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恋のキューピッド4

「宗治郎さん、あのね……」 「うん」 「あなたに紹介したい人がいるんです」 「……え? 楓、恋人できたの?」 「あ、いや、えっ、そうじゃなくて、えっと」  紹介したい人という言葉で、僕の恋人だと勘違いされる可能性を全く考えていなかった。  それに驚いていると、僕の反応が面白かったのか彼がくすりと笑った。 「違ったの? ごめんね。慌てなくて良いから」 「すみません、僕じゃなくて、その……、宗治郎さんにお似合いの女性がいるので、会ってみるのはどうかなあと……」 「え? 俺に……?」  僕からこんな話がされるとは思っていないだろうから、宗治郎さんの多少の戸惑いは覚悟していた。  でも、想定していたよりも沈黙が長く、緊張から口が渇いてきた。  自分勝手な提案だから、彼の反応に罪悪感が増す。 「……宗治郎さん?」 「楓からそんなこと言われる日が来るなんてびっくりだよ。でも、楓がわざわざこうして連絡くれるってことは、その人、素敵な人なんだろうね」  どこか寂しさを感じる声色でそう言った宗治郎さんは、そこからさらに黙り込んだ後、「じゃあ会ってみようかな」と前向きな言葉をくれた。  けれど、宗治郎さんのその言葉を聞いて、色んな考えや感情が込み上げた。  この提案で彼を嫌な気持ちにさせてしまったかもしれないだとか、勝手に抱えている罪悪感だとか、安堵とか、いよいよだという覚悟だとか、清水さんへの嫉妬とか、溢れ出そうな悲しみや虚しさだとか……。  とにかく感情がぐちゃぐちゃで、せっかく了承してくれた彼に返す言葉が出てこない。 「楓? どうした? 楓……?」 「……まだ、相手の女性に、何も提案してないので、その、実際に会う流れになるかは、分からないんですけど……」  何度か名前を呼ばれた後、ンッと咳払いをしてゆっくり言葉を繋いだ。  できるだけ自然に聞こえるように慎重に。 「なんだ、会うって決めても実際にそうなるのかは分からないんだ。はは、そっか」 「すみません」 「いいよ。とりあえずさ、明日会わない? お昼一緒に食べようよ」 「……分かりました! どこら辺でランチしますか? 僕、調べますよ」  まさかすぐに会うことになるとは思っていなかったから、宗治郎さんに誘われて少し驚いた。  電話だけで済ませることができたら取り繕う必要はなかったのにとも思うし、でもやっぱり会えることを嬉しくも思う。  この電話の内容、そして抱く感情、その全てが身勝手なものなのに、彼はいつも通り優しく向き合ってくれている。  必ず明日までに誤魔化せるくらいには気持ちを整理して、前向きな気持ちで彼と話ができるようにしたい。  せめてそれくらいは頑張らなければ。 「あ、もし良かったら俺の職場に来てくれない? 土曜日だけど午前中仕事なんだよ。ビルにお店入ってるから、そこで一緒に食べよう。13時でも大丈夫?」 「僕は大丈夫です。宗治郎さん、休みの日まで仕事って大変ですね。もしかして今も残業ですか?」 「うん、そう」 「忙しいときにかけてごめんなさい」  緊急の用事でないと分かってからも、遮ることも急かすこともなく付き合ってくれていたんだ。  そもそも忙しいときに僕からの電話に出てくれたことも嬉しい。 「いや、久しぶりに声聞けて嬉しかったよ。じゃあまた明日」 「はい、じゃあまた明日」  声が聞けて嬉しかったよ、なんてお守りみたいな言葉までもらって。  ああ、これが僕の日常になってくれたら、それ以上何も望むことはなかったのにな。 「宗治郎さん……」  少しずつこの気持ちを忘れることができるのだろうか。  ……忘れてしまったらどうなるのだろう。  好き、を伝えられなかったことを後悔する日が来るのかな。  通話を終え、真っ暗になった画面をしばらくの間眺めていた。

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