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恋のキューピッド3
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社会人になり、僕は宗治郎さんの会社から少し遠めの職場に就職した。
彼が就職して以降は、僕も徐々に卒論や就活で忙しくなったから、元からあまり会えてはいなかったけれど、いつまでも気軽に会える距離にいるのは違うだろうと思って。
彼への好意を忘れなければいけないと焦ることはなくとも、温め続けたところで何か意味のあるものに変わるわけではないから、そろそろ整理したい気持ちもあった。
それでも、仕事を始めて数年経っても、新しい生活の中に恋愛的な意味での出会いはなく、もちろん宗治郎さんへの気持ちも消えないままだった。
ああ、いよいよ本格的に諦める努力をしなければならないと思っていた頃、隣の部署に素敵な人を見つけた。
清水沙織 さん。彼のひとつ上の、明るく穏やかな女性だ。
これまでは存在は知っていたものの、仕事で深く関わることがなくて話をする機会はなかったけれど、今では清水さんのことが大好きになった。
仕事はできるし、謙虚だし、気づいたら助けられていることも多い。
隣の部署だから毎日必ず顔を合わせるわけではないものの、それでも用事があって顔を出すと手を振ってくれるし、廊下で声をかけてくれることもある。
僕の部署と清水さんの部署で飲み会をしたときには、何気ない雑談をしたこともあったけれど、たいした内容の話はしていないのに笑いが止まらず、とても温かな気持ちになったことを覚えている。
宗治郎さんみたいな人だと思ったし、彼にはこんな人と付き合ってほしい、お似合いだろうなとそう思った。
すごく自分勝手なことだと分かってはいるけれど、宗治郎さんと自分が付き合えることはないし、何かが起きて付き合ったとしてその先も見えないのだから、だったらせめて、僕の大好きな人とくっついてほしいと、そんなことを思うようになった。
宗治郎さんと重なる彼女を見ていると、このふたりの並んだ姿が容易に想像できた。絶対にお似合いだと思う。
ふたりが付き合ってくれたら、僕も諦めるための整理が始められるかもしれない。
そう思ったら自然と指が伸びて、気がつけば彼へ電話をかけていた。
コール音を聞くと、少しの後悔と、それよりも大きな罪悪感が出てきたけれど、確かに期待もあって、僕は唾を飲み込んだ。
この提案を、宗治郎さんはどう受け取るだろうか?
「もしもし、楓? どうした?」
3回鳴ったコール音の後に、柔らかな声で名前を呼ばれた。
これはただの通話で顔は見えていないのに、彼がどんな表情をしているか容易に想像できる。
それだけのことで、たまらなく嬉しい。
そういう想像ができるほどの優しさを、これまで向けてもらえたという事実があるから。
どんなときでも僕に優しく笑ってくれる、彼の垂れた目尻と眉が恋しくなった。
ああ、宗治郎さんのことが大好きだなあ。
この気持ちを言えないまま、終わらせるのは悲しい。
けれど、僕の気持ちを伝えた結果、関係が終わってしまうかもしれない。
それだけではなく、これまで重ねてきた時間すらも、彼が消したい過去として認識してしまう可能性もある。
あんな奴のことなんて思い出したくないと思われたり、僕との日々をなかったことにはしてほしくない。
いつまでも楓と名前を呼び、僕との関係を続けてほしい。深くなくて良いから、このほどよい距離感を長く保っていきたい。
嬉しいことがあれば「楓に報告したいな」と思ってほしいし、たまにでいいから「あいつと飲むか」と思ってほしい。
話をした後には「あいつと話せて良かった」と思ってほしいし、「また会えたら良いな」とも思ってほしい。
だから絶対に、この気持ちは伝えないほうが良いんだ。
「楓? 聞こえてる?」
「はい、聞こえてます……」
この人が自分と恋愛をすることは今後もあり得ないけれど、それでもやっぱり中途半端な人に取られたくはない。
そんな勝手な気持ちを抱いても、あなたは許してくれる?
僕とは何があっても難しいのなら、せめて、僕の大好きな人と。
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