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恋のキューピッド5
◇
13時に待ち合わせていたにも関わらず、時間まで落ち着いて過ごすことができずに、30分以上も早く着いてしまった。
トイレに行き、磨かれて光っている大きな鏡の前で乱れた前髪を整える。
大きなビルだったから、入るだけで緊張した。
ここで働いているなんて本当にかっこいいし、そういうことですら自分と釣り合わない人間だと思ってしまう。
まあ僕がどこに行っても輝ける人ではないからであって、僕の会社がどうこうって話ではないのだけれど。
「はあ……」
この場で浮かない格好で来たつもりではあるものの、彼はきっとスーツ姿なのだろう。
そんな彼の横に並んで恥ずかしいと思われないだろうか。
これ以上整えるところもないのに、無駄にシャツの襟を触る。
ストライプ柄にしたけれど、何もない白シャツのほうが良かったかもしれない。
「いや、宗治郎さんに良く思われたところで、か……」
その先に何も期待すべきことがないのだから、シャツの柄がどうとか、見た目がどうとか気にする必要なんてなかった。
せっかく会ってもらえるのに、直前でさらに余計なことを考えてしまう自分の頬をパンパンと強めに叩きながらトイレを出たところで、エレベーターから出てきた宗治郎さんとぶつかった。
「やっぱり! 楓のことだから早く来てるんじゃあないかなって思ってさ、急いで仕事終わらせてきた。たった15分だけど、良かった。やっぱりいるんだもん」
「あ……っ」
自分の行動を予測されていたことも、急いで仕事を終わらせて来てくれたことも、全てが嬉しい。
こんな僕のために息を切らすんだ。ああ、整理しなきゃいけないのに、抱きつきたくてたまらない。
この人が好きだと、身体中が叫んでいるようだ。
「久しぶりだね、楓。髪型可愛いじゃん」
「可愛いって、別にたいして変わってませんよ?」
「そうかあ? ちょっと短くなってる」
指先で僕の横髪に触りながら、宗治郎さんが笑った。
服のことばかり考えていたから、最近髪を短くしたことを忘れてしまっていた。
「変ですか……?」
「いや、似合ってるよ」
一瞬触れられただけでも、僕の熱が伝わってしまったのではないかと胸が鳴る。
彼に触れられたところを押さえるように、自分でそこへ触れた。
「ちょっと早いけど、良いかな。もう店に行こうか? ここの10階なんだよね」
「はい……」
いまだ熱を引きずっている僕とは反対に、爽やかな表情をした宗治郎さんが僕の手を引いた。
席に着き、運ばれて来た料理の写真を撮ると、「ちゃんと写真に残すんだ?」と微笑まれた。
特に写真を撮る趣味もなければ、SNSにアップする予定もないけれど、宗治郎さんとの思い出だから、とは言えるわけもなく。
無言で頷いて、さらにもう2、3枚写真を撮った。
料理を食べ終えるまで、お互いの仕事の話をし、さり気なく清水さんのことを伝えた。
最後の一口あたりで、「素敵な人だね」と彼が反応を示してくれ、そこで改めて「紹介した人がいるんです」と伝えた。
宗治郎さんは口元を拭いた後、「どうして俺にそこまでしてくれるの?」と僕を見つめる。
「宗治郎さんのことが人として大好きだし、素敵な人だから、僕の大好きな人で素敵だと思う職場の先輩ときっと合うんじゃないかなと思って……」
真意までは伝えられなくても、言える範囲で本心を丁寧に伝えた。
ただ、それを宗治郎さんがどう思っているかどうかは分からないから自信がなくなり、語尾が小さくなっていく。
「そっか、楓がそこまで言うなら素敵な人なんだろうね。俺もいつまでもこのままでいるわけにもいかないし、先に進んだほうが良いのかも」
「え……?」
何か意味があるような彼の言葉に何も言えずにいると、「あれ? 宗ちゃんと楓じゃん」と、背後から覚えのある声が聞こえた。
振り返らなくても誰だか分かる。
彼が何を言おうとしたのか考えたかったのに、いつもそうだ。良いところで遮られてしまう。
「莉乃じゃん。お前も今日出勤だったんだ?」
「そう。休みの日まで仕事って最悪じゃん? だからご褒美にってここで食事していたんだけど、あんたたちに会えてさらにご褒美って感じ」
何がご褒美だ。どうせ僕のことを邪魔だと思っているくせに。
何も言わずに会釈だけすると、口角を上げた畠中先輩が僕の頭を撫でた。
優しい気持ちも何もこもっていない触り方。
宗治郎さんの前で良い子振るにしても、わざわざ僕を巻き込まないでほしい。
頭を少しだけ捩って避けると、それに気づいた彼女に頭を小突かれた。
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