思ってる! マジで思ってます、ハイ!」
ー―――やっべ。
柊は照れ屋だ。とくに俺から容姿を褒められるのをなぜか昔から嫌がる。沈黙した柊の周りの空気が、あきらかに凍りついているのが分かる。
ああ、これが圧ってやつかなぁ――なーんて。
「……どこが?」
「ん?」
「だから、俺をエロいって思ってんのか?本気で?」
「んんんっ!?」
え、何その質問!? 答えていいの、これ!?
柊の形のいい唇が、じっと俺の回答を待つように歪んでいる。真っ赤になった耳を隠すように、チーターの長い尻尾が床をバシバシと激しく叩いていた。
「はよ言え」って催促しているみたいで…。
(え。もしかして、柊ってマジで俺のこと……を、好きとかあるわけ?)
試されている。ここで引いたら男が廃る(?)気がした俺は、ゴクリと唾を飲み込み、
「だってお前、脱いだら乳首ピンク色じゃん」
直後、顔面に猛スピードのクッションがクリーンヒットした。
―――――――――――――
「柊のやつ、絶対俺をそういう対象って思ってねぇわ」
「…‥‥」
翌日。俺に変なことを吹き込んだ友人に文句を言ってやった。
ったく、アイツは容赦ない。
「そのあとも不機嫌で、寝るまで俺の話を無視だぜ?ったく、ガキかよ」
「はは、‥‥って、あれ? この前お前んちに泊まったけど客用布団買ったんか」
「ないけど?」
そんな気の利いたものはない。
ダチが泊まるときはその辺に雑魚寝してもらうか、一人くらいならソファを貸してやってるけど、まぁ柊には狭すぎる。
「班目さんって、もしかしてさ」
「一緒に寝るけど?」
「おい、ちょっとまて」
んだよ、食い気味に。昨日からしつこいな。
「お前、班目さんと同じ布団で―――寝てるって?」
「?? そうだけど?」
「あの国宝級の顔が隣にあって、ムラッとしないわけ?」
「はあ?国宝級??」
‥‥‥それに、ムラッと??
俺はオメガじゃないんだ、αのフェロモンなんて分かるはずないだろ。
「だーかーら、昨日も言ってんじゃん。柊とは兄弟みたいなもんだ、家族に欲情するわけないだろ」
「お前よぉ、もし班目さんが他の男と同じベッドにいたらどう思う?」
「どうって……? いやだけど?」
「あ、うん。……うん、なんで嫌?」
そういや、なんで嫌なんだ???
「―――ってことが今日あった」
「‥‥‥‥」
「なんでだろうな、柊にだってパートナーがいてもおかしくないのに。ぜんぜん想像つかないんだよ。あ、お前のタイプって、そういえばどんな子?可愛い系?美人系?」
ほんっとヘンな話だよな。いつからか柊とそんな話をしなくなってた。
――――なんかαの恋愛事情を聞いてしまうと、βの俺は何もできなくなりそうで‥‥。まさか自分は彼女作るくせに、柊には仲間外れにされてるみたいで嫌ってか、俺?
分かんないことでモヤモヤしてしまう。
「っ、清人…、やめろっ、肩を噛むなっ」
「あ、悪い」
「はぁ…。そうやってお前が俺にマウントとってくるから、こっちから話題避けてやってんだ。いてぇんだよ、馬鹿力が」
狼による、無意識のマウント行為。
子供の頃もよくやったけど柊に対しては変なクセがついてしまった。柊より優位に立とうなんて思ってないのに……。
「なぁ、柊」
「……あんだよ」
「お前って、かわいいよな」
――――――容赦なくクッションが飛んできた。
―――――――――――――――
「おい、何があった?」
「‥‥‥‥柊に、引っ掻かれた」
悪口を言った覚えなんてない。
なんでだよ……。いよいよアイツの事が分からなくなりそうだ。
「清人って、実は班目さんのこと嫌いなんか?」
「なんでそうなるわけ!?」
俺は一番柊が大切で、柊の家族で、柊だけだ。
彼女より柊の予定に合わせるのが優先だし、柊を楽しませたい、笑っていてほしい。
「……そこまで想ってて、なんで「愛してる」の一言が言えないんだよ」
………は?
「今も学内のどっかで、誰かが班目さんに告白しているかもしれないぜ?」
友人の―――草食獣特有の、丸くて大きな目がニィッと意地悪気に細くなった。
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