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侵入者1
先日話した通り、彼の「明日から楽しみですね」はやはり実行され、毎日のように僕の席へとやって来るようになった。
毎日仕事で関わるわけでもないから、そういうときは別の人への用事ついでに僕のところに寄って、くだらない雑談を繰り返していく。
僕がどんなに無視を続けても彼は何も変わらず、無視をする僕のほうが周囲の人に責められるほどだった。
他人に対して興味がなく最低限の愛想だけで過ごしていた十川さんが、突然僕に懐き始めたことで、同じ部署の女性だけではなく他部署の人たちにまで騒がれている。
彼が来る度にどうにか僕たちの間に入ろうとしてきたり、彼を紹介してほしいと言われることもあるくらいだ。
元々、変な注目を浴びずに生きてきたほうだから、こうして意図しないところで話題になることが落ち着かない。
「今日も十川くん来るのかな?」
昼休憩が近くなった頃、隣の席の先輩である西山 さんが、僕の肘をつついてきた。
人を揶揄うタイプでもないのに、この話題にだけやたら食いついてくる。
ただ、十川さんと僕とのことで絡んでくる女性の中で唯一、彼を紹介してほしいと言ってこないから、それには救われているけれど。
「望月くんは人当たり良いのに十川くんに冷たいし、十川くんが今まで誰かに懐いているところは見たことがないのに望月くんに懐いているし、この状況は何なの?」
「僕が知りたいです……」
まあこれでも食べなよ、と西山さんが苺ジャムパイを渡してくれ、僕はそれを遠慮なく受け取った。
袋にはうさぎのキャラクターがニコニコと笑っていて、横に書かれている吹き出しの中に“おいしいよ”とコメントがある。
うさぎにまで煽られているようだ。この笑顔……、くそう……と思いながら袋を開け、一口のパイを口に詰め込んだ。
「十川くんって人に興味なさそうな子だと思っていたのに、意外と可愛い人だったんだね」
そんな僕の気持ちも知らずに、西山さんは十川さんをさらりと褒めた。
意外と可愛い人だったんだねということは、これまでの印象はそうではなかったということだろう。
僕への絡みだけであっけなくそれが覆され、可愛いとまで言われるのだから何て簡単なのか。
むしろ十川さんはそういう印象の変化を狙うために僕を利用した……?
……まあでも、僕を言い訳に必要以上に女性職員に絡むことはないし、みんなに愛想があるわけでもないからそれは違うか……。
はあ、彼の意図が分からない。それに彼の可愛い部分も僕には分からない。
「僕はまだ彼の可愛さを見てないので、西山さんの気持ちは分からないですけどね」
「え? 毎日来てくれているじゃん。可愛いよ。犬みたいで」
口の中の水分をパイに持っていかれ、お茶を飲んだ。
「……僕は猫派なので」
「望月くんも譲らないねえ」
「守り抜きます」
「はは、何をよ」
西山さんと特に意味もない会話を続けていると、彼女の視線がこちらから逸れ、上へと向けられた。
その視線をなぞるように顔を動かせば、僕の背後に立ち、上から僕を覗き込んでいる十川さんと目が合う。
「ウッ」
慌てて顔も視線も戻したけれど間に合わず、気づけば肩に手が置かれ、彼の顔まで数センチの距離だった。
「ひい……!」
悲鳴をあげれば、その反応を見て西山さんが豪快に笑い、大きく拍手をした。
「望月くん、これまではリアクション控えめな子だと思っていたのに面白いね。ふたりしてギャップがある! 最高!」
西山さんは両手の親指を立て、さっきもらったパイの袋のうさぎのような顔でこちらを見ている。バカにされているとは思わないけれど、良い気持ちもしない。
彼女に煽らないでと文句を言うと、「十川くん、私の席へどうぞ。私はしばらく用事で抜けるので」と呆気なく見捨てられ、ひらひらと手を振り去って行った。
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