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恋のキューピッド10

 最低限聞きたかった内容に彼女があっさりと答えてくれたおかげで、すぐに本題へと辿り着いてしまった。  今まで抱えていた宗治郎さんへの想いを断ち切るための第一歩が本当に始まってしまう。  ここから進めばもう、振り返ってやっぱり戻ろうなんてことはできないだろう。  目頭が熱くなり、それを誤魔化すために一度俯き、鼻を啜った。  ふうと息を吐き、それから顔を上げる。清水さんは穏やかな表情で僕を見ていた。 「僕の一つ上の先輩にすごく素敵な人がいるんですけど、清水さんに紹介……したいなって思ったんです」 「えっ、紹介してくれるの?」 「あの、清水さんが独身に見えたからとか、なんかこう失礼な気持ちではなくて、その、本当に大好きな先輩で、だから先輩には素敵な人と出会ってほしくて、それで、清水さんが素敵だから、もしよかったらってそう思って」  後半言いたいことがまとまらなくなったけれど、思いつくままとにかく早口で伝え切った。  一度でも詰まれば多分、気持ちも一緒に溢れて彼女の前で泣いてしまいそうだったから。  うまく伝わったかどうかは分からないけれど、微笑んでくれている清水さんを見ていたら大丈夫な気がした。  ようやく一歩進めたんだなあ。一歩どころか、五歩くらいのような気もするけれど。 「そんなに不安そうにしなくて大丈夫だよ。素敵なあなたの先輩を、紹介したいと思ってくれたことが嬉しいよ。正直驚いたけれど、今は全然出会いもないし、会ってみる分には良いかなって思う。お言葉に甘えて良い?」  清水さんが両手で、ぎゅっと僕の手を握った。その手が柔らかくて温かくて、それにまた泣きそうになった。  笑顔を見せる彼女の横にいる宗治郎さんが容易に想像できる。  いよいよ会う流れになれば、そこからはきっとすぐだろう。ふたりの纏う雰囲気と穏やかさがぴったりなのだから。 「じゃあ先輩の連絡先を後で送りますね。先輩の名前は大貫宗治郎さん。宗治郎さんのほうから清水さんに連絡入れるように伝えておきます。なので清水さんの連絡先を聞いても良いですか?」 「うん、ありがとう。楽しみにしてるね。えっと、私の連絡先なんだけど、スマホを机に置いてきてるから後で楓くんのところに行くよ」 「あ、分かりました。お願いします」  必死な僕を可哀想に思って話を合わせてくれたわけではなさそうな、楽しみにしていると言った彼女の笑顔がたまらなく素敵だった。  僕ももう片方の手で彼女の手を握り返し、会釈した。   「楓くん、それじゃあそろそろ戻ろうか?」 「はい、お時間いただきありがとうございました」  あまり長居していると誰か来るかもしれない、とそんなことを思いながら休憩室を出ようとしたとき、先に出た清水さんが「楽くん!」と名前を呼び、そこに十川さんがいることを知った。  ストーカーじゃんと心の中で悪口を言いながら、話を聞かれていないようにと祈りつつ彼女に続いて休憩室を出た。  けれど祈りは無意味で、十川さんに聞いていたのかと確認したわけでもないのに、その目を見ただけでこれまでの話をほとんど聞かれていたのだろうと察した。  ……最悪すぎる。  僕の曇った表情を見て、清水さんが見つかっちゃったね、とでも言うように困った顔をして笑った。  これ以上十川さんに何か聞かれる前に立ち去ろうと、清水さんにもう一度会釈し早歩きを始めてすぐ、十川さんに腕を掴まれた。  清水さんに多少不自然に思われてもすぐに走って逃げれば良かった。捕まるほうが面倒だ。  

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