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恋のキューピッド6

「で? 何の話してるの?」 「ああ、楓が俺に女性を紹介してくれるらしい」  言わないでほしかったけれど、彼女のことを何も意識していない宗治郎さんは、躊躇いなく話の内容を教えた。  気まずさを抱える僕を、彼女は横目で見る。 「女? そういう意味の紹介?」 「うん、そう」  さすがに取られるかもしれないと焦ったのか、畠中先輩の顔が歪んだ。  それもほんのわずかな時間で、いつもの余裕ある表情に戻る。  別に褒めているわけではないけれど、彼女のこういうところは単純にすごいと思う。  こうも自分の感情をコントロールはできない。  僕も今、彼女を前にして何事もないように取り繕うことすらもできていないし。 「それで? 会うの?」 「前向きに考えようかなあと」 「会えば良いじゃん。楓が言うんだから素敵な人なんだろうし。会ってみなよ」  さっき一瞬焦ったように見えたのに、どうせ大したことない相手でしょ? 気に入るわけがない、というような考えが透けて見える。  やっぱりすごくなんかない。彼女は何も変わらない。嫌いだったあの頃のままだ。  僕が紹介する人なら素敵に違いなんて、そんなことこれっぽっちも思っていないくせに。 「私はずっと厄介だなあと思っていたから、その厄介から宗ちゃんが離れるって言うなら、これもアリだしね」 「莉乃、厄介って何のこと?」 「別に。こっちの話」 「は? お前意味の分からない話をするなよ」 「宗ちゃんうるさい」  厄介という言葉を聞いて、絶対に僕のことに違いないと思ったけれど、今度は彼女が僕のほうを見ることはなく、強い視線で宗治郎さんを見つめていた。  彼女が僕に言いたいことがあるときはこちらを見るはずだ。それなのに僕が見ていることにも気づかないほとだ。  てっきりいつも付き纏っていた僕の気持ちを察していて、それについて言われていると思ったのに違ったのか。  だとしたら、僕から宗治郎さんへの気持ちとは関係のない厄介なことって一体何なのだろう。 「楓、それじゃあ前向きに考えておくから、相手の女性がオッケーしてくれたらまた教えてよ」  そろそろ帰ろうか? と宗治郎さんが立ち上がり、僕も慌てて椅子を引いた。  ギイイと嫌な音が室内に響き、それにビクッとした姿を畠中先輩に鼻で笑われる。  やっぱり嫌な人だと、再度そんなことを思いながら荷物入れに入れていた鞄を手に取ったとき、肩を掴んできた彼女に「あんたはもう良いの?」と聞かれた。    合わせられた視線に、嫌味は含まれていない気がした。  純粋に質問をされているだけのようだ。 「……え? どういう意味ですか?」  さっきの予想がある意味で当たっていたのだと、すぐに分かった。  彼女はずっと、僕の気持ちを知っていたんだ。  そうは言ってもこの質問に真面目に返すわけにもいかないから、何のことか分からない振りをした。  それを見破られて、また何か言われるかもしれないけれど。 「……言わないんだ? じゃあいい、何でもないわよ」 「そう、ですか」  それからどちらも視線を逸らさない時間が数秒ほどあったけれど、畠中先輩が口を開くことはなかった。  宗治郎さんのほうへ小走りで行く彼女を追いかける。  学生の頃、畠中先輩が宗治郎さんに寄って来ていた女性への対応を、同じように僕にもしていた理由が分かった。  知っていたから僕たちの間にいつも割り込んでいたのか。  当時は僕と彼の時間くらいは放っておいてくれよと思っていたあの行動の意図が分かり、もしライバルのように扱ってくれていたのだとしたら、それはそれで少し嬉しいかもと不思議な感覚がした。

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